第78回鹿児島県家畜臨床研究会
SUMMARY
平成6年11月12・13日   (於:ホテルのき)

― CONTENTS−
● セミナーT
 @ニューキノロン系抗生物質;ビクタスについて……………………………大日本製薬
 Aプロダクション メディスンの活用事例と臨床現場(日本とアメリカから)
                  ……………………たくま家畜診療所 谷 峰人
● 体験発表
@ ヘルニア最前線……………………………………………NOSAI伊佐 諏訪 芳久
A 馬の混晴虫症………………………………………………NOSAI薩摩 有木 洋一
B 難産により発生した膀胱麻痺……………………………NOSAI姶良 元村 泰彦
C 下顎骨骨折について………………………………………NOSAI姶良 泊  義輝
D 歩行異常を伴う神経疾患について………………………NOSAI姶良 藤田 准一
E Production Medicine―酪農家の経営収支―…………  開  業   山本 浩通
● セミナーU
 @世界牛病学会の研究動向etc………………………… 鹿児島大学  浜名 克巳
 A家畜臨床繁殖に関して…………………………………… 鹿児島大学  上村 俊一
 BビタミンA欠乏とズル症…………………………………カルチノミン(研)河西 了吾
 C受精卵移植に関して……………………………………… 第一製薬   渡辺  有

記録・編集 NOSAI伊佐
セミナーT
ニューキノロン系抗生物質:ビクタス
                             大日本製薬
ニュー・キノロン系抗生物質
  Orbifloxacin(動物);ビクタス、Sparfloxacin(人)
@ 段階:G(-)菌に効果的。抗生物質、サルファ剤と交差耐性なし。
    代謝失活しやすい・組織侵襲性悪い→尿路感染症に適応。
A 段諧:代謝安定。組織移行性良くなる。
B段階:バイトリル。
    G(±)菌に効果的。旧キノロン系の10倍の力価。
    経口投与OK。代謝安定。
    組織移行性良好→局所及び全身感染症にも適応。
C段階:ビクタス。
Dこれからの問題点:耐性化八の対応。
         ・ニューキノロン系抗生物質耐性化の把握。
         ・使用方法の確立。
◎参照:「豚の大腸菌性下痢症に、対するニューキノロン系抗菌剤 AT-4526の効果」
    河原崎達雄  藤田 巧  服部篤臣  伊藤祐孝  鈴水隆春  椎原 隆
                        静岡県中遠家畜保健衛生所
   (日本獣医師会雑誌 第47巻 第7号:平成6年7月号 P.469〜473(1994)別刷)
    「哺乳豚の新生期下痢に対する注射用ニューキノロン系抗性剤オルビフロキサシ
    ン(AT-4526)の治療効果」
    浜名盛浩' 関根文雄  宮原雅教
                 群馬県農業共済組合連合会 中央家畜診療所
                (東北家畜臨床研究会誌 第17巻 1号 別刷)

プロダクション・メディスンの活用事例と臨床現場
(日本とアメリカから)
                      たくま家畜診療所  谷 峰人
A 私の現状 :繁殖検診・搾乳衛生・栄養管理・勉強会・研修旅行etc
B 日本の現状:個体検診とプロダクション・メディスン
       :共済Vetと開業Vet
C アメリカ :ニューヨークDHI
       :コーネル大学 Dr.Larry E.Chase
       :Dr.Andrew Johnson
●プロダクション・メディスン 10のメッセージ
 ・現状    1.需要は作り出すもの イメージはつくるもの
        2.生き残るためには絶えず目先を変えていく必要がある
 ・酪農家   3.一見どう見えようとも、それはつねに人の問題である
        4.タイミングがきわめて大切である
 ・獣医師   5.聞き手にまわる・誤りを指摘しない・相手に思いつかせる
        6.自分はどの程度重要か
 ・料金    7.コンサルタント業において一番大切な業務は、料金を適正に
          設定することだ
 ・システム  8.身軽さを保ち、煩雑な手続きをなくせ
 ・これから  9.顧客はすべての上にある
       10.とにかく全てはコミコニケーションから

