全農畜産施設サービス 技術顧問 大田正義
〜はじめに〜
畜産大辞典や家畜管理学では、牛は寒さに強く、牛の適温期は幅広いことが定説になっていた。例えばホルスタイン牛では、−17℃〜27℃まで温度に影響されないとされてきた。しかし、実際のフィールドのデータでは、月平均気温が18℃の時に、最も泌乳量は多く、18℃をピークにそれより高温でも、低温でも泌乳量は低下していた。このようなことから、気温・気湿・気動・放射熱といった「温熱環境」は恒温動物である家畜の体温に直接影響を与え、家畜の生産性に大きく影響しているといえる。
〜牛の体感温度〜
乾球温度(DBT)と湿球温度(WBT)による体感温度(ET)表示式より
牛のET=0.35DBT+0.65WBT
乾球温度(DBT)と風速(AV)による体感温度(ET)表示式より
牛のET=DBT−6.0√AV
以上のことから、牛の体感温度には、相対湿度と風速が与える影響は大きいといえる。つまり風速を高めるのに必要なエネルギーは舎内温度を下げる、除湿するといったエネルギーよりもはるかに小さいエネルギーであることから、夏の防暑対策としては、送風に重点を置くべきである。
〜夏季の送風・換気方法〜
夏季の送風と換気について最も重要なのは、
@ 牛の周囲の風速を上げる
A 舎内の気温の上昇を抑える という二つである。
送風方法…1.直下式送風
2.順送式送風
3.横断式送風
4.トンネル換気
5.ダクト送風
主な送風方法として、上記の5つが挙げられる。
1.直下式送風
欠点◎一頭あたりの風量が大きい割には、牛体周囲の平均風速は小さい。
◎舎内の換気(空気の入れ替え)の効率も悪い。(舎内の温度を下げる効果
はない。
◎ 冬場、牛の生活空間の風速が高くなる
改善方法:なし
順送式送風方法
欠点◎風速のむらが大きい
改善方法・最大換気量から換気扇台数を求めて、妻壁に設置する。(雨仕舞いに
注意)
・ 縦行き方向に風を送る場合、送風機全体を風上側によせて設置する
・ 等間隔に設置する場合、風上側が最も多く、風下側にかけて台数を減らしていく。
・ 外気を100%取り入れるために、壁には囲いをつけた換気扇を設置する。
横断式送風方法
欠点◎風速むらが大きい
改善方法・家庭用首振り扇風機を使用する場合には、一頭に一台づつ使用する。
トンネル式送風方法
欠点◎風上の牛によって、風下の牛には風があたらない。
改善方法・天井を低くする
・ 邪魔板を設置し、牛に効率よく風をあてる。
ダクト式送風方法
欠点◎屋根から熱が入ってくる牛舎の場合、十分な風量が得られない。
改善方法・外気を取り入れられる換気扇を設置し、換気量を増やす。
・ ひとつのダクト管に対して、二個の換気扇を使用し、風量を増やす。
〜考察〜
換気量的には横断式が一番よいが、直下式と横断式は効率が悪い。効率がよいのは、順送式、ダクト式だが、両方とも外気を取り入れる換気扇を設置しなければ、牛舎の温度は下がりにくい。どの送風方法においても、風速の個体差を少なくすることが大切である。
−受胎率向上について考える− 酪農学園大学 堂地 修 助教授
・近年の牛の繁殖成績低下について
・発情観察について、特に乳用牛
・過剰排卵誘起処置
・受胚牛の検査
・移植技術
・凍結胚の移植
・酪農学園大における最近の研究
受胎率向上のコツ
・ 正しい飼養管理
・ 正常な発情周期
・ 明瞭な発情
・ 生きた受精卵
・ 正しい技術の習得、等
近年、高齢化や後継者不足などの理由により農家戸数の減少が顕著である。それによりメガファームなど規模拡大が起こり、技術格差の拡大、管理作業の増大、フリーストール牛舎の導入などが見られるようになっている。
また乳用牛の泌乳能力の向上に伴った代謝機能低下、周産期疾病の増加がみられる。それによって発情の見逃しや分娩後の繁殖機能回復の遅延、不適期授精などにより繁殖成績が低下する。
ホルスタイン種の乳量は年々あがっており、分娩間隔も440日に達するかというところまで延びてきている。また子宮回復の遅延により空胎日数が延び、受胎率も50%ほどになり、授精回数増加がみられる。
発情観察
発情観察は、運動場や放牧値がある場合は比較的容易である。運動場に放した直後は発情行動が活発になる。未経産牛はさらに乗駕許容、乗駕、粘液、発汗などの発情観察が容易になる。
つなぎ牛舎の場合は繁殖記録簿の整備が最も大切である。
