「和牛子牛の管理と母牛の栄養の重要性」

 帯広畜産大学 臨床獣医学研究部門  芝野健一教授  

 

平成23年度の家畜共済加入頭数は623,802頭で平成22年度の口蹄疫によって頭数は大きく減少した。しかし、子牛の病気は減ったように感じるが、子牛の死廃率はあまり変化が無く、肥育や繁殖にできない子牛がおり、飼育密度や飼育方法などに原因があるのではないかと考えられる。

妊娠末期の母牛と胎児の栄養として、一般的に言われていることは、母牛側からグルコース、アミノ酸、酢酸が供給され、胎児は大きくなる。また、胎児側へのグルコースは母体のレベルに依存しており、親が栄養状態が悪く、低血糖になると、子牛も低血糖で生まれてくるため、妊娠末期の栄養状態は重要である。ところが、アミノ酸(蛋白)は強制的に胎児が取り込む。そのため、蛋白というものは胎児にとって非常に重要であると認識して良い。成牛は第一胃の中で、プロピオン酸などといったVFAや菌体蛋白を作り栄養源としているが、胎児は、アミノ酸を強制的に取り込むため、グルコースが不足の場合、アミノ酸で糖新生を行い胎児に送っている。そうすると、アミノ酸(蛋白)要求量が増大する。ホルスタイン胎児体重35kg、妊娠250日の際の胎児エネルギーの供給源は、要求量が2335kcal / 日に対し、アミノ酸からが1306kcal56%)、グルコース・酪酸から775kcal33%)、酢酸から255kcal11%)供給されている。これが、成牛では逆となり、第一胃で菌体蛋白を作り、また、酢酸からVFAを生成し、エネルギー源としている。

 

子牛の免疫機構

免疫機構には、4つの特徴があり、多種類の抗原に対応できる多様性、個々の抗原に対応できる特異性、抗原情報の記憶、自己に応答しない寛容性があり、この4つの特徴が備わっていないと、免疫として不十分となり、様々な問題が引き起こされる。エネルギーを必要とされる免疫応答として、ワクチン接種は多くの栄養素やエネルギーが必要となり、免疫応答の頻度が高まれば産性エネルギーも必要、更に新しい免疫誘導は維持よりも多くのエネルギーが必要となる。健康状態は良好な牛であってもエネルギーバランスが負に偏っている牛を如何にして発見するのか、我々獣医師にとって重要な仕事であると考えられる。乳牛は分娩の時に免疫機能が落ち、病気に罹りやすくなる。分娩ではエネルギーを使い、難産だった場合では、過度なストレスがかかるため、周産期病などの病気に罹りやすくなってしまう。要は、過剰なワクチンの免疫応答は生産性に影響するということが大事である。子牛の免疫では、初乳を介して免疫物質が子牛へ移行する、免疫機構の成熟機構は胎児期から開始される、ワクチンブレイクが起こる、免疫機構の発達には適正な栄養素の供給が必要となることが知られている。自然免疫と獲得免疫について。自然免疫は好中球やマクロファージ、樹上細胞などが働き、言わば、1番最初の戦闘部隊として機能している。獲得免疫は、抗原の情報を持った、言わば先鋭部隊や特種部隊として機能している。子牛の免疫機構として、微生物などといった抗原が来た場合、最初に自然免疫として好中球やマクロファージが働き、樹上細胞が抗原提示を行い、敵の情報をリンパ球に知らせる。そして、抗原の情報を受け取ったTリンパ球が、Bリンパ球に知らせたり、自ら抗原に対応したりし、免疫機構は成り立っている。栄養状態と局所生体防御の関係について、ヒトの方では、低栄養状態では、好中球の機能やサイトカイン、また、好中球やマクロファージの貪食能が減少することが知られており、そういったことで局所の好中球が減少し、生体の防御能の低下へと繋がる。また、低栄養とビタミンA欠乏の免疫器官への影響について、粘膜組織において、低栄養状態での低蛋白状態では、腸管萎縮、B細胞の減少、IgAIgM分泌の減少、リソチーム(鼻粘膜、涙等に存在する酵素で、細菌の壁に作用し、溶菌する)減少が起こり、ビタミンAの欠乏で、肺上皮細胞の変性、腸管上皮絨毛の減少、杯細胞減少による粘液の減少、IgA分泌の減少が起こる。一方、リンパ組織では、低蛋白質、ビタミンA欠乏で胸腺、脾臓、リンパ節の萎縮が起こる。以上から、子牛の群飼育が抱える問題点として、高い飼養密度による子牛の免疫機能の低下や呼吸器複合病(BRDC)の多発、また、ワクチン摂取の選択と費用対効果、輸送と飼育環境によるストレス、栄養管理技術の普及などが挙げられる。

粘膜免疫と腸管免疫について。気道や消化管の粘膜には病原菌の侵入を防ぐため、発達した免疫機構が存在しており、粘膜免疫(MALT)には腸管付属リンパ組織(GALT)と扁桃・気道粘膜のリンパ組織(BALT)があり、GALTIgAを産生し、局所だけではなく、全身で機能している。BALTは主にIgAを産生し、粘膜の局所免疫を誘導する。最近、乳房炎のワクチンとして、気道にワクチンをする方法があり、理に適っている。また、外国では、呼吸器のワクチンを気道に打つというのは昔からされていた。一方、腸管というのは、栄養吸収に有利な反面、病原微生物の侵入も可能にしてしまうため、長官は強力な感染防御バリアーシステムを形成しており、免疫細胞の6070%は腸に存在している。パイエル板は円柱上皮細胞(FAE)に覆われ、抗原の取り込みに特化したM細胞が存在する。M細胞によって取り込まれた抗原(細菌)は樹上細胞によって抗原提示され、それがT細胞に伝わりB細胞に抗体産性命令が下りて、腸管局所免疫だけでなく、全身の免疫応答に活用している。そのため、腸管の免疫は非常に大事である。

 