体験発表
ヘルニア最前線
NOSAI伊佐  諏訪芳久 外
症例1 尿膜管遺残症
 畜主:大口市 K.T
 患畜:H4.3.28生 雌
 経過:H4.6.9初診、臍帯炎にて切開、患部洗浄の際、洗浄液が戻らず外陰部
    から膿液を排出、よって尿膜管遺残ではないかと疑い、鹿児島大学に相談し
    6.11鹿大にて尿膜管除去手術を実施。6.22抜糸治癒。
症例2 外側臍輪閉鎖不全?および尿膜管遺残Ope後のヘルニア
 畜主: 大口市 A.H
 患畜:H6.2.19生 雄  臍帯露出腫大(臍輪閉鎖不全?)を切開除去(6.6.23)
 経過:H6.6.10初診、臍帯化膿、単なる臍帯炎と診断し6.13切開手術、
    キトサンを使用。その後も化膿が止まらず患部洗浄の際、洗浄液の戻りが悪く
    腹腔内に樓管を認める。所内検討の結果、尿膜管遺残ではないかと疑い左兼部
    下方から開腹を実施する。抜糸(6.29)後経過良好となるも、7.13再度
ヘルニアとなりOpe、プラスチック板を使用したが9.3ヘルニア再々発
    9.7廃用とする。
症例3 臍静脈(肝円索)遺残症とヘルニア
 畜主:菱刈町 H.H
 患畜:H6.5.2生 雌
 経過:H6.7.1初診,ヘルニアと臍帯炎を認め化膿が腹腔内樓肝に通じる為、
    尿膜管遺残症を疑い、7.6開腹Ope、臍静脈遺残のため、それを除去後
    ヘルニア整復。7.16抜糸するも臍帯切開部化膿し再び臍ヘルニアとなる。
    現在観察中。
症例4 腸管膜ヘルニア
畜主:大口市 K.K
患畜:S57.10.1生 雌
経過:H6.6.24初診。疝痛症状で上診、T:38.0 P:64右肋9〜13Metal Sound。
   タカモルチン、1時間後パドリン投与するも症状かわらず。協議の結果、右方
   変位か腸捻転を疑い緊急0peを実施。結腸部の腸管膜が2指程裂けて、そこに
   結腸が進入し腸管膜ヘルニアを発症。変色した腸管の部分切除を考えたが、怒責
   強い等症状不良のため断念、ヘルニア整復後腸管膜縫合、閉腹する。その後補液
   等にて小康状態にて経過するも、排糞を認めず6.28未明死亡する。
剖検:ヘルニアした腸管の壊死。

馬の混晴虫症
NOSAI薩摩 有本 洋一
馬の混晴虫症は、主に指状糸虫(Setaria digitata)、稀に馬糸状虫(S.equina)の幼虫が前眼房に迷入して起こる疾病である。
 最近、馬の飼養頭数も少なくなり、その疾病に遭遇する機会も少なくなった。管内に、おいても現在1頭の使役馬が飼育されているのみである。
 今回その馬が混晴虫症に羅患したのでその外科的処置について報告する。
10.24 角膜白濁にて求診。
11. 1 アイボメックS.C。いろいろと保定を試みるが駄目だつた。
11. 8 鹿児島大学へ搬入。アトロピン、セラクタール2ml投与下、キシロカイン
      にて表面麻酔を施し古川式角膜鎖穿針にて虫体除去を試みた。術後、抗生
      物質点眼。
11.22 術後4日経過したがあまり著変なし。

