第93回鹿児島臨床研究会(H11年10月30日〜31日)

体験発表(10/30)
「ET採卵時の改良型手動式灌流装置の使用について」  NOSAI日置  安村 悦郎
「子宮脱整復時の助産器(サンブロック)の応用」      都城市開業  宮田 先生

講演 「牛のクリプトスポリジウム症について」    家畜衛生試験場九州支場  志村 亀夫
「病理解剖症例報告」         鹿児島大学農学部家畜病理学教室  安田 宣紘

体験発表(10/31)
「黒毛和種牛の生産性の向上を目的としたCIDRの活用」      渕上新 蔵
「鹿児島県内で流行したアカバネ、チュウザン病の症例報告」         鹿児島大学農学部家畜繁殖学教室   浜名 克巳
「澱粉粒子(Starch granule;SG)による牛の下向性卵管疎通検査法とCIDR使用期間と併用薬の検 討」                         鹿児島大学農学部家畜繁殖学教室  上村 俊一
「日本の畜産と食料自給率」                  デンカ   川口 擁


「ET採卵時の改良型手動式灌流装置の使用について」      NOSAI日置  安村 悦郎

改良型手動式灌流装置 従来型
長所
・ 冬場の採胚でも灌流液が冷えずに胚にダメージを与えない。
・ 最大2リットルまで灌流できるので、太って採胚しにくい牛でも大丈夫。
・ 検卵の時、EmComフィルターの底の液だけをシャーレに入れるので,枚数が 少なく(2枚程度),検卵の時間が短縮できる。
・装置が簡単である。
短所
・ 装置が少し複雑になる。
・ EmComフィルターに,粘液が詰まり灌流液がスムーズに返ってこないことが ある(10%未満)。
・冬場の採胚で灌流液が冷えてしまう。
・ 最大で1リットルまでしか灌流できない。
・ シャーレの枚数が最低4枚程度となり,検卵に時間がかかる。


「子宮脱整復時の助産器(サンブロック)の応用」           都城市開業獣医師  宮 田先生

 子宮脱を整復する際に、牛が起立不能である場合、通常ではカウハンガーなどで後 肢を吊り上げ前低後高にして整復するが、個人で整復を行うときにはその器具を持っ ていない場合、稲わらの束などを後脚の下にいれて、腹圧が前方にかかるようにして おこなっていた。しかし、稲わらでは、牛が不安定であり、また、牛の下に稲わらを 入れるのに人手がかかる欠点がある。昨年12月の獣医師会年次総会での北海道の発 表で、牛の後脚をロープで吊り上げて整復を行うという手法を聞き、それを元にし て、産助器(サンブロック)を用いて後脚を吊り上げる方法により2例整復できた。 牛を仰向けにして滑車を使って後脚を吊り上げるこの方法では、大人2名で腰角が浮 き上がるまで吊り上げる。この体勢にすると、子宮が内へ引き込まれるようになり簡 単に整復することができる。またサンブロックは、起立不能に陥った乳牛に寝返りさ せたり、狭い牛舎で横臥した牛を外へ引き出すことにも利用でき応用範囲は広い。  以前は子宮脱整復時に尾椎硬膜外麻酔を行いパコマを使用していたが、整復後1時 間ほどして麻酔が切れ再度努責が押し寄せ、再脱出することが頻繁に起きていた。さ らに、長期在胎の時にも診療後強い努責が起きていた。しかしパコマをヒビテンに変 えてからは再脱出がなくなったという経験をした。

<質疑応答> ・脱出した子宮を洗浄するのに生食や砂糖を使えば努責が抑えられる。


牛のクリプトスポリジウム症について」          家畜衛生試験場九州支場   志村 亀夫

 クリプトスポリジウムCryptosporidiumはヒトや家畜の消化器などの上皮細胞微絨 毛内に寄生し、
下痢を主張とする疾患を起こす原虫である。本原虫はオーシストを経 口的に摂取することによって感染が成立する。
糞便とともに体外に排出されたオーシ ストは一般的な消毒剤では死滅しない。
そのため、環境中での除去がきわめて困難で あり、特に水道水に混入した場合には
ヒトの集団感染を起こすため新興病の病原体と して注目されている。
  病原体  クリプトスポリジウムはコクシジウム類の原虫で、哺乳類には4種が寄生し、
その 内のC.parvumとC.murisの2種が人畜共通感染症の病原体である。
 糞便中に排出されるオーシストの形態は他のコクシジウムのオーシストとほぼ同様であるが、
大きさは直径4〜5μm(C.parvum)と赤血球と比べてもなお小さいため、検出や種の同定が難しい。
 近年、C.parvumには遺伝子型が2つあることが明らかにされた。
GenotypeTはヒト にのみ感染性を有し、GenotypeUは哺乳類全体が宿主となる。
人に対する病原体は両 型とも有していると考えられる。ヒトの感染の約7割はtypeTとの報告もある。
感染の特徴 感染は糞便中に排出されたオーシストを経口的に摂取することによる、
人畜共通感染 症の原因となるC.parvumでは、ヒトへの感染はヒト、家畜、ペット、
その他の動物と の直接的な接触のほかに、水道水などを介した水系感染がある。
一般のコクシジウムでは寄生種と終宿主との関係がかなり固定的で、
例えば牛のコクシジウム (Eimeria)は牛以外は感染しないが、
クリプトスポリジウムではC.parvumを例にす れば、哺乳類全てを終宿主とする。
このようにきわめて広い宿主域を持つコクシジウムは稀である。
クリプトスポリジウムオーシストの胞子形成(感染型への変化)は消 化管内で行われるため、
糞便中に排出された直後から感染性を有している。
また、消 化管内で自家感染を起こして感染を繰り返すため感染が長期化する。

症状
 牛のクリプトスポリジウム症は1ヶ月齢以下の仔牛(1〜2週齢にピーク)に見られる。
潜伏期は2日以上で通常4〜6日である。主要な症状は下痢で、
下痢便は灰白色から黄色時に橙色を呈し、剥離腸管上皮が混在する。
下痢は4〜16日間程度継続 する(通常6日間)。
下痢と同時に糞中にオーシストが排出される。
他に食欲減退、 発熱、元気消失、脱水、発育遅延などの症状が認められる。
単独感染の場合、加齢に より徐々に回復する。
ひどい脱水症状を呈した場合は死亡率が増加する。
ロタウイルスや病原性大腸菌ETEC−K99+の混合感染があると高い死亡率となる。
 我が国における牛の自然感染例は、岡山、北海道などから報告されている。
日本での牛のオーシスト保有率は2.14%であり(衛生週報No,2480)、
1ヶ月齢以下の 仔牛で保有率が高いが、乳用牛と肉用牛とでは差は見られない。
病原性のある C.parvumは1ヶ月齢以下の仔牛でのみ検出されている。
 牛のオーシスト排出数は約100億個/感染とされ、演者らの試験でも同様の結果であり、
免疫抑制条件下では約200億個の排出が認められている。
ヒトでは数十個 の感染で発症が見られるとされ、約十億個のオーシスト(牛の1/10)を排出す る。

診断
 診断は糞便からオーシストを検出して行う。

1) 蔗糖液浮遊法;比重1.20以上の蔗糖液を用いる。通常の寄生虫卵検出法に 準じて行う。
顕微鏡のコンデンサーを下げ、コントラストを上げて、ピントをカバー グラス直下に合わせ200倍で検査する。
浮遊法のためピントは視野ごとに異なるの で、ピントを視野ごとに細かく調整し、
常にオーシストのある位置を確認する。
検体 の濃度が高すぎるとオーシストが浮遊しにくいので、
検体を適当に希釈したほうが検 出が容易である。オーシストは光の屈折によりピンクから紅色に見え、
ピントを微妙 に変えると白銀色に輝く。
蔗糖液浮遊法はオーシストの直径が4〜5ミクロンと小さ いので検出には熟練を要するが、
特別な装置や試薬を用いる必要がなくこれだけで診 断が可能である。

