牛の繁殖に用いる黄体ホルモン剤

デンカ製薬株式会社　川口　擁

（９８１１）

　

１）主な作用

　　雌性動物：子宮内膜の着床性増強、子宮筋の運動性減弱、妊娠維持、乳腺腺胞系の発育、子宮のオキシ
　　トシンに対する感受性の低下、高プロゲステロンによる視床下部からのＧｎＲＨ分泌抑制　　　　　　　（負のフィードバック）

　

２）剤型と応用

　

剤型

　

適応症

用法

製剤・含量

油性

　

　

　

　

　

　

牛:基準用量

受精卵着床障害

卵胞嚢腫

胎盤停滞予防

牛･馬:習慣性流産予防

　

　

50-600mg/回　IM

授精後50-100mg/回を１回

100-200mg/回を1-3回

分娩前30-14日に100mg/回を1-3日毎に反復

危険期の約3週前から100-600mg/回を連日

又は3日毎に10-15回

油性ｵﾊﾞﾌﾟﾛﾝ:

ﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ100mg/20ml

　

　

　

　

　

水性

懸濁

　

　

　

　

　

　

牛･馬:基準用量

牛･馬:習慣性流産予防

　

牛:受精卵着床障害

卵胞嚢腫

胎盤停滞予防

　

　

50-600mg/回　IM

危険期の約3週前から100-600mg/回を7-10日

毎に反復

授精後50-100mg/回を１回

100-200mg/回を1-3回｡又はHCGと併用を行う｡

分娩予定の30日前から500mg/回を7-10日毎に

2-3回

水性ｵﾊﾞﾌﾟﾛﾝ･20:

ﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ500mg/25ml

　

　

　

　

　

　

デポ

　

　

　

　

　

牛:受精卵着床障害

習慣性流産予防

　

　

ｶﾌﾟﾛﾝ酸ﾋﾄﾞﾛｷｼﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ ﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ

100mg + 　 10mg/5ml

100mg-200mg + 10-20mg/5-10ml

を１週毎に反復 IM

ｵﾊﾞﾌﾟﾛﾝﾃﾞﾎﾟ:

ｶﾌﾟﾛﾝ酸ﾋﾄﾞﾛｷｼﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ

100mg+ﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ10mg/
5ml

　

　

ﾚﾎﾟｼﾞ

碩

　

　

牛･馬:基準用量

牛･馬:習慣性流産予防

牛:受精卵着床障害

50-600mg/回 IM

　

　

　

200mg/5ml

　

　

　

膣内

挿入

　

　

　

　

牛:発情周期同調

鈍性発情

卵巣静止

　

　

　

12-15日間 膣内留置

７日 〃

12日 〃

　

　

　

CIDR:ﾌﾟﾛｹﾞｽﾃﾛﾝ1.9g/個

　

　

　

　

　

　

　ＩＭ：筋肉内注射

　

　

　

牛の発情誘起と同期化に関する最近の知見

　

１）外因性黄体ホルモンによる発情同期化

　

表．種々の外因性黄体ホルモン剤の投与期間と発情誘起・受胎率

　

投与期間(日)

　

頭数

　

発情誘起率

受胎率

　

　

　

　

　

妊娠数／AI頭数

妊娠数／試験頭数

０(無処置)＊

９

12

18

　

21

22

54

38

24

　

12

96％

70％

81％

100％

　

92％

68％

53％

65％

38％

低い

36％

65％

37％

52％

38％

　

33％

　

＊無処置群：21日以内の発情発現頭数の割合 (Beal,1996)

　

外因性黄体ホルモンの投与期間が18～21日から12日以内に短縮すると、同期化した発情における

受胎率が改善された。

　

　

２）Hanlonらの試験（Massey大,1996,1997）

　

Day ０ 12 14 16

　

△Ｅ２10mgｶﾌﾟｾﾙIVa ↑Ｅ２B0.5mg IM 膣内挿入

○:テールペイント

Ａ区

ＣＩＤＲ

　

○ ○ 発情発現時にAI 0.5mg筋注

ﾃｰﾙﾍﾟｲﾝﾄ 　:プラセボ筋注

AI:人工授精

Ｂ区 △ 　プラセボ

　

ＣＩＤＲ

　

○ ○ 発情発現時にAI

　

　

区

　

供試牛

　

発 情

受 胎

　

　