難産により発生した膀胱麻痺
                      NOSAI始良 元村 泰彦
 食欲がないと連絡を受け往診したところ、4〜5人介助した難産により膀胱麻痺を起こしていた症例に遭遇したのでその概要を報告する。
 症例:黒毛和種、雌、2歳、H6.4.27 1産目分娩。
H6.5.10初診:T38.7食欲無く第一胃運動微弱、左腹部やや膨満、排便あり。第一胃
    食滞と診断し処置を行なう。
H6.5.12:症状が改善されないと連絡を受け往診。前回と症状はほぼ同様であったが、
    尾の挙上を認めた。
(直検)直腸に手を挿入時、左右両壁に腫瘤がありかなりの圧迫感あり。膀胱は膨満し
    緊張する。
(尿検)PH8.0他異常なし。
(膣検)膣壁の損傷がひどく腫脹する。
(血検)RBC 701、Ht38.7%、Hb3.9g/dl、WBC 8000、Cre.8.0mg/dl、BUN 47.6mg/dl
  処置:尿カテ留置、補液、抗生物質、ベサネコール等投与。
5.13〜2lまで尿カテを留置し、膀胱炎を起こしたため5.22より1日1回の導尿とする。
  この間補液、抗生物質、ベサネコール等の投与は適宜行なつた。
5.23〜25は薬物療法と同時に針治療を行なう。
5.26〜28は不在であった為他獣医師に往診を頼む。
5.29:膀胱の膨満はあるが以前ほどの緊張はなく、寝起きの時や運動時に少量ずつの尿
  の排泄がある為、本日で導尿を中止し運動を十分させ様子を見るよう指示し、
  今度調子が悪くなるようであれば廃用しようと畜主と話をする。
6.29:その後の状態を見に行くと、尿の排泄は運動した時などに少量ずつ排泄する
  状態であったが、一般状態は良好であった。

下顎骨骨折について
                        NOSAI始良 泊 義輝
 8.14ホルスタインがバケットにて受傷したと往診依頼あり。触診するに下顎骨々折
は間違いないと診断し、整復の為にレントゲンを撮った。X・P所見は下顎骨がぽっきり
と折れていた。整復は、起立位にてセラクタールで沈静をかけ、塩プロ局麻で傷口を
洗浄後ドリルで誘導穴を形成し骨螺子3本にて整復した。今回は、歯肉等の血行障害を
配慮してプレートを使わなかった。

歩行異常を伴う神経疾患について
              NOSAI始良 藤田 准一
 5.6、5月始めに35kgにて生まれた子牛がガタガタ振るえていると往診依頼あり。稟告
通り子牛の体全体が小刻みに振戦しており、更にその状態で後駆不安定ながらも歩行可
能であった。先天異常を疑いつつも採血して血検を行なった。著変といえはGOTが上昇
していた。
 6.7鹿児島大学の先生と同診。今回はCPKの上昇がみられた。
 7.7鹿児島大学の先生と再診。
9.8鹿児島大学へ搬入。
10.18解剖。
 今回の症例より振戦等の神経症状が見られるものは治癒は困難と思われる。

Production Medicine
―酪農家の経営収支―
                           開 業  山本 浩通
 青色申告にならって、今まで支出の50%程が飼料代にとられていた農家の経営プログラムをその農家と一緒に検討してみた。経営収支において一番足を引つ張つていた飼料費を削減すべく、購入飼料を今までと栄養価をほとんど変えずに低コストの自家配飼料へと変換してみた。これにより¥60/Kgだったものが¥34/Kgで出来る計算であった。
が、実際は諸々の要因により未だ成果は挙がっていない。しかし、ゆくゆくは良い結果が
でるものと思われる。
 今回演者がいろいろと関係書籍を読みあさっているうちに、なるほどというものがあったので紹介する。
●仕事の難易に関係なく依頼先の組織は、トップの意向に反することをアドハイスした折
 りは100%失敗となる。
●社長が心の底から納得し、その気になってくれることがアドバイスの決め手。
●経営コンサルタントとはトップ説得業である。