2) 染色法;糞便の塗抹標本を染色して検出する。通常Kinyounの抗酸菌染 色変法が用いられる。
オーシストは鮮やかな淡桃色から紅色に染まり、酵母はくすん だ色に染まる。
しかし特異的な染色法ではないので、これだけで診断することは、難 しい。
蔗糖液浮遊法と併用して確定診断に用いるとよい。

治療

 クリプトスポリジウム症に対する特効的な予防薬・治療薬はない。
そのため、現実 的な治療法としては、下痢による脱水を補液で代用し、
細菌など二次感染を抗生物質 を用いて防ぎ、患畜の自然回復を待つ対症療法しかない。
実験的には硫酸パロモマイ シンやラサロシドでオーシストの排出が抑制されるが、
かなり高濃度を必要とするた めに毒性による宿主のダメージが大きくなる。

予防・消毒

 感受性のある1カ月齢以下の仔牛をカーフハッチのような施設で個別飼育すること により、
感染が牛郡全体に広がることを防ぐ。
糞便は堆肥化過程での発熱を利用して 処理する。
一般的な市販消毒剤(塩素系・ヨード系・フォルマリン系・逆性石鹸・オ ルソ剤)では
24時間浸漬しても全く効果がない。
熱湯による消毒が最も確実である (72℃、1分以上)。
現在のところワクチンは開発されていない。
 農家での仔牛のクリプトスポリジウム感染を防止することは大変困難なため、
新たに排出されたオーシストを環境中に放出しないことが重要である。
牛糞の野積みや素堀、スラリー処理は環境や水系の汚染に直結するので、必ず堆肥化する。


<質疑応答>
Q;他の寄生虫との混合感染は?
A;牛の場合はないであろう。なぜなら、クリプトスポリジウム症が発症するのは 一ヶ月齢以下であり、
垂直感染するもの以外の寄生虫、原虫による発症はほとんど一ヶ月齢以 上に発生する からであり、
コクシジウムとも住み分けをしているような状態である。

Q;その他の四つ足動物での感染は?
A;エイズ患者から犬,猫の遺伝子の違うものが取れた。
また、独立種で、猫の C.ferisやモルモ ット,コアラのものもある。

Q;日本でのクリプトスポリジウムの発症数は?
A;それほど多くない。

Q;一般的な糞便による寄生虫虫卵検査でも検出できるか?
A;オーシストが虫卵よりかなり小型であるため焦点が合わせにくく、熟練を要す る。

Q;オーシストの染色法は?
A;抗酸菌染色は他のものまで染まるので見にくい。慣れれば、浮遊法の方が楽にで きる。

Q;凍結オーシストの解凍後の感染能力は?
A;一度の凍結では失われないと思われる。



「病理解剖症例報告」           鹿児島大学農学部家畜病理学教室  安田 宣紘

No. 飼育地(搬入者) 臨床診断名 剖検月日 病理診断名

1 大根占町(竹之下) 創傷性心嚢炎 7.10.23 創傷性心嚢炎
2 菱刈町(北島) 下痢,発熱 10.5.26 心内膜炎(右),肺動脈栓塞
3 福山町 心嚢炎,子宮蓄膿 10.9.7 創傷性心嚢炎
4 横川町(松崎) 創傷性心嚢炎 11.4.12 創傷性心嚢炎
5 金峰町(西馬場) 創傷性心嚢炎 11.6.7 創傷性心嚢炎,脾炎
6 日置郡(的場) 骨盤腔腫瘍 11.3.30 リンパ腫?
7 大口市(佐藤) 腹腔内腫瘍 8.12.2 悪性中皮腫
8 入来町(牧場) 偽膜性腸炎 11.3.4 悪性中皮腫,第4胃潰瘍
9 大口市(渕上) 肺炎 11.6.2 大葉性肺炎,鼻気管炎
10 吉松町(橋口) 創傷性心嚢炎 11.6.3 多発性肺膿瘍
11 日置郡 下顎腫瘍 11.1.19 エナメル上皮腫
12 菱刈町 放線菌病? 11.2.26 下顎骨膜性骨肉腫
13 入来町(牧場) 咽喉頭狭窄 10.11.2 偽膜性咽喉頭炎,肺炎,肝炎
14 大崎町(久徳) 尿毒症 11.6.3 腎盂腎炎
15 入来町(牧場) 骨盤腔内腫瘍 10.1.27 卵巣顆粒膜細胞腫
16 霧島町(運天) 脳炎? 7.11.19 神経芽腫
17 大根占町(岩崎) 脳炎? 9.7.9 乏突起膠腫
18 肝属郡(竹之下) ヘモフィルス性脳炎? 9.8.5 脳内出血?
19 大口市(北島) ヘモフィルス性脳炎? 11.1.19 化膿性髄膜脳炎
20 高尾野町(松永) 骨軟症,骨膜炎? 11.8.15 四肢筋間膿瘍
21 菱刈町 両後肢脱落壊死 11.2.26 肢端脱疽
22 末吉町(田崎) 両後肢端脱疽 2.5.10 肢端脱疽
23 指宿郡(八木) 肢端,尾端の壊疽 4.3.13 肢端脱疽             

  (平成11年10月28日報 告) <補足> (No,1,3,4,5について)

 以前は、心嚢炎・心外膜炎において、原因となる針金や釘の発見は少数であったが、
最近の症例においては多数認められるようになった。
これらは針金による症例が 多く、近年使用が進んだ輸入飼料への混入が疑われる。

<質疑応答>

Q.No.9の肺炎の病理所見は?
A. 急性出血性炎で、気管内腔に血餅が認められる。

Q.臨床所見は?
A.初診では誤嚥性肺炎で見られるような呼吸困難を認めた。

Q.その後、重症症例の発生は見られたか?
A.知っている限りでは、その後の重症となった症例はない。

Q.エンドトキシン、麦角アルカロイドは何に含まれているか。また、どの程度摂取 したら発症するか?
A.カビに含まれる。どれくらいの摂取で発症するかは分からない。

Q.犬で肢端脱疽らしきものがあったが、牛以外でもあるのか?
A.他の動物であるかは不明。その症例では両側性でないので、フィラリア性の末梢 血管栓塞の可能性大。



「黒毛和種牛の生産性向上を目的としたCIDRの活用」                      渕上新蔵

繁殖農家にとっては受胎率向上、分娩間隔の短縮が最も大切である。
今回、CIDR を、分娩後発情不明及び不受胎牛に対して、発情誘起と受胎率の向上を目的として使 用した。
CIDR、PG併用、PMS併用の3群を分娩後日数とB.C.S別に比較し た。
分娩後40日で発情微弱、無発情、不受胎である個体910頭を用いた。
処置内容に より3群に分類し、CIDR除去後5日以内に発情が見られた初回授精実施率と
初回 授精受胎率を比較、検討した。

・1群:CIDR 10日〜14日間膣内挿入 (457頭)
・ 2群:CIDR10日〜12日間膣内挿入,除去1日〜2日前にPGF2α 25 mg筋注 (368頭)
・3群: CIDR12日間膣内に挿入し、除去1日〜2日前PMS 500IU筋注 (85 頭)

全体
初回授精実施率 81.9% 受胎率 52.5% CIDRのみ〜授精実施率 79.6% 受胎率 49%(平均より低い)
CIDRのみよりPG,PMS併用の方が弱冠、授精実施率・受胎率ともに高い

全体を分娩後日数で分類
・40〜60日:分娩後早期→初回授精実施率・受胎率とも最も高い
・61〜100日:泌乳最盛期
・101〜150日:離乳後
・151日以降:長期不受胎
初回授精実施率は分娩後日数の経過とともに低下
。受胎率は、泌乳最盛期に落ち込 み、また離乳後53%程度まで上昇、長期不受胎ではどちらも最低。

@群別で比較 40〜60日ではどちらも差なし。
61〜100日では、単独使用で授精実施率 8 0%を切り、受胎率は、3群に比べ有意に低い値を示す。
101〜150日では6 1〜100日と同様。
151日以降では、逆に単独使用が併用に比べ、受胎率51% と高い値を示す。併用は低い。
併用では例数が少ないにもかかわらず差が見られた。