肺炎を繰り返す事故多発農場の調査。妊娠末期の低栄養は出生子牛の免疫能を低下させる。

背景。親が50頭程。家族で経営。息子が中心となって世話をしている。自然哺乳。水道で上げている。親が低栄養(一律給与・絶対量不足)。出生子牛の事故多発で、子牛の病気が多い。1年間33頭生まれて3頭が死亡し、31頭が病床事故で何らかの治療を受けた。また、その31頭のうち、24頭において再発がみられた。出荷子牛の市場価格低迷で、DGが去勢で0.82、雌で0.74であり、ここの農場の牛は但馬牛であるため、平均であれば、去勢0.920.96、雌では0.88程にはなる。空待機感121日であった。兵庫県はだいたい購入飼料を与えている。そこで調査を行った。母牛と子牛における代謝プロファイルテスト。出生子牛の末梢白血球サブポピュレーション、飼料給与診断、死廃・病傷事故調査、子牛出荷成績について調査を行った。調査方法として、血液検査をし、餌の改善を行った。事故が起こった際は低栄養群とし、餌の改善を行った適栄養群との比較をした。飼料給与診断では、低栄養群では、授乳期であっても、妊娠末期であっても維持期と変わらない給与量で、充足率をみても全く足りていない状況であった。そのような状態から生まれてきた子牛は事故が多かった。適栄養群では、授乳期と妊娠末期に配合飼料を増やし、妊娠末期の充足率も乾物量(DM)が120%、粗蛋白(CP)が136%であった。配合飼料ばかりを増やすわけにもいかないので、粗飼料の量を増やしたり、質を良くする、要は、配合飼料を増やして、粗飼料の絶対量を増やすことが重要である。親の血液では、低栄養群と適栄養群を比較すると項目全部で有意差がみられた。子牛の初乳摂取評価を行うと、初乳は飲んでいると判断できた。子牛の血液検査では、GluAST、ビタミンEなどで有意差がみられ、Gluは適栄養群と比較し、はるかに低い値であった。親の代謝プロファイルテストでは、尿素窒素の項目で、穀類が足りないので余剰窒素が出てきていることが分かった。子牛の代謝プロファイルテストでは、低栄養群で、ASTの上昇が見られ、その理由として、子牛自身が筋肉を消費しているのではないかと考えられた。子牛の白血球では、低栄養群と適栄養群を比較すると、CD4+CD45RO及びCD4+CD45RAの数に大きな差があることが判明した。妊娠末期の親の餌を少し変えてみるだけでも、生まれてくる子牛には非常に大きな差となって現れることが分かる。改善前後の子牛死廃・病傷事故について。 低栄養群では、33頭生まれたうち、3頭死亡していたが、適栄養群では25頭生まれてうち、死亡は0であった。病気は発生したが、再発したものはいなかった。子牛の出荷成績では、D.Gが上昇した。出生子牛の、免疫応答。出生直後の子牛γグロブリン濃度のみで抗病性を判定することは確実ではない。子牛の免疫は、生体側の自然に備わった免疫系細胞の機能がある(自然免疫)。子牛の免疫機能の成熟は、胸腺におけるT細胞分化が重要で低栄養状態で機能は低下する(獲得免疫)。子牛の免疫機能に及ぼす要因として、胎児期では妊娠末期の母牛摂取栄養が、哺乳期には初乳・母乳の質、子牛摂取栄養、環境が大きく関わっている。

 

分娩前後の繁殖和牛へのバイパスメチオニン投与

 バイパスメチオニンとは、ルーメンを通過し、十二指腸でメチオニンとして吸収されるように加工されたもの。

アミノ酸と免疫の関係・・・アルギニンは胸腺を刺激し免疫機能を増強

             アルギニンはT細胞を増加させる

             グルタミンは免疫能の維持改善に重要

             グルタミンは腸管栄養に関係

             グルタミンは末梢リンパ球増殖能を高める

             メチオニン、システインは強力な抗酸化物質

             抗酸化剤のグルタチオンは、L−システイン、L-グリシン、L−グルタミン

             酸のペプチド

目的・・・妊娠末期の母牛にメチオニン単体を飼料添加し、産子への影響を調査

     繁殖和牛におけるルーメンバイパス効果の確認

 

材料及び方法・・・黒毛和種繁殖農場(飼養成牛頭数80頭)で母牛、出生子牛の血液性状(1週間毎に採血)と末梢血白血球サブポピュレーションを実施した。投与群と無投与群で比較し、投与群にはルーメンバイパス製剤(RP-Met)飼料添加を分娩予定1ヶ月前から分娩1ヶ月後までの2ヶ月間、1日20g与えた。供試牛は1農場同時期分娩牛として、RP-Met群の平均産次、平均体重はそれぞれ、8,7429±18、対照群ではそれぞれ8.8434±3であった。

検査項目・・・血清中遊離アミノ酸濃度、血液生化学検査(GluTChoFFABUN、α-トコフェロール)、子牛の末梢白血球解析、母牛の繁殖成績及び子牛の発育成績。

結果・・・血液上はそんなに差はみられなかった。子牛の白血球解析では、RP-Met群において、白血球の数が増加する傾向がみられた。RP-Met投与後のアミノ酸の変動率は、分娩2週間前、対照群と比較して、メチオニンで有意差がみられ、タウリンの上昇がみられた。出荷体重はあまり差がなかった。

まとめ・・・出生子牛のT細胞数は90日齢まで高かった。ルーメンバイパスメチオニンは子牛に良い影響を及ぼすことが確認された。親の健康状態というのは、血液検査などで確認することが大事となる。

 

下痢多発農場における母牛への蛋白効果

背景・・・出生子牛が小さいので、子牛の出生時体重を増やそうと、親に蛋白製剤を乾乳期に与えたところ、子牛の下痢が改善した。

材料および方法・・・母牛90頭飼養の黒毛和種繁殖農場。子牛の糞便検査で、ロタウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、クリプトスポリジウムを検査。

飼料給与量と充足率・・・対策後は妊娠末期にバイパス蛋白(プロトコルバイパス)を0.3kg給与した。

結果・・・下痢の発生状況。発症率が63%で、重症化が大きく減少した。子牛・親の血液性状では、共に有意差はなかった。出生時体重は増加したが、期待していたほどの効果はみられなかったが、副反応で下痢が無くなった。

まとめ・・・蛋白強化によって出生時体重は若干だが増加した。ルーメンバイパス能は有効。蛋白強化によって出生子牛の下痢が軽減した。

妊娠末期の母牛の栄養について。乾物摂取量を満たしているか。カロリー源のみに注目していないか。菌体蛋白のみで不足していないか。今後の課題として、出生時体重、見た目では栄養が足りていても不十分なのではないだろうか、蛋白がもう少しあったほうが、もっとワクチン効果が上がるのではないかということに注目する必要がある。乾乳期飼料と初乳中のIgG濃度に相関はないが、乾乳期飼料と子牛免疫担当細胞数は関連している。子牛の血中IgG濃度は初乳摂取絶対量に関連している。子牛にとって良いのは、免疫担当細胞数を獲得し、良質初乳を多く摂取することである。

 

 

分娩前後の母牛への生菌剤投与の子牛下痢予防効果

 

材料および方法・・・投与牛は産前1ヶ月前〜産後1ヶ月の計2ヶ月母牛に生菌剤を添加した母子同居飼養の49頭。対象牛は生菌剤無添加の母子同居飼養の104頭。どちらも分娩3週間前に下痢不活化ワクチンを摂取。

生後1ヶ月間の下痢発生状況・・・投与群(D.G 0.42)では下痢発生率は20.3%で治療回数は2.4回。対照群(D.G 0.40)では、下痢発生率が53.8%、治療回数3.0回であった。

まとめ・・・下痢混合ワクチンと初乳の摂取。母牛の腸内環境が改善され、子牛飼養環境の向上し子牛下痢症は減少した。

 

離乳後の子牛に対する生菌剤の成長促進効果

材料および方法

 供試牛:離乳した交雑種子牛16

 投与群:生後70.0±3.7日の8頭で生菌剤を2ヶ月間投与

 対照群:生後68.8±2.2日の8頭で無投与

両群の血液性状と体重の比較を行った。

体重・体高・胸囲の期間増加率・・・胸囲で僅かに有意差がみられた

βヒドロキシ酪酸濃度の推移・・・投与群において、上昇しそのまま維持したが、対照群では、上昇しその後下降した。このことから、離乳後に生菌剤投与したほうがルーメンの発達には良いのではないかと考えられる。