セミナーU
世界牛病学会の研究動向etc=
                         鹿児島大学  浜名 克巳
●世界牛病学会の研究動向
  ・臨床繁殖:エコー、代謝プロファイル、胚移植関連
  ・乳房炎:搾乳衛生と乳質向上
  ・感染症:BLV、BVD、BHV-1(IBR)の撲滅、BRSVとワクチン
  ・ワクチン:マーカーワクチン(リコンビナント)
  ・遺伝性疾患:BLADの撲滅
  ・診断:PCR法によるDNA解析
  ・治療:新抗菌剤、新殺虫剤、新駆虫剤
  ・欠乏症:I、Se、...
●現在の畜産の状況
 ・乳牛:飼養戸数は減少しているが飼養頭数は横這い。(40頭/戸)
 ・肉牛:飼養戸数は滅少しているが飼養頭数は増加している。
●獣医療法による体制の確立
 ・診療施設
 ・獣医師の確保
 ・獣医診療施設の相互の連携
 ・知識・技術の向上
 ・自衛防疫活動
・ 夜間・休日診療への対応           (参照:獣医師会報)
●ハードヘルス
 ・個体診療→予防獣医学→集団管理衛生獣医学
 ・定期的な農家訪問
 ・緊急訪問:爆発疾患への対応。TEL対応。
●Production Medicine
・ 畜産経営に対する総合的コンサルテーション
◎今後の方向
 ・国の基本方針の確立
 ・食料自給率の確定
 ・専業農家の育成と兼業農家の安定
 ・家畜共済制度の活用
 ・有害疾病の排除
 ・先天性・遺伝性疾患の排除
 ・食品の安全性
 ・農業・獣医師に対する社会の理解
◎産業動物獣医師への要望
 ・国民に安全で高品質の食品を提供する自覚
 ・個体診療技術の錬磨
 ・ハードヘルス・プロダクションメディイスンへの参画
 ・バイオテクノロジーを用いた生産性の向上
 ・動物福祉
 ・生涯学習
 ・海外交流
 ・産業動物獣医学会への積極的な関与
 
家畜臨床繁殖に関して
                  鹿児島大学  上村 俊一
表1 牛の黄体退行に用いられるPGF2α製剤の比較

品名 プロナルゴンF パナセランF エストラメイト シンクロセプト  SZ

成分名 トロメタミンジノプロスト ジノプロスト クロプロステノール フェンプロスタレン エチプロンストントロメタミン
含 量  5mg/ml(ジノプ) 2mg/ml 0.25mg/ml 0.5mg/ml 2.5mg/ml(エチプ)
黄体退行   ◎      ◎      ◎       ▲      ◎
平滑筋収縮  ◎?      ◯      ▲       ◎      ◯
物 性    天 然   天 然    類縁体     類緑体    誘導体
溶解性    水溶性   難 溶    難 溶     難 溶    水溶性
貯蔵法    室 温   遮 光    遮 光     遮 光    遮 光
休薬(牛乳) 1 回   1 回    1 日     1 日    1 日
投与量    15〜25mg 12〜15mg   0.5mg   1 mg   5 mg
類似薬         パナセランHi(5mg/ml)
餅杤掃(6mg/ml)

