消化器失調に対する穴療法(順気療法)の臨床的効果

能田家畜診療所 能田忠人

はじめに

 穴療法は、東洋医学で用いられる療法の一つである。東洋医学では神経の分布している所を経絡と呼び、その中で反応が強く集中する点を経穴と呼ぶ、即ち穴(ツボ)である。消化器に関する経穴の一つに順気(ジュンキ)がある。

今回は、順気に対する柳枝の挿入という治療法(眼と消化器の異常に効果があるらしい)により、若干の臨床的治癒効果が得られたので報告する。この療法は、1971年に中国の獣医師によって紹介され、以後本診療所で臨床に応用している。この間1,000頭以上になる。

;材料および方法

;対象家畜

 牛:乳牛、和牛、肥育牛(出生牛より成牛迄)

;柳枝(枝垂柳)

 外皮、中皮、真皮を取り除き中心部の木質部を用いる。

 出生牛:直径1.2mm~1.4mm 長さ1.0cm~7.0cm

 成牛 :直径1.5mm~2.0mm 長さ15cm~30cm

;部位(挿入部位)

 口蓋(口腔の上壁を呼び、硬口蓋と軟口蓋を区別する)

 硬口蓋前方に位置する(切歯乳頭の両側に小開口部が存在)

 小開口部より両側に移行した所に神経が存在する。

術式

 @鼻環、牛鼻鉗子で釣り上げ、開口器もしくはロープで開口させる。

 A柳枝の先端を多少鋭角に削っておくとよい。

 B柳枝を短く二指で握り、数mmずつ押し込んでゆく(2~3cmが入れづら

  く、この際牛は痛みで暴れるので十分注意する事)。

 C最後に残る柳枝の断片を皮膚に直覚に押し込む。

 D患畜が動く時は、挿入作業を中断し、枝を放す(折れるおそれがある)。

症例
子牛

  • A.下痢症

大腸菌性下痢症、ウイルス性下痢症等に対して抗生物質、止溟剤投与後の処置と同時に本療法を併用する事により治癒機転を早める事ができた(多数例あり)

  • B.胎便停滞様症状

体温が低下(37℃)しており、胎便停滞(起立不能)と診断。二日目に蠕動亢進剤を投与するも血便のみで三日目に本療法を実施(1.5cm挿入)すると、十二時間後に哺乳できるようになった。(数例)

育成牛、成牛

  • C.第四胃変位

特に分娩後4〜5日で第四胃変位を発症した場合、本療法のみで治癒の転帰をとった例が多数ある。

  • D.急性、慢性の鼓張および食滞

本療法を施した事で治癒した(多数例あり)。

  • E. 肥育牛の食い止まり(中期〜後期の食欲不振)

本療法により食欲が改善して、好結果が得られた(多数例あり)

他の例

  • F. 第四胃左方変位の牛に施したところ治癒したが、その後天気の悪い日に食欲が出なくなっていた。どうやら気圧が関係しているらしい。
  • G.本療法を施した後に、パンストを吐き出した牛もいる。
  • H.「カウトレーナー」のビニールの管を2本食べた牛に施したところ、3〜4日後に2本とも吐き出した。


まとめ

本療法を昭和46年頃から1000頭以上はやってきたが、治癒しなかったのは30%くらいだと思われる。それらは、例えば乳房炎、蹄病などその他の要因によるものだったと思われる。本療法を実施した後の発熱や、鼻腔の化膿等は無く、廃用になった例は皆無である。

本療法により改善しない例は創傷性の炎症、異物の誤食、寄生虫疾患などを疑う必要があると考えられる。また、本療法で急速に症状の改善をみる場合、給餌や哺乳量の調整を必ずしないと逆効果になるので、処置後の牛の扱い方は農家にしっかり指導する(食欲が戻ったからといって、飼料を急激に増やさない。

最近では、柳の挿入を依頼してくる農家もいる。確立された医療行為ではないが、このような方法も存在することを覚えておき、是非試してもらいたい。


;質疑応答

Q.柳は新しいものがよいですか?また、削り方は?

A.柳は爪でこそぎます。だから、少々古い方がよいです。

Q.作り置きしておいても良いですか?

  • A.はい。私はコーヒーの瓶につくったものを入れて置いてます。

Q.本療法が行えるのは、一生に一回だけですか?

  • A.はい。一度挿入すると穴は塞がってしまいます。

Q.挿入する長さに幅があるように思われるのですが?