@B.C.S別に比較
B.C.S 1.5〜2.5:440頭
B.C.S 2.5〜3.5:414頭
B.C.S 4.0〜5.0:56頭 肥満牛は例数少ないが3群では差なし

1. 5〜2.5では単独使用は授精実施率では差はないが受胎率が低い 2.5〜3.5ではPMS併用群で受胎率はやや低い 4.0〜5.0では差なし

@B.C.Sと分娩後日数で3群を比較する
分娩後40〜100日で B.C.S1.5〜2.5のものが臨床の現場では卵巣静止・卵 巣萎縮が最も多い
・40〜60日では初回授精実施率で差なし。受胎率では単独使用が併用に比べやや 低い値。
・61〜100日では1群で受胎率37%、2群・3群で50%以上、3群は72% である。
・特に61〜100日で単独使用の受胎率低い。

<結果>

無発情牛にCIDRを10日間挿入し、除去して5日以内に81.9%が人工授精さ れ、うち52.5%が受胎した。
全体的にPG,PMS併用群がCIDR単使用より 授精実施率や受胎率が高い。
分娩後日数では40〜60日で授精実施率が高く、逆に 61〜100日で受胎率が低下する傾向が認められた。
B.C.Sでは2.5〜3.5で 差はなし。1.5〜2.5でPG・PMS併用群が単独使用より受胎率が高い。

<まとめ>

分娩早期の40〜60日では3群とも差がなく、授精実施率・受胎率とも高い値を示 す。
しかし、61〜100日ではB.C.Sが1.5〜2.5の「やせ」から「やせぎ み」の牛では、併用がCIDR単独使用より受胎率が高い
以上のことから分娩後、 無発情牛へのCIDR使用では、分娩後日数やB.C.Sの状態によりPGやPMSの併 用が有効である。

<質疑応答>
・エストラジオールは2例ほど使用したが結果は良くなかった。
・基本的には卵巣が動いていないものはCIDRだけで良い
・PMS併用では3日目、4日目の発情が一番多い。
・PMSを使っている症例ではB.C.Sが低く、分娩後早い段階で使用すると良い結果 が得られた。
]
Q.発情が認められた全ての牛に対してAIを行ったのか?
A.87〜88%の牛に発情が認められ、そのうち、80%に対してAIを行った。

Q.CIDRと注射を併用したときの受胎率は?
A. CIDR除去時、良い黄体が遺残しているときは発情、受胎率共に良い。
また、 B.C.Sが低く、卵巣の極端な萎縮が見られるときには、エストリオール製剤を併用し ている。

Q.CIDR除去時の卵巣の状態による薬剤の使い分けがあるか?
A. 卵巣が動いているときはPG、卵巣萎縮が見られるときはPMSを使用する。


「鹿児島県内で流行したアカバネ、チュウザン病の症例報告」        鹿児島大学農学部家畜繁殖学教室   浜名 克巳

・ 従来アカバネ、チュウザンはそれぞれ単独で流行していたが、昨年1月〜6月に かけてアカバネとチュウザンが混合した形で流行した。
・ 昨年発症した100例のうち姶良郡での発症が多く,伊佐郡で28例,曽於郡で は少数であったが、今年は曽於郡において多数の発生が見られた。
・ 100例中アカバネ病と診断される水無脳症が44例,関節湾曲症が25例、 チュウザン病と診断される小脳形成不全が36例見られた。
・ 発症に雌雄差はなく、♂58例、♀42例であり,種別ではホルスタインが6 例、F1が4例,黒毛が90例であった。
・ 流行時期は,水無脳症を伴うアカバネ病が4月〜5月に,従来11月〜12月に 発生のピークが見られた関節湾曲症を伴う発症は月を問わず散発的に認められた。 チュウザン病は2〜3月をピークに発症が見られた。
・ 教科書的には水無脳症は妊娠初期感染,関節湾曲症は妊娠中期感染に認められる が、妊娠後期や,生後に感染し何らかの症状を示す症例も少数見られた。
・ 発症した母牛の産次数は、アカバネ病において1,2,3産次の母牛に多くみられ、 チュウザン病は産次を問わず見られた。
・ 分娩±2週間以内を正常分娩時期とすれば,アカバネ、チュウザン発症例の86% がこの時期に分娩されているが、アイノウイルス感染症では、40%が早産であった。
・ ワクチン接種は2年前から全体の30%に行われていたが,効果は芳しくない。これ については接種の不手際等の様々な原因があると考えられる。
・ 症状は、起立困難,吸乳困難が4〜5日、長くて一週間続く。盲目,動作遅鈍などの 症状は外観的には発見困難であるために発見が遅れることが多々ある。今回チュウザ ン病には痙攣などの強い神経症状は見られなかった。関節湾曲症は、一肢のみでみら れる事が多かった。
・ 剖検における小脳形成不全の診断基準は、外見的に診断するのは困難なため重量 を計測しておこない、正常範囲は種を問わず18g〜20gとした。
・ 家畜衛生試験場において抗体価の測定を行ったところ、陽性率はアカバネ病にお いては母牛100%、仔牛87%であり、チュウザン病においては母牛,仔牛共に1 00%であった。
・ これらの仔牛を長期(3ヶ月以上)にわたり飼育することは農家にとって経済的 損失となるので、早期淘汰の判断基準の確立が必要とされる。 ・ 判定方法の例として,超音波診断,ホルモン,インシュリンの測定などがあるが、技 術,設備,費用の問題から現場で使用するまでには至っておらず、現在、統一されたよ り良い早期診断方法を検討中である。



「牛の下向性卵管疎通検査法の紹介とCIDR使用期間と併用薬の検討」      鹿児島大学農学部家畜繁殖学講座  上村 俊一

≪牛における卵管疎通検査法≫  
卵管疎通検査法は繁殖障害の原因の一つとされる卵管水腫などによる卵管の閉塞も しくは狭窄を診断する方法で、
これには上行性と下行性の診断方法がある。
上行性卵 管疎通検査法は送気管を用いて子宮内に空気を挿入し圧を測定するが、
とくに発情期 には頚管がゆるく空気の漏出が起きるなど改良すべき点が多い。
そこで近年、下行性 卵管疎通検査法が考案されたので,ここに紹介する。

<澱粉粒子(Starch granule;SG)による下行性卵管疎通検査法>

 馬鈴薯加工の澱粉を60℃,30分加熱滅菌し,0.5gを滅菌蒸留水で5から10 %溶液とし,卵巣表面に浴びせる。
この注射法には次の2通りがある。 (中臀部からの注射法)  中臀部の、第3〜4仙骨下方で,内腸骨動脈から約2cm上方を通過し、骨盤腔内 に到達するように長さ13cm以上の筋肉注射用注射針を深く刺す。
直腸内に挿入し た手で卵巣を保持し,注射針に卵巣を接近させて,注射器内のSGを卵巣表面に浴びせ る。

(膣式卵巣注射法)  
直腸より卵巣を保持し、もう一方の手を膣内に挿入し膣壁を貫いて腹腔内に刺し、
卵巣表面にSGを浴びせる。

<注意事項>
 澱粉粒子が大きいため、注射器が詰まる恐れがあるので注入前に注射器を良く振 る。

<測定法>
 SG注入後は、ほぼ24時間毎に子宮外口粘液をスライドに塗抹し、ヨード(イソジ ン)により染色,
室温乾燥後50〜200倍での鏡検により、SGの出現状況、粒子の 大きさを観察する。
粒子が小さいものから大きいものまで観察されれば問題ないが、小さいものしか観察 されない場合は、
卵管閉塞もしくは卵管狭窄の可能性がある。

<質疑応答>
Q.黄体期でも頚管粘液に澱粉の析出が認められるか?
A. 性周期については考えていなかったが、通常2〜3日、遅くとも一週間以内で確認 できる。
発情期のほうが早く確認できる。