外陰部の所見、腫脹、粘液の漏出などの発情兆候を見逃さないように発情観察の時間を作って、獣医師や授精師に依存せずに、農家自身が自分の目で毎日見ることが重要である。
乗駕し始めた頃から大体発情スタートで、発情行動を発見したらなるべく早目に種付けを行うことが近年推奨されている。そのため発情発見装置の開発が進んでいる。
発情後の出血は、受胚牛の選定および移植日の決定においてはあくまでも補足的な指標とすべきである。
フリーストール牛舎では乗駕を躊躇する牛が多くなっている。これはストールなどの構造物が発情行動を抑制するのではないかと考えられている。
胚移植
日本の胚移植における問題点がいくつかある。
・ 胚の多数安定生産技術の確立
・ 受胎率の向上(特に凍結保存胚の受胎率)
・ 技術者不足
・ 受胚牛の確保
・ 技術料金(高値)
・ 農家への啓発
・ 胚移植に対する農家の要望
・ 小規模経営における胚移植技術の利用の促進
国内では胚移植の実施頭数は5万頭を超えており、従事者・胚採取および胚移植頭数は年々増加している。しかしまだ産仔数はその半分にも満たない。受胎率は10年ほど横ばいしており、受胎率が改善に余地のある重要な課題とされている。日本では凍結胚の受胎率は45%程で推移しているがカナダでは6割ほどもある。
ここで受胎率について考えてみる。農家が求める受胎率は大体6割程度であるが、経営的に求められる受胎率は受精卵移植においては日本ではあまり考えられていない。
そこで胚移植導入により和牛(F1)肥育へ転換した時の所得を例にとって考えてみた。
胚移植経費を3万円、出産時の事故率を5%とした時、元々のF1生産よりも収入を上げるには6割くらいの受胎率が必要となる。5割だと仕上げた牛が60万円以下だと元のF1生産よりも収入が下がることになる。和牛も大体同じである。胚移植経費が4.5万円〜6万と高くなるとどんどん厳しくなっていく。
胚移植における工程の1つに採卵がある。しかしこれは多く採取できる牛とできない牛がおり、そのために計画的な過剰排卵誘起処置、連続過剰排卵誘起処置、卵胞発育ウェーブのコントロールが重要となってくる。
過剰排卵誘起処置スケジュール(発情周期に関係なく。黒毛和牛におけるスケジュール)
受胚牛の客観的選抜にはいくつかの方法がある。移植時の黄体の形状やプロジェステロン値の測定、ボディコンディションスコア(BCS)、子宮頚管粘液性状(核崩壊像、核崩壊率)などである。しかし直腸検査による触診とプロジェステロン値の測定を行ったところ、黄体の形状やランク、長径、共存卵胞の直径と血中プロジェステロン値にはあまり相関がなかった。また触診や超音波法はやはり実際のサイズなどとは若干誤差があった。
子宮頚管粘液性状においてはホルスタイン種の未経産牛26頭と経産牛8頭を対象に調査を実施した。核崩壊率は粘液を染色後、倒立顕微鏡を用いて観察を行った。核崩壊像は染色した粘液の染色像をそれぞれの形状によって、糸型、雲型、帯型、紐型、水様型の計5種類に区分した。
受胎率は、核崩壊率が80%以上のグループでは39%と低く、核崩壊率の低いグループでは69%と高かった。核崩壊率の高いものは直腸検査や膣鏡による膣検査によって所見が良くなかったものがかなりあてはまった。膣検査は面倒だが受卵牛を選ぶには重要な手段である。
また糸型、雲型は出現率が高く、紐型、水様型は低かった。また紐型、水様型の時はほとんど受胎せず、糸型、雲型、帯型の時は受胎率が高かった。水様型のような粘液の時は黄体が良くても移植はしない方が良い。
ホルスタイン種未経産牛および経産牛の移植供用率ならびに受胎率
処置 |
産次 |
処置頭数 |
移植供用 |
受胎率(%) |
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頭数(%) |
|
排卵同期化 |
未経産牛 |
53 |
48(90.6) |
28(58.3) |
|
経産牛 |
55 |
40(72.7) |
20(50.0) |
自然発情 |
未経産牛 |
45 |
41(91.1) |
22(53.7) |
|
経産牛 |
53 |
41(77.4) |
20(48.8) |
計 |
|
206 |
170(82.5) |
90(52.9) |