  • A.枝の長さは牛のサイズに合わせて決めます。時々、小開口部から粘液様のものを出している牛がいましたが、そういった牛はおそらく状態が非常に悪いと思われます。その場合には、少々太めのものを挿入しています。

Q.柳の代わりに竹などでも良いのか?
A.ビニール(薬品メーカーの試作品)を入れると化膿しました。竹では芯が強すぎて駄目です。やはり、柳の絶妙の柔らかさが良く、枝自体に何らかの作用があるようです。自分はアルコールに浸けて持ち歩いてますが、本来なら生のほうが良い様です。

Q.射し込んだ柳の枝が無くなるのにはどれ位かかりますか?
A.乳房炎の症例に刺して1ヵ月後に屠場で解剖すると、すでに実物は無く黒い筋として残っているのみでした。

A.おそらくマクロファージによるものでは無く、柳の繊維そのものが収縮して残ったのではないか?
Q.ならば、穴が残っていて二回目以降でも挿入できるのでは?

A. それが、全く入りません。

Q.自分は慢性鼓張の際にクマザサを入れています。やはり、二本入れないと駄目ですか?
A.やはり二本必要だと思われます。消化器系に異常が無ければ入りにくい気がします。また順気療法と同時に消化管内異物の除去も行うべきでしょう。

Q.慢性に移行する前の鼓張症の治療として、どういった治療法を行っていますか?
A. 胃汁投与を行っています。






コンサルティングについて

                         フードアニマルクリニック 北川博章

 

牛白血病は何故減らせないかという問題があったが、豚と牛におけるプログラミングの違いが指摘できると思う。

 豚では、 誕生→交配→分娩→種豚または肉豚へ

この一生を考えてどこでどんな感染を受けるかがしっかり把握されている。

また、種豚の交尾感染性のウイルス・細菌に対する検査が実施、公開されているため、子豚は全くフリーな状態からその発育につれ、特定の感染を受けることとなる。つまり、ワクチネーションの実施が楽である。例えは豚では、出生直後は、マイコプラズマ、ボルデテラのワクチン接種を実施。次に、日本脳炎、パルボウイルス、PRRS、オーエスキー病ウイルスに対するワクチン接種を行って行く。

しかし牛ではこのプログラミングがなされていない。そのため、あらゆる感染を考慮しなければならず、また経費もかかる。牛でもプログラミングを実施すべきだと思う。プログラミングによる繁殖管理下では抗体陽性率はある一定のレベルに達するので、これを淘汰することにより群として管理が可能となる。

畜産の将来を考えれば、このようなコンサルティングの概念を、獣医の指導により現場に取り入れて、コシの強い農家を育てることを考えるべきなのだと思う。

質疑応答

Q:オーエスキ病のワクチン接種について伺いたいのですが?

A:オーエスキー病は全養豚場のワクチネーションプログラムプログラムに入っ

ているわけではなく、各養豚場の傾向から選ぶべきだと思う。

Q:予防接種という業務をどういう立場で行っていくのか?

A:群馬でオーエスキー大流行の原因に家畜保険所の指導による豚コレラの予防

 接種がある。現状として国の機関を信用できないため、周囲の信頼できる人と行動すべきだと思う。

Q.牛の場合、誕生から交配までの管理を行うにあたり、儲けを出すには?
A.データを読めるようになる事が大事だと思います。その農場の事を良く把握し、そこからどうやって予防プログラムなどに繋げていくかです。その為には、農家さんといろいろ話し合いをすべきだと思われます。人事の管理や教育も重要です。どのようにして畜主や従業員を意欲的にさせるか、とうことです。

Q.農家との契約はどうしているのですか?
A.それは農家の人に任せています。一頭いくらではなく、一年後にまとめてもらいます。もらえない時もあります。

Q.豚と牛を比べると、豚は外からの感染等に敏感でその対応もしっかりしているが、牛に対してはそういう対応が徹底されていません。豚と牛の間の意識の差というものはどう考えていますか?
A.北海道の乳牛にIBRが蔓延して、それが獣医師によるものだったのはショックでした。豚オーエスキー病が流行した時には、もう農場に行きませんでした。行くと自分のせいにされますから。酷いときには農家の収入は40%ダウンします。ワクチネーションなど行っていたのですが、一旦菌が入るともうどうしようもない。この場合もやはり、その農場に潜在している病因を調査したり、農家間の情報交換の橋渡しをしてやることが重要です。

Q.以前、群馬の屠場で抗生物質の使用が問題になり、自分も豚を屠場に持っていった時に、何々のワクチネーションを行っていないと安く買い叩かれる、というような話を聞きました。しかし、抗生物質残留の問題もあります。先生はどうされていますか?指示書の提出はどうしていますか?
A.(指示書については)自分のみてる農家についてしか書きませんし、自分が納得した場合しか書きません。最近は抗生物質の残留には生産者自身がとても厳しくやっています。自分は生物に対して余計なストレスは与えずに生産してもらうようにしていますので、ワクチンなどのより効果的なものの選別などをアドバイスしています。だから、昔のような抗生物質漬けといった個体は減っています。