Q.滅菌方法について
A.焦げると良くないので60℃30分加熱滅菌する。

Q.澱粉の析出は何日間程度継続するか?
A.確認していない。投入後2〜3日をめどに行う。



≪CIDRの使用期間と併用薬についての検討≫

分娩後無発情、B.C.S 2〜4、平均空胎日数144日の四肢に障害のない経産牛367頭を用 いて
CIDRの使用期間と併用薬についての検討を行った。

<実験方法>
使用期間により、以下の2群に分けて試験を実施した。
併用薬の投与はCIDR挿入時に 行った。
なお、全ての牛で、CIDR除去時にPGF2αを投与した。

A;CIDR8日間使用群
 @CIDR単独使用群
 AGnRH併用群 B;CIDR12日間使用群
 @CIDR単独使用群
 AGnRH併用群
 BE2カプセル併用群
 CE21mg注併用群

<結果>
* CIDR除去後、7日以内に90%以上の牛で発情が認められた。
* 8日間使用群では、2日目・3日目に集中して発情が認められたが、
12日間使用群 では2〜5日(3日目がピーク)のばらつきが認められた。
* 8日間使用群では、発情誘起率93.1%、初回受精受胎率48.6%、12日間使用群では
それぞれ87.0%、39.0%であった。
さらに牛群をCIDR挿入時の状態によって卵巣静止群と鈍性発情群に分け、比較検討を 行った。
* 卵巣静止群では、8日間使用群と12日間使用群に差は認められなかった。
* 鈍性発情群では、8日間使用+GnRHの併用群で受胎率が高かった。(50〜60%)
また、8日間単独使用群と12日間単独使用群では前者の受胎率が有意に高かった。

<考察>

* 鈍性発情である個体ではCIDR8日間使用+GnRH併用が効果的。
* GnRHを併用する場合は、直径が8mm以上で、顆粒膜細胞にLH-Receptorを持つ卵胞が 存在する状態で用いるとよい。
* CIDR除去後の発情をクリアに、短時間にすることができれば、定時受精への利用も 考えられる。
* 確実な排卵のためには、除去後の処置(エストロジェン、GnRH投与など)も必要で はないかと考えられる。
* CIDR使用時には、卵巣の状態を良く確認して処置方法を決定したほうが良い。
(使 用期間、併用薬の選択)例えば、卵巣が動いている牛で12日間CIDRを使用する場合、
優性期間が長引き(9日以上)、受胎率が低下することもある。
* 通常の黄体期のProgesterone濃度は4〜5ngで卵胞ウェーブを繰り返すのに対し、
CIDR使用時、早期に黄体が退行した場合、CIDRによるProgesterone濃度は2〜3ngと低 いために
卵胞ウェーブを繰り返さず優性期間が持続すると考えられる。

<質疑応答>
Q.CIDRとE2併用時、カプセルと注射液の場合の比較
A.注射液は一過性で、カプセルは持続性で発情が良いといわれるが、今回例数が少 なく今の段階では何ともいえない。