※ 新鮮凍結卵使用、ほとんどが高能力牛の受精卵
ホルスタイン種未経産牛および経産牛の移植中止理由
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移植供用 |
中止頭数 |
|
移植中止理由 |
内訳 |
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産次 |
対象牛 |
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嚢腫様黄体 |
黄体形成不全 |
黄体なし |
強い子宮収縮 |
外陰部より |
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有り |
粘液漏出 |
未経産牛 |
98 |
9 |
2(22.2) |
2(22.2) |
3(33.3) |
1(11.1) |
1(11.1) |
経産牛 |
108 |
28 |
3(10.7) |
10(35.7) |
4(14.3) |
8(28.6) |
4(14.3) |
計 |
206 |
37 |
5(13.5) |
12(32.4) |
7(18.9) |
9(21.6) |
5(13.5) |
飼養管理と繁殖成績
乳牛の胚移植における飼料給与と受胎成績の関係
・ 受胎率の高い(50%以上)の農家は低い(20%)農家に比べ養分充足率が優位に低い
・ 受胎成績不良農家はDIP(分解性摂取蛋白)、UIP(非分解性摂取蛋白)が高く、NFC(非繊維性炭水化物)が低い
・ 未経産牛では養分充足比を適正にする。
・ 経産牛ではUIPとDIPの過剰給与とNFCの給与不足に注意し、バランス適正化を図る。
・ CP(素蛋白質)の過剰給与は繁殖成績低下を招く
・ DIPの過剰給与はルーメン内のアンモニア産生を増加させ、繁殖機能に悪影響を与える。また子宮内pHの低下を招く
・ 給与飼料中のデンプン量の割合が高いほどルーメン内のアンモニア濃度は低い
・ TDN(可消化養分総量)給与量を濃厚飼料で補充するためルーメン内のアンモニア濃度を抑制可能なNFC給与ができない
受胚牛の発情・排卵同期化
発情発現には1〜6日間のばらつきがみられるが、排卵の同期化が可能であれば人工授精や胚移植を特定の1日で行うことが可能である。そこでGnRHとPGを用いた排卵同期化法と過剰排卵誘起を併用した移植スケジュールが現在利用されている。この場合の発情時の卵胞長径および移植時の黄体長径測定値はほぼ正常であり、移植供用率および受胎率も問題なかった。農家別に分けるとばらつきがあり、成績が良い農家は飼養管理も良い。
胚移植における受胎率は移植時期、発情の同期化、移植技術(衛生的操作、時間、移植部位)、胚の品質・ステージなどの人為的事項によっても影響される。
発情後6日後になると頚管刺激による子宮収縮がなくなり、胚の排出がおこらない。移植操作中は子宮収縮が起こるが、時期を選ぶことが受胎率の向上につながる。また技術者の熟練度にも影響される。移植には短時間かつ丁寧な操作が必要とされる。
移植後3〜4時間でPGF2?があがるため、PGF2?抑制剤が投与されることもある。
凍結・融解操作中に発生するミスも多い。予備凍結終了後に凍結器から液体窒素中にストローを移動する際に生じる温度上昇や、融解時の空気中保持時間、融解に用いる温水の温度、寒冷期に於ける融解と温度感作、保管タンクからのストローの出し入れ時の温度変化などである。従来の移植法とは別にエチレングリコールを用いた直接移植法もあるが根本的なところはなかなか改善されない。
酪農学園大学における最近の研究
・ 自動化による省力的かつ高精度な発情発見のシステム開発
・ ウシ胚の迅速で簡易な性判別技術の確立(LAMP法)
・ 自動搾乳システム牛舎における繁殖管理
・ ウシ胚および卵子の超低温保存技術
・ ウシの分娩予告装置の開発
日置地区農業共済組合 安村悦朗
田辺製薬の飼料添加剤タナベタインを過排卵処理時に使用することによる、移植可能胚採取に関する効果について報告する。
(目的)
移植可能胚の増加を図るため
(使用方法)
1.期間
過排卵処理開始から人工授精日までの6日間
2.量と投与方法
1日1回50g飼料添加
(結果)
1.移植可能胚のとれるDONERを増加させるか?