Q.豚コレラフリーにしようという計画などは立てられているが、オーエスキー病については必ずしもそういった事が無く、アンダーグラウンドで様々な薬が流通しています。薬の効果の見通しはどうなっていますか?
A.鹿児島、宮崎でオーエスキーが初発したときには生産者が持ってきたワクチンが一番効果的でした。オーエスキー病は地方病的な形で出てくるのでどのような商品でもワクチン摂取を行っていれば、そんなに一気に流行するようなことは無いでしょう。だから条件さえしっかりして飼育してやれば大きな被害は出ないと思います。無病息災では無く、一病息災と思っています。また養豚農場ではここ二三年の傾向をみれば、病気にどういう風に対処するかということは、自ずと分かってきます。

Q.それでは、農場によってワクチネーションを行ったり、行わなかったりするという事ですか?
A.ワクチンを打たなくてもコントロールできている所もあります。抗体検査で陰性というわけではありませんが。おそらく、その農場に特有の細菌叢、ウイルス叢というのが存在し、常に接触し刺激を受けている事により抗体を維持しているのだと思われます。逆にそういった刺激が全く無くなった場合には気を付けるべきだと思います。

Q.最近の豚コレラの問題などありますが、政治の介入についてどう考えていますか?
A.豚コレラの予防接種は獣医師会から依頼されますが、重要なのは自分がどういった立場でその業務をやるか、だと思われます。今回の口蹄疫についても言えますが、病原微生物について皆が知らなさ過ぎたのではないでしょうか?もっと厳しい目で勉強していかないと思います。要は基本的な事を皆がどれくらいできるかというこです。また、獣医師一人一人のミスももちろんあると思いますが、行政というものが当てにならないというのは生産者の人達は知っていますから、行政も姿勢を正すべきだと思います。.今でも一頭一針を徹底しない人がいます。そういう所は獣医師自身のモラルの問題だと思うので、きっちりしたプロ意識を持つべきでしょう。

鹿児島大学農学部獣医学科臨床繁殖学教室 浜名克己教授

◎ネオスポラ症について

家畜衛生試験場と協力して抗体検査が可能になった。

特徴

  • ・   妊娠3.5〜8ヶ月で原因不明の流産
  • ・   早産の場合、子牛は虚弱・神経症状
  • ・   終宿主は犬
  • ・   牛の餌を汚染すると親牛に感染し、胎盤を経由して胎子に感染
  • ・   水平感染はない
  • ・   和牛より乳牛に多い
  • ・   有効な治療法はない
  • ・   予防法としては、犬を牛に近付けないことが重要

今後、臨床繁殖学教室において血清サンプルを調べるので、疑わしいものがあった場合は担当の山村拓まで送って下さい

◎世界牛病学会の新しい会長に新任されましたオーストリアのウィーン大学のDr.Baumgartner先生が、2月に広島で行われる日本獣医師学会のために来日されます。その際、鹿児島にも来ていただいて、臨床研究会において講演をしていただく予定になっています。

◎昨年10月以降の先天異常例

フリーマーチンの牛(♀)

・発育不良、発咳、会陰部消失

・試験管(20cm)を膣に入れて膣の長さを測ったところ3cmであった。(正常    

 では11〜19cm)

・肺膿瘍

・卵巣ではなく精巣の組織が存在

・膣前庭より前はなくなっていた

脊椎2分症の牛

・尾根部が本来の部位より10cm程近位

・棘突起が2つに分かれていた

・脳出血の牛

・難産、虚弱、肺炎

・頭部ドーミングあり

・脳底部に大出血

頭部異常の牛

・頭骨短縮、頭部膨隆

・切歯不形成、単鼻孔形成

・左右大脳がつながって単脳を形成

・嗅脳不形成

・脳組織はなく、膜のみ

前肢異常の牛

・前肢球節関節屈曲、腕関節も硬結

BVDMD疑いの牛

・起立不能、栄養失調

・小脳が左半分しかない

・小脳の重さ5g(通常18g)