「日本の畜産と食糧自給率」         川 口 擁
1. 畜産における国際化による日本の食糧自給率の変化
畜産物の自由化年度 項目
羊肉 卵 羊毛 豚肉 牛肉 バター脱脂粉乳
自由化年度 1959 1962 1962 1971 1991 1995 上図のように自由化が進んだために、平成9年の時点で家畜の主要な飼料である大豆 の食糧自給率は3%まで落ち込んだ。同様に牛肉36%、豚肉64%、鶏肉70%と低 下し、供給熱量自給率も41%まで落ち込んでいる。また国別の食糧自給率(1996)で見た時、フランス、アメリカ、カナダは100%を超えているのに対し、日本は 41%と低く、国土の狭いイタリア、イギリス、スイスと比べても低い数値であっ た。この結果日本政府は次の方針を出した。 2. 日本農政の方針 1995/12/26 農産物の需要と生産の長期見直し 1996/1/16 酪農および肉用牛生産の近代化を図るための基本方針 1998/11/27 粗飼料の国内自給方針 1998/12 農政改革大網 1999/3 新たな酪農・乳業対策大網 1999/7/12 食料・農業・農村基本法 3. これからの日本の農業、畜産の方向 人口の増加、1人あたりの穀物消費量の増加、単収の伸び率の低下、工業の発展によ る森林伐採、砂漠化の進行、温暖化、異常気象による農作物への影響によって21世 紀は食糧危機の時代となるであろう。一方、日本の農業、畜産の現状は、安い輸入畜 産物の増加による食糧自給率の低下、農業従事者の高齢化、後継者不足、減反による 農地の消失、畜産公害、海外の感染病の侵入などに直面している。これらの対策とし て、食糧自給率の向上、家畜飼養戸数の減少(多頭化、企業化)、自給飼料の増産、 生産性の向上(家畜改良増殖、受精卵移植技術、DNA解析、遺伝子工学技術、搾乳ロ ボット)、安全で品質の良い畜産物の生産、感染病からの予防の徹底を行っていく必 要があるだろう。 文献 農水省大臣官房調査課(1998);平成9年度食料需給表について 酒井仙吉(1999);畜産の研究、53(1)、9−16 閣議決定(1995);農産物の需要と生産の長期見通し 農水省(1999);新たな酪農・乳業対策大綱 平成11年法律第106号(1999);食料・農業・農村基本法 村田富夫(1997);畜産の研究、51(6)、657−664 JVPA(1995/7)、(8)、5−8 <質疑応答> Q.自給率が下がっている理由は? A.生産量は落ちていないが需要が増加しているためである。 <趾皮膚炎についての質疑応答> Q.趾皮膚炎は、ここ4、5年全国に広がっているが、鹿児島ではどうか? A.200頭および170頭飼育農家で、30〜40頭発症した。四肢を洗浄し薬剤 を噴霧する   と2〜3日で治癒した。 Q.一回の治療で完全治癒するか? A.100%治癒するものもあるが、フリーストールなどでは消毒がしにくいので再 発する可能   性がある。 Q.原因は? A.スピロヘータ、カンピロバクターが分離されているが、再現性は証明されていな い(ウイル   スではない)。
日本の畜産と食料自給率   デンカ製薬株式会社 川口 擁 (9910−2)   1.畜産における国際化の波   表1.畜産物の自由化 項   目 羊肉 卵 鶏肉 羊毛 豚肉 牛肉 バター・脱脂粉乳   自由化年度 1959 1962 1962 1962 1971 1991 1995     2.食料自給率    表2.日本における食料自給率の推移1) (単位:%) 年項 目 昭和60年1985 平成1年1989 2年1990 5年1993 8年1996 9年1997 10年1998  主要品目 米小麦大豆野菜 10714595 10016691 10015591 7510288 1027386 999386       の自給率 肉類 うち牛肉〃 豚肉〃 鶏肉 81728692 7254    70517482 64446977 55395967 56366471 57366470     鶏卵牛乳・乳製品魚介類 988596 988089 987886 968076 967270 967172      供給熱量自給率 52 48 47 37 41 41    主食用穀物自給率 69 68 67 50 63 62    穀物(食用+飼料用)自給率 31 30 30 22 29 28                                           図1.日本のおもな農産物の自給率(%)2)   図2.国内産飼料自給率(可消化養分換算)2)                                      図3.主要国の供給熱量自給率の推移2)      表3.主要国の食料自給率(%、カロリーベース)   フランス ドイツ イタリー イギリス スイス アメリカ カナダ 日 本 1980年1985年1988年1996年 131140143− 929294− 8373−− 7374−− 616565− 137134113− 147164142− 53524941        3.日本農政の方針   1995(平成7年)/12/26 「農産物の需要と生産の長期見通し」:閣議決定3)   1996(平成8年)/1/16 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」:農水省 生産量、頭数、生産性指標、改良増殖、新技術の開発普及   1998(平成10年)/11/27 「粗飼料の国内自給方針」:農水省 粗飼料(牧草、青刈り作物)作付面積を120%   1998(平成10年)/12 「農政改革大綱(骨子)」:農水省 農政改革プログラム       1999(平成11年)/3 「新たな酪農・乳業対策大綱」:農水省4) 改革の方向 1)市場実勢を反映した適正な価格形成 2)経営体・担い手対策 3)生産の流通対策 4)乳業対策(再編、合理化) 条件整備 1)畜産環境対策(糞尿処理、堆肥) 2)自給飼料の増産(飼料増産戦略会議、飼料用稲) 3)家畜改良の推進、飼養管理技術の高度化 家畜改良増殖、受精卵移植技術、DNA解析、                        クローン技術、搾乳ロボット、哺乳ロボット 等   1999(平成11年)/7/12 「食料・農業・農村基本法」成立5) 1)食料の安定的供給の確保(食料自給率の引上げ) 2)農業の持続的な発展 3)農村振興 4)農業の多面的機能の発揮     4.日本の畜産の今後の展開    表4.畜産物の需要と生産の見通し(1995/12)3) (単位:万t、%)    1993(平成5)年 2005(平成17)年   需 要 生 産 自給率 需 要 生 産 自給率 乳牛、乳製品  1,074[100] 855[100] 80   1,259-1,363[117-127] 1,010[118] 77   肉類 うち牛肉 〃 豚肉 〃 鶏肉  529[100]135[100]208[100]171[100] 337[100]60[100]144[100]133[100] 54 44 69 77   605-649[114-123]182-214[135-159]216-220[104-106]193-200[113-117] 367[109]80[133]145[101]141[106] 59 40 67 72   鶏卵  270[100] 260[100] 96   282[104] 272[105] 96   米  1,048[100] 783[100] 75   973-1,025[93-98] 938-990[123] 96-97   供給熱量自給率          37           44-46   主食用穀物自給率穀物(食用+飼料用)自給率飼料自給率イ)           502224           62-6428-2934   [ ]:指数 イ)TDN総量        表5.飼養頭羽数と戸数の推移と予測    平成1年1989 5年1993 11年1999 予測A2005 予測B2005 予測C2001 予測D2005     乳牛  頭数  2,031[101] 2,020[100] 1,816[90] 1,980[98/109] 1,883[93/104] 2,000[99/110] 2,000[99/110]     戸数  66.7[131] 50.9[100] 35.4[70]     24.6[48/69]              (頭/戸) (30) (40) (51)    (77)          肉用牛 頭数  2,651[89] 2,970[100] 2,840[96] 4,330[146/152] 2,615[88/92] 2,400[81/85] 3,500[118/123]     戸数  246.1[124] 199[100] 124.6[63]     104.6[53/84]               (頭/戸) (11) (15) (23)    (25)           うち肉専用種頭数  1,626[86] 1,880[100] 1,711[91] 3,220[171/188] 1,606[85/94]     2,350[125/137]     〃 乳用種頭数  1,025[94] 1,090[100] 1,130[104] 1,110[102/98] 1,010[93/89]     1,150[106/102]     ( 〃 交雑種頭数)       (651)          (650)    豚 頭数  11,866[112] 10,620[100] 9,873[93] 10,310[97/104] 7,884[74/80] 8,200[77/83] 10,000[94/101]     戸数  50.2[198] 25.3[100] 12.5[49]     5.1[20/41]               (頭/戸) (236) (420) (790)    (1,550)          採卵鶏 羽数  139,000[71] 196,000[100] 143,100[73] 195,000[99/136] 161,000[82/113] 150,000[77/105] 160,000[82/112]     戸数  94.4[1,049] 9[100] 5.1[57]     3.4[38/67]               (羽/戸) (1,470) (21,800) (28,100)    (47,400)          ブロイラー 羽数  153,900[121] 127,000[100] 103,900[82] 131,000[103/126] 91,000[72/88] 94,000[74/90] 110,000[87/106]     戸数  5.8[129] 4.5[100] 3.2[71]     2.3[51/72]               (羽/戸) (26,500) (28,200) (32,500)    (39,600)            頭羽数、戸数:単位 千 〔 〕:1993年(100)対比の指数 〔 / 〕:〔1993年対比/1999年対比の指数〕 予測 A)1995年 農水省予測の2005年頭羽数3) 〃 B)1997年 Dr.M予測の2005年頭羽数6) 〃 C)1995年 N協予測の2001年頭羽数7) 〃 D) デンカ予測の2005年頭羽数   ☆世界の人口   1600年  1830年 1987年 1999年 2010年 2050年   5億人 10億人 50億人 60億人 約70億人 約100億人     ☆21世紀は食糧危機の世紀   人口の増加   1人当たりの穀物消費の増加       単収の伸び率の低下   工業の発展   森林伐採、砂漠化の進行   温暖化、異常気象−農作物に影響   ☆日本の農業、畜産:曲がり角 現 状 対応又は方向 安い輸入農畜産物の増加 食料自給率の向上     家畜頭羽数:表5 農業従事者の高齢化後継者不足減反、消失する優良農地 家畜飼養戸数:減少(多頭化)自給飼料の増産生産性の向上 畜産公害     食料自給率の低下      (海外における感染病発生:BSE、口蹄疫など)    遺伝子工学技術        安全で品質の良い畜産物の生産個体治療→集団予防プロダクション・メディスン臨床疫学、経済疫学   文献 1)農水省大臣官房調査課(1998):平成9年度「食料需給表」について 2)酒井仙吉(1999):畜産の研究,53(1),9-16  3)閣議決定(1995):農産物の需要と生産の長期見通し 4)農水省(1999):新たな酪農・乳業対策大綱 5)平成11年法律第106号(1999):食料・農業・農村基本法 6)村田富夫(1997):畜産の研究,51(6),657-664 7)JVPA(1995/7月),(8),5-8  
日本の畜産と食料自給率 デンカ製薬株式会社 川口 擁 (9910−2) 1.畜産における国際化の波 表1.畜産物の自由化 項   目 羊肉 卵 鶏肉 羊毛 豚肉 牛肉 バター・脱脂粉乳   自由化年度 1959 1962 1962 1962 1971 1991 1995 2.食料自給率  表2.日本における食料自給率の推移1) (単位:%) 年 項 目 昭和60年 1985 平成1年 1989 2年 1990 5年 1993 8年 1996 9年 1997 10年 1998 主 要 品 目 米 小麦 大豆 野菜 107 14 5 95 100 16 6 91 100 15 5 91 75 10 2 88 102 7 3 86 99 9 3 86 の 自 給 率 肉類  うち牛肉 〃 豚肉 〃 鶏肉 81 72 86 92 72 54 70 51 74 82 64 44 69 77 55 39 59 67 56 36 64 71 57 36 64 70 鶏卵 牛乳・乳製品 魚介類 98 85 96 98 80 89 98 78 86 96 80 76 96 72 70 96 71 72 供給熱量自給率 52 48 47 37 41 41 主食用穀物自給率 69 68 67 50 63 62 穀物(食用+飼料用)自給率 31 30 30 22 29 28  図1.日本のおもな農産物の自給率(%)2)   図2.国内産飼料自給率(可消化養分換算)2)  図3.主要国の供給熱量自給率の推移2)  表3.主要国の食料自給率(%、カロリーベース) フランス ドイツ イタリー イギリス スイス アメリカ カナダ 日 本 1980年 1985年 1988年 1996年 131 140 143 − 92 92 94 − 83 73 − − 73 74 − − 61 65 65 − 137 134 113 − 147 164 142 − 53 52 49 41  3.日本農政の方針 1995(平成7年)/12/26 「農産物の需要と生産の長期見通し」:閣議決定3) 1996(平成8年)/1/16 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」:農水省 生産量、頭数、生産性指標、改良増殖、新技術の開発普及 1998(平成10年)/11/27 「粗飼料の国内自給方針」:農水省 粗飼料(牧草、青刈り作物)作付面積を120% 1998(平成10年)/12 「農政改革大綱(骨子)」:農水省 農政改革プログラム 1999(平成11年)/3 「新たな酪農・乳業対策大綱」:農水省4) 改革の方向 1)市場実勢を反映した適正な価格形成 2)経営体・担い手対策 3)生産の流通対策 4)乳業対策(再編、合理化) 条件整備 1)畜産環境対策(糞尿処理、堆肥) 2)自給飼料の増産(飼料増産戦略会議、飼料用稲) 3)家畜改良の推進、飼養管理技術の高度化 家畜改良増殖、受精卵移植技術、DNA解析、                        クローン技術、搾乳ロボット、哺乳ロボット 等 1999(平成11年)/7/12 「食料・農業・農村基本法」成立5) 1)食料の安定的供給の確保(食料自給率の引上げ) 2)農業の持続的な発展 3)農村振興 4)農業の多面的機能の発揮 4.日本の畜産の今後の展開  表4.畜産物の需要と生産の見通し(1995/12)3) (単位:万t、%) 1993(平成5)年 2005(平成17)年 需 要 生 産 自給率 需 要 生 産 自給率 乳牛、乳製品 1,074 [100] 855 [100] 80 1,259-1,363 [117-127] 1,010 [118] 77 肉類 うち牛肉 〃 豚肉 〃 鶏肉 529 [100] 135 [100] 208 [100] 171 [100] 337 [100] 60 [100] 144 [100] 133 [100] 54 44 69 77 605-649 [114-123] 182-214 [135-159] 216-220 [104-106] 193-200 [113-117] 367 [109] 80 [133] 145 [101] 141 [106] 59 40 67 72 鶏卵 270 [100] 260 [100] 96 282 [104] 272 [105] 96 米 1,048 [100] 783 [100] 75 973-1,025 [93-98] 938-990 [123] 96-97 供給熱量自給率 37 44-46 主食用穀物自給率 穀物(食用+飼料用)自給率 飼料自給率イ) 50 22 24 62-64 28-29 34 [ ]:指数 イ)TDN総量  表5.飼養頭羽数と戸数の推移と予測 平成1年 1989 5年 1993 11年 1999 予測A 2005 予測B 2005 予測C 2001 予測D 2005 乳牛  頭数 2,031 [101] 2,020 [100] 1,816 [90] 1,980[98/109] 1,883[93/104] 2,000[99/110] 2,000[99/110] 戸数 66.7 [131] 50.9 [100] 35.4 [70] 24.6[48/69]  (頭/戸) (30) (40) (51) (77) 肉用牛 頭数 2,651 [89] 2,970 [100] 2,840 [96] 4,330[146/152] 2,615[88/92] 2,400[81/85] 3,500[118/123] 戸数 246.1 [124] 199 [100] 124.6 [63] 104.6[53/84]   (頭/戸) (11) (15) (23) (25)  うち肉専用種頭数 1,626 [86] 1,880 [100] 1,711 [91] 3,220[171/188] 1,606[85/94] 2,350[125/137] 〃 乳用種頭数 1,025 [94] 1,090 [100] 1,130 [104] 1,110[102/98] 1,010[93/89] 1,150[106/102] ( 〃 交雑種頭数) (651) (650) 豚 頭数 11,866 [112] 10,620 [100] 9,873 [93] 10,310[97/104] 7,884[74/80] 8,200[77/83] 10,000[94/101] 戸数 50.2 [198] 25.3 [100] 12.5 [49] 5.1[20/41]   (頭/戸) (236) (420) (790) (1,550) 採卵鶏 羽数 139,000 [71] 196,000 [100] 143,100 [73] 195,000[99/136] 161,000[82/113] 150,000[77/105] 160,000[82/112] 戸数 94.4[1,049] 9 [100] 5.1 [57] 3.4[38/67]   (羽/戸) (1,470) (21,800) (28,100) (47,400) ブロイラー 羽数 153,900 [121] 127,000 [100] 103,900 [82] 131,000[103/126] 91,000[72/88] 94,000[74/90] 110,000[87/106] 戸数 5.8 [129] 4.5 [100] 3.2 [71] 2.3[51/72]   (羽/戸) (26,500) (28,200) (32,500) (39,600) 頭羽数、戸数:単位 千 〔 〕:1993年(100)対比の指数 〔 / 〕:〔1993年対比/1999年対比の指数〕 予測 A)1995年 農水省予測の2005年頭羽数3) 〃 B)1997年 Dr.M予測の2005年頭羽数6) 〃 C)1995年 N協予測の2001年頭羽数7) 〃 D) デンカ予測の2005年頭羽数 ☆世界の人口   1600年  1830年 1987年 1999年 2010年 2050年   5億人 10億人 50億人 60億人 約70億人 約100億人 ☆21世紀は食糧危機の世紀   人口の増加   1人当たりの穀物消費の増加   単収の伸び率の低下   工業の発展   森林伐採、砂漠化の進行   温暖化、異常気象−農作物に影響 ☆日本の農業、畜産:曲がり角 現 状 対応又は方向 安い輸入農畜産物の増加 食料自給率の向上 家畜頭羽数:表5 農業従事者の高齢化 後継者不足 減反、消失する優良農地 家畜飼養戸数:減少(多頭化) 自給飼料の増産 生産性の向上 畜産公害 食料自給率の低下 (海外における感染病発生:BSE、口蹄疫など) 遺伝子工学技術 安全で品質の良い畜産物の生産 個体治療→集団予防 プロダクション・メディスン 臨床疫学、経済疫学 文献 1)農水省大臣官房調査課(1998):平成9年度「食料需給表」について 2)酒井仙吉(1999):畜産の研究,53(1),9-16  3)閣議決定(1995):農産物の需要と生産の長期見通し 4)農水省(1999):新たな酪農・乳業対策大綱 5)平成11年法律第106号(1999):食料・農業・農村基本法 6)村田富夫(1997):畜産の研究,51(6),657-664 7)JVPA(1995/7月),(8),5-8