　

　

　

妊娠数／AI数

妊娠数／試験数

除去後48時間のAI

Ａ

　

乳用種未経産

343/357(96.1%)

196/343(57.1%)

196/357(54.9%)

168/357(47.1%)ａ

Ｂ

　

　

323/357(90.5%)

179/323(55.4%)

179/357(50.1%)

134/357(37.5%)ｂ

　

a,b：ｐ＜0.01

　

　

　

試 験

　

区

ＬＨサージ

　

排卵頭数

排卵の時間

　

　

　

発現頭数

ﾋﾟｰｸ濃度(ng/ml)

除去後の時間

　

　

LHﾋﾟｰｸ～排卵

除去～排卵

第１回

　

Ａ

Ｂ

7/7(100)

4/7(57.1)

7.9±4.2

11.7±6.0

40.1ａ

63.9ｂ、ｃ

6/7(85.7)

5/7(71.4)

22.1±14.5

10.8±15.1

64.0

72.0

第２回

　

Ａ

Ｂ

7/7(100)

7/7(100)

14.3±9.5

13.7±6.9

35.9ｄ

35.9ｄ

7/7(100)

7/7(100)

24.1±7.3

29.9±3.9

64.0

64.0

　

a,b：ｐ＜0.01 c,d：ｐ＜0.05

Theriogenology,45,775-785,1996;47,963-975,1997

　

　

３）Martinezら（Saskatchewan大､1997）の試験

　

Ｄａｙ

０

７

８

９

１０

１１

１２

Ａ

　

対 照

　

　

CIDR挿入

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

除去

ＰＧ

ＰＧ ＰＧ：PGF２αｱﾅﾛｸﾞ

5mgを12h毎

Ｂ

　

Ｅ２＋Ｐ

　

　

CIDR挿入

Ｅ２5mg+P50mg IM

　

　

　

　

　

　

　

　

　

除去

ＰＧ

ＰＧ

　

　

Ｅ２：ｴｽﾄﾗｼﾞｵｰﾙ

Ｐ ：ﾌﾟﾛｼﾞｪｽﾃﾛﾝ

Ｃ

　

ＧｎＲＨ

　

　

CIDR挿入

GnRH100μg IM

　

　

　

除去

ＰＧ

ＰＧ

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

Ｄ

　

排卵除去

　

　

CIDR挿入

卵胞除去

除去

ＰＧ

ＰＧ

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

供試牛：肉用種未経産牛

　

　

区

新卵胞波発現

発 情

排 卵

受 胎

　

平均（範囲）

頭 数

PG注からの日数

PG注からの日数

妊娠数/試験数

Ａ

3.5(-2～8)日ａ

17/18(94.4%)ｃ

2.3(1.5-4.5)日

3.5(2.5-5.5)日

14/18(77.8%)

Ｂ

3.4(3～4)日ａ

14/15(93.3%)ｃ

2.2(1.5-3.0)日

3.4(3.0-4.5)日

12/15(80.0%)

Ｃ

1.5(-1～4)日ｂ

12/16(75.0%)ｃ

2.1(1.5-3.5)日

3.5(2.5-4.5)日

11/16(68.8%)

Ｄ

1.0(0～2)日ｂ

11/17(64.7%)ｄ

2.5(2.0-3.5)日

3.9(3.0-6.0)日

11/17(64.7%)

　

a,b及びc,d：ｐ＜0.05

Theriogenology,47(1),145,1997

　

４）Martinezら(Saskachewan大､1998)の試験

　

　

試
験

　

ＤＡＹ

０

１～６

７

８

９

発情

受胎

１

　

　

Ａ

　

　

E２B+P

　

　

CIDR挿入

E２B1mg+P50mg IM

　

　

　

除去､

PGF２
α

IM

E２B1mg

IM

E２B注射後

30時間にAI

41/41(100)ａ

　

　

31/41(75.6)ｃ

　

　

　

　

　

Ｂ

　

　

GnRH

　

　

CIDR挿入

GnRH100μg IM

　

　

　

　

　

　

GnRH100μ
g

IM

GnRH注射
後

30時間にAI

23/42(54.8)ｂ

　

　

20/42(47.6)ｄ

　

　

　

　

　

Ｃ

　

　

対照

　

　

CIDR挿入

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

発情開始後

30時間にAI

35/42(83.8)ａ

　