まとめ・・・離乳後の栄養摂取量が増加し、また、飼料変化ストレスを軽減した。離乳後の生菌剤の投与は第一胃の発達を促す可能性がある。

 

発育の異なる子牛の血液性状比較

発育がよかった牛(発育群)と良くない牛(遅延群)の血液性状を比較した際、発育群のアルカリフォスファターゼとβ-ヒドロキシ酪酸の濃度が遅延群と比較し有意に高い結果となった。離乳後、第1胃が発達して、VFAがしっかり作れれば、しっかりした牛になれる。それにはβヒドロキシ酪酸が重要。

 

黒毛和種繁殖牛の飼料中微量ミネラル

主な地域の飼料中の微量ミネラル不足割合(繁殖母牛)・・・どの地域でも銅の欠乏が考えられる

黒毛が茶色になる・・・出生時が茶色で成長とともに黒になる→銅の胎盤移行が少ない。代用乳や人

工乳からの銅摂取量不足

           出生時が黒色で成長とともに茶色になる→母乳哺乳で銅の摂取低下

           舎飼から放牧すると茶色になる→牧草中の銅含量不足

 

茶色に変色した被毛の子牛に、ドラッグストアに売っているサプリメントの銅を、アミノ酸入の甘いゼリーと一緒に飲ましてみたら回復が見られた。微量ミネラルは何から補給するか。昔ながらの無機態で不十分と感じたら有機態も思慮に入れてみる。

 

飼料イネ給与期の血液性状と出生子牛体重  飼料イネの栄養特性

 

飼料イネの特徴・・・TDNは熟期が進むほど増加するが、熟機が進むほどCPは下がる。

βカロテンが高濃度。嗜好性がすごく良い。

飼料イネ主体と乾草併用放牧の血液性状・・・飼料イネ主体では、BUNが入牧時には12.8だったのが退牧時には3.4にまで減少した。

成分の異なる飼料イネ放牧母牛の血液性状・・・蛋白成分が低下する完熟期以降の飼料イネ放牧と蛋白成分が見込まれる出穂直後からの飼料イネ放牧を比較した場合、適成分期では、低成分期と比べてTchoが有意に低く、BUNが有意に高い結果となった。

妊娠末期の給与飼料の違いと出生子牛体重・・・飼料イネ主体から生まれた子牛は、牧草主体から生まれた子牛よりも有意に体重が低くなり、補助的な栄養補給が必要であると考えられる。

雌牛の維持に要する要分量・・・妊娠末期に加える要分量では、2000年版と比較し、2008年版では、蛋白要求量が2割も上がっている。このことから、蛋白についてはまだまだ要求量が安定していないことが考えられる。

 

 

まとめ・・・飼料イネ粗蛋白は出穂期以降低下する。

      妊娠末期の蛋白要求量は増大

      初産や老齢牛、連産牛で要注意

      妊娠末期では牧草との併用推奨

 

生後2終齢に多発する哺乳子牛下痢症

 

背景・・・母子同居で出生後1014日頃に下痢が通年発生。

     非感染性下痢の原因は不明、重症例は長期化。

     人工哺乳で下痢症と糞便中有機酸濃度が関連

目的・・・自然哺乳の黒毛和種子牛の非感染性下痢の原因調査

供試牛・・・産前に下痢5種不活化ワクチン接種母牛産子

      耐熱性および易熱性エンテロトキシン陰性

      糞便培養にてSalmonella  spp陰性

      コクシジウムおよびクリプトスポリジウム原虫陰性

      発熱等臨床症状を認めない子牛

非感染性下痢(家畜共済における臨床病理検査)・・・消化不良性下痢

(食餌性、脂肪性、腐敗性、発酵性)

                         症状:腹囲大、右下腹拍水温聴取

(潰瘍)性下痢(消化器の機能的器質的障害)

                         神経性下痢(ストレスによる神経異常)

                         母乳性下痢(母牛のルーメン環境悪化に起因)

材料及び方法・・・糞便状とpH測定:230日齢子牛62頭から、直腸から直接採便した221検体。

         糞便中有機酸濃度測定:ロタウイルス陰性子牛から採取した正常便および非感染性

下痢便48検体の糞便中有機酸濃度をHPLCで測定。

子牛の糞便調と糞便pH・・・正常便では茶色便、緑色便、黄色便において、pHの違いはみられなかったが、水様便では、黄色便でpHが有意に低下した。

便性状が異なる3期間の糞便中有機酸量とpH・・・1014日齡の下痢群では乳酸濃度が正常群と比べ有意に高く、酪酸濃度が有意に低い結果となった。

下痢に対する主な治療・・・腸管粘膜の修復(収斂剤、胆汁製剤、脂溶性ビタミン剤)

             血流量の回復、電解質の改善 (輸液材投与)

             抗炎症、鎮痛(非ステロイド剤、抗菌剤)

まとめ・・・非感染性下痢は7〜14日齡で多く、季節性なし。

自然哺乳の消化不良性下痢は、母乳消化に伴うD型乳酸の産性増加が原因

下痢症状は腸管内の乳酸増加による浸透圧性下痢

 

子牛下痢には補液が必須。何をどれほど投与すれば良いのか?

 

子牛下痢に対する輸液の考え方・・・細胞外液(循環血漿量)の減少と炭酸イオンの喪失。

1回量は2L以上必要。

細胞外液補充剤(生食、酢酸R、乳酸R.R)を基本とする。

重曹等の応用。

単独で5%ブドウ糖や7%重曹等は通常使わない。

非ステロイド(NSAID)の応用。

                  細胞外液の減少を補い、腎血流量・循環血漿量を増加。

Naイオンの喪失を伴う。

    次の処置として純水の喪失を補う

  炭酸イオン(HCO3)の喪失を補う

    代謝性アシドーシスの改善

    7%重曹注の目安は4ml×体重kg

    細胞外液補充剤に7%重曹注を分散して加え静注

    5%ブドウ糖1,000ml7%重曹を200ml加えると等張

輸液剤の投与速度・・・輸液速度は1時間あたり3050ml / 体重kg

           ただし、1時間あたり80ml / kgを超えないようにする。

 

低体重子牛に対するアミノ産給与効果

材料および方法・・・ホルスタイン種子牛を対象

          BCAAValLeuIle111 2g / kg)を脱脂乳に均等に混合し、

3日〜28日齢間経口投与

結果・・・給与群において、出荷時体重が対照群と比較し有意に上昇した。

     

     血中成長ホルモン濃度の上昇

     血中IGF-1濃度の上昇

     これらのmRNA発現の増加

結論・・・哺乳子牛へのBCAA給与は、出荷時体重や平均DGを改善する飼養管理技術である。

 

アミノ酸給与試験。

 