日本の畜産と食料自給率

 

デンカ製薬株式会社 川口 擁

 

1.畜産における国際化の波

 

表1.畜産物の自由化

項   目

羊肉 卵 鶏肉 羊毛 豚肉 牛肉 バター・脱脂粉乳

  自由化年度

1959 1962 1962 1962 1971 1991 1995

 上図のように自由化が進んだために、平成9年の時点で家畜の主要な飼料である大豆 の食糧自給率は3%まで落ち込んだ。
同様に牛肉36%、豚肉64%、鶏肉70%と低 下し、供給熱量自給率も41%まで落ち込んでいる。
また国別の食糧自給率(1996)で見た時、フランス、アメリカ、カナダは100%を超えているのに対し、
日本は 41%と低く、国土の狭いイタリア、イギリス、スイスと比べても低い数値であっ た。この結果日本政府は次の方針を出した。

  2. 日本農政の方針
1995/12/26 農産物の需要と生産の長期見直し
1996/1/16 酪農および肉用牛生産の近代化を図るための基本方針
1998/11/27 粗飼料の国内自給方針
1998/12 農政改革大網
1999/3 新たな酪農・乳業対策大網
1999/7/12 食料・農業・農村基本法

3. これからの日本の農業、畜産の方向

人口の増加、1人あたりの穀物消費量の増加、単収の伸び率の低下、工業の発展によ る森林伐採、
砂漠化の進行、温暖化、異常気象による農作物への影響によって21世 紀は食糧危機の時代となるであろう。
一方、日本の農業、畜産の現状は、安い輸入畜 産物の増加による食糧自給率の低下、
農業従事者の高齢化、後継者不足、減反による 農地の消失、畜産公害、海外の感染病の侵入などに直面している。
これらの対策とし て、食糧自給率の向上、家畜飼養戸数の減少(多頭化、企業化)、自給飼料の増産、
生産性の向上(家畜改良増殖、受精卵移植技術、DNA解析、遺伝子工学技術、搾乳ロ ボット)、
安全で品質の良い畜産物の生産、感染病からの予防の徹底を行っていく必 要があるだろう。

2.食料自給率

 

 表2.日本における食料自給率の推移

1) (単位:%)

項 目

昭和60年

1985

平成1年

1989

2年

1990

5年

1993

8年

1996

9年

1997

10年

1998

 