移植可能胚が採取できたDONERの頭数と比率
|
採胚頭数 |
移植可能胚採取頭数 |
移植可能胚採取率 |
タナベタイン使用 |
20 |
13 |
65 |
タナベタイン不使用 |
23 |
21 |
91.3 |
移植可能胚の採れるDONERを増やすわけではないようである。
2.移植可能胚の採れたDONERについて、採胚数を増やすのか?
|
平均採胚総数 |
タナベタイン使用 |
14 |
タナベタイン不使用 |
15.3 |
採胚総数に影響はない。
3.採取卵の比率に変化があるか?
移植可能胚の採取できたDONERについて
|
移植可能胚率 |
変性卵率 |
未受精卵率 |
タナベタイン使用 |
58.6 |
12.9 |
28.6 |
タナベタイン不使用 |
38.3 |
28.6 |
33.8 |
受精率には影響をしない(未受精卵率に影響なし)
若干、変性卵率を減少させ、移植可能胚率を上昇させる作用がある。
4.移植可能胚のランクが上がるのか?
|
Aランク率 |
Bランク率 |
Cランク率 |
タナベタイン使用 |
63.4 |
28 |
8.5 |
タナベタイン不使用 |
57.6 |
28.8 |
11.9 |
若干、胚のランクはあがる
5.受胎率が上がるのか?
|
移植頭数 |
受胎頭数 |
受胎率 |
流産 |
不受胎頭数 |
タナベタイン使用 |
64 |
26 |
40.6 |
1 |
38 |
タナベタイン不使用 |
84 |
31 |
36.9 |
2 |
53 |
若干、受胎率は上がる?
(まとめ)
タナベタインの投与により、受精した卵の品質が良くなり、その結果受胎率にもよい影響を及ぼす。
(考察)
卵胞が発育し排卵するまでの間だけ、タナベタインを投与して効果があることから、発育する卵子のエネルギー(活力)をある程度挙げるのではないかと考えられる。
しかし、すべてのDONERに効果があるのではなく、あるレベル以上の栄養状態のDONERに対して効果が現れると思われる。
体外受精胚の移植を受けたホルスタインから生まれた正面対向重複奇形子牛
鹿児島大学家畜繁殖学講座 浜名克己
重複奇形とは、卵割初期に割球が2つに分離して生じた発生異常のことで、分離が不完全な場合、頭部二重体、胸結合体、寄生性二殿体などとなる。先天性奇形の中でも極めて稀で、牛では10万頭に1頭の割合で発生するとされている。今回、体外受精胚の移植を受けた牛から正面対向重複奇形子牛が生まれ、剖検する機会を得た。
未受精の卵子を体外に取り出し、培養器内で精子と受精させることを体外受精といい、この胚をレシピエントに移植することで産子が得られる。牛では、能力の低い乳牛の子宮に移植して価値の高い和牛を増産するなど実用化されており、体外受精胚を活用して多数の産子が得られている。
体外受精胚の移植の概要 |
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卵子の採取 |
→ |
成熟培養 |
→ |
体外受精(媒精) |
→ |
2細胞期 |
胚盤胞 |
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体外培養 |
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|
→ |
凍結保存 |
→ |
胚移植 |
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胚を体外で操作するため、通常の受精に比べてなんらかの外的要因が入る要素が多い。そのため普通の妊娠に比べていろいろな異常も起こりやすいが、どこに異常があるのか断定するのは非常に難しい。
症例
母牛はホルスタイン種乳牛で2産目、2002年7月5日に体外受精胚の移植を受け、2003年4月13日に子宮頚管が開いてから3〜4時間しても生まれなかったため、直検したところ胎児が過大であったため帝王切開術により子牛を摘出。子牛は黒毛和種牛で雄、体重71kgであった。2個体が両腕を広げて向かいあった状態で接合しており、出生直後は生存していたがまもなく死亡。頭部、脊柱、尾は各2つずつあり、前肢は4本、後肢は正常なものが2本、単蹄で細い寄生肢が1本あった。肛門は確認できず雌かと思われたが、精巣があったため雄であった。剖検所見は心臓が近接して頚部に存在しており(頚部逸所心)、横隔膜は存在せず、腹腔臓器が胸腔に入り込んでいた。腸管はそれまで2本できていたものが回腸部分で融合しており、結腸・直腸は1本になっていた。鎖肛のため直腸は2個の膀胱へスリット状に開口していた。胃、肝臓、脾臓、腎臓、潜在精巣は各々2個ずつ合った。
脊柱は湾曲し、肋骨は左右に開いており、左右脊椎が骨盤部で融合していた。
まとめ
今回の症例は頭側から尾側へいくほど結合が重度であったことから、本来単体として発育すべき胚が前位から2個体として分離をはじめたが、なんらかの原因で分離が不完全となり、そのまま発育したものと思われる。本症例は重度の重複奇形であり、非常に稀な例であるとともに、体外受精胚移植を受けた影響が考えられる貴重な症例である。
文献紹介〜プロスタグランジンについて〜
・ 牛の繁殖に及ぼすプロスタグランジンの種類と投与法の違い
カナダでアナログ型のクロプロステノール(2cc i.v.)を使っていたが、ジノプロステノール(5cc i.m.)に変えたところ農家からの反応がよくなかったためこのデータを出した。
牛400頭を100頭ずつ4群にわけ、以下のようにPGを投与した。
1群:ジノプロステノール(天然型プロスタグランジン)2.5mg i.m.
