発育不良子牛の血中IGF-1値と耐糖能
                                  山本昇 浜名克己 上村俊一
                                  鹿児島大学

成長の要因として、遺伝、栄養、環境、ホルモンとそのレセプターがある。例えば、ホ
ルモンとしては、GH(growth hormone)、IGF-1(Insulin-like growth factors)、インスリ
ン、甲状腺ホルモン、グルココルチコイド、性ステロイドホルモンなどがある。IGFは
肝で産生されるインスリン様の成長因子である。IGFにはIGF-1とIGF-2があり、前者がよ
くしられている。これは、その名の通りインスリン作用を持っているのだが、細胞増
殖作用がインスリンの100〜1000倍であるとされている。我々は、発育不良の牛は,こ
のIGF-1どのように関わっているか、又、ヒトにおいて慢性の栄養不良状態で耐糖能が
低下することが指摘されているので、この2つの点について今回研究を行った。

<研究の目的>

試験1.子牛の発育不良と、血中IGF-1値との関連を検討する。
試験2.1)発育不良子牛の耐糖能を調べる。
    2)栄養改善を目的とした,高張ブドウ糖液と、アミノ酸投与が発育不良
      子牛の耐糖能と血中IGF-1値に及ぼす影響を検討する。

<試験1:材料と方法>

供試牛:正常発育牛 16例
    発育不良牛 56例
*発育不良牛→生後3ヵ月以上の子牛で、標準体重の70%以下のもの及び先天異常
       のないもの。
両群について、血液検査と血中IGF-1値の側定を行い比較した。

<結果>

血液一般検査では両群に差はなかった。
IGF-1値は、正常発育子牛で140.0±81.0(ng/ml)、発育不良子牛で56.2±38.2という大
きな差が見られた。
日齢と血中IGF-1値を比較してみると、正常発育子牛では日齢とともに血中IGF-1値は
高くなっているが、発育不良子牛では日齢が増えてもまったく増加しないという結果
であった。又、体重充足率と血中IGF-1値には相関があった。

<試験2:材料と方法>

供試牛:正常発育子牛 3例
    発育不良子牛 9例→処置群(高張ブドウ糖液,アミノ酸を7日間投与) 5例
             →無処置群 4例

<結果>

正常発育子牛では、負荷後2hで正常に戻ったが、発育不良子牛では負荷後2hで元に
戻らなかったので、耐糖能は低下しているといえる。又、血糖値で見ると、半減期が、
正常発育子牛では34.6±6.4(min)で、発育不良子牛では59.0±18.7という結果が得られ
た。そこでインスリンに着目すると、発育不良子牛でもインスリンは正常発育子牛と
同じくらい出ていた。処置群でも、一週間くらいの処置ではまだ耐糖能は回復してい
なかった。

<まとめ>

疾病の罹患などにより、低栄養状態になった子牛では血中IGF-1値が低下した結果、成
長促進作用、細胞の増殖、分化促進作用などが低下し、発育不良に陥ると考えられる。
血中IGF-1値の測定は子牛の栄養状態を把握することができ、発育不良子牛の予後判定
の参考にもなる。発育不良子牛への栄養補給は、血中IGF-1値を上昇させたので、ある
程度発育を回復させる可能性が示唆された。



乳牛における排卵同期化・定時人工授精(OVSYNCH/TAI)反復処置の受胎成績

<材料と方法>

 OVSYNCH/TAI後不受胎であった乳牛40頭
 平均産次数:3.0±1.5産
 分娩後日数:1回目処置68.7±9.1日、2回目処置134.6±21.3日
 1回目処置時の卵巣所見:卵巣静止19頭(47.5%)、卵巣嚢腫5頭(12.5%)、黄体気
3頭(32.5%)、卵胞期3頭(7.5%)

day0:スポルネン(GnRH)100μg⇒day7:クロプロステノール500μg⇒day9:スポルネン
100μg⇒16〜19h後定時授精⇒day45以降妊娠診断