ビタミンA欠乏とズル症
                      カルチノミン(研) 河西 了吾
 ビタミンA欠乏(以下A欠)がBMSを向上させると、神話的情報が氾濫している。
統計的には血中VA濃度とBMS NOは負、肉色が正の相関関係ありと、多数報告されてきた。
これを現場では、A欠にすればBMSが上昇すると短絡的に解釈し、又、指導もされてきた側面を否定できない。
 獣医臨床の立場から見れば、A欠飼育をする科学的論拠と技術を持つに至っていない。
むしろ、否定的要索が多数報告されている。
 1つは脂肪組織における脂肪原料の取込、代謝(生成◆分解)、発育、蓄積等に対するVA
の生理作用の有効性の根拠が得られていない。
 次に牛体に及ぼすの被害が極めて大きく、ズル症1つをみても見過ごしえない。
鹿児島県→平成3年・ 4年 4.9%・6.4%の発生率であり、佐賀県では8.2%と5.6%にも達している。
 枝肉の廃棄は、1頭平均50kg(本県)、95頭中20頭の全廃棄(宮崎県)。その他急死、発育不良、DG低下、枝肉重量減少、キメ、シマリヘの影響ははかリ知れないものがある。
 Production Medicineからは、急死、盲目、神経症状、浮腫、水腫、食欲低下、易感染
性、ホルモン分泌や生体代謝機構への悪感作、上皮粘膜機能阻害、骨の成長阻害、尿石症
をはじめ病傷事故、死廃事故の多発要因として格好の題材と認識されるべきものと考える。
VA欠飼育の弊害を是正できるものは、臨床獣医師であると確信している。
●ビタミンAの2・3の情報
1) 日飼標(1987)のVA要求量は体重lkg当たり66IU、肝臓1g当たり2IU以上を欠乏と
 している。
2) 鹿児島県の和牛26頭のVAは、平均8.8±4.6g/dl(29.3±15.3IUに相当)、25頭は
限界値の20μg/d1(66.7IU)以下であった。(畜試→浜田竜夫)
3) VA欠時の血液と肝臓のVA濃度は必ずしも一致しない。(血液中3μg/dl以上)。
 10μg以下の強度の欠乏時には肝臓は1μg程度とみなし得る。
4)正常と見なす血液中濃度は限定しにくいが、30〜40μg/dl(87〜116IU)、50IUとの
 報告もある。因に1IUは0.344μgに相当し、カロチンは0.6μgとデュークス生理学に
 記載さあれている。2)の数値と4)とでは異なっている。(国際的には0.3μg=1IU)5)VAの体内蓄積部位は主に肝臓であるが、脂肪蓄積の進んだ肥育末期の牛では、
 肝臓以外の脂肪粗織に、ある程度の蓄積を否定できない。
 (ラットでは51%が肝臓、5%が血液、44%は他の組織に分布)
6)水腫、浮腫の成因に深くVAが関与するという文献や報告は皆無といえよう。病因
 論では、血液膠質浸透圧低下が中心である。その多くは低蛋白血症が原因となる。
 即ち毛細血管が血清蛋白質を透過させない事によって血液と組織間液との間に生じる
 浸透圧が、血清中のアルブミンとグロブリン濃度の低下で平衡が破綻して水腫が起こる。
  ヒト(タンパク質は7.3% pH7.4)の浸透圧は25〜30mmHgである。この内約20mmHg
 はタンパク質粒子である。原因として高度の栄養失調、ネフローゼ、肝臓障害等があ
 る。したがってズル症(水腫)はVA欠が病因の主なものとは言い難い。しかし、VAが
 治療的に有効である事実を私見として。
a) タンパク同化ホルモン作用のある甲状腺ホルモン、ステロイドホルモンのリセプターにレチノイ酸リセプター(VA)が類似している為、代謝的、機能的にタンパク質の同化作用が亢進して、低タンパク血症を改善するからであろう。
b) VAが上皮細胞の角化、萎縮、基底細胞の修復と増殖、新しく形成される細胞の
 成長と分化に関わる為、消化管上皮細胞とホルモン分泌細胞である基底顆粒細胞
 の修復、新形成、分化、成長が改善され、飼料中の菌体タンパク質の利用性が
 高まり、低タンパク血症を改善る。消化管ホルモンにはガストリン(幽門の
 G cell〜肉エキス、酒等に反応)、コレシストキニン(十二指腸のM cell→膵臓
 液分泌と胆嚢の収縮、アミノ酸・脂肪等に反応する。)
7)矢野はズル症の発生は、肝臓1g当たり1μgより更に低値でないと起こらない。
 正常レベルのVAが欠乏し低値限界に達するには6〜12ヶ月程度かかる。条件により
 変動幅が大きく、増体の良い13〜19ヶ月のVAの消費は大きい。
8)その他