目的・・・子牛へのアミノ酸製剤給与の発育促進効果を検討

材料および方法・・・低体重子牛に出生日〜14日齡までの間、アミノ酸製剤10gを経口給与し、発育効

果を検討。

検査内容として、投与後7143045日目の血清を用いて、IGF-1濃度、血液

生化学検査、遊離アミノ酸濃度を測定し、対照群との比較を行った。

1ヶ月以内の子牛の血中濃度を調べて、それに近い割合の製剤をロイシンを1として製剤を作製。

 

 

結果

アミノ酸製剤給与群と対照群の血中遊離アミノ酸濃度の増減・・・対照群では、血中トリプトファン濃度の減少が見られたが、給与群ではみられなかった。

IGF―1濃度の比較・・・給与群では、対照群と比較し、有意に上昇していた。成長には良いのではない

かと考えられる。

今後の牛におけるアミノ酸展望・・・環境への余剰窒素の低減。

栄養や発育改善に何か関係しているのでは。

アミノ酸療法の開発。家畜の方ではアミノ酸製剤はないので。

代謝疾患予防。運動器疾患。外傷治療薬。軟膏。

肉芽組織が早く出来て、傷が早く治る。

 

 

質疑応答

 

Q、宮崎高千穂開業している佐藤先生

  代謝プロファイルテストは事業として?お金は?生菌剤投与では名は?

A, 事業として行った。1年間は血液集め。回をやる事に頭数が増えていった。最後には1000頭ほどに。農家からして欲しいと依頼があったらいった。 損亡事業なのでお金はとっていない。血液をとって、検査は各診療所から報告。乳牛より和牛繁殖の方がいろいろ悩んでいる。作業としては、材料費くらいは貰う話はあったが、やっていないと思う。損亡でやっているので、お金はもらっていない。生菌剤はゴバクチン。量は普通の量。

 

不活化ワクチンを用いた乳頭腫治療報告(3例) 戸田 (有)シェパード中央家畜診療所

投与量はセリ前の子牛で10ml、肥育牛で2025mlで投与間隔は1ヶ月後に再投与

症例1は去勢済みの黒毛和種で左の腰部に2cmほどの乳頭腫があり、その直下に局所sc

1ヶ月後に若干盛り上がりがあり成長していた

2ヶ月後の再評価でさらに育っていた

症例2は去勢済みの黒毛和種で右の尾根部に3cm大ほどの乳頭腫があり、その直下に局所sc

1ヶ月後の段階で消失していたが、ワクチンが効いたのか、ぶつけて千切れたのかは定かでない

右の肩部にあった小さいものが1ヶ月後の評価の時に少し大きくなっていた

2ヶ月後の評価の時に右側の頸部のものが成長し、また左側の肩部に新たに群が見つかった

症例3は去勢済みの黒毛和種でワクチンを投与したが1ヶ月後に変化はなかったので、自家ワクチンを用いた

脚や胴体に乳頭腫があり、ワクチンを筋注したが変化は見られず、右の後趾では成長していた

乳頭腫に対する不活化ワクチン効果の印象と、乳頭腫の除去法や治療法について聞きたい

 

質疑応答など

Q:自分はワクチンを用いるなら自家ワクチンを用いるが自家ワクチンを作るときはどのように作っているか。自分は結合識か真皮の辺りまで深めに抉って血液も含め刻んで潰している。また量としては10gと言っていたが少ないと思う。自分は30g程採っている。乳頭腫は取り除いた時の免疫刺激で無くなることもあるので、最後の症例の場合は30g以上採った方が効果を評価するうえで良いと思う。

A:わかりました。ありがとうございます。

意見:自分は全部切除する。再発もない。また切った後でその部分を焼いている。

意見:自分も切除した後に焼いている。切除した時に乳頭腫の組織が残っていると再発するので、止血もかねてその部分を焼却する。頸部の症例のような場合、鋭匙で抉り取ると正常な組織と乳頭腫が分かれて取れる。この場合焼かなくていい。鋏で行うと正常部まで切ってしまうか乳頭腫の組織が残るかで、出血も多い。鉗子で捻じ切るのも良い。また、月齢を重ねると勝手に治ることが多く、成牛ではほとんど見られないので、敢えて介入しないのもあり。また、多い場合は子牛なら50gほどパピロンを投与する。10日〜2週間で元気が無くなってくるので、そこで切除すれば出血も少ない。切除はセリの一ヶ月以内に行う。

意見:ドクダミ茶で劇的に治ったことがあった。3ヵ月間飲ませるのとスプレーでかけるのを併用した。同じようにして効かないこともあった。

意見:乳牛の乳頭に出来たものは液体窒素で焼くのが一番早い。

Q:その場合は正常な組織へのダメージはあるのか。

A:大丈夫。すぐ修復する。

Q:乳牛の場合搾乳に影響を及ぼす程度の乳頭腫が出来たときどうしているか。

A:自分は根元が5mmぐらいのものなら鉗子でとる。

A:自分ではしていないが、メラトンというサリチル酸製剤を使うことがある。そこそこ効くが、大きいものには効かないと思う。

Q:症例3みたいな個体でそのまま放置すると破傷風になるんじゃないか。

A:この個体は9月では見られなかったが、10月に特に右後肢で出血が見られていた。

意見:ワクチンよりは早く切除した方がいい。

Q:シェパードでは取らないのか。

A:取ることもあるが、治療自体が少なく、農家も放っておくことが多い。今回は実験を依頼して3例協力してもらった。

意見:肥育ならビタミンを結構な量注射したらきれいに治ったと農家の人が言っていた。免疫が惹起されるからだと考えられる。

 

子宮捻転整復について 是松 潔

自分の周りで子宮捻転が治らないので帝王切開したという話をよく聞くので、主にローリング整復についての話をする。昔は聞かなかったが、最近和牛で子宮捻転が増えてきた。胎児が大きくなったからか。診断については、膣が歪んでいる、子宮外口が下にあって上を向いているなどである。整復についての考え方はできるだけ破水させないこと、90120°ぐらいの捻転なら胎児の頭を保定し回すか、引き出しながら整復する。胎児の頭が触れないぐらいの捻転はローリングを行う。ローリングで治らないと言っている人の理由を考えてみたところ、牛を倒すのが大変、農家が転がしたくない、転がす力が足りない、どっちに転がしたらいいか分からないなどだと思う。

 回す方向としてはゆっくり回すなら胎児は固定して母体を回す。早く回す時は母体以上に胎児が回って元に戻る。このように回転速度によって向きが逆になるので困惑するし、やってみたらひどくなるケースもある。仰向けにしてゆするだけで治ることもある。

 子宮が反時計回りに90°捻転している場合、引き出しながら、もしくは子牛を回しながら出せば治せる。120℃以上の捻転になり、足しか触れないなどの状況になると、ローリングを適用する。ゆっくり回すなら、胎児を固定しておいて母体を捻転している方向に回す。結局のところ回してみなければわからないが、ローリングでほぼ治せる。

 

質疑応答など

意見:どっちに回すかは考えなくていい。とにかく緩む方に回せばいい。

乳牛は治りやすいが、肉牛は経験上ローリングでは治りにくい。ローリングで治らないときは開腹して子宮を回す。帝王切開は最後の手段。最近は胎児が大きくなってるからか回しにくい。