小麦

大豆

野菜

107

14

5

95

100

16

6

91

100

15

5

91

75

10

2

88

102

7

3

86

99

9

3

86

 

 

 

 

 

肉類

 うち牛肉

〃 豚肉

〃 鶏肉

81

72

86

92

72

54

 

 

 

70

51

74

82

64

44

69

77

55

39

59

67

56

36

64

71

57

36

64

70

 

 

 

鶏卵

牛乳・乳製品

魚介類

98

85

96

98

80

89

98

78

86

96

80

76

96

72

70

96

71

72

 

 

 

 

供給熱量自給率

52

48

47

37

41

41

 

 

主食用穀物自給率

69

68

67

50

63

62

 

 

穀物(食用+飼料用)自給率

31

30

30

22

29

28

 

 

 図1.日本のおもな農産物の自給率(%)

 図2.国内産飼料自給率(可消化養分換算)2)

 

 図3.主要国の供給熱量自給率の推移

 表3.主要国の食料自給率(%、カロリーベース)

 

フランス

ドイツ

イタリー

イギリス

スイス

アメリカ

カナダ

日 本

1980年

1985年

1988年

1996年

131

140

143

92

92

94

83

73

73

74

61

65

65

137

134

113

147

164

142

53

52

49

41

 

 

 

 3.日本農政の方針

 

1995(平成7年)/12/26 「農産物の需要と生産の長期見通し」:閣議決定

3)

 

1996(平成8年)/1/16 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」:農水省

生産量、頭数、生産性指標、改良増殖、新技術の開発普及

 

1998(平成10年)/11/27 「粗飼料の国内自給方針」:農水省

粗飼料(牧草、青刈り作物)作付面積を120%

 

1998(平成10年)/12 「農政改革大綱(骨子)」:農水省

農政改革プログラム

 

 

 

1999(平成11年)/3 「新たな酪農・乳業対策大綱」:農水省

4)

改革の方向 1)市場実勢を反映した適正な価格形成

2)経営体・担い手対策

3)生産の流通対策

4)乳業対策(再編、合理化)

条件整備 1)畜産環境対策(糞尿処理、堆肥)

2)自給飼料の増産(飼料増産戦略会議、飼料用稲)

3)家畜改良の推進、飼養管理技術の高度化

家畜改良増殖、受精卵移植技術、DNA解析、

                       クローン技術、搾乳ロボット、哺乳ロボット 等

 

1999(平成11年)/7/12 「食料・農業・農村基本法」成立

5)

1)食料の安定的供給の確保(食料自給率の引上げ)

2)農業の持続的な発展

3)農村振興

4)農業の多面的機能の発揮

 

 

4.日本の畜産の今後の展開

 

 表4.畜産物の需要と生産の見通し(1995/12)

3) (単位:万t、%)

 

 

1993(平成5)年

2005(平成17)年

 

需 要

生 産

自給率

需 要

生 産

自給率

乳牛、乳製品

 

1,074

[100]

855

[100]

80

 

 

1,259-1,363

[117-127]

1,010

[118]

77

 

 

肉類

 

うち牛肉

 

〃 豚肉

 

〃 鶏肉

 

529

[100]

135

[100]

208

[100]

171

[100]

337

[100]

60

[100]

144

[100]

133

[100]

54

 

44

 

69

 

77

 

 

605-649

[114-123]

182-214

[135-159]

216-220

[104-106]

193-200

[113-117]

367

[109]

80

[133]

145

[101]

141

[106]

59

 

40

 

67

 

72

 

 

鶏卵

 

270

[100]

260

[100]

96

 

 

282

[104]

272

[105]

96

 

 

 

1,048

[100]

783

[100]

75

 

 

973-1,025

[93-98]

938-990

[123]

96-97

 

 

供給熱量自給率

 

 

 

 

 

 

 

37

 

 

 

 

 

 

 

 

44-46

 

 

主食用穀物自給率

穀物(食用+飼料用)自給率

飼料自給率

イ)

 

 

 

 

 

 

 

 

50

22

24

 

 

 

 

 

 

 

 

62-64

28-29

34

 

[ ]:指数 イ)TDN総量

 

 

 

 表5.飼養頭羽数と戸数の推移と予測

 

 

平成1年

1989

5年

1993

11年

1999

予測A

2005

予測B

2005

予測C

2001

予測D

2005

 

 

 

乳牛  頭数

 

2,031

[101]

2,020

[100]

1,816

[90]

1,980

[98/109]

1,883

[93/104]

2,000

[99/110]

2,000

[99/110]

 

 

 

戸数

 

66.7

[131]

50.9

[100]

35.4

[70]

 

 

 

24.6

[48/69]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (頭/戸)

(30)

(40)

(51)

 

 

(77)

 

 

 

 

 

 

肉用牛 頭数

 

2,651

[89]

2,970

[100]

2,840

[96]

4,330

[146/152]

2,615

[88/92]

2,400

[81/85]

3,500

[118/123]

 

 

 

戸数

 

246.1

[124]

199

[100]

124.6

[63]

 

 

 

104.6

[53/84]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (頭/戸)

(11)

(15)

(23)

 

 

(25)

 

 

 

 

 

 

 うち肉専用種頭数

 

1,626

[86]

1,880

[100]

1,711

[91]

3,220

[171/188]

1,606

[85/94]

 

 

 

2,350

[125/137]

 

 

 

〃 乳用種頭数

 

1,025

[94]

1,090

[100]

1,130

[104]

1,110

[102/98]

1,010

[93/89]

 

 

 

1,150

[106/102]

 

 

 

( 〃 交雑種頭数)

 

 

 

 

(651)

 

 

 

 

 

 

(650)

 

 

豚 頭数

 

11,866

[112]

10,620

[100]

9,873

[93]

10,310

[97/104]

7,884

[74/80]

8,200

[77/83]

10,000

[94/101]

 

 

 

戸数

 

50.2

[198]

25.3

[100]

12.5

[49]

 

 

 

5.1

[20/41]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (頭/戸)

(236)

(420)

(790)

 

 

(1,550)

 

 

 

 

 

 

採卵鶏 羽数

 

139,000

[71]

196,000

[100]

143,100

[73]

195,000

[99/136]

161,000

[82/113]

150,000

[77/105]

160,000

[82/112]

 

 

 

戸数

 

94.4

[1,049]

9

[100]

5.1

[57]

 

 

 

3.4

[38/67]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (羽/戸)

(1,470)

(21,800)

(28,100)

 

 

(47,400)

 

 

 

 

 

 

ブロイラー 羽数

 

153,900

[121]

127,000

[100]

103,900

[82]

131,000

[103/126]

91,000

[72/88]

94,000

[74/90]

110,000

[87/106]

 

 

 

戸数

 

5.8

[129]

4.5

[100]

3.2

[71]

 

 

 

2.3

[51/72]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (羽/戸)

(26,500)

(28,200)

(32,500)

 

 

(39,600)

 

 

 

 

 

 

 

頭羽数、戸数:単位 千

〔 〕:1993年(100)対比の指数

〔 / 〕:〔1993年対比/1999年対比の指数〕

予測 A)1995年 農水省予測の2005年頭羽数

3)

〃 B)1997年 Dr.M予測の2005年頭羽数

6)

〃 C)1995年 N協予測の2001年頭羽数

7)

〃 D) デンカ予測の2005年頭羽数

 

☆世界の人口

  1600年

 

1830年

1987年

1999年

2010年

2050年

  5億人

10億人

50億人

60億人

約70億人

約100億人

 

 

☆21世紀は食糧危機の世紀

  人口の増加

  1人当たりの穀物消費の増加

 

 

  単収の伸び率の低下

  工業の発展

  森林伐採、砂漠化の進行

  温暖化、異常気象−農作物に影響

 

☆日本の農業、畜産:曲がり角

現 状

対応又は方向

安い輸入農畜産物の増加

食料自給率の向上

   

家畜頭羽数:表5

農業従事者の高齢化

後継者不足

減反、消失する優良農地

家畜飼養戸数:減少(多頭化)

自給飼料の増産

生産性の向上

畜産公害

   