●ズル症の診断
 既に紹介した森園論が実証されはじめたので、診断上参考の為概略を述べる。1stepと
してタンパク同化作用の強いテストステロンは去勢で、雌牛は肥育進行で卵巣機能不全と
なリプロゲステロンが、それぞれ生成能力が極端に制約される。したがって肥育牛の
タンパク同化能力は、副腎皮質由来のアンドロゲンに頼らねばならない。これが十分に機能しない個体は、相加的に低タンパク飼料によって低タンパク血症を起こしやすい状態に位置する。各種のストレス(VA欠etc)が加わると低タンパク欠症が発症する。
2stepは浮腫・水腫等が起きる。
3stepは循環血液量・腎血流量の低下が起こり、やがてレニン−アンギオテンシン−アルドステロン系に異常が生じる。異常の森園論説から診断のポイントは下記のようになる。
1)低タンパク血症 2)高K血症 3)高Na血症 4)尿の酸性化(正常pH8〜9)
 一般的な臨床症状としては、四肢又は蹄冠部の無熱・無痛性浮腫や腫脹が先行して現わ
れることが多い。肥育前期からVA欠の場合、角が太く、縦のヒビ割れ、自銀色等が見られる。またVA欠の各種症状も現われる。
 血液生化学検査で低タンパク血症が見られた場合、GPT・GGT・総コレステロール・尿素
窒素の低下があれば、ズル症の可能性が極めて高い。

●ズル症の予防
 岡・高橋・矢野をはじめ多くの提言がなされている。
1) VAの過剰投与はBMS肉色の点で禁忌すべきである。VAは脂肪・リポイドの代謝に
 関与している。特に肥育前期{こ影響が及びやすい。
2) 極端な欠乏は、DGおよび枝肉重量を低下させ、ズル症のみならず疾病の多発による
 損失ははかりしれないものがある。
3) 導入時→300万単位または1ヶ月100万単位を3ヶ月投与する。状況によっては
 2ヶ月後に200〜300万単位を追加する。概ね17・18ヶ月齢から24〜25ヶ月齢までVA
(カロチン)をカットする。
24〜29ヶ月齢に再度100〜250万単位の投与か、1月30〜50万単位を飼料添加する。

●ズル症の治療
1) 生前ズル症と診断されるか予見された場合、直ちに200〜250万単位の筋注または
 500万単位の内服。この際乳酸菌の死菌製剤かトルラ酵母剤の併用が食欲・肝臓機能
 の改善に有効である。
2)発症機序から副腎皮質ホルモンの応用が卓効を示す症例がある。
3)ズル症の多くは肝臓機能障害を伴うので、5%ブドウ糖液・ビタミンB群・副腎皮質
 ホルモンの併用も考えたい。
4)肥育末期は低タンパク飼料給与のため、要求量を充足されていない場合が少なくない。
 ルーメン・ミクロフローラの活性化・増殖目的で、易分解性タンパク質の給与が好結
 果をもたらすことがあ

受精卵移植に関して
第一製薬  渡辺 有

移植胚数 ランク 移植頭数 受胎頭数 受胎率(%)

  1   A    32   12   38
  2   AB   50   21   42
      BD   16   10   42
  3   BBD" 19   11   58   ";変性卵(アルコール変性)

・ 受精卵の透明帯を子宮に入れると妊娠黄体が持続する。(犬)
・ 胚をすりつぶして子宮に入れるとやはり妊娠黄体が持続する。(牛)
 →変性卵を一緒に入れると受胎率がUPする。
◎ プロゲステロン測定(ET後14日から)
A1個では90日から落ち始める。
B+Dでは120日から落ち始める。しかもAのみよりもP値が高レベルである。(受胎後の正常胚からの蛋白が、オキシトシンレセプターをブロックし、PGF2αの生成を押さえて妊娠を維持する。)