二頭体

・眼は4つ、舌は2枚、咽頭は1つ

・大脳半球は2セット存在するが、小脳は1セット

眼球異常

・右眼球が小眼球で、これにつながる視神経も細い

・左脳が小さい

小脳形成不全

・尾位で難産で生まれる

・側脳室が拡張し大脳皮質がせまい

・小脳形成不全

肛門形成不全

・肛門がなく、陰門から便を排出

・直腸と膣前庭の間に漏管

キャリー奇形

・尾根部の皮膚欠損

・仙骨二分症

・脳神経、小脳、延髄を後方に伸展

体格矮小症

・軟骨形成不全症のため骨が成長しない

頚部膨瘤の2例

・甲状腺の重さが1頭は127g、もう1頭は62g(ふつう10g)であった。

・先天的な甲状腺腫で、地方病として散発

・ヨウ素不足が原因である

 *この牛が生まれたのは1産どりの生産農家であり、肉質を向上させるために半年程前からビタミンの低い餌を与えていた

大脳欠損

・大脳はほとんど見られず、右脳は薄い膜だけであった

・小脳は形成されていたが、脳幹は矮小化していた

尾欠損

・尾と肛門がない

・子宮形成異常(水腫様)を伴う


◎産後起立不能牛の治療における中枢性食欲亢進剤の効果

 ・鹿児島大学入来牧場所有の牛が初産時に胎子の異常胎勢による難産となり、胎子の牽引摘出後に全子宮脱を生じ、起立不能に陥った。脱出子宮には胎膜がからまり、泥状便で汚れていた。

 脱出子宮をビニール袋に包み、洗浄し、胎膜を手で剥がした後、尾椎硬膜外麻酔をして、手で脱出子宮を順次押し込んだところ、容易に還納できた。陰門の損壊部は、出血はなかったが広いので縫合した。

 術後は起立不能が続き、血液検査では白血球数、ALT、CPKの高値がみられた。処置としては輸液、抗生物質、強肝剤を連日投与し、カルシウム剤、プレドニゾロン、ビタミンADE剤を各1回投与した。食欲が不定でほとんどなかったので、術後3日目に食欲亢進剤を4ml静脈内投与した。その結果、投与直後から旺盛な食欲を示し、その後も食欲は持続した。なお、食欲亢進剤には中枢作用を持つブロチゾラム製剤(メデランチル)を用いた。

 ベンゾジアゼピン系の化合物である本剤が中枢神経系内にあるベンゾジアゼピンレセプターに結合することによって、γ-アミノ酪酸レセプターとγ-アミノ酪酸の親和性が増大する。γ-アミノ酪酸による抑制性伝達によって満腹中枢が抑制されるため、採食が亢進される。本剤は中枢性に働くため、原疾患の種類に関係なく、速やかな採食行動の発現に効果があるとされている。

 術後7日目より短時間自力で起立できるようになり、しだいに動きが容易になり、10日目にはほぼ自由に起立できるようになったが、右後肢はほとんど負重しなかった。その後リハビリを続け、19日目にはほぼ自由に歩行可能となったので、23日目に治癒と判定し、退院させた。

 子宮整復後の起立不能牛に対して、体力のもととなる食欲を回復させることによって治癒が促進された。このように中枢性食欲亢進剤は速効性があり、広く応用が可能である。

肉用牛専門コンサルタントのお仕事の一部

(有)シェパード 獣医師 松本大策

  • 1)      どんな仕事をしているか?
  • ・従業員の教育、講演や執筆活動、飼料などのアドバイスなどを行っている。そして、現場と牧場長(オーナー)の意識のズレを埋めることに努めている。現場の人間の愚痴の中から衛生管理の問題点が見えてきたりするので、色々な人と話をしたりしている。それら問題点を改善することによって畜主を満足させる仕事。
  • 2)      料金体系は?
  • ・1頭1月300円でやっている。年収400万円アップさせるのが目的で、200万円は飼料の設計変更で上げられる。
  • 3)      クライアントの勉強会のデモンストレーション
  • ◎筋肉水腫についての理解を深める

筋肉水腫の損害額

  • ・出荷牛10156頭の内6.4%の647頭がズル
  • ・食肉廃棄量は1頭平均44.6kg、経済損失は4000万円

筋肉水腫とはどんな病気?

  • ・肉が水っぽくなったり、固くなったりする
  • ・水腫とは炎症反応の最も初期の段階で、筋肉が壊れて筋色素が溶け出す
  • ・炎症が進むと筋肉にシコリができる

筋肉水腫の原因は?