食料自給率の低下

   

 

(海外における感染病発生:BSE、口蹄疫など)

 

 

遺伝子工学技術

 

 

 

 

 

 

安全で品質の良い畜産物の生産

個体治療→集団予防

プロダクション・メディスン

臨床疫学、経済疫学

 

文献

1)農水省大臣官房調査課(1998):平成9年度「食料需給表」について

2)酒井仙吉(1999):畜産の研究,53(1),9-16

 3)閣議決定(1995):農産物の需要と生産の長期見通し

4)農水省(1999):新たな酪農・乳業対策大綱

5)平成11年法律第106号(1999):食料・農業・農村基本法

6)村田富夫(1997):畜産の研究,51(6),657-664

7)JVPA(1995/7月),(8),5-8

 

<質疑応答>
Q.自給率が下がっている理由は?
A.生産量は落ちていないが需要が増加しているためである。

趾皮膚炎についての質疑応答>
Q.趾皮膚炎は、ここ4、5年全国に広がっているが、鹿児島ではどうか?
A.200頭および170頭飼育農家で、30〜40頭発症した。四肢を洗浄し薬剤 を噴霧すると2〜3日で治癒した。

Q.一回の治療で完全治癒するか?
A.100%治癒するものもあるが、フリーストールなどでは消毒がしにくいので再発する可能性がある。

Q.原因は?
A.スピロヘータ、カンピロバクターが分離されているが、再現性は証明されていな い(ウイルスではない)。

牛及び豚の繁殖に用いられる主なホルモン剤とその作用
 

  ホルモン名                  主な作用

 

GnRH(LH−RH) ♀♂:内因性LH(主)とFSH(従)分泌

〔スポルネン・注〕

 

FSH ♀:卵胞発育及び排卵・黄体化(今道学説)

 アントリン  ♂:精子形成

アントリンR

 

PMS ♀:卵胞発育(主)、排卵・黄体化(従)

〔セラルモン〕 ♂:精子形成(主)、雄性ホルモン生産(従)

 

HCG ♀:卵胞発育(従)、排卵・黄体化(主)

〔ゲストロン〕 ♂:精子形成(従)、雄性ホルモン生産(主)

速効性、非持続性

 

油性HCG+V.E 作用は同上

〔油性ゲストロン・E〕 持続性

 

卵胞ホルモン ♀:発情徴候発現、副生殖器の発育、子宮内膜増殖、乳腺乳管系〔安息香酸エストラジオール注・DS〕   の発育、雌性化(第二次性徴発現)

               エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)

 

黄体ホルモン ♀:子宮内膜の着床性増殖、子宮筋の運動性減弱、妊娠維持、

 オバプロン・デポ           乳腺腺胞系の発育

水性オバプロン   油性プロゲステロン、水性懸濁プロゲステロン、レポジタル型

 油性オバプロン            デポ型(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン+プロゲステロン)

 

雄性ホルモン ♂:雄性副生殖器の発育、精子形成、雄性化(第二次性徴発現)

(テストステロン) ♂♀:蛋白同化作用

 

オキシトシン ♀:子宮収縮(陣痛誘起)、乳汁排出促進

〔ポストン・エス〕

 

PGF2α及びアナログ ♀:黄体退行、子宮筋と消化管等の平滑筋の収縮

〔シンクロセプト〕

 

プロゲステロン酵素免疫測定キット ♀:体外診断薬

プロゲステロン(P)測定による黄体機能の診断、早期妊娠診断。

血中P定量測定用〔オブチェック血液用EIAキット〕

牛乳中P定量測定用〔オブチェック牛乳用EIAキット〕

 

 

 

- 1 -

牛の繁殖における主なホルモン剤の使い方 ◎第1選択剤 ○第2選択剤

IM:筋注 IV:静注 AI:人工授精

 

 

 

 

投与時期

その他

GnRH−A

スポルネン・注

FSH

アントリン

HCG

ゲストロン

PMS

セラルモン

1)卵胞嚢腫

 

 

 

 

 

 

診断時

 

☆GnRH又はGTH注

後シストが黄体化し

たら、PGF2α(シンクロ
セプト)注射

◎100-200μgIM

 

 

 

 

 

 

◎20-40AU IV、

又は IM

○1卵巣当たり

10AUをシスト内

注射

 

 

◎5,000-10,000

IU IM

○1,500-3,000

IUシスト内注射

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆初回治療で無効

の場合の再治療

又は再発の場合

 

☆ホルモン剤の種類を変更して投与

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2)黄体嚢腫

 

 

◎PGF2α(シンクロセ
プト 1mg)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3)排卵障害、

 排卵促進

 

授精時又は授精前

9-24時間

◎100μgIM

 

 

◎10AU IV

 

 

◎1,500-3,000

IU IM

 

 

 

4)卵巣静止

 

 

診断時

 

 

◎100-200μgIM

 

 

◎20-
40AU IV、

又は IM

○1,500-3,000

IU IM

○500-1,000IU

IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○3,000-5,000

IUをPMSと併用

 

 

○500-1,000IU

IMをHCG左記

量と併用

5)鈍性発情、

 機能性黄体を

 有する無発情

 

◎黄体期にPGF2α

(杓雇礁瀋1mg)

注射

○PGF2α注射

54-60時間に

100μgIM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6)黄体遺残

 

 

◎PGF2α(シンクロセ
プト

1mg)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7)発育不全黄

 

 

次回の発情期

 

 

○100-200μgIM

 

 

 

 

 

◎1,500-3,000

IU IM

 

 

 

 

 

 

授精後5-7日

 

 

 

 

 

 

 

 

◎1,500-3,000

IU IM

○500IU IM

 

 

8)授精後の

 

 

授精後5-7日

 

 

 

 

 

 

 

 

◎1,500-3,000

IU IM

○500IU IM

 

 

受胎率改善

 

 

授精後12日(11-13)

○100μgIM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

- 2 -

 

 

 

 

 

投与時期

その他

GnRH−A

スポルネン・注

FSH

アントリンR

HCG

ゲストロン

PMS

セラルモン

9)慄澎通渫粟

 (低受胎)

◎授精後オバプロン・

筑累110mgIM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授精後

◎100μgIM

 

 

◎3,000IU IM

 

 

10)空胎期間の

短縮(分娩後

の卵巣静止)

 

分娩後3-4週の検診

で、卵巣機能回復が

遅延している場合

◎100-200μgIM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11-1)発情・排

卵の同期

化と定時

授精

 

 

 

 

 

AGnRH第1回注射

7日にPGF2α

 

CGnRH第2回注射

24(又は16-20)時

間にAI

@100μg IM

BPGF2α注射

48時間に

100μg IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11-2)

 

 

 

 

 

@黄体期にPGF2α

 

 

BGnRH注射後24時

間にAI

APGF2α注射

54時間に

100μg IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12-1)過剰排卵

誘起

 

 

 

 

 

 

性周期の8-14日目

から処置開始

 

 

AFSH処置開始後
48

時間にPGF2α(常

用量の1.5倍量)

 

 

 

 

発情発現時又

は第1回AI時

に200μg

@総量20AU(和

牛)、28-48AU

(乳牛)を漸減

分割(1日2回

×3-4日)IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12-2)

 

 

 

 

 

 

@性周期任意の日

(day0)からCIDR

膣内挿入8日間

 

Bday8にPGF2αを

注射し、CIDR除去

 

 

 

 

 

 

 

Aday6から、

総量20AU(和

牛)を漸減分

割(1日2回×

3日)IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12-3)

 

 

 

 

 

 

性周期の8-14日目

から処置開始

 

APMS処置後72時

にPGF2α

 

 

 

 

 

B発情発現時又

は第1回AI時

に200μg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@2,000-3,000

IU IM

 

 

 

 

 

13-1)受胚牛の

性周期同

  期化

@PGF2αを10日毎

に2回

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13-2)

 

 

 

 

 

AGnRH注射後7日

PGF2α

 

 

@100μg IM

BPGF2α注射

後48時間に

100μg IM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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