今回の口蹄疫に関する問題点

行政の対応で消毒薬の配布に疑問を抱きました。
口蹄疫に効果がない塩化ジエチルジメチルアンモニウム製剤(DDCA)の
大量配布についての見解を求めた所、この時期に他の病気が起こらない
ようにとのことでした。また苛性ソーダが劇薬のためDDCAのみ単独で
配布されましたが、DDCAも原液で皮膚に付着すると皮膚炎を起こします。

これらは農家への告知がなされていませんでした。安易にペットボトルに
入れて配布したために、誤嚥事故が起こっています。何らかの方法で注意
書きをするべきであったと思われます。この事を行政に意見したところ、
2回目の消毒薬配布では効果があるグルタラールになりましたが肝毒性、
発癌性の告知はありませんでした。このように感染を広げないためにも
迅速に行動しなければならないのですが、慌てた結果が二次災害を引き
起こしてはいけません。我々獣医師はもっと行政に意見をするべきであ
ると思います。次に行政は情報の開示をするべきであると思います。

A農場で口蹄疫が発生したという情報は県の畜産課で処理され、A農場から
B農場へ情報がもれないようにします。しかし畜産課からB農場への情報開示
はなされていません。このためデマが横行しました。

また2回目の調査の際に再確認のためであるという事を農家へ説明をするだけで
農家の誤解がとけます。一方現場の獣医師よりも民間の大企業の方が情報を早く
得ていたというのが今回の実状でした。こういう状況では農家と獣医師の間で
信頼関係が得られるのでしょうか。

北海道における口蹄疫の存在は、宮崎で使用している同じロットの敷きわらを
使用していたため検査が行われた結果である。しかし鹿児島では検査拒否をし
た農家がありました。病原性が弱いために風邪のような治療法で治っただけ
かもしれないのに安全宣言を出していいのでしょうか。牛よりもブタに親和性が
強いのに、ブタでは検査がなぜ行われていないのでしょうか。

今回ある農家に対してはっきりとした効果は解らないのですが、噴霧消毒
(ビルコンS)を行いました。これによって農家に落ち着きが出てきました。
このように心理学も含めた防疫対策をするべきである。


質疑応答

Q;立ち入り拒否をした農家があったのですが、法律の改正をした方が
 よいと思います。どこへ意見すればよいのですか。
A;県の畜産課を通して行うべきであると思います。

Q;今回の対応(血液検査による抗体検出)で間に合うのでしょうか。
A;今回は感染力が弱く抗原が採取しにくかった。感染力が強ければ
 抗原がすぐに取れ、早めに対処できるでしょう。

Q;口蹄疫と診断する判断の基準は。
A;今回のテストは日本で初めて行われ、複雑なELISAで行われました。

Q;実験における同居牛には感染しないが、農家での初期発生時での 
 抗体陽性率は60〜70%であったがそのギャップについてはどうですか。
A;実験室は狭く1部屋に4頭しか入れられないため、数的な要因であると思われます。



Q;農場隔離プログラムでの抗体検査において、抗体は非特異反応に 
 よるものなのかまたは治癒途中の抗体であったのかについて。
A;非特異反応と抗体の違いは判断しにくかった。

Q;隔離プログラムの結果などが公表されていないために何となく口蹄疫は存在す
るのではないかと思われるのですが。
A;3ヶ月という期間が経過しておらず存在はないとは言えません。

Q;血液検査をあるプログラムにのっとり行われるべきではないのでしょうか。
A;そういう管理体制を行うべきであると思いますし、そうなるでしょう。

Q;ウイルスを(ある時期に)扁桃に持ちやすいというのを聞いたのですが。
A;甲状腺の粘膜に抗体が存在するためウイルスを保持しやすいと思われます。

Q;中国は口蹄疫の存在を公表していないのですが、中国から多くの野菜を輸入し
ています。これについての検疫上の問題点はありますか。
A;感染牛の牛糞を肥料として使用されている可能性もあり、その危険性はあると思わ
れます。

Q;今回、口蹄疫がでた農家は現在どうなっていますか。
A;1軒目の農家は規模が小さく高齢であったため、廃業されました。

Q;もう一度農家をするのは可能なのでしょうか。
A;移動、導入の制限が解除されているのでできると思われます。
 外国ではその牛舎におとりの牛を何頭か入れて、数ヶ月間
 観察後、発症しなければ再スタート可能というシステムを取ってい
 るところがあります。