  • ・炎症を起こすもの全てが原因となりうる
  • ・ビタミンAが不足すると血管壁が水分を通しやすくなる
  • ・最重要なのはルーメンエンドトキシン
  • ・Ca不足の牛でも多発(ズルの50%)
  • ・異栄養性ミオパチーと似た症状

続発しやすいズルのパターン

  • ・導入時の腹づくりが不完全
  • ・ルーメン粘膜絨毛の発育不全
  • ・ビタミンA、繊維、Znの不足による粘膜機能の低下
  • ・ルーメンで産生された有機酸の吸収不足
  • ・ルーメン内に酸が蓄積
  • ・弱い菌が死滅し、乳酸産生菌が増加
  • ・酸性度の高い乳酸が高い(ルーメンアシドーシス)
  • ・悪玉菌が死滅(ルーメンエンドトキシン放出)

エンドトキシンとは

  • ・大腸菌やクリプトスポリジウムが放出
  • ・ビタミンAを直接破壊する肝臓障害を起こす
  • ・免疫低下
  • ・枝肉の品質低下を招くサイトカイン誘発

ルーメン形成の重要性

  • ・牛は微生物の働きで粗飼料からつくられる酢酸をもとにサシを作る
  • ・第一胃内微生物は人が食べることができないワラなどを消化し、菌体蛋白を作り、牛の栄養素に変える
  • ・蛋白質のかなりの部分は第一胃内で発酵し、一旦アンモニアなどに変わってから細菌の働きで再利用される
  • ・導入期は良質飼料の多給でルーメンマットを形成
  • ・良質粗飼料(形状とプロキオン酸)により絨毛形成を促し、第一胃粘膜の面積を大きくすることも重要
  • ・アンモニア利用細菌群を増やしておく
  • ・ルーメンプロトゾア(原虫)を増やす

ルーメン形成がまずいと

  • ・粘膜面が狭いと有機酸の吸収が滞りルーメンアシドーシスの引き金になる
  • ・アンモニア利用菌群が少ないと肝機能を圧迫する
  • ・悪玉菌が増加しているとエンドトキシンの問題がある

ビタミン給与の考え方

  • ・サシの入る時期にビタミンの給与量を減らすやり方の方が安全
  • ・後期から出荷前のビタミンA欠乏に注意

ビタミンAレベルに影響を与える要因

  • ・ビタミンAの給与レベル、飼料中の硝酸塩濃度、外気温、飼料中の不飽和脂肪酸、Znの充足、飼料中のDIP、ルーメンの状態、ストレス(牛の首を10分絞めると血中ビタミンA濃度は半分に下がる)など

ズルだけでなく

  • ・ビタミンA欠乏とルーメンアシドーシスに注意
  • ・軟便が続く
  • ・便に不消化物が増えた
  • ・便の変色が早い(黄→緑)
  • ・食欲が低下し、痩せてきた
  • ・足がむくんできた
  • ・黄色い下痢をして、発熱がある

ズル多発牛群の特徴

  • ・イライラして食欲が落ちている(Ca欠)、ボーッとしている(Mg欠)
  • ・角突き傷がたくさんある(Ca欠の牛は周りから狙われやすい)
  • ・急に痩せてきた(くら下から落ちてくる)
  • ・足がむくんできた
  • ・フケが多い
  • ・倒れる牛が出た(Ca欠でもビタミンA欠でも発生)
  • ・腹が巻いてきた

ズル発生時の対策

  • ・現在の発生を最小限に
  • ・粗飼料(イナワラなど)の給与量を確保
  • ・後期の牛にCaおよびZn剤を10日間飼料添加
  • ・ズル発生牛群の月齢より2ヶ月若い牛以降にパンカル10ml−ビタミンE
  • ・腹づくりの見直し
  • ・19ヶ月齢以降の牛でビタミン欠乏時期の特定とビタミンA補給ポイントの設定
  • ・後期の飼料のNFCとNDFの見直し
  • ・ルーメンエンドトキシン吸着のためのシリカ剤導入もしくは給与レベル見直し
  • ・生菌剤の給与検討



昨年から鹿児島大学に搬入され、剖検した牛の病理結果を紹介
            鹿児島大学獣医病理学教室        安田



⑴ J.B. 3ヵ月齢 入来

禀告:1ヵ月程前から元気消失、食欲不振、黄疸

   ピロプラズマ症を疑い、ガナゼック、オキシテトラサイクリン投与に

   より加療

剖検結果:胸膜肺炎。肝臓胆管にシスト形成

⑵ J.B. 雌 NONAI中部

禀告:直腸検査で、直腸内部に1周する断層を確認。エコーにより膀胱頚部に隆起物を

   検知

   直腸断裂を疑った。

剖検結果:膀胱腫瘍(尿管開口部に血腫様)→尿管閉塞

⑶ J.B. 雌 13歳

禀告: 眼球腫瘍疑いで大学に搬入

剖検結果:眼瞼浮腫、眼球壊死、胆管肥厚(砂流粒状浸出物がみられ、肝てつ性病変で

     ある)、右側副腎相当部位および前頭洞に平滑筋肉腫が存在→眼球圧迫

     但し、どちらが原発かは不明であった。

⑷ J.B. 雌 18ヵ月齢 隼人

禀告:後躯前倒姿勢→起立不能に陥り、死亡

   脳炎を疑った

剖検結果:小脳の大脳後縁との隣接部に骨芽腫形成、膿付着

     骨芽腫は特異的症状が無く、鑑別は困難かもしれない。

⑸ Hol 雌 6歳 牧園

禀告:体表リンパ節腫大

   成牛型白血球を疑った

病理剖検:創傷性第2胃炎(第2胃から釘が穿孔)→心膜と胸膜の癒着

     創傷性心内膜炎(心嚢水は血様でフィブリン析出)