意見:自分は診療車の後ろに書いておく。捻転の方向によって、子宮を回す時と母体を回す時の向きを書いておけば考えないで済む。

意見:自分は捻転してる方向に牛体を回転させる。胎児を保定した後、牛体を回したい方向と逆にゆっくり倒した後に一気に牛体を回転させる。問題は頸管の開き具合。捻じれてるから手が入らないのか、頸管が開いてないからなのか。

意見:捻転してたら処置しても頸管が開かない。頸管の最後の1枚だけが開いていない状態の時に多少裂けてもいいという感じで治療する。

意見:捻転棒を使う。多少破水はある。捻転棒の場合、回し過ぎて逆方向に捻転することがあるので、回そうと思った半分ぐらいで一度様子を見る。

Q:予定日の前に捻転したものはどうするのか。

A:右側を開腹し胎児だけ戻して1ヶ月もすれば自然分娩する。

意見:子宮弛緩剤を10ml程度打つだけで状態が良くなることがある。

Q60頭程度の繁殖農家で毎年1頭は捻転がある。餌はコーンサイレージで1日1回夕方に与えており、少し痩せ気味。飼料管理と捻転に関係があるのか。

特に答えはなし

Q:但馬牛でも見られるのか。

A:時に見られる。

ローリングは胎児をどうにかするのではなく、母体を元に戻すイメージで行う。

子宮は捻転し落ちている。7割以上は後ろから見て左回り。これは第一胃側である。子宮が戻りたくても第一胃が邪魔して戻らないと考えられるので寝かすだけで治ることもある。後肢釣り上げ法の場合、釣り上げると子宮がまっすぐになる。胎児を保定しながら牛体を下していく。

子宮捻転になってる期間が長いと血行障害が起こり頸管が開きにくい。

和牛は経験がない。

意見:農家が子宮捻転を12日気付かないことがある。この時は捻転を戻そうとしても無理。帝王切開しても子宮壁はボロボロで胎児も死んでいる。このようなことがあるから分娩前でも待ったりしない。

意見:ねじ込んででも肢が触れるものは回転法を行うが、失敗したこともある。回転させたときに爪で産道を傷付け、子牛は助かったが、親に種が着かなくなった。20年ほどローリングはしていない。

Q:胎児が触れないときはどうする。

A:まずは回転法。治らなければ開腹。

Q:ローリングのし過ぎで母牛が立てなくなり、捻転も治らないので開腹したが、胎児も死んでいたことがあった。ローリングの限度はどれぐらいなのか。

A:何回か転がして全く見込みがないと別の方法で行う。普通は回す度に緩んでくる。

Q:分娩前に捻転がわかり、ローリングを行ったが上手くいかず、帝王切開をしたが胎児が死んでいた。この場合訴えられる可能性があるが。

A:それを恐れて帝王切開をする人もいるが、転がすことで胎児が死ぬとは考えにくい。捻転によって血行障害が起こるので、予め胎児が死んでいる可能性があることを農家に伝えておくことが重要。

意見:子宮捻転が中途半端に治った状態で無理に子牛を出した時は親は必ず死ぬ。中子宮動脈が切れて失血死している。捻転を完全に治してから経膣分娩しないとまずい。

 

心室中隔欠損 イソジンキトサイド 発泡消毒 ...............................................山本

 ホルスタインの雌の生後3か月の子牛で乳も飲むし餌も食べるし元気は良いが痩せていた。心音がドキドキと強く早かった。エコーを当ててみたが、正常な状態を知らないのでわからなかった。わかる人に見せると心房が大きいことがわかり、心奇形で肺動脈の閉塞か中隔欠損があるのではという見立てになった。診てから3,4日で死んだので剖検した。生後3か月の割に心臓が大きい。肺動脈と大動脈から指を入れると触れる。中隔がなかった。

 イソジンキトサイドが本当に効くのかの検証。キトサイド25ml、生食350ml2%イソジン125mlを混ぜる。原液同士を混ぜると固まるので生食で薄めてから混ぜる。傷跡にスプレーすると1か月で傷が治った。治りが早い気がする。

 発泡消毒は普通に液体を着けるよりも、長い時間壁や床に付着しているので効果がある。下痢の多い農場で試したみた。サラヤフォーマーという機械を用いた。発泡させると塗り忘れが見やすく、付着時間も長く、またこの機械は水道に直接繋いで濃度も調節しやすいので作業性も良い。

 

質疑応答など

Q:中隔欠損は多いのか。

A:多い。剖検した後すぐに処分してしまったので心室中隔欠損なのか、心房中隔欠損七日はわからなかった。

意見:カラードプラで見たが、あまりにもカラーが全体に出てよくわからなかった。心音も第二音に余韻が残る。大学に提供してもらうのがほとんど心臓疾患なので、心奇形の発生率が高いかどうかはわからない。

Q1週間後にしんだのは何故か。

A:わからない。特に何もしていない。

意見:動脈管開存ではないか。死因は左右短絡から右左短絡になったのでは。

 

牛における酸化ストレスの評価......................................................片本 宏 宮崎大学

 乳牛の分娩前と分娩後の血中ビタミンEの濃度について、分娩時に血中のレベルが落ちている。ビタミンEの低下は分娩後の食欲不振もあるが、分娩におけるストレスの中の酸化ストレスに対し体内の抗酸化のビタミンであるビタミンE消費されているのであれば、ビタミンの積極的な補給により、分娩前後の下がりを防げるかもしれない。それにより乳房炎などの産後の疾病を減らせるのではないかと興味を持った。またα-トコフェロール濃度が高いほど、好中球の殺菌能も高く、正の相関がある。

 酸化ストレスは生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、前者に傾き生体にとって好ましくない状態のこと。活性酸素は非常に不安定で他の物質を酸化させやすい。活性酸素は体内でのエネルギー産生、好中球による細菌の貪食などの際に産生される。活性酸素、特にヒドロキシラジカルによって細胞膜の脂質が酸化されると、過酸化脂質が生じ、細胞機能が障害される。活性酸素として、スーパーオキサイドや一重項酸素が挙げられる。またフリーラジカルは不対電子を1つ持ち、他の物質から電子を奪い酸化させる。ヒドロキシラジカルやヒドロペルオキシラジカルなどがあげられる。

 好中球が細菌を貪食する時に、ファゴリソソームの中に取り込み、一重項酸素・ヒドロキシラジカル・次亜塩素酸イオンによって殺菌する。この時に余分に産生された活性酸素やフリーラジカルは好中球自体にも害になるので好中球内でSODやグルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素により消去している。

 これまで、生体内に産生された活性酸素はTBARSで評価されていた。これは過酸化脂質が生成されると二次分解産物を生じ、これを呈色反応によって測定するものである。この測定方法の欠点は特異的でない・再現性がない脂質過酸化と相関がないなどが挙げられる。その為、獣医領域でもd-ROMsBAPを用いる報告が増えてきている。