2群:ジノプロステノール2.5mg i.v.
3群:クロプロステノール(アナログ型プロスタグランジン)2.5mg i.m.
4群:クロプロステノール2.5mg i.v.
PG投与後1週間以内の授精率は4群とも80%で差は見られなかった。受胎率は1群:約35%、2群:約42%、3群:約40%、4群:約50%と若干アナログ型PGのほうが高かった。また、筋肉注射より静脈注射のほうが若干高いようであった。妊娠率も1群:約30%、3群:約42%とややアナログ型PGのほうが高かった。
・ PGの種類あるいは投与法の違い
ジノプロステノール(200頭)とクロプロステノール(200頭)だけでみると授精率に差はみられなかった。受胎率はジノプロステノール:38〜40%、クロプロステノール:44〜45%。筋肉注射:約35%、静脈注射:約45%と静脈注射のほうがやや高かった。妊娠率も同様の傾向が見られた。
子牛の性別には統計学的に有意差が認められた。クロプロステノールは♂:♀=53:47と変わらないが、ジノプロステノールを投与した群ではオス子牛の生まれる確率が高かった。また筋肉注射より静脈注射のほうがPG投与後4日以降のAIでオス子牛の生まれる確率高かった。理由はわからない。
・ PG(クロプロステノール)の投与量の違いが発情や排卵に及ぼす影響
実際の投与量は2cci.m.(500μg)だが、100μg s.c.、250μg s.c.、500μg i.m.を投与した。PG投与後の発情時間は250μg、500μgで50〜60時間、100μgでは80〜90時間でやや遅く、反応が弱かった。排卵時間は100μg:110〜120時間、250μg:80〜90時間、500μg:80時間であった。100μgはやはり排卵時間が遅れるため人工授精がばらつく。適時な排卵時間には注射時の不手際を考慮すると500μg必要である。
・ PG(クロプロステノール)の投与法の違いが発情や排卵に及ぼす影響
125μg i.m.、125μg s.c.、500μg i.m.、500μg s.c.投与した。発情時間は125μgでは遅く500μgでは早い。また、同じ500μgでも筋肉注射のほうが皮下注射より早かった。排卵時間にはあまり差が認められなかった。
・ 11日間隔のPG2回投与の効果
コントロール:PG投与を行わない
LL D AI:PG2回投与後、発情発見後AI
LL SO AI:PG2回投与後80時間に定時授精
妊娠率をPG投与後1〜5日のAI、PG投与後1〜24日のAI、PG投与後1〜28日のAIで判定した。
コントロール群では自然な発情しかこないので約20%と低いが、LL D AIの妊娠率は50%を超え高い。LL SO AIは約40%であった。2回PG投与後、発情発見してからのAIのほうが妊娠率がよいことがわかった。
・ プロナルゴンF(天然型PG)の至適投与量
搾乳牛に0mg(生理食塩水)、5(1cc)、10(2cc)、15(3cc)、20(4cc)、25(5cc)、30(6cc)、35(7cc)を投与し血中プロゲステロン濃度で黄体退行作用を比較した。
0mgでは生食のため黄体は退行しないので血中プロゲステロン値変化しなかった。用量依存的に1cc、2ccでは乳牛には効果が見られず、3cc以上で血中プロゲステロン値は24時間で下がり、72時間でほぼすべてが下がる。
5ccが通常の使用量だがアメリカでは700kg近くある高泌乳牛に7cc投与することもある。
・ デンカ製薬との共同研究
頭数 投与薬 投与量
群A 29 cloprestenol右旋性鏡像体 0.15μg/2ml i.m
群B 9 cloprestenol(エストラメイト) 0.5g/2ml i.m
群C 7 生理食塩水 2ml
プロトコール
PG投与時に採血し3日後に再び採血を行う。発情時にAIし、発情がこなかった牛は11日目に2回目のPG投与を行う。このとき採血は1回目と同様に行う。
結果
第一回投与後では発情誘起率はcloprestenol右旋性鏡像体が有意の高かったが、受胎率、妊娠率ではcloprestenol右旋性鏡像体のほうが高いが有意差は認められなかった。第二回投与後の発情誘起率には差が認められなかった。第一回、二回の合計では発情誘起率はどちらとも90%近く高いがわずかにcloprestenol右旋性鏡像体のほうが高い。受胎率もcloprestenol右旋性鏡像体のほうが30%ほど高い。