     心臓に白血病病変(右心耳に腫瘤形成)→心機能低下→起立不能

  • ●白血病では体表リンパ、骨髄の腫大がなくても、心耳に腫瘤を形成し、こ

れにより、起立不能に陥る例がある。

⑹ J.B, 去勢雄 22ヵ月 NOSAI中部

禀告:排尿障害、WBC、BUN上昇

   尿閉を疑った

剖検結果:腎盂結石(腎盂腎炎)→腎周囲脂肪の水腫化、尿漏出

     尿管結石→尿管肥大、尿管閉塞

     膀胱に円柱様物貯留、しかし尿道閉塞は認められなかった。

⑺ J.B. 雄 22ヵ月 入来

禀告:右横腹部腫脹→次第に大きくなり、直径20pへ

   皮下血腫を疑った

剖検結果:線維素性漿液嚢庖(漿液は22ℓ貯留、線維素析出、結合織で囲まれる)

     血液検査では血腫とは診断できなかった

⑻ J.B. 雄 5ヵ月 横川町

禀告:右眼失明、右旋回運動

   脳炎を疑った

剖検結果:真菌性胃炎、第4胃糜爛のみしか認められなかった

⑼ F1 雌 11ヵ月 福山

禀告:急に削痩、直腸検査で、直腸周囲に腫瘤

   白血病を疑った

剖検結果:脂肪壊死症(腎、結腸周囲)

     創背傷性第2胃炎、創傷性脾炎、肝膿瘍

⑽ J.B. 去勢雄 6ヵ月 川内

禀告:横転後、起立不能

   腰椎部骨折を疑った

剖検結果:寛骨と仙骨との関節面:耳状面での剥離骨折

⑾ Hol 雌 8歳11ヵ月 姶良、吉松

禀告:分娩後起立不能、心不全、体温低下、左腎に拳大の腫瘤触知

   腹腔内腫瘍を疑った

剖検結果:脂肪壊死症(腸管周囲)→腸管狭窄→下痢

     殿筋に結合織に囲まれた壊死部が存在(これが起立不能の原因。但し、組織

     では白血球浸潤がみられず、非細菌性であり、その原因は不明である。)

⑿ J.B. 雌 22ヶ月 肝属

禀告:排尿障害、膿排泄

    膀胱炎、腎炎を疑い、加療するも改善がみられない。

剖検結果:尿膜管開残(臍帯炎→膀胱に膿貯留→膿排泄)

      臍帯炎は表面上完治しており、診断困難であった

⒀ J.B. 雌 22ヶ月 出水、長島

禀告:両側前膝〜前腕部、左大腿部が腫大、ロボット様歩行

    筋炎、関節炎を疑う

剖検結果:筋壊死(関節周囲に壊死を主体とした病変、組織には炎症性細胞の   

        浸潤がなく、細菌性であるかは不明)

⒁ Hol 雌 6歳 姶良、溝辺

禀告:体表に直径5oの結節多発、鼻腔内に糜爛、抗ヒスタミン、ステロイド、   

    抗生物質投与に反応せず)

    多発性落屑性皮膚炎を疑う

剖検結果:組織では好中球浸潤なし→則ち細菌性、真菌性ではない

      血管周囲に変性(肥満細胞の脱顆粒→アレルギ−が関与)

⒂ Hol 雌 5歳7ヶ月齢 吉松

禀告:エコーで心嚢水増量、フィブリン様浮遊物を確認。心音聴診不可。頚静

    脈拍動なし

    創傷性心外膜炎を疑う

剖検結果:膿胸(特に左側胸壁と肺の癒着が激しい)、肺に化膿性病巣 

ここで牛白血病について

白血病は厳密には原発が骨髄性のものなので、牛白血病はリンパ腫(原発はリンパ節)に位置づけられる。

❶地方性成牛型:牛白血病ウイルス(BLV)が原因。4〜6歳

        水平感染(アブ)が主、リンパ節腫大

❷散発性子牛型:原因不明、Bリンパ細胞由来、6ヶ月以内の子牛で発生

        発熱、リンパ節腫大

❸胸腺型子牛型:原因不明、T細胞由来、7〜24ヶ月齢に発生

        胸腺に腫瘍性腫大

❹皮膚型子牛型:T細胞由来、老齢牛、皮膚の蕁麻疹、発疹

❶、❷の症状は類似している、また、J.B.ではBLV抗体検査が普及していないので、鑑別は困難である。

⒃ J.B. 雌 5歳3ヶ月 曽於郡

禀告:分娩後食欲廃絶、削痩顕著、BLV+,WBC553000、異型リンパ球増加

    成牛型白血病を疑う

剖検結果:多発性リンパ腫(心、骨リンパ節、腎、脾)