 FREEという機械について、測定項目は酸化ストレス度、抗酸化力の評価である。自分が測定しているのはこの中のd-ROMsBAPである。d-ROMsはヒドロペルオキシド濃度の測定、BAPは生体内の抗酸化能を測定している。

 2005年の報告で、周産期の乳牛で酸化ストレスと代謝性ストレスの関係を調べたものがある。24頭のホルスタインをBCSで分け、2.5以下を低BCS2.63.0を中BCS3.0以上を高BCSとした。NEFAの値は高BCSの牛群で分娩後高くなり徐々に落ちてきている。NEFAは高BCS牛群で最も高い。ケトン体の血中レベルも高BCS牛群で分娩後に高かった。全体で酸化ストレス度(ROM値)を見たとき、分娩前に急に一度低くなり、分娩後に急に高くなる。TBARSも分娩後高くなっている。血漿中のSH基(抗酸化に働く)は分娩前に高くなり、分娩後は下がっていく。赤血球中のSODとグルタチオンペルオキシダーゼはSODは大きな差はないが、グルタチオンペルオキシダーゼは分娩前に上がって、その後下がっている。以上のことから、酸化ストレスの指標であるROM値、TBARSは分娩後高くなっており、反対に抗酸化物質濃度は下がっているので相反する傾向が見られる。また低・中・高BCS牛群においてROM値とTBARSの値を見ると、高BCS牛群の方がROM値が高い。分娩の前後で比較すると分娩後の方が高い。TBARSも同様である。

 別の報告では、酸化ストレス度は分娩後高くなっているが有意差は出ていない。しかし、酸化ストレス度を総抗酸化バリアの値で割ったOSI(酸化ストレス度指数)で見ると変化を大きく捉えることができる。

 宮崎で脂肪壊死の多い農家で導入期・肥育前期・中期・後期で採血を行い比較した。ビタミンAは制限があるので肥育中・後期では低い。β-カロテンは肥育後期では極めて低い。ビタミンEは徐々に上がっていく傾向にあった。d-ROMは導入時に比べて少しずつ上がっており、BAPはほぼ変化はない。OSIは導入時と比べて肥育ステージが進むにつれて上がっている。

 宮崎の食肉衛生検査所と共同で行った報告だが、年間200頭以上出荷している農家で脂肪壊死の発生が多い去勢雄の農家(生産者A 48.3%)と少ない農家(生産者B 9.1%)そして、脂肪壊死の発生の多い雌の農家(生産者C 70.0%)と少ない農家(生産者D33.3%)選んだ。d-ROMについては発生率の低い農家と高い農家で有意差はなかった。BAPについては発生率の高い農家で高かった。ビタミンA濃度は発生率の低い農家の方が有意に高かった。β-カロテンは雌の方は発生率の低い農家で有意に高かったが、去勢雄では発生率の高い農家で有意に高かった。β-カロテンとα-トコフェロール濃度を去勢雄と雌で比較したところβ-カロテンもα-トコフェロールも去勢雄の方が高かった。枝肉評価では脂肪壊死の発生の多い農家の方が良かった。d-ROMsBAPをそれぞれの農家で比較すると、有意差はないがd-ROMsは発生率の高い農家で低く、BAPは発生率の高い農家で高い。予測とは逆になったが、その理由としてもともとd-ROMsが高かったので生体内の抗酸化物質が動員されBAPもあがったと考えられる。頭数を増やして検討しようと思う。

 暑熱ストレスについてあるが、肉牛の繁殖性の低下、乳牛の泌乳量の低下などの悪影響があり、これを軽減する方法としてある飼料添加材(混合飼料)を用いた。サーマルケアRというものを用いた。既にアメリカで使われており、なぜ効果があるのかはわかっていないが、夏季の乳量低下を抑制できる。このメカニズムを知るために指標としてビタミン・酸化ストレスを調べてみた。製品の振れ込みとしてはルーメン機能・免疫能を上げることなどが書かれている。黒毛和種とホルスタイン泌乳牛を3頭ずつコントロール群と給与群として用い、後半は群を入れ替えて行った。黒毛での給与期間は85日から99日、ホルスタインは729日から92日であり、平均気温は26.9℃であった。体温は黒毛は有意差はないが給与群で高かったが、ホルスタインでは給与群で有意に高かった。ルーメンでの発酵によるものと考えられる。1日当たりの平均乳量は給与群で有意に高かった。経時的に見るとコントロール群では徐々に低下しているが、給与群では一定に維持されている。d-ROMsについては、黒毛和種では試験前に比べ有意に下がっているが、ホルスタインではばらつきが大きく有意差は無かったが下がっていた。BAPについては黒毛和種、ホルスタイン共に大きな変化はなかった。レチノールについては大きな変化は見られなかった。ビタミンEは対照群では1週間後に一度下がっているが、給与群ではそれが無かった程度の違いであった。β-カロテンも黒毛で一度下がっていたが、その下がりが小さい程度の違いであった。今回の結果だけではサーマルケアRの詳しい作用機序はわからなかった。

 まとめとして、d-ROMsBAPは牛において分娩・泌乳・暑熱ストレスに伴う酸化ストレスの評価が可能である。またビタミン制限や肥育に伴う酸化ストレスの評価に使えると考えられる。他に馬においてロドコッカス・エクイによる肺炎において臨床症状が出る前にd-ROMsが有意に高くなる報告があるので、子牛でd-ROMsを測ることで肺炎や気管支炎を発生前に見つけることができ群での発生を防げるかもしれない。小動物では腫瘍のあるものでd-ROMsが高くなるので、早期診断に応用していけるかもしれない。

 

質疑応答など

意見:活性酸素を取り除く添加剤を用いてひねた子牛に用いると良くなった。SOD作用が強いようで、カイニチンという植物ホルモンの作用であった。

Q:脂肪腫は酸化ストレスと関係があるのか。またフジックスは効くのか。

  妊娠牛で脂肪腫がいるが、酸化ストレスを除去したら症状が軽減するのか。

A:症状が止まるかどうかはわからない。

太ると局所の脂肪組織に慢性的な炎症が起こり、そこで酸化ストレスが亢進している。自分は脂肪壊死は予防しかないと思っている。

意見:フジックスよりリーシュアの方が良い。悪くはならないが完全に無くなりはしない。

意見:宮崎でもバイパスコリンの試験を行った。小さくなり、2週間後に大きな変化が見られるが、臨床症状が出る前の患畜であったので、症状が出てからだと効かないかもしれない。脂肪腫が小さいうちに予防的にあげる分には良いと思う。

Q:潜在性脂肪壊死の内に見つける方法はないのか。

ALDHが高い個体で分画を調べると、正常なものでは1、2ぐらいであるが4、5にシフトしてくると脂肪壊死塊のLDHが血中に出てきていると考えられる。これだけでは確実ではないので、血中コレステロール濃度との比を見るなどの他の項目と組み合わせた方が良い。

意見:成長ホルモンの遺伝子型で脂肪壊死になりやすいものに目星を着けることもできるが、純血のものが減っているので、この方法は今はあまり使えない。

Q:水素水(活性水素)を人で飲ませると効くらしいが牛ではどうなのか。

A:活性水素についてはよくわからない。

人の方でオゾン治療があるが、馬でも用いられており、血液に一度酸化ストレスを与えることで生体内の抗酸化物質が動員されることを利用し酸化ストレスを抑えられる。

 

