第86回鹿児島県家畜臨床研究会
平成9年6月21,22日 於:霧島ハイツ 


  講演要旨

平成9年6月21日(土)

会長挨拶 帝王切開や尿石症の手術様式について

会員体験発表  

山本先生 パソコンによる獣医ネットについて  
パソコンによる情報整理・文献検索などに応用   インターネットやニフティなどの通信手段を使って情報の共有をめざす.  2万円の会費が必要と思われる. 

第一化薬 血液生化学分析機 ベトスキャンの紹介   全血を専用ローターに入れて分析. 12項目の測定可能.  コンパクトで臨床現場で使用可能. MgやビタミンAは測定できない. 


先生方講義    

川口先生 デンカ製薬  牛における発情・排卵の同期化と定時授精   
牛における卵胞波、優勢(主席)卵胞(Dominant Follicle)とホルモンとの関係   
PGF2αとGnRHを用いた乳牛における排卵の同期化:Pursley ら(ウイスコンシン大、1995)   
牛の定時授精のためのGnRHアゴニスト又はhCGの応用:Schmitt ら(フロリダ大、1996)   
GnRH又はhCGとPGF2α投与未経産牛における発情・排卵の同期化と定時AI又は発情確認後AIの成績:Schmitt ら(1996)   
GnRH-PGF2α投与法による乳牛の排卵同期化と定時人工授精  山田恭嗣、三原修正(北海道根室地区農共済、中春別支所) 

浜名先生 鹿児島大学  先天異常   
ファローの四徴を主徴とする心奇形    1839:口蓋裂 1842:尿道下裂 1848:口蓋裂、誤燕性肺炎併発 1848:左前肢多肢症   1855:側脳室拡張、白内障、股形成不全 1859:脳の形成不全(アイノ) 1861:頭部奇形   1867:慢性鼓脹、毛球 1871:発育不良、慢性腹膜炎 1872:発育不良、軟口蓋裂   1876:尿膜管遺残、腹膜炎、尿閉 1878:股形成不全 1882:大脳矮小化

堀井先生 宮崎大学 牛の腸粘膜に分布する粘膜型肥満細胞   
牛の腸管の免疫機構を研究中.肥満細胞は結合組織型(CTMC)と粘膜型(MMC)の2亜型に分類される.腸管に分布するMMCが「下痢」を発症させることは容易に想像されるが、詳細は不明である.そこで生後1日から9カ月齢の黒毛和種の腸管の十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸を調査. 全域でMMCが確認されたが、十二指腸で最も多く見られた. また、10日齢以  下のグループで多くのMMCが見られた. 仔牛の下痢にMMCが関与する可能性が示された.

平成9年6月22日(日)  蔵田会長  子宮捻転牛の処置と経過

先生方講義  

河西先生  消化管免疫機能と子牛下痢   子牛下痢のホスト・デフェンスメカニズム   
子牛の発育・成長・疾病を参考とした分類    
1)早期新生子牛期(出生から約10日)   
2)新生子牛期(10日〜約30日齢)    
3)幼弱期子牛(31日〜60日齢頃まで)    
4)育成子牛期(61日齢〜出荷まで)   
乳酸桿菌製剤カルバックの効果について    
Q&A&コメント  
寄生虫が関与した場合の子牛の下痢は悪化することが推察される.   
母牛のコクシジュウム感染症と子牛の下痢症多発の実例. 
アルコール不安定乳と子牛下痢.  下痢とアレルギーの関係は?  

上村先生 鹿児島大学  顆粒膜細胞種    
顆粒層細胞の腫瘍化. 成年型と若年型. 両側摘出が望ましい.   
イージーブリード(CIDR)について   
外国ではCIDR+エストロゲン10mgの併用型使用  発情と排卵の仕組み  CIDRと他のホルモン剤の使用 ET過剰排卵時のホルモン動態 CIDR抜去1日前にPGを投与すると発情が明瞭. PMSGの併用. HCGの併用.

会員体験発表  

乳牛の創傷性心膜炎の1例           NOSAT姶良  運天 朝哉
平成4年8月18日生まれ最終分娩平成8年5月15日平成8年8月19日食欲なく乳量低下したとの往診依頼あり 8/19 T39.1心音聴取困難、胸垂と下腹部に浮腫、頚静脈怒張、下痢便   RBC520万 WBC17,300 Ht29% Fib400mg/dl GOT137.2IU/l    γ−GTP194・1 IU/1 BUN19・9mg/dl TP8・3g/dl A1b2.5g/dl A/G O.8 8/20 先輩獣医の立会いもと、心膜腔穿刺によって心膜腔に増量した滲出液を取り除き還流法にて治療を行った.生食とマイシリンを使用した.以後27日まで同治療を行い、ドレインを除去し、経過を観察した.
第5,6肋間から心嚢穿刺によりドレインを装着し洗浄. 経過良好.  


