○セミナー1
 牛の受精卵移植における過剰排卵誘起法       デンカ製薬 川口 擁先生

○体験発表
 卵巣実質インジェクターによる乳房動脈注射     NOSAI姶良 永山 作二先生
 薩摩家畜市場の現状                NOSAI薩摩 野尻 雄二先生

○製品紹介
 ウロストン(尿石症治療薬:ウラジロガシエキス製剤)      科 研 製 薬

○セミナー2
 ビタミンEとSeの臨床面への応用と基礎       共立商事 酒井 一二先生

○セミナー3
 鹿児島地区の黒毛和牛における第4胃寄生線虫感染状況
                  鹿児島大学 家畜病理学教室 安田 宣紘先生
○ ○○
セミナー1
牛の受精卵移植における過剰排卵誘起法
デンカ製薬 川口 擁
1、ETの現況(平成5年度)
1) ET実施機関は体内受精350機関、体外受精100機関、従事者は2,702人
                              H1対比で約1.7倍
 2)実施頭数は体内受精がドナー1l,618頭、レシピエント36,836頭、
            産子数10,230頭(うち双子864頭432組)
        体外受精がレシピエント6,264頭、産子数1,317頭
3) 受胎率は、体内受精で新鮮卵53% (1卵:51%、2卵:60%)
            凍結卵43%(1卵:42%、2卵:50%)
       体外受精卵では30%
2、ET関連のプログラム(資料P2図参照)
3、供卵牛の過剰排卵誘起法
1)過剰排卵処置
 1,FSH(アントリン)… 性周期の9‐14日に20―24AUを朝夕2回3日間の減量投与
                             [例5.5.3.3.2.2AU]
 1',PMS(セラルモン)‥・性周期の9‐14日に3,0001Uを1回IM
 2,PGF2α.…フェンプロスタレン l.5‐2mg
    クロプロステロール 0.75mg をGTH初回投与後48(-72)時間に1回IM
    ジノプロスト  25-40mg
3,受精 … 発情発現後2回AI
4,胚回収 … 第1回AI後7日(6―8)
 *1と1'の比較では1の方法の方が回収卵数、正常胚数ともすぐれている。
 * FSH 単味、FSH,LH 併用とも同量分割投与より減量投与法の方が回収卵数、
   正常胚数ともすぐれている。(資料P4)
2)胚回収後の処置
  PGF2α‥・採卵日の胚回収後フェンプロスタレン l.5‐2mg 1回IM 
     (多数形成の黄体退行促進と性周期の早期回復)
4、FSH減量投与法のいろいろ … 資料P5参照
   (補足)HMG(FSH:LH=50:50)による過剰排卵ではヒトで過剰反応による副作
      用が報告。現在ではFSH:LH=l00:1に変更

(参 考)
FSH1回投与法(過剰排卵)
   30AU/生食1-1.5ml+PVP(K30)30W/V%液10mlをよく混和し1回IM or SC
                          *FSH剤の調整は用時に行う
   FSH/PVP1回投与法では、FSH20AUよりもFSH25Uの方が回収卵数、正常胚数とも
すぐれている。(資料P6,P7参照)

5、Day7にHCG I,0001Uで排卵処置を行ったのち過剰排卵処置を行ったものは、
  HCG無処置群に比較して回収卵数、移植可能胚とも良好であった。
             Rajamahendran and Calder Ttheriog.40:99-109,1993
6、FSH・フェンプロステレンによる牛の過剰排卵誘起の新しい試み (資料P9図参照)
7、牛に杭インヒビン抗体を投与すると内因性FSHが大量にでてきて過排卵を
  起こす。 田谷先生 (農工大、Horumone Frontier in Gynecology,1(4),377)
       武富先生ら (Theriogenology 43(1),333,1995)

体験発表

卵巣実質インジエクタ一による乳房動脈注射
                         NOSAI始良 永山 作二先生
 1,富士平製卵巣実質注射器をディスポ注射器と接続できるように改造。
 2,注射針は狂犬針細を使用する。
 3,胴絞保定を行った方がよい。
 4,膣内に手を入れ左右の乳房動脈を捜す。(骨盤腔近くにある。)
 5,針を乳房動脈へ刺す。(なるべく下方より実施した方が、何日も実施可能)
 6,吸引し乳房動脈に入っていることを確認し薬液注入。(いったん入れば外れるよう
   なことは少ない)
長所と短所
  ドラッグデリハリーに優れ一人で実施できる。また静脈内投与不可の薬物も使用
  できる。しかし、膣内が細菌汚染の著しいときは実施できない。また片側3回が限度。