　

16/42(38.1)ｄ

　

　

２

　

　

Ｄ

　

　

E２/E２

　

　

CIDR挿入

E２5mg+P100mg IM

　

　

　

除去､

PGF２
α

IM

E２1mg

IM

E２又はE２B

注射後30時

間にAI

26/33(78.8)

　

　

20/33(60.6)

　

　

　

　

　

Ｅ

　

　

E２/E２B

　

　

CIDR挿入

E２5mg+P100mg IM

　

　

　

　

　

　

E２B1mg

IM

　

　

　

35/36(97.2)

　

　

20/36(55.6)

　

　

　

　

　

Ｆ

　

　

E２B/E２

　

　

CIDR挿入

E２B1mg+P100mg
IM

　

　

　

　

　

　

E２1mg

IM

　

　

　

29/39(74.4)

　

　

20/39(51.3)

　

　

　

　

　

Ｇ

　

　

E２B/E２
B

　

　

CIDR挿入

E２B1mg+P100mg
IM

　

　

　

　

　

　

E２B1mg

IM

　

　

　

27/33(81.8)

　

　

21/33(63.6)

　

　

　

Ｅ２：エストラジオール E２B：安息香酸エストラジオール Ｐ：プロジェステロン

PGF２α：クロプロステノール500μg ＩＭ：筋注

a,b及びc,b：ｐ＜0.01

ＣＩＤＲ除去～発情発現時間：Ａ区48.6±0.4、Ｂ区63.7±4.4、Ｃ区65.1±3.3時間

供試牛：試験１；未経産牛、試験２；泌乳牛84頭＋未経産牛56頭 計140頭

Theriogenology,49(1),350,1998

　

　

５）照井ら（岩手大、小岩井農牧）及び今井ら（兵庫農共連）における試験

　

　

供試牛 DAY

　

０

８

１１

１４

発 情

受 胎

照井らイ）

(1997)

低受胎の

ホ種経産牛

Ａ

　

　

CIDR挿入

E２B10mg/5ml
IM

　

　

　

除去

　

　

　

　

　

除去後翌日 4/5
(80.0)

〃3日以内4/5(80.
0)

3/5(60.0)

　

　

　

　

　

　

　

　

Ｂ

　

　

CIDR挿入

　

　

　

　

　

除去

　

　

　

　

　

除去後翌日 3/5
(60.0)

〃3日以内4/5(80.
0)

2/5(40.0)

　

　

今井らロ）

発情不明瞭な

 　

除去5日以内

除去5日以内

40日以内

(1998)

黒毛和種牛

Ⅰ

CIDR挿入

　

　

　

　

除去

18/22(81.8)

12/22(54.5)

13/22(59.1)

　

　

　

　

Ⅱ

CIDR挿入

除去

　

　

　

　

7/11(63.6)

4/11(36.4)

8/11(72.7)

　

　

　

　

　

　

Ⅲ

　

　

CIDR挿入

E２B4mg/2ml IM

除去

　

　

　

　

　

　

　

　

18/27(66.7)

　

　

10/27(37.0)

　

　

21/27(77.8)

　

　

　

Ⅰ区：CIDR除去後５日以内に発情が集中し、その時の受胎率（受胎／AI頭数は12/18､66.7％）は良好。

　　　　しかし２回目の発情回帰と受胎性は良くなかった。

Ⅲ区：５日以内の発情率はⅠ区に比べてやや低かったが、その時の受胎率（受胎／AI頭数は10/15､66.7％）　　　　はⅠ区と同じであった。２回目の発情回帰は明瞭で、40日以内の受胎率は最も高かった。

　

イ）第90回日本繁殖生物学会 p134,1997/9/24-26（農大）

ロ）臨床獣医,66(8),18-21,1998

　

　

６）Lammogliaらの試験(1998)

　

　

区分

E２B用量

試験

Ｄａｙ

発情（％）

受胎（％）

　

(mg)

頭数

０

６

７

８

除去後120h＞ 21日＞

除去後120h＞ 21日＞

未

経

産

牛

0

0.2

0.38

0.75

14

15

14

14

IVP４

(CIDR)

挿入

　

　

PGF２α

25mg

IM

　

　

IVP４

除去

　

　

　

除去後

24-30

時間に

E２B IM

6/14(43) 7/14(50)