NOSAI姶良 溝口 腹壁ヘルニア:イージーブリード
腹壁へルニア
本牛は昭和61年9月生まれ雌の黒毛和種乎成8年12月16日、左下腹部から右下腹部にかけ貯水様に膨隆.分娩予定を経過していたためPGにて分娩誘起.12/18自然分娩.食欲不振のため、12/27へルニア整復観血手術を試みる.
イージーブリード試用  
発情時の排卵が早い傾向にある. 卵胞嚢腫にも使用.

渕上先生 イージーブリード(CIDR)について  
卵巣静止や卵巣萎縮の黒毛和種95頭に応用. 使用期間は12−15日(普通14日、12日も実験)  除去後7日以内に発情が来たものを有効と判定.  82/95(86.3%)発情あり. 71/95(74.7%)に人工授精.  2,500円農家負担. 発情の来なかった例についても検討.  従来の治療に反応しないもにも有効であった. 長期不受胎牛にはやや効果が落ちるが、他の薬剤よりは有効ではないか.
Q&A&コメント   
受胎率についての検討はまだ行っていない.    萎縮傾向の牛につても応用しているが使用方法は様々である.    CIDR除去時は薬剤は使用していない.   CIDR応用は卵胞の老化の関係で12日以内が良いのではないか.   ETへの応用は試験段階. 使用期間については検討が必要.     長いと発情明瞭だが受胎率が悪い.短いと発情が不明瞭だが受胎率は良い.   膣炎については授精師に十分説明すること.  

質疑応答 (司会 祝迫・福元先生)  

CIDRとPGの併用方法  
CIDR抜去時に黄体があるときはPGを使わないと発情は来ない.  黄体が存続する時明瞭な発情を期待するなら、CIDR抜去1日前にPG投与が良い. CIDRにエストラジオールを混ぜる理由  LH放出の抑制か? 注射での投与時期・量は確定していない. CIDRの効果が認められなかった場合の対応  1週間後に直検をすべきである. 卵巣の動きが確認されたら効果ありと判定. 卵胞の大きさと受胎率の関係は?  卵胞の大きさと卵子の成熟度は直接関連性は無い.    獣医師・人工授精師の授精適期判定技術が受胎率に大きく関与. 
顆粒膜細胞腫の摘出は片方のみで術後の受胎を目指すべきでは.  

CIDRの卵巣嚢腫への応用  卵胞嚢腫の活動を低下させ閉鎖対抗させる役目をしているのでは.  形態的卵胞嚢腫と機能的卵胞嚢腫を区別すべき.  今後の研究に期待. 

CIDRのET移植への応用  CIDR8日間使用. 6〜8日目にFSH投与. 8日目抜去時にPG投与. 2日後人工授精    CIDRを移植時に使用 P値は15日間高く維持する. 実際の効果は今後解明.CIDR使用によって本来の黄体機能が減弱する心配はないか? 習慣性流産に対するCIDRの応用 CIDRなどの連続使用によって抗体の産生は無いのか.  ステロイドホルモン系はあまり抗体はつくらない. 
CIDRの料金  都城 3,000円 姶良 3,000円 伊佐 2,500円 往診・直検料は保険適用 

創傷性心嚢炎の治療法について  
心嚢穿刺により1週間生食による洗浄・マイシリンの注入を実施. 経過は良好.  心嚢穿刺液の性状により予後が予想できる. 手術前にパーネット投与する.  パーネットの回収にはコンパスを使用して位置をを確認する.噴門部での脱落を防止するためにはビニール袋を利用したり、引き上げ速度を調節する. 

下痢発症時の脱毛について  
骨髄抑制がかかっていないか. アレルギー反応ではないか(好酸球の動態).  脱毛因子(EGF:エピデノマルグロースファクター)の関与はないか. 

顆粒膜細胞腫を卵胞嚢腫と判断した場合HCG投与の影響はないか. 腫瘍化のため反応しないか. 卵胞の出来方と人工授精. 直検だけに頼らないで、総合的に判断し、人工授精すべき. ET移植時にCIDR・HCGを使うと受胎率は上がるのか. 

人工授精時の直検は有効か、有害か. 弊害も考慮すべき.  
膣弁の牛のその後の経過.子牛の血腫様疾患と皮膚のたるみ. 皮膚脆弱症か.違うのか. 子宮疾患と無発情の関連性も考慮すべきではないか.

浜名先生 学会案内 
9/29,30  九州地区産業動物学会(熊本) 
10/9    獣医画像診断学会(鹿大)  
10/10−12 日本獣医学会(鹿大) 1,000円 補助あり 
2/10−12  年次学会(福岡シーホーク)  8,000円 補助あり