Q;炭酸ソーダの処分法。
A;苛性ソーダと違って侵襲性が少なく、土壌中に還元。
 植物にかけないように注意をして下さい。

Q;どういう消毒を行っていますか。
A;口蹄疫のおかげで消毒に気を配るようになって4、5月の
 白痢が減りました。日頃からの消毒の徹底を行うべきであると
 思われます。宮崎の共済は農家ごとに専用の服を置いて着変えています。
 ヨーロッパなどの口蹄疫汚染国の対策を検討すべきだと思われます。

Q;世界において日本はどう位置づけられているのですか。
A;陽性国。陰性である期間が3年以上続かないと清浄国にはなりません。



上村先生講義録


1:ウルグアイでの世界獣医師大会(?)について
  ウルグアイの面積は日本の約半分であり、人口は約350万人程の
  大西洋に面した国であり,そこに1200万頭を超える牛と,1400万頭
  を超える羊とが飼われている。
  牛は93%が肉用種で,ヨーロッパ系とインド系の混血したものが多く,
  残る乳用種も,Holstein FresianからつくられたH.ArgentineやH.Uruguayan
  といった気候に合わせたものである。
  サバナ気候を生かした草原に放牧してガウチョに追わせる独特の風景が見られる。
  現在,南アメリカのブラジル,パラグアイ,アルゼンチンと共同体を形成し,
  関税をかけない自由貿易を進めている。
  ウルグアイの輸出額の半分は,農産物が占めており,その大部分が畜産物である。
  ウルグアイでは衛生基準がしっかりしており,口蹄疫やその他の国際的な
  伝染病についてフリーであると宣言している。
  今年12月に行われる世界獣医師大会(?)では,蹄病・寄生虫・毒物,薬物,
  カビなどの中毒・繁殖・ハードヘルス・BSEなどの多くのセクションに別れて行われる。
  ウルグアイの獣医学会の会長であるDr. Rccarcda Ugarte 氏は,
  どうぞ皆さん12月にお会いしましょうと声をかけているところである。

2:直腸検査による障害について

  獣医師が,(牛の)直腸検査を行うことにより,腱鞘炎などの障害を負っている
  事実は,確かにある。
  アメリカでは,27%もの人が,整形外科手術をうけているという報告がある。

3:黄体嚢腫

  黄体嚢腫とは,NOSAIの定義では,直径25mm以上の,卵胞壁の一部または
  全面が黄体化し内腔形成と液が貯留した状態であり,血中P4値が1.0ng/ml以上,
  乳中で,5.0ng/ml以上のものとされている。
  しかし,エコーを持たないと診断が容易ではなく,直腸検査では,黄体遺残の
  ようにはっきりとは分かりづらい.
  この治療に際して,PGが有効なのではないかと考えられるが,
  血中または乳中P4濃度の動態を今後見ていきたい。

4:過剰排卵処置における卵胞とエストロゲン(エストラジオール:E2)の動態について。

  現在過剰排卵処置には,卵巣周期の7日目から始める方法と,
  10日目から始める方法とがあり,この二つの方法についてDFとLSFの動態,
  卵胞数の推移,新卵胞出現数,血中E2濃度を調べ,また,エコーにより確認を
  取っていた個体の卵巣を摘出し,組織学的検索によりE2の産生を調べた。

1)過剰排卵処置時のDFとLSFの動態
  朝夕2回,エコーによる確認を行ったところ,排卵周期の3.5〜4日目までは,
  DFとLSFとの大きさの違いは見られないが,4日目以降に,LSFにDF
  による抑制がかかり,DFとの大きさの違いが現れてくる。
  7日目には,卵胞はまだ発育しつつある状態であり,8日目に成長がピ−クに達し,
  発育を停止する。
  そのため,排卵周期7日目に始める方法では,他を抑制できる卵胞が残っているが,
  周期10日目に始めると、残っているDFは優性を残していないことが推測される。

2)過剰排卵処置時における卵胞数の推移
  直腸検査による確認を行ったところ,周期7日目に始めた群では,
  FSH投与から36時間後には4mm以下の卵胞がピークを迎え,
  48〜60時間になると,次第に退行するものと、より大きな卵胞へ
  成長するものとに分かれ,60時間後には4〜7mmのものが,
  96時間後に7mm以上のものがピークを迎える。
  周期10日目で始めた群では,4mm以下のもののピークが,
  12時間ほど早くなり,それに伴って4〜7mmのものはピークが前にきて、
  なだらかに減少する。そして,7mm以上のものは緩やかにそしてより多く増える。