      しかし、抗体検査を実施していないため、BLVであるかは不明

⒄ J.B. 雄 5才 入来

禀告:直腸検査で骨盤腔内に小児頭大の腫瘍、血液検査では正常、BLV抗体未

    検査   

    脂肪壊死症を疑う

剖検結果:リンパ腫(骨盤腔内に腫瘤充満)→尿管圧迫により尿管閉塞→両側性尿管拡

     張、膀胱はアトニー様、右心耳に腫瘍

⒅ J.B.雌 1歳 日置

禀告:後肢がふらつく、骨盤狭窄により黒色タール便をする。

   診断は不能であった

剖検結果:リンパ腫(骨盤腔内腫瘍、腎に限界不明瞭な浸潤、心中隔にも病変)

     但し、BLVかどうかは抗体未検査なため不明

⒆ J.B.中部

禀告:眼球突出で白血病を疑う

剖検:浅頚リンパ節、腸骨下リンパ節、乳房上リンパ節、肝門リンパ節、内腸骨リンパ

   節腫大。腎臓表面に結節性腫瘍。

   脳膜に腫瘍が形成→眼窩に波及→眼球を圧迫し突出

この1年で、成牛型牛白血病が疑われる発生がみられたが、抗体検査を実施していないので確定できない。また最近の成牛型牛白血病では、体表リンパ節腫大が認められす、骨盤腔内リンパ節腫大により診断が行われている。これには、技術の進歩または、BLVの病原性の変化が関与していると考えらるが、詳細は不明である。

  • ●質疑応答

Q:真菌性胃腸炎の原因、誘発は何でしょうか?

A:ステロイドの投与が真菌性胃腸炎の誘発になるといわれている。

  健常部との境界明瞭なものが真菌性胃腸炎といわれるが、胃潰瘍などの疾患に2次感 

  染を起こして発症するケースもあり、特定のものが原因になるのではない。

発言:(中部から搬入された白血病症例牛について)BLV抗体検査したところ陰性でした。また、採卵用牛が白血病だった60頭飼育農家では、大分から新規導入した2頭にBLV抗体陽性がでた。他では3/5でBLV陽性であった事例もあった。

発言:鹿児島でBLV抗体陽性率はどのくらいか?

   すでにある程度の割合で抗体陽性ならこれを淘汰していっても意味がないと思う。  

   しかし、今の現状でその割合が低いなら、早急に淘汰しなければならない。

   鹿児島でのBLV抗体の陽性率を検査、公表してほしい。

発言:乳牛での成牛型白血病の発生率が多くないか?

   ある各農家で、無症状牛群の50%でBLV陽性だった事例がある。また、受精卵移

   植による子牛の感染は、子牛がキァリア−となる危険性がある。

   そのため新規導入時の抗体検査が特に重要になる。

Q:BLV抗体陽性牛を淘汰せず、隔離する意味とは?

A:本来は淘汰が望ましいが、実際には農家の希望もあり、実施できため、隔離という

  形をとっている。

Q:BLVはアブが媒介するため、単に隔離ではなく、隔離の距離が問題ではないかと思う。 

  隔離はしているが、隣の飼育棟で飼っている事例がある。

  このような場所では、隣農家間で感染波及が問題とならないのか?

A:問題になっている。しかし、場所によって、感染が起こらないという安全圏がまちま

  ちであるため、防止が困難な例も多い。

Q:種雄牛でBLV抗体陽性率は?

