肝蛭の異所寄生例       
                 NOSAI肝属  下村 雄二
<概要> 

  繁殖障害の治療中、肝蛭の異所(子宮内)寄生に遭遇。
<発生状況・経過> 

  平成7年11月、肝属郡内の繁殖農家(母牛:20頭)で、発情徴候は、正常であるが、3回授精しても受胎しないため求診。該牛は、2産歴で分娩後5か月経過していた.発情期並びに黄体期共に異常はなく、排卵促進剤等で加療するが、受胎に至らなかった. 黄体期に子宮洗浄を実施した所、洗浄液中に肝蛭の成虫(体長:20mm)を 1虫体確認する.また、糞便検査の結果、虫卵を検出した。

<予後>    子宮洗浄直後の授精で受胎.    肝蛭駆虫剤を投与。

<考察>   今回の症例は、偶然繁殖障害の治療中、子宮内より肝蛭の虫体が確認されたが、肝蛭の子宮内寄生が、必ずしも繁殖障害に結び付くかどうか疑問も残るが、洗浄直後の授精で受胎していることから、不受胎の原因は、肝蛭の子宮内寄生であると思われる。また、当地域は肝蛭の濃染地で、早期水稲地帯であり、当農家の場合8月中旬頃より新しい稲ワラを給与するため、感染の機会が多いと推測される。肝蛭の子宮内寄生の場合、異所寄生であるため虫体の寄生期間および寿命等不明な点も多いが、肝蛭の濃染地におけるリピートブリーダーの一要因として、今回のような例も考慮する必要があるように思われる。




黒毛和種肥育牛における甲状腺ホルモンの変動  
                       薩摩地区農業共済組合   米重 隆一

 近年、黒毛和種肥育牛において、肉質改善を目的として飼料中のビタミンAを制限する給餌方法が、一般的に実施され七いるが、それに伴い筋肉水腫をはじめとする種々の疾病が発生しており、その経済的損失には甚大なものがある。今回、当組合では、管内1肥育農場におけるビタミンA値の変動を調査するとともに、人において低下症になるとどタミンA欠乏症に類似した症状を示す甲状腺ホルモンについて測定を行い、同時に他の血液成分や肉質等との関連について検討した。

 <材料と方法>

 管内1肥育農場において無処置群32頭、処置群(添加剤投与区、注射区、後 期添加区、雌区)32頭に群分けし、出荷時まで概ね4〜5ケ月間隔で預静脈より採血した。ビタミンAはH P L C法、甲状腺ホルモン(T3,T‘1)は酵素免疫測定法により測定した。他の血液生化学的成分は血液自動分析機を用いた。

 <結果と考察> 

血清T3値は、肥育前期で増体重との間で正の相関(r=0.464,P<0.01)、肥育後期で脂肪交雑との間で負の相関(r=−0.549)を認め、肥育成績に深く関与している事が明らかとなった。また甲状腺ホルモン値は肥育月齢に伴って減少し、血清レチノール値の低下がその誘因になっている事が推察された。但し、レチノール値のある程度(50〜100IU/dl程度)の低下では、T4値はそれ程影響を受けず、T4から T3への転換(脱ヨード)が主に抑制された状態であり、レチノール値が欠乏値にいたるとT3値のみならずT4値も低下する事が明らかとなった。 さらに、血清T3値の低下とともにT・CHO値(r=−0.375,P<0.10)、HDLCHO値(r=− 0.394,P<0.10)、GOT値、CK値の上昇が認められ、代謝速度の遅延とともにこれらの酵素が体内に停滞している事が推察されたが、筋肉水腫発症牛においては逆にT・CIHO値、HDL−CHO植の有意(P<0.01)な低下を認めた。 以上のことから、黒毛和種肥育牛における飼料中ビタミンAの制限は、甲状腺ホルモンの低下を介して代謝速度を遅延させる作用のあることが推察され、筋肉水腫等ビタミンA欠乏症の症状発現に甲状腺ホルモンが少なからず関与している可能性があると思われた。



            胎児浸漬に対する外科的摘出と予後
                          NOSAI姶良 元村泰彦 

妊娠中期に起きた胎児浸漬例に遭遇し、外科的摘出を試み、その後良好な結果が得られたので報告する。

 症例:黒毛和種、9歳、分娩予定日がきているが白いおりものがありおかしいと連絡を受け、H6年12月5日初診。
直腸検査では、子宮は膨満しているが胎盤は触知されず、骨片らしきものに触れる。膣検査では外子宮口に若干の膿の付着を認める。胎児浸漬と診断しPG3ml投与。
12/17全く変化が認められないためPG3ml、ギナンドール2mlを投与する。
12/27排膿されており、子宮は小さくなり骨片が触知される。右子宮角が妊角らしく骨片のほとんどが入っており、外子宮口は3指幅しか開いていなかった。
l/9子宮切開術による骨片の外科的摘出を試みる。右けん部より開腹し、子宮を右けん部まで牽引し、右子宮角を切開し骨片を摘出する。左子宮角にも骨片が入っていたため左子宮角も切開し骨片を摘出し、子宮内は生理食塩水でよく洗浄し縫合する。
1/17抜糸する。
 2/24黄体遺残のためPG3mi投与。右子宮角は癒着する。
 2/28発情がくるがAIせず子宮洗浄し、抗生物質の子宮内注入。
 3/13黄体が形成されていたためPG投与。
 3/l8初回AI。
3/16妊娠鑑定するが受胎しておらず、黄体があったためPG投与。右子宮角の癒着がなくなっている。
 5/26発情がこないためイソジンの子宮内注入。
 6/23黄体遺残のためPG投与。
 6/26発情がきたため2回目のAI。
 7/19 3回目のAI。
 9/21妊娠鑑定で受胎を確認する。