3)過剰排卵処置中における新たな卵胞の出現数
  周期7日目に始めたものは,DFの影響が残る為,新生がされにくく
  (ピーク48h),周期10日目に始めたものは,DFによる抑制が弱い為,
  新生が多く,早く始まる。(ピーク24h)

4)過排卵処置中の血中E2濃度
  血中E2値を卵胞の動態と照合したところ,周期10日に始めた群は,
  DFが大きくなるころ(48〜69h)にE2の分泌が増えるが,周期7日目開始の
  ものはE2の分泌が10日目のものに比べて遅れる事がわかった。

5)組織学的検索による過排卵処置牛の卵胞動態とE2産生との関連
  FSH処置後,96時間後の牛の卵巣を摘出し,エコーやホルモンの値と
  あった状態であるのかを組織学的に見たところ,周期10日目で,
  すでにDFだった卵胞は,顆粒層の細胞が剥がれ落ちており,卵自体も悪い。
  しかし,この卵胞は,周期7日目の処置をしていれば,次の卵と同じことに
  なったはずである。FSH処置後24時間後に現れた卵胞は,
  顆粒層の細胞が多く,層が厚く,卵胞内細胞も多い。
  この卵は,活性が高く,よい卵である。処置後84時間後に出現した卵胞は,
  直径7〜8mmと小さく,顆粒層の細胞はきちんと並んでいるが,
  幅が小さく,E2レベルが低い。活性の低い未熟な卵胞であった。

6)出現時間別の卵胞液中性ステロイドホルモンについて
  FSH投与後,36〜48時間でのE2レベルが高かった。
  プロゲステロンも同様に示した。E/Pが高ければ,卵胞は発育中であり,
  低いとE2レベルが低いこととなり,卵胞の活性が低いことをあらわす。

7)卵子の顕微鏡像
  普段,卵検査ではねてしまうような卵を,蛍光染色したところ,
  生きている発光があった。
  つまり卵そのものは,死んではいないということであり,
  今後,こういった卵が,培養液の中で,どれだけ生きるか,
  また,核のステージを見ることにより,卵の成長具合を見る
  ことができるようになるのではないか。

エコーやその他の所見とも関連を見ることによって,
いつ過剰排卵処置をすれば良い卵が取れるのかという確認を取るべき
でありその為,直検やエコーで,卵胞の発育を追い発育の状態を,
最終的な卵の状態として,今後2年間の間に結果を出すつもりである。





安田先生講義


症例報告
 
1.解剖時に、下顎にコブがみられた2例の黒毛和牛の症例報告。
   下顎にできた腫瘤で、エナメル上皮歯牙腫と、前肢の骨折で
   運び込まれたが予後が悪く、結果的には死亡した。

2.臨床的に通過障害のような症状がみられ、開腹手術を行ったところ、
   腹部、下顎にコブがみられた2例の黒毛和牛。
   腹部に塊があったのでその部分を摘出した。
   解剖したところ、術後にできたと思われる腹膜炎があった。
   過去の症例で似たような子牛の症例をあげる。
   この例は1カ月齢の子牛で、排便がないということで持ち込まれたが、
   そのうちに下痢便をするようになり、通過障害が治癒したように思えたが、
   肺炎で死亡した。剖検の結果腸重積が確認された。

3.黒毛和牛における尿膜管の閉鎖不全で、膀胱の先端から尿膜管が
   完全に閉鎖せず腹腔内に漏れていた症例。
   開腹して閉鎖不全確認後手術を行ったが、その後に尿道閉塞を起こして死亡してしまった。

4.黒毛和牛における腎炎の症例。
   頻尿、食欲不振が続いた。
   病理解剖学的診断として膀胱粘膜腫瘍、尿管口狭窄、
   尿管拡張、間質性腎炎、腎盂拡張がみられた。

5.ホルスタインの骨盤くう内大量出血による死亡例。
   元気消失、起立不能、貧血、眼球陥没が見られた。

6.腹部皮下膿瘍の症例。
   左腹部切開により排膿したが好転しなかった。

7.右後肢蜂窩織炎について。
   右後肢間に受傷後抗生剤を投与するも治癒しなかった症例。

8.徳之島から鹿児島へ搬送中に起立不能となった黒毛和牛の症例。

9.自然分娩後、大腿部腫大がみられたホルスタインの蹄葉炎の症例。

10.雌のホルスタイン9歳齢における心内膜炎について。
11.6歳4ヶ月の黒毛和牛における消耗性止血不全の症例。
12.雌の黒毛和牛8歳齢における中皮腫の症例。
13.雌の黒毛和牛8ヶ月齢における白血病の症例。
14.雌の黒毛和牛8歳齢における脳水腫について。孔脳症、偽膜性脳炎が見られた症例。