薩摩家畜市場の現状
NOSAI薩摩 野尻 雄二先生
 薩摩市場管内の受精状況は、第5隼福と神高福で50%。平均体重268s、平均価格
 約30万円で取引。母牛の父の系統では、忠福1,197頭、第20平茂1,032頭
 神高福617頭、宝勝383頭。気高系に忠福、神高福を後輩したものが高値で取引。
 現在、素牛の高齢化、人気のある交配種雄牛の不在などの問題もある。
製品紹介
ウロストン(尿石症治療薬:ウラジロガシエキス製剤)      科 研 製 薬
 特 徴
  牛の尿路結石(リン酸塩結石)の溶解・排泄作用を持つ
  用法・用量  牛体重100kgあたり1日l0‐20gを1〜3日間投与
  製 剤 内 容 ウラジロガシエキス50%の生薬エキス製剤
  ウラジロガシエキスの組成
      フェノール、タンニン、環状多価アルコール、糖類、脂肪酸
      フラホノイドなど(尿石・の溶解にはタンニンが関係)
 作 用  1,結石溶解作用(ph7のウラジロガシエキス中で直接結石溶解確認)
      2,結石形成抑制作用
      3,尿ph低下作用(0.5程度)
      4,消炎作用
      5,利尿作用
 毒性・安全性
      ラット(10g/kgBW)で極めて安全
      常用量で軽度の下痢と食欲不振が見られる場合がある
 尿石症の発生は最近では若干減少しているが、依然として年間2,000頭規模の事故が発生しており、また、と畜場に搬入された健康な黒毛和牛の80%が膀胱内に結石を有している。ホルでは46%。

結石の種類は、肥育牛ではリン酸塩結石が7割、のこりが尿酸塩結石、ケイ酸結石その他。搾乳牛では、ケイ酸塩結石が多い。(イナワラの倒伏防止剤由来)

有効率は発症牛で90%、潜在牛で60%

尿phは投薬後14日まで有意に低下、沈殿容積値は投薬後急激に上界し14日には元に戻る。

体重100kgあたり2.5gの4日〜20日投与で治癒7頭、良好6頭、中止2頭、無効1環であった。

800円/30g前後で製品化予定

セミナー2
ビタミンEとSeの醜床澗への応用と基礎
                           共立商事 酒井 一ニ先生
Seをめぐる経緯
 アメリカ東西海岸地方における癌多発の原因が土壌中のSe欠乏と判明
 人では癌、動脈硬化、高脂血症、心筋梗寒、糖尿病の誘因にV.E&Se欠乏が関係
 北海道日高地区に多発の子馬の白筋症の原因がV.E&Se欠乏
生体内抗酸化剤
 Seは分子量79の非金属元素、V.Eは脂溶性ビタミン
 両者とも全身の生体膜を構成する不飽和脂肪酸の酸化破壊を防止
 両者は相補関係にある
生体膜の構造
 長鎖脂肪酸とコレステロールとタンパクによって構成。このうち不飽和脂肪酸は
炭素結合にニ重結合が2〜3ヵ所あり、活性酸素*によって酸化されやすい。
 酸化された不飽和脂肪酸は、脂肪酸ラジカルとなり近隣の脂肪酸を自動酸化する。
こうなると生体膜は、変性し機能停止する。
  活性酸素…不安定かつ強力な酸化カを有する。スーパーオキサイド(02−)、過酸化
       水素(H202)、ヒドロキシラジカル(・OH)、一重項酸素(102)、の四種類
       がある。呼吸にうよって取り込まれた酸素は通常2―3%が活性酸素と
       なり害を及ぼす。ストレス、炎症、解毒の時には極めて多量の活性酸素
       が発生する。

活性酸素の除去物質(スカベンジャー)
 スーパーオキシドディスムダーゼ(SOD)、カタラーゼ、V,E、βカロチン、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH‐PX:Se四分子を含有)などの抗酸化剤が存在。