<結果及び考察>

  OVSYNCH/TAI後、不受胎であった乳牛40頭に対して、再度OVSYNCH/TAIを行い、
その処置で不受胎であったものに更に反復処置を行った。2回目の処置で40頭中19頭
(47.5%)、3回目の処置を行った9頭中8頭(88.9%)、4回目の処置を行った1頭中1
頭ののべ50党中28頭(56.0%)が受胎した。
  供試牛群40頭における累積受胎率は、2回目の処置で47.5%、3回目までの処置で
67.5%、4回目までの処置で70.0%であった。
  供試牛には卵巣疾患牛が含まれていたが、卵巣静止例で57.9%、卵巣嚢腫麗で
100%が受胎した。一方、OVSYNCH/TAI反復処置により、供試牛の繁殖性が低下する
所見は見られなかった。
  以上の成績から、再度のOVSYNCH/TAIは牛の繁殖効率向上に有効であり、卵巣疾
患牛の治療法としても期待できるものと思われた。また、今回の報告は中間報告であ
り、更に例数を増やしていく必要があると思われる。


妊娠中期の黒毛和種の膣内に発生した繊維腫の摘出と経過

<今回の症例>

 黒毛和種  2歳7ヶ月齢  体重400kg  2産次  妊娠6ヵ月

<臨床経過>

4/7 膣前庭にゴルフボール大の腫瘤を確認
4/17腫瘤は手の平大に増大
4/27生検と摘出のため鹿児島大学に来院
 生検の結果、繊維腫(fibroma)と診断

<来院時からの治療と経過>

4/17来院
4/28腫瘤摘出
4/29〜 1日1回アンピシリン3gi.v 1日3回ペニシリン生食で膣内洗浄
5/2 縫合部の出血がとまり退院
8/11分娩のため再来院
8/12断続的な触診により子宮外口の弛緩を観察
8/23帝王切開
 その後、9/27に退院し、初回AIで受胎、腫瘤摘出後8ヵ月で異常はみられな
い。
 仔牛も順調に発育。

<まとめ>

 巨大な膣内腫瘤の切除後、自然分娩では膣断裂をふくむ難産が予測されたので、帝
王切開術を試みて縫合部の負担を軽減させたところ、母子ともに良好な結果が得られ
た。


CIDRとGnRH、エストロジェン併用による無発情牛の治療効果

<試験方法>

供試牛:無発情牛と診断された黒毛和種経酸牛362頭
    内訳 卵巣静止145頭 鈍性発情217頭
CIDR挿入:8日間(218頭) 12日間(144頭)
処置法:CIDR挿入時GnRH注射、除去後EB注射
検査日:CIDR挿入日、除去日、除去後10日(黄体確認)
検査項目:発情徴候、直腸検査、膣検査、血中性ホルモン濃度

<結果>

CIDR除去後の発情発現は、7日以内に92%で発情が見られ、うち、8日群で2日目(57
%)、12日群で3日目(43%)に多かった。卵巣静止ではCIDR挿入期間による受胎率に差
は見られなかった。鈍性発情では8日間挿入のGnRH併用群で受胎率が52%と有意に高
かった。産歴別受胎率は、産次を重ねるほど受胎率は低下していた。また、CIDR挿入
時の卵巣状態、挿入期間及びホルモン剤併用により治療効果が異なった。




OVCYNCHによる発情所見別受胎率

                          鹿児島県伊佐地区人工授精師会鹿児島中部NOSAI

<調査材料>

 1999年6月から11月まで、当管内で飼育されている繁殖黒毛和牛で、無発
情、発情微弱、鈍性発情、嚢腫に獣医師がOVSYNCHを実施したもの92頭。

<調査方法>

 産歴、分娩後日数、栄養度、種雄牛、発情所見(発情徴候、膣粘液、子宮頚管、子
宮収縮、卵胞)と各授精師が授精時に記録し、その後の受胎率を調べた。

<結果>

 実施頭数 92頭
 授精頭数 90頭
 受胎頭数 52頭
 受胎率  57.8%

<まとめ>

 OVCYNCHを実施した92頭の受胎率は57.8%であった。
 産歴では、産歴があがるにつれて受胎率は下がった。
 分娩後日数では、受胎率に差は無く、201日以上の長期不受胎牛でも43.8%が受胎
 した。
 栄養度が高くなるにつれ受胎率はやや低下した。
 通常は、授精を控える発情徴候のない牛でも52.0%の受胎率があった。
 発情所見で、子宮収縮が悪かったもの、卵胞の触診不能なものが特に受胎率が低
 かった。