     骨格系の奇形及び二重体について  
   
                 (浜名先生)


今年の一月になってからはアカバネ病の大流行はないが、散発的に出てきている。
又、従来はあまりなかった関節弯曲症が出てきているということは今までなかったことである。

症例:2367 ホルスタイン 雌 二分脊椎(腰仙部)、S状弯曲
   尾の付け根が左前方の方にあがり、腰仙部ももりあがっている。
   腰仙部を触ると骨が硬く触れるのを確認。
   さらによく調べると、脊椎の棘突起が二つに分かれているのを
   確認(脊椎二分症)。
   レントゲンでみると、脊椎が分岐しているのと同時に大きく
   S状に弯曲して尾の方に向かっていた。

症例:2374 黒毛和種 雄 左大腿骨骨頭骨折

   生後8ヵ月、体重200kgで、跛行を確認。左後肢が直立しており、
   右後肢に体重をかけているため、左後肢とは逆に中節がさがっている。
   内臓には特に異常はなく、大腿骨を見ると、骨頭と大転子の周囲の
   筋肉が癒着し、骨頭が萎縮していた。
   骨頭を剥離すると、古い骨折の跡があり、それにともない、
   血液が流れず萎縮したものであるということであった。

症例:2381 黒毛和種 雄 側脳室拡張、重度肺炎、左13肋骨骨折

   沈鬱で発育も悪く、剖検したところ、脳は非常に大きいがへこんでいる。
   取り出してみると、小脳は正常だが、大脳が非常に大きい。
   しかし膨らみがなかった。
   大脳を開いてみると、側脳室が膨大化して、実質は菲薄化していた。
   病理学的には重度側脳室拡張症と診断した。
   同じ症例が2例続けてきたが、アカバネなどの先天症とはタイプが
   違うので何が原因なのかは今のところ不明である。

症例:2395 F1 雄 奇肢症(右後肢中足骨短小変形)

   右後肢が変形しており、切皮してみると、中足骨が非常に短縮していた。
   指骨など変形しているが大きさは異常がないということから、
   中足骨の短縮奇形と診断した。

症例:2401

   左後肢が変形し、屈伸不能で、中節部が曲がっている。
   尾が前のほうにあり、背骨が曲がっていることから二分脊椎かと
   思ったが脊柱は正常であった。
   剖検してみると、棘突起が変形していることから、
   脊柱短縮変形異常と診断した。

症例:2403

   左前肢が欠損しているもので、無肢症に属するが、
   付け根から欠損しているものは珍しい。
   完全に骨から無いのかと剖検してみると、肩甲骨があったが、
   偏平で発達が悪かった。又、それ以下の構造はなかった。


症例:2400 黒毛和種 雄 下腹結合双子
    (鎖肛、包皮口閉鎖、結腸・直腸癒合、直腸・膀胱瘻、巣精巣、潜在精巣)

   畜主が逆子であるということで5人程で引っ張ったが、出てこない。
   産道は狭くなく、おかしいと思い,帝王切開を避け、骨盤をワイヤーで切ったが、
   効果はなく、結局帝王切開でとりだしたところ、頭が2つ足8本の仔牛が出てきた。
   この仔牛は左右対称で、下腹部を共有していた。

(二例目) 黒毛和種

   いろいろな重複奇形があり、左右対称なものが多いが、
   この例は左右対称ではなかった。
   頭が二つ、足が八本、両方の結合部の臍帯部位が大きく開口し腸管が出ていた。
   腸管は空回腸を共有し、回腸の下三分の一程度から二つに分岐していた。
   椎骨は、第二頚椎から二つに分かれていた。

症例:2405

   あと二ヶ月で分娩という牛から1頭2顔奇形の牛が出てきた。
   前から見ると、口が1セットで、左右に眼が1つづつあり、
   中央に眼窩が1つあった。中央の眼窩には眼球が2つあるのが確認できた。
   顎の骨を外して反転してみると、上顎の口蓋が左右に通じており、
   舌が二枚あった。咽喉からは1本であった。脳は小脳が1つで大脳が2つであった。