A:不明だが、これも情報が公開されないのが問題

発言:BLV抗体陽性種雄牛の精液をAIに用いた例では子牛はすべて陰性だったが、気を

   つけた方が良いと思う。

発言:牛白血病に関する情報をもっと公表すべきだと思う。

   農家側も公開後は現状を把握して安心するし、直ちに改善すべきだ

発言:下痢症の検査と称してBLV抗体検査を実施して、鹿児島にキァリア−牛が多いこ

   とが判っている。本来はこのキァリア−牛を淘汰する努力をすべきだが、肉として

   の生産性があるため、県はこの事実を隠している。

   しかし、現状を考えると、対策を早急にとる時期なのだと思う。県の上部と臨床か

   がそろって話し合う必要がある。

発言:世界的にはBLVは問題になっていなく、研究者の数も激減している。日本では動

   物衛生研究所がワクチンを研究中であるが、まだ実用化していない。

   本来は県レベルでも、動物衛生研究所レベルでも対応しきれない。しかし、国レベ

   ルでの対応を待っている余裕もない。ます、県として対応するべきだと思う。

 

蓮沼獣医師(シェパード)による症例報告2例


;十二指腸潰瘍からの第四胃幽門狭窄

症例:体重400kg 黒毛 雌 肥育牛

(一日目)

禀告:元気消失、食欲廃絶、体温37.8℃

   胃動停止(胃内に拍水音)、腸動亢進(腸グル音明瞭)

   脱水(−)、振せん(+)、直検で大量の糞便を採取

診断:急性腸炎

処置:プリンペラン、ビオスリー、トルラミンを投与

   抗生物質は投与しなかった。

この日に出荷を促したが、畜主は嫌がった。

(二日目)

 状態は改善せず、腸グル音は不明瞭になっていた。診断をルーメンアシド

ーシスによる食滞もしくは腸の通過障害に変更。

 処置として等張リンゲル液等を経鼻で輸液したところ嘔吐した。ここで試

験開腹を考えたがコスト的にためらわれた。

(三日目)

  死亡。その場で、剖検を行ったところ十二指腸に潰瘍が形成され、第四胃

の幽門部が塞がっていた。

[考察]

  • *出荷判断の難しさ
  • *手術すべきだったか
  • *嘔吐、拍水音に注意した方が良い
  • *経鼻投薬が死期を早めたのでは?


;腎臓結石および膀胱潰瘍

症例:体重700kg 黒毛 去勢 肥育牛

禀告:体温39.1℃、元気(+)、胃動停止、前日より食欲廃絶

   直検により膀胱の膨満を確認(会陰部マッサージを行うも排尿せず)、

   疝痛(−)

   簡易BUN試験⇨BUN<10

診断:尿石症

処置:50%ブドウ糖液500mLと等張リンゲル液5Lを輸液

   しかし、予後不良と判断し直ちに出荷を指示し、屠場に送った

解剖の結果、膀胱に多量の膿様物があり、陰茎の先から10cm位の部位までがっちりと固まっていた。また、膀胱には潰瘍も形成されており、腎臓には結石が存在した。十二指腸に内容物は無かった。実際のBUN測定値は100以上。結果として全廃棄。

[考察]

  • *尿道閉塞の原因は、結石だけとは限らない
  • *長期間明瞭な臨床症状がなく、病態が進行することもある
  • *簡易BUN試験紙の信頼限界


    ;質疑応答(ディスカッション)

Q.幽門狭窄の原因は普通第四胃側にあり、幽門リンパ節の腫脹が原因となる

 こともあります。十二指腸側に潰瘍があるのは珍しい。

Q.子牛では解剖学的にすごく狭窄しています。また、十二指腸では内容物の

 流れが速いので、狭窄してなくても内容物が無い事もあります。

Q.左側で拍水音がしたというが、右側はどうでしたか?

  • A.右側では拍水音はしませんでした。左側の拍水音の原因は第一胃の前胃弛緩症だと思われます。この場合、第一胃洗浄を行うべきだと思われます。胃内容はできるだけ早く排除すべきだが、前胃にある胃内容はいかに排除すべきですか?

Q.排除法としては、ビニールパイプを第一胃まで飲み込ませ、首を下げさせ

 てから一度吸引してやる、とサイフォン式に胃内容物が出てきます。胃内 

 容物を全て出してやった後に輸液を行った方が良いです。出す前に行って

 も意味はありません。また、拍水音がある場合は、バケツ3~4杯分位出る

 事もあります。

Q.BUN簡易試験紙は少し古くなるとすぐ使えなくなるし、あまり信用でき増

 せん。

Q.自分が出会った症例にも第四胃幽門部の狭窄(指が1本しか入らない)がいて、幽門部に草が詰まっていました。オペにより、指が3本は入るようにしたのですが術後は良好です。狭窄とは、どの程度狭くなれば狭窄といえるのですか?
A.収縮する部分なのでサイズでは無く、機能的に拡がるかが重要。しかし、生きてる状態で指が1本しか入らず、伸縮性が無いのは異常と思われます。第四胃幽門部の手前にはよく糜爛や潰瘍ができるが、十二指腸の近位部にできるのは珍しい。蓮沼獣医師の症例は何かの潰瘍だったのでは?