P4濃度は投与後3日目に1ng/mlであった牛はA:23頭(有効率79.3%)B:8頭(88.9%)C:2頭(28.6%)である。
発情が誘起されなかった牛の多くはPG投与日のP4レベルは低く、機能性黄体がないものか卵胞期であった。また、PGF2α製剤を黄体期に投与した牛は黄体退行、血中P4濃度の低下がみられ、排卵を伴う発情が誘起された。
今回2種のPGF2α製剤間に有意な差は得られなかったが、cloprestenol右旋性鏡像体のほうが有効である傾向が見られた。
デンカ製薬株式会社 川口 擁
牛の過剰排卵誘起に用いられるホルモン剤は今まではPMSが主に用いられてきたが、現在ではFSHが一般的に用いられている。
FSH製剤は製造する際にLHが混有してしまうが、これが過剰排卵誘起の効果に影響を及ぼすことが明らかになってきている。牛の過剰排卵誘起に対するFSH-P(LHを混有する豚FSH剤)とFSH-W(FSH-PからLHを除去したもの)の効果を比較したところ、FSH-Wのほうが平均受精胚数と平均移植可能胚数がともに多かった。また、FSH-WとFSH-WにLHを添加したもので同様に比較したところやはりFSH-W単独のほうが平均受精胚数と平均移植可能胚数ともに多かった(Donaldoson,L.E.et.al、1986)。FSH-R(混有LHは痕跡)とFSH-S(混有LHは若干)での比較でも同様にFSH-Rで良い効果が得られ、採卵成績でもFSH-Rのほうが移植可能胚の平均個数、率、1個以上採卵頭数で良い成績が得られた(家畜改良センター日高・福島、山口大、雪印乳業)。
FSH剤のPVP溶解1回投与法による牛の過剰排卵誘起を試験したところ生食液溶解と比べて平均回収卵数、平均移植可能胚数で良い成績が得られた(山本、大江、鈴木ら、山口大、1991、1993)。また、FSH-R剤のPVP溶解法の用量別と分割投与法における過剰排卵誘起成績を比較したところPVP法でのFSH用量が30〜40単位で最も良い成績が得られた(山口大、家畜改良センター・7県畜試の集計)。
FSHを生食に溶解し筋肉内注射を1回した後の体内血中FSH濃度は投与後段々と上昇し6時間後にピークを迎え徐々に減少していき36時間後には元の値に戻った。12時間おきの連続投与でもやはり投与後6時間おきにピークを迎えた。また、FSH-RとFSH-Sをそれぞれ投与した際の血中FSH濃度の推移には差がみられなかった。FSHを生食に溶解し投与したものとPVPに溶解し投与したものとの体内血中濃度の推移を比較したところ半減期がPVP溶解の方が2倍長く、投与後ピークまでの時間は生食溶解の方は6時間前後だったのに対しPVP溶解の方は9時間前後だった。ピークの濃度は生食溶解の方が高く、FSH濃度保持時間はPVP溶解の方が長かった。FSHの皮下注射と筋肉内注射の体内血中濃度はそれぞれ同じような推移をたどった。
LH剤の筋肉内注射における血中LH濃度の推移は投与後徐々に上昇し、4時間後にピークを迎え減少していき12時間後には元の値に戻った。
コムテック代表取締役 笹栗 絋二
これまでに牛の十字部にカウント装置を貼り付け、スタンディングがあるとパソコンへ送信されスタンディング回数により発情を発見する装置を開発したが、換毛期にカウント装置が外れてしまうという欠点があった。さらにホルスタイン牛ではフリーストール飼育で発情の際にスタンディングがあるのは半分にも満たないことがわかった。そこで、首や肢に万歩計を取り付け、運動量を記録することで発情を発見する装置を開発した。この装置だとつなぎ飼いやフリーストール飼育でも発情と運動量が一致し発情を発見できることがわかった。また、運動量の異変から疾病を予測したり健康状態を調べることもできた。
NOSAI北薩 橋之口 哲
(実施農場)
母牛頭数70頭の黒毛和種繁殖農場
(供試薬剤)
アースジェネター(アース技研)
(投与方法)
2001年10月から2002年9月まで
母牛5g 子牛その半量程度
(検査項目)
血液生化学的検査
血中アンモニア濃度
血中プロジェステロン濃度
病傷件数
(結果と考察)
・ 毛艶が良くなり、敷料の交換期間は1ヶ月→3ヶ月に