最後の質疑応答

Q:子牛の下痢予防ワクチンについてだが、五種混合かイモコリか。

A:前者。

Q:比較はあるか。

A:ない。兵庫県は他から牛が入ってこない。岐阜などでは色々な型のロタがいるが、兵庫には限局された型しかいない。五種の中には兵庫で採れた型のものが入っているので、現地のものがいいという判断でそれのみを使っている。

Q:ロタに二種類あるが、果たしてその両方に効いているのか。

意見:自分はイモコリしか使わない。効く農家とあまり効かない農家があるが、続けている農家ではよく抑えられている。

Q:自分のところで問題になっているのは35か月の離乳後の子牛の軟便の治りが悪いことだが、どうすれば良いのか。

A:全てではないがルーメンアシドーシスが起こっている。そういう個体に限って配合飼料をよく食べている。このような場合は配合飼料を減らして粗飼料を増やす。牛舎が変わってストレスで下痢する個体もいるが、ほとんどは食餌性のものである。

Q:重曹を使うのはどうか。

A:餌食いは落ちるがある程度治る。しかし反芻させる方が良い。

Q:配合飼料に重曹を混ぜたらどうか。

A:1つの方法ではあると思うが、一時的なものであることは否めない。やはり粗飼料を与えることを考えてほしい。

Q:子牛の下痢において、クリプトスポリジウムの治療について

A:体力を高めることが必要。ネッカリッチや生菌剤などが主体となる。断乳を24時間行いポカリスウェットのようなものを飲ませることで治ることもある。牛舎消毒も重要。泡沫洗浄など。

Q:クリプトスポリジウムの簡易検査キットはどういうものか。

A:便を溶かしたものを用いるだけで使える。時間もあまりかからない。

Q:クリプトスポリジウムに対して効果的な消毒方法は。

意見:安いので石灰乳が中心である。パコマとかも良い。

意見:豚の方でホタテガイの貝殻を混ぜてpH12.5にした消毒薬を使うと全てのウイルスなどを殺せる。刺激は少ないので豚体にかけても良い。

Q:発泡消毒の効果はどうなのか。原液の量が少なく済むし、長時間付着するのはわかるが。

A:データはたぶんある。発泡の方が良い。

Q:泡が消えるまで待たないといけないのか。

A:牛舎消毒はその場所に消毒薬が付着する時間が長くないと効果がないことと、塗り忘れが分かりやすいことからは発泡が良いとされている。

QBCAAについてだが、いつも足りないのはメチオニンとリジンである。それ以外のものを与えると、それを代謝するためにMUNBUNが上がってしまう。

A:メチオニンとリジンを制限アミノ酸だというのは乳牛ではないのか。自分は血清濃度に合わせて添加物を与えている。その話は乳牛であると思われるので調べなおした方が良い。アミノ酸は酵素などにより別のアミノ酸に変わったり、ルーメンもあるので1つのものを追いかけるのは難しい。子牛の場合は人に近いので意味はあるが、ルーメンが出来てくるとあまり意味を持たない。乳牛の場合はメチオニンとリジンにはバイパスがある。バイパスがないものは与えても意味はない。

Q:最近生産農家でモネンシン入りの飼料を使っている。発育が非常に良い。しかし、肥育農家に移りモネンシンのない飼料になると下痢が止まらなくなる。肥育でもモネンシンを入れた方が良いのか、またモネンシンを辞める時の下痢(モネンシンショック)にどう対策すれば良いか。

A:生産農家が使っていると難しい。

意見:児湯では生産でモネンシンを使っていることを公表させている。

意見:生産者も気を付けるべき。

Q:モネンシンを与えているところでは下痢が少ないが。

A:第一胃のアシドーシスが穏やかになっていると考えられる。

Q:肥育が多い獣医の所でモネンシンの話題はどうか。

A:モネンシンは飼料安全法の範囲のもので獣医師では扱えないので、我々でどうにかするのは難しい。ヨーロッパでも抗生物質に含まれていない。出荷7日前からは使用禁止にはなっている。日本でも鶏と肉牛でしか承認されていない。豚ではチアミン酸との併用で重篤になる。馬で牛と同様に与えると即死する。ルーメンに作用している報告はあるが、腸管への作用はよくわかっていない。プラス面が多いのでF1農家などでは使ってない方が珍しい。

意見:飼料メーカーにモネンシンショックの下痢にどう対処するか聞いてみたがはっきりした回答は得られなかった。

Q:モネンシンショックについて詳しく。

A:生産農家でモネンシン入りの飼料を使っていて、肥育農家に移りモネンシンの入っていない飼料に変わるとルーメンが急変して難治性の下痢になること。

Q:再びモネンシン入りの飼料を使っても治らないのか。

A:治らない。

意見:自分の所であぐら系の牧場でモネンシンを入れたら治った。一年ぐらいかけて徐々にモネンシンを減らしていくと上手くいった事例もある。

意見:飼料安全法により、飼料の効能を言うことは禁止されているが、コクシジウムに効くという振れ込みでモネンシン入りの飼料を売りに来る。

意見:農協系は使っていないが、枝重が100sから違ってくるので使いたいという話もある。

意見:元々は慢性誇張に用いる薬剤であった。

Q23ヶ月でコクシジウムによる血便でこじらせて軟便が治らない牛がいるがモネンシンは効くのか。

意見:モネンシンの飼料は5か月以降で使用するように概ね書いてある。

A:薬剤として獣医師が取り扱えないのでわからない。

Q:市場でモネンシン使用の公表の動きはあるのか。

A:都城では肥育農家から申請がある。

A:熊本は公表してる気がする。ほとんどの生産農家で使っていたので飼料を公表するようになった。

意見:モネンシンが悪ではなく、使い方に問題がある。

Q:肥育に使うとサシが入りにくいと聞くが。

A:わからない。枝重が伸びるという報告はある。

Q:使用方法通り5か月から使っているのか。

A:農家による。早いうちから使っている所もある。一般的にセリに出すまでやり続ける。人によっては上手に減らしていく人もいる。

意見:モネンシンを使っていた子牛を肥育に上げたときの対処法がある。今日は持ってきていないので後日発表する。

Q:芝野先生が昨日言っていたアミノ酸製剤は既に売っているのか。

A:はい。

Q:子宮捻転で捻転の方向を間違えることはないか。

A:直検すればすぐわかる。

意見:捻転してると戻ろうとしているはずなので、反対に回しても反動で治ることもある。

結論としてはケースバイケース。

Q:キトサイドについてだが、他の創傷治療と比較してどうか。

A:長期のものにはメチレンブルーの入った刺激の少ないもの(マイター)を用いるが、それと比べて半分ぐらいの期間で治ったと思う。

Q:キトサイドを子宮内膜炎に使っていたが。

A:使わなくても治ったのでよくわからない。

Q:シダーを種付け4日後に挿入して9日目に抜くということを書いてあったが。

種付けしてすぐはだめなのか。

A:すぐに入れると黄体が形成されないことがある。空胎日数が150日超えるような長期未受胎に対して、ホルモンを調べてみると4日目以降の黄体ホルモンの立ち上がりが悪く受胎していないことがあるので、このタイミングで入れるとそれをカバーできる。9日目というのはよくわからない。