  長期にわたり蹄跛行を呈した種雄牛の治療経過  
                   薩 摩 地 区 農 業 共 済 組 合      有木 洋一

<はじめに>

  種雄牛の運動器疾患は、その体重と使役の特異性から長期に及ぶ事が少なく ない。今回、管内に飼育されている一黒毛和種種雄牛が長期にわたり蹄跛行を 呈し、削蹄を中心とした治療の結果、良好な経過をたどったので報告する。

<症例>
 黒毛和種 種雄牛 年齢4歳 体重 900Kg

<経過と処置>
 1)1994年10月30日(初診):右後肢の支跛を呈し両蹄球部及び外側蹄璧 の亀裂即ち裂蹄を認めた。過去2、3回同様の症状を呈し間歇的に跛行を呈し たとの稟告を聴取す。蹄底の削蹄を行い十分な洗浄をした後、木タール包帯を 施す。次第に跛行軽減し亀裂消失す。過去の再発例より護蹄の為、馬油、木タ ールを連日塗布。
 2)1995年 9 月12日 :跛行顕著となり上診。裂蹄認めず蹄冠部わず かに腫脹し疼痛有り。抗生剤・消炎剤等注射、塗布するが変化認めず。]線撮影 にて中足し節関節より下端にかけての外方への屈曲を認め、この支軸のズレが これまでの跛行の原因と推測された。微妙に外側蹄が高く、慢性的に負重が均 等でなく、し骨が変形したことが予測された為、この支軸のズレの矯正を目的と して負重が両蹄面へ分散し、且つ体重が四肢へ分散するよう厳密な削蹄をした。 以後6回の定期的な削蹄により跛行消失し順調な経過をたどる。
 3)1997年1月 4日 :跛行再発、し間部に指頭大の肉芽の増生を認め 内科療法にて加療した結果、自然に肉芽は消失するが再発を繰り返す。ドライアイスによる肉芽組織の過冷却及び綿状キトサンの被覆にて支跛軽減し、以後 再発無く現在まで良好な経過をたどっている。

<考察>  長期にわたり蹄跛行を呈した黒毛和種種雄牛に対して削蹄を中心に加療し、 良好な結果を得た。種雄牛等負荷の大きい牛では軽微な支軸のズレが多大な影 響を及ぼすことも希でなく、あらためて削蹄の重要性が示唆された。





  子牛の尿膜管遺残症4例の外科的処置                                             
                             姶良地区農業共済組合 
               ○元村泰彦 永山作二 松崎和俊 高野浩明 西清二

 尿膜管は、通常、出生時には閉鎖、萎縮して膀胱尖部に痕跡を残すのみである。 しかし、この閉鎖が不完全の場合に、尿膜管遺残症等の異常が発生する。今回、尿膜管遺残症と診断された子牛4例に遭遇したのでその概要を報告する。

 症例1:ホルスタイン種、雌、生後1週齢頃より臍帯炎を起こし、患部より排膿する。4 ヶ月齢より頻尿を認めたため、尿膜管炎を疑い開腹手術を行う。開腹時、尿膜管の臍帯側の半分に腫脹が認められ、臍帯より尿膜管の炎症部位を摘出する。その後、腹腔内に膿瘍の形成が疑われ、再手術により膿瘍を摘出する。術後、開腹部術創の近くにゴルフボール大の腫瘤(結合織が増生したものであった)を形成したため切除する。その後は順調に回復する。

 症例2:黒毛和種、雌、生後3週齢頃に臍より尿の漏出を認める。臍帯の腫脹は特になく、生後1ケ月齢で開腹手術を行い、臍帯および尿膜管を膀胱尖より切除する。術後は順調に回復する。

 症例3:黒毛和種、雄、生後8O日齢頃に陰毛への膿様物の付着と臍帯の腫脹を認める。開腹手術を行い腫脹した臍帯および尿膜管を膀胱尖より切除する。尿膜管と膀胱は癒着しており、膀胱は肥厚、充血し、中には多量の膿汁を含んでいた。その後、抗生物質の投与により経過は良好であったが、生後140日齢頃に突然尿閉となる。再度開腹手術を行うが、腹膜炎を起こしており、腹水増量、腸管の癒着が認められた。膀胱は骨盤腔内に癒着しているものの破裂はなく、圧迫により尿の排出が認められた。このため、腹腔内の洗浄および抗生物質の投与を行い閉腹したが、症状の改善が認められず廃用処分とした。

 症例4:黒毛和種、雄、生後2ケ月齢頃に臍より尿の漏出を認める。臍帯、尿膜管、膀胱尖まで腫脹し、尿膜管には膿汁の貯留および癒着が認められた。しかし、膀胱尖より切除すると、膀胱粘膜への炎症の波及は認めらなかった。術後の経過は現在良好である。

 考察とまとめ:

尿膜管遺残症では、臍からの尿の漏出、二次的な臍帯炎、また細菌が尿膜管を上行することにより尿路感染症を併発する。通常、これらの治療は外科的に行うが、症例2のように感染がなく、臍帯からの尿の漏出のみが認められるものは、尿膜管を膀胱尖より切除することで予後が良好である。臍帯炎から尿膜管への感染が認められたものでも、尿膜管の切除により予後は良好であるが、症例1では尿膜管の腫脹部のみを切除したため、術後腹腔内に膿瘍の形成を生じたものと思われた。臍帯炎および尿路感染を併発したものでは、外科的処置と抗生物質の長期連続投与により症状の改善が期待される。しかし、症例3では外科的処置により一時的な症状の改善がはかられ発育も良好であったが、突然尿閉を示し、予後不良となった。尿閉の原因は不明であるが、、このような痘例では早期の発見による処置が重要と思われた。