・ 投与開始から3ヵ月後にはアンモニア臭が消失
→牛体へのストレス軽減による各種疾病の抑制
・ BUN,NH3の有意な低下
→第一胃内の蛋白質代謝改善効果
・ プロジェステロンの上昇傾向
→受胎率の向上を期待
曽於地区農業共済組合 田崎拓昭
今回CIDRを7日間挿入・除去し、その使用済みのCIDRを他牛で再度7日間挿入治療を施したので、その概要を報告する。
(対象)
直検によって卵胞が触知されるが、発情がこない牛(卵巣静止の状態)
年齢、空胎期間は様々
(結果)
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初回受精 受胎 |
初回受精 不受胎 |
未発情 |
未発情再診時黄体あり |
計 |
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(T)CIDR(新) |
22 |
27 |
9 |
5 |
63 |
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(U)CIDR(再) |
19 |
18 |
8 |
2 |
47 |
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(V)CIDR(新)+E2 |
16 |
16 |
14 |
2 |
48 |
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(W)CIDR(再)+E2 |
14 |
17 |
9 |
4 |
44 |
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(考察)
無発情牛に対して、CIDRの挿入により約70%(初回受精受胎+初回受精不受胎)発情を誘起した点において、治療効果があったといえる。 受胎率については、CIDR抜去後AIまでの日数と関連があるようである。すなわち、抜去後1〜3日でAIした牛では受胎率は低く、7〜10日では高い傾向がある。これは、CIDR抜去後の発情が、CIDR挿入前から存続する卵胞によるものであるか、CIDR抜去後に新生した卵胞によるものであるかの違いによると考えられる。V群・W群ではCIDR挿入前の卵胞を消失させる目的でE2を使用したが、これは少量であった(1r)ために効果がなかったようだ。CIDR挿入による受胎率の向上については、今後とも検討が必要である。
卵胞嚢腫は、排卵せずに、排卵時の卵胞のサイズを超えて成長するので、牛で無排卵状態を作る。卵巣は1つかそれ以上の10日以上持続する、卵胞液の充実した、直径2.5cm以上の卵胞が、片側または両側の卵巣にみられ、性機能に異常をきたしたものが、嚢胞性であるといわれる。牛は、その状態が続く限り不妊となる。
嚢腫の原因
牛の嚢腫の発生には、遺伝、栄養、季節、泌乳量、牛の取り扱いを含む、様々な要因が関係している。視床下部−下垂体−卵巣軸を含む、内分泌の不均衡が嚢腫の発生に関与しているという人もいる。手短に言えば、正常に排卵する牛よりも、特に卵胞が成熟する最後の数日のLH濃度が高い牛が嚢腫になるということだ。
研究目的
@嚢腫の牛を発見する。A嚢腫牛へのCIDR処置の有効性を調べる
材料と方法
動物:牛40頭(卵巣嚢腫と診断された、栗野、薩摩、伊佐、西諸、鹿児島大学の5ヵ所のホルスタインと黒毛和種)
基準:@不規則な発情周期A直腸検査により、あらかじめ診断されたものB治療前に、直径25mm以上の卵胞で、10日以上持続したものが、1つ以上みられたもの。C治療前に、血中プロジェステロン値が、1ng/ml以下であったもの。
処置の順序とその原理
プロジェステロン(1.9g CIDR):基本のLH分泌量と、主席卵胞を支持する性腺刺激ホルモンを減少させることで、主席卵胞を退行させる。CIDRを除去することにより、卵胞の最終的な成熟が起き、引き続き新しく選ばれた卵胞の排卵が起こる。
PGF2?(25mg プロナルゴンF):黄体嚢腫の融解を誘発する。誘導された、または内因性の黄体を融解させる。
概要
D−7
0
7
14
21
28
RP RP RP RP RP RP
BS BS BS BS BS BS
BCS
Group1
CIDR
PGF2 α