10/15(67) 13/15(87)

12/14(86) 13/14(93)

11/14(79) 12/14(86)

5/14(35) 6/14(43)

5/15(33) 10/15(67)

5/14(35) 9/14(64)

4/14(29) 9/14(64)

経

産

牛

　

0

0.25

0.5

1

13

13

14

12

IVP４

(CIDR)

挿入

　

　

PGF２α

25mg

IM

　

　

IVP４

除去

　

　

　

除去後

24-30

時間に

E２B IM

1/13(8) 1/13(8)

7/13(54) 9/13(69)

10/14(71) 10/14(71)

12/12(100) 12/12(100)

1/13(8) 1/13(8)

3/13(23) 3/13(23)

3/14(21) 3/14(21)

7/12(58) 8/12(67)

　

　

区分

　

E２B用
量

(mg)

試験

頭数

血中E２盆宛

濃度(Pg/ml)

E２B注射～

血中E２ﾋﾟｰｸ時間

E２B注射～

血中LHﾋﾟｰｸ時間

血中LHﾋﾟｰｸ

濃度(ng/ml)

LH三灼

発現頭数

未

経

産

牛

0

0.2

0.38

0.75

7

7

7

7

9.4

26.0

37.0

62.9

19.8

14.2

16.5

12.8

36.2

25.7

22.3

20.0

9.8

46.1

45.8

67.0

2/7( 28%)

7/7(100%)

7/7(100%)

7/7(100%)

経

産

牛

　

0

0.25

0.5

1

7

7

7

7

12.0

26.1

27.3

46.9

32.0

14.7

12.8

11.0

16.7

26.7

28.0

21.5

1.3

25.6

46.9

49.8

0/7( 0%)

7/7(100%)

7/7(100%)

6/6(100%)

　

供試牛：肉用種未経産　57頭(11.8-13.6カ月齢)、経産牛　52頭（分娩後30-60日、4-10才）

　

　IVP４７日間膣内留置＋６日目のPGF２α注射によって発情を同期化した牛において、IVP４除去24-30時　　間の安息香酸エストラジオール（E２B）注射は、血中E２とＬＨ濃度を増加させ、発情発現率と受胎率を　　向上させた。E２Bの適量は未経産牛で0.38mg、経産牛で１mgであった。

J.Anim.Sci.,76,1662-1670,1998

　

７）牛における発情誘起・同期化の方法

　

　(1)PGF２α１回注射

　　投与時期：発情後5－16日

　

(2)PGF２α２回注射

　　投与間隔：経産牛　14日、未経産牛　10日

　

(3)GnRH-PGF２α-GnRH－定時授精（Ovsynch法）

　

任意の時期

7日 48時間 24時間

ＧｎＲＨ--------ＰＧＦ２α-------------ＧｎＲＨ-----------定時授精

(30-36時間) (16-20時間)

100μg IM IM 100μg IM

　

(4)ＣＩＤＲ単独又は併用法

　

Day

０

６

７

８

９

１０

１１

(4-1)CIDR

(12-15日間)

挿入

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

除去

　

　

(4-2)CIDR

(10-12日間)

+E２B

挿入

E２B 5mg

IM

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

除去

　

　

　

　

　

　

　

(4-3)CIDR

(7日間)

+E２B+PGF２α

挿入

E２B 2-
5mg

IM

　

　

　

　

除去

PGF２α

IM

　

　

　

　

発情発見､AI

発情無い牛に

E２B0.5-1mg IM

発情発見､

AI

　

　

発情発見､

AI

　

　

(4-4)CIDR

(7日間)

+E２B+PGF２α

挿入

E２B 2-
5mg

IM

　

　

　

　

　

　

　

　

除去

PGF２α IM

　

　

除去後24時間

にE２B0.5-1mg

IM

　

　

　

　

　

　

　

　

(4-5)CIDR

(8日間)

+E２B+GnRH

挿入

E２B 2-
5mg

IM

　

　

　

　

　

PGF２α

IM

除去

　

　

　

　

　

　

　

発情発現時

GnRH100μg IM

約12-20時間後AI

　

E２B：安息香酸エストラジオール筋注、未経産牛は低用量、経産牛は高用量

E２B 0.5mg/0.25ml＋ビタロング・フォルテ2ml

E２B １mg/0.5ml ＋ビタロング・フォルテ2ml