意見:モディファイドは5日目から19日目まで。

意見:3日目に入れると内因性の黄体がサボり、遅いと効果がないというデータがある。

意見:妊娠している場合は抜いても発情が来ない。抜いて発情が来る場合はいいタイミング。

意見:5日目にHCGを打つことの代わりである。不受胎のものは次の発情が抜いたときに来る。

Qシダーを使うときは卵巣の状態がどんな時に使うのがベターなのか。

因みに自分は黄体がある時は入れずにPG使う。卵巣に何もない、もしくは小濾胞があるときにはGnRHを打ってから入れる。入れる期間は9日間、土日を挟むときは11日間。抜くときは必ず直検で子宮内の様子を見て行う。授精師に2日目の夕方に見てもらい後は任せる。

意見:自分は農家に抜かせて1日半後に見に行く。卵胞が出来てたらGnRHを打って翌日の午前中に着ける。

意見:PGと一緒にエストラジオールを打つと明確に発情が来ると思う。

意見:発情同期化という観点では9日間留置が一番合うという報告がある。黄体があるときに行うのが最も良い。

意見:一回、二回と使い三回目に2本入れる人がいる。

意見:シダーを入れて1週間で抜くとまだ半分以上残っているので、二回目の時にもう1本入れる。

Q:シダーを入れる時にイソジンを一緒に入れるのはどうか。

A:シダーと一緒に抗生剤などを入れておくと、抜いたときに膿が出てくる。すると授精師が着けたがらない。

Q1回入れて発情を見逃し、また入れるのはどうなのか。卵巣の動きを制限するものなので、何回も使うと脳下垂体などにダメージがある気がする。

A:シダーの使い過ぎで上位の中枢に害があるというは聞いたことはない。

意見:何度もシダーを入れている牛はホルモンの反応が悪い。だから同じ牛にシダーを二回使うことはしない。

Q:間違えてPGを打った時にすぐにシダーを入れるのはどうか。

意見:一度したことはあるがうまくいかなかった。PGの方が効き目が強い。同期化の時に早くPGを打ってしまい、すぐにシダーを入れ、通常の同期化に合わせて抜いたが発情は来なかった。1週間後に見ると黄体が退行していた。

意見:シダーを入れて排卵処理をして、PGを打ってシダーを抜くのを忘れた。翌日抜いたが発情は来なかった。

意見:自分は来た。通常よりは二日程長く入れてしまったが。

意見:ホルスタインで過排をかけて、PGを打ったが、シダーを入れっぱなしであった。人工授精の時に気付いたが発情は来ていた。授精し採卵できた。やはりPGの方が強い。

意見:ホーメットというPGの拮抗薬ができた。PGを打った後10分以内でないと効かないようだ。妊娠牛では流産するから使えない。

 

どうするBVD  とある現場からの報告、             シェパード中央家畜診療所   蓮沼 浩

背景

肥育800 繁殖180頭 一部一貫経営であった。

新しく牛舎を購入

F1子牛の育成事業を8月にスタートさせた。

 

F1育成事業の概要

T県より生後3060日齢のF1子牛を導入。

1ヶ月間人工哺乳ロボットにて哺乳。

生後89ヶ月で出荷。

 

導入時の予防処置

 ボビバックS 2ml 筋注

 ミコチル 2ml + ゼノビタン 1ml 筋注

 BVDの着地検査実施

 ロボットにCTC2001週間添加

 状況に応じて、アンピシリン散、CTC200の添加を行う。

 

BVDPI牛発生状況・・・第一陣 33頭導入し、PI1頭摘発

             第二陣 39頭導入し、PI1頭摘発 

 

最初は牧場スタッフが治療を行うが、治療等数が激増

別の場所の、これまで問題なかった農場でも黒毛子牛の治療等数激増

牧場から診療を引き継ぎ、治療を始めるも・・・

 

なぜ予防に失敗したか・・・無理な増頭

牧場の認識不足

再検査の未実施:検査結果が出るのが10日後くらい。本来なら陽性牛がいたら、1週間後くらいに全頭検査を行い、陽性牛を弾いていくべきだったが

ロボットでの管理:ハッチで飼ってても、病気は発生するのに

牧場スタッフの技術:ミルクを最初に上手く飲ませていない

甘い考え BVDなんか来ないだろう・・・:半端な対応では防げない

 

再検査は行うべきだったのに

ロボットでの管理を許してしまった・・・

BVDのなにが恐ろしいか

1、検査しなければ分からない 

2、病気の広がり方が早く、感染力が強い  あっという間に汚染

3、治療の反応悪く、肺炎・マイコ・下痢が蔓延

4.脂肪等数、診療費の激増

5、妊娠牛がいると、更なる被害が

 

対策を急ぐ

農場は何も知らずにとんでもないものを導入する

農場は検査費用その他すべて自前で対応  

被害は甚大でPI牛の保証どころではない  保証があったとしても被害の方が・・・

多くの農場ではほとんど検査は行われていない

 

どうするBVD

・迅速な検査体制の構築

・簡単な検査方法の確立  

・検査費用の補助  莫大なお金がかかる  全部自腹  補助なし  

・ワクチン接種率のアップ  網走などは7割ほどやっているが、ほどんどやっていないのが現実

BVDについての啓蒙  

・このままの現状では、被害が徐々に広がることは避けられないのではないか・・・

・他の国でも最重要疾病でやっている

 

Q 検査はこっちの方ではやっている

A, 民間でやっている? 保健所ではやっているのか。

 

Q,これは調べたほうが良いのでは?というのは?

A, 流産が増える その次にPI牛が生まれてくる(和牛) 農家さん ノイローゼ

一発一発がパンチがでかい   PI牛はだいたい2ヶ月くらいで死ぬ

外部から牛を入れなければ大丈夫

 

Q あぐらから持ってきた親がいるが、どうすれば?

A, まだこれから。血液検査しかない

  乳牛はミルクから取れる。バルク検査

  黒毛の場合はそれができないので、

1頭辺り  血液(血清)を1つにまとめる(血液のバルクみたいに)検査する

陰性だったら3000位で済むが、陽性が出たら、混ぜた10頭全部を検査しなおす。

 

Q、農家さんが他の農家さんの作業した後に、自分の農場をする

A, そろそろ農家さんや獣医師はそういうのをやめなければ。

自分ちの農家は自分で守る

 

Q 和牛もホルも同じように広がるのか?

A 同じようにひろがる

 

Q では市場でも感染が広がるのでは?

A 市場が一番の感染場所

 

個人ではどうしようもない

 

白血病よりもBVDのほうがやばい

 

 

ほとんどが虚弱で

 

とりあえず、和牛の生産と乳牛の搾乳で検査

 

簡易キットは一旦出たが難しかった。