 
テーマ:『新しい管理法と繁殖効率改善の戦略』      ウイリアム・W・サッチャー
 

○ 強調すべき点:新しい技術・方法を導入する際は理論的裏付けを充分理解した上
で実施する事が重要である
☆ 1951〜1996までのアメリカの乳量生産は上昇し、それに対して受胎率は
下がっている。

ファーストAIはアメリカでは毎年下がっており(50%以下)、北海道でもアメリカ
ほどではないにせよ徐々に下がってきている(2001年には50%以下になるか
も)。

○ 発情周期と卵胞、黄体、性ホルモンの動態(教科書参照)
☆ 発情周期の調整
@ GnRH→大きな卵胞が排卵
A Estradiol,Progesterone→卵胞が閉鎖・退行
B 超音波で卵胞を吸収
○黄体退行の制御
  最もよく使われているのがPGF2α
○ 排卵誘起
GnRH,
Estradiol(LHサージで誘起)
HCG


☆ オブシンク/定時受精のプロトコール
発情周期のd.5~d.12でGnRH投与(排卵)   →Progesterone濃度1ng/ml以上が望
ましい
GnRH投与から+7dでPGF2α投与(黄体退行)→同上
発情同期化!!
PGF2α投与+2dでGnRH投与
さらに16時間後にA.I.

Pregnanncy rate=Estrous detection×Conception rate
(妊娠率)     (発情発見率)  (受胎率)
○ 人工授精の時期をいかにして効率的にするか・・・
オブシンクのファーストGnRHはd.5~d.12がベストであり、それより前でも後でも良く
ない。

アメリカの卵巣静止の牛は23パーセントぐらい、未経産が35パーセントで経産は
16パーセントと未経産の方に卵巣静止は多く見られる。
○ CIDRを用いたOvsynch/TAI実験
d.0のGnRH投与と共にCIDRを挿入。d7で抜管しPGF2αを投与。
他はOvsynchと同様。Ovsynchのみよりもより良い妊娠率が得られた。

○ 妊娠率とBCS
BCS2.5以上→good
BCS2.5未満→badと定義
BCSgoodの牛の方がbadの牛よりも妊娠率が高かった。
BCSの改善は重要である。

○ 気温と体温との関係(泌乳牛)
気温が27℃以上になると牛の体温が上昇し、39.5℃を超えると受胎率が極端に
下がると言われている。

餌中のエネルギーレベルを上げることによって25%排卵性の牛の割合を少なくする
事が出来る。
方法―穀類の割合を上げる。脂質の添加剤。動物性の脂肪・魚粉。など
これはその実際の試験成績。バイパス蛋白を4通り、バイパスCaを加えたもの。
この飼料で17週飼育。
1) 11.1% DIP、0% CaLCFA
2) 11.1% DIP、2.2% CaLCFA
3) 15.7% DIP、0% CaLCFA
4) 15.7% DIP、2.2% CaLCFA

Caバイパス蛋白とは長鎖不飽和脂肪酸のこと。
先程の4つの例に脂肪を加えたものでとられた体重変化はグラフのようである。
15.7%DIP+Fatでは体重減少が最も多い。

泌乳期プロジェステロンの累積はグラフの通り。15・7%のみだとプロジェステロ
ンは上がらないが、Fat添加により泌乳量の低い牛並まで上昇。
これにより無発情牛の発生を少なくする事が出来る。
分娩後、蛋白に脂肪添加でエネルギーレベルの上昇により人工授精までに無発情の牛
を減らす事が出来る。

栄養管理が胚の生存率にどんな影響を与えるか
魚粉添加により妊娠率・受胎率アップ。つまり栄養によっても妊娠率かわる。

次に妊娠の途中に胚が死ぬ率を調べたもの。

AI30日と90日程度でどう違うかを調べると15〜16%は必ずLossがあ
る。

これをどう防ぐか。
hCGにより胚損失を防ぐ。栄養管理により防ぐ。
Ezブリード、CIDRも効果あり。

妊娠率上昇のための課題
分娩後、発情周期に入ったときにいかにして正常な周期を持つ牛を増やすか。⇒栄
養、健康、ホルモン投与。
発情発見率をいかにして上げるか⇒発情、排卵の同期化・定時人工授精
どうやって受胎率を上げるか⇒胚生存率を上げる。栄養、ホルモンなどの観点から