Group2
CIDR
PGF2 α
Group3 PGF2α
RP:直腸検査 BS:血液検査 BCS:ボディコンディションスコア
結果
・CIDRを挿入している間、血中プロジェステロン値は高い値で保たれ、除去と同時に低下した。また、除去した時点から、新しい卵胞が成長していた。
・超音波診断では、処置前に嚢腫が確認されたものが、処置後には黄体形成が確認された。
・Group2では、ホルスタイン、黒毛和種共に処置後2日で発情が見られた。Group1では、発情の日にばらつきがあり、発情がみられないものもあった。
結論
・卵胞嚢腫の牛に、7または14日間CIDRをいれ、除去に続いてPGF2α 投与することにより、卵巣機能は10日以内に正常な発情周期をとりもどした。(14日いれたものでは17日以内に)
しかしながら、7日間投与した群では、ホルスタインと黒毛和種の両方とも、効果的であると確証するには至らなかった。
Q.補液と点滴の違いは何か?また、それぞれどのような状態の牛に対して行うのか
時間をかけて投与するメリットと併せて回答してほしい。
A.30分以上かけて投与するのが点滴、30分以内のものを補液としている(共済での保険の関係より分類)
@ 分娩後1〜2週間以内の子牛で下痢による脱水がひどく、起立不能に陥っているものに対しては必ず点滴を行う必要がある。また、肺炎の重症例(瀕死状態)に対しても行う。基本的に、月齢とは関係なく、起立不能になったら静注での点滴は必須である。
A 下痢・脱水を認めた家畜に対しては、循環を良くすることを目的として30分以上かけて点滴を行うのがよい。しかし、食欲があるものに対しては点滴の必要はないと思われる。
B 1リットルを30〜40分かけて行い、血圧低下のものには強心剤も併用する。
C 体温が低下しているもの、瀕死のものに対しては、点滴の温度が重要である。時間をかけて点滴を行うほどショックは起こりにくい。1リットルを速く投与するよりも500mlを時間をかけてゆっくり投与するほうが最大効果を得られやすいと考える。
Q.PGF2αを投与する際、筋肉内注射と静脈内注射では効果に違いはあるのか?
A薬がこぼれるのを防止する目的と、脂肪の多い牛には効果が薄いため、静脈内注射を行っている。筋肉内注射でも悪くはないと思うが統計学的には静脈内注射の方が多い。
Q.受精卵移植などにおいて、アメリカやヨーロッパの技術を日本に応用する際、衛生管理の違いは関係しないのか?
A農家によって若干異なるが、日本は湿度が高いため衛生状態が悪いようにみえるが一般的にはアメリカやヨーロッパでも農家の衛生管理は日本とあまり変わらない。
Q.直下型の換気扇(扇風機)では換気の効果はあまり期待できないということだが、牛の暑さ・寒さ対策ではなく牛舎を乾燥させるという意味では直下型が一番良いのではないか?
A換気扇の使用目的を牛主体にするのか、敷料主体にするのかによる。牛主体にすれば増体量が増え結果的には敷料のコストを利潤が上回るということを農家に説得すべき。鹿児島のような湿度が高い地域では、風を当てても水分は蒸発しにくい。
Q.CIDR(EZB)の再利用を試みているが、CIDRの効果があったと判断できるのはどの時点か?
A 1.発情がこない理由は様々であるが、CIDRによって発情がくるとすれば効果があったものとして判断している。
A2. CIDR処置した次の周期における発情の反応を評価対象にするのがよいのではないかと考える。初回とその次の妊娠率を評価しているものが一番多いようだ。しかしながら、発情には栄養状態が密接に関係しているため、飼料改善を行わない限りは効果は期待できない。また、卵巣萎縮の場合にもCIDRの効果は期待できない。
Q.CIDRを冷凍保存してしまったが、問題はあるか?
A.一度使用したCIDRは洗った後乾燥させて冷蔵保存するのが一番良い。若干の違いは出るかもしれないが血漿中のプロジェステロンを測定する際は冷凍保存した血漿を使うので大きな問題はないと思われる。しかし、CIDRは熱をかけると表面にプロジェステロンが浮き上がってくるので、注意が必要。
Q.卵胞嚢腫の牛にCIDRを入れたらその卵胞は退行するのか、または閉鎖黄体化するのか?
A. CIDRを入れると卵胞嚢腫は閉鎖退行し小さくなる。黄体化したものは見られなかった。