スカベンジャー欠乏時の症状
 子牛…骨格筋・心筋の細胞膜変性、白筋症、発育不良、虚弱、下痢
 成牛…下垂体ホルモン分泌細胞機能低下(受胎困難、死産流産、胎盤停滞etc)
肝硬変、種々の代謝障害

セレンの投与経路による吸収率
 経口投与では単胃動物85% 反芻動物30%
 糞尿中排泄量は、経口投与で60%、筋肉注射で僅か3.6%
各種疾病への応用
 1)胎盤停滞予防
    オキシトシン、PG、 Ca、 V.A, V.D, V.E, Se欠乏の他、感染により母子胎盤
   結合部位に増殖性炎、繊維性結合繊の増殖も原因となる。
    V.EとSeを分娩前3〜4週に注射(イエスイー10m1)で停滞予防
 2)受胎促進と卵巣疾患への応用
    V.E欠乏によって下垂体のゴナトトロピン分泌細胞が変性しホルモン分泌減少
    受精卵の着床に必要なプロゲステロンの顔雨声にV.Eは補酵素的役割
    着床不全牛や習慣性流産牛にV.E1,000-1,500IUで受胎(麻布大 Dr北昴)
    V.E単独よりSe併用の方が繁殖率改善(1984 オハイオ大 ハリソン)
V.E 1,000mgを分娩後20日にIMで初回受胎率 30% 向上、空胎期間 23% 短縮
                (長万部共済 松本知之VET)
3)乳房炎予防と体細胞数対策
   SeとV.Eの欠乏で乳腺上皮細胞膜の酸化破壊と細胞内リソゾーム膜破壊によっ
  て自己細胞を融解死滅させる。また同時にT‐cell,B‐cell,マクロファージ、好中球の
  活性低下をおこす。
   アメリカでV.E&Seを乾乳期に添加で分娩後の臨床的乳房炎が37%低下
   北海道十勝地区でSe,V.Eの注射で体細胞数が低下
4)白筋症の治療と予防
   白筋症発生牛舎では、潜在性白筋症(GOT,CK,LDHの上昇とくにLDH4,LDH5)が多数
  発生。そのうち10頭にV.E 300mg 1回筋注で2週間後は改善。
   V,E&Se 1‐2m1 1回注射で3〜7日で改善。
5)白 痢
   Se&V.E欠乏で膵リパーゼの分泌減少から脂肪分解低下で白痢発生(一条先生)
   白痢多発農家の仔牛にE‐Se 2m1 1回注射で治癒。非投与群は、抗生物質の
  投与でも白痢継続し2週間程度で起立不能   (岩手一関共済 石川VET)
6)慢性ケトーシス
   従来の治療で治療効果の上がらない慢性ケトーシス牛24頭にV.E500IUの連続
  or隔日注射でケトン体消失。機序は以下のように推測 
     a,下垂体ACTH、副腎コルチコイドの分泌回復で糖新生復活
     b,ミトコンドリア膜の保護でTCAサイクル回復、オキザロ酢酸合成と脂肪
       酸β酸化促進
     c,肝細胞内リゾチーム膜の修復でケトン体解毒が好転
*)E‐Seの投与量
   仔牛l‐2ml l〜2回、母牛で10‐20ml 1〜2回

セミナー3
鹿児島地区の黒毛和牛における第4胃寄生線虫感染状況
                  鹿児島大学 家畜病理学教室 安田 宣紘先生

 鹿児島地区における黒毛和種143頭の第4胃内線虫寄生率は、オステルターグ線虫36.4% 牛捻転胃虫7% 毛様線虫3.5%の順であった。

 線虫寄生が見られた黒毛和牛55頭における混在寄生例では、オステルターグ胃虫と牛捻転胃虫の混在 12.7% オステルターグ胃虫と毛様線虫の混在が 5.5% の順で多く見られた。3種以上の混在も5.4%に見られた。

 牛の年齢別寄生状況は、1歳未満で27.5% l歳〜5歳42.4% 6〜l0歳57.9% 11
歳以上72.7% と加齢に伴い寄生率は上昇した。

 第4腎内寄生線虫の季節別寄生率は、冬季(12―2月)に半分以下に低下した。しかし第4胃内寄生線虫性結節の保有状況は夏期(6―8月)に23.3%と低かったが、他の時期は、おおむね30%程度であった。