平成6年度第1回家畜臨床研究会(第77回)
平成6年6月11日、12日   日当山温ホテルのき

体験発表


1)心に残る帝王切開二例              日置共済  安村 悦朗 
2)黒毛和種子牛における胆汁性肝硬変の一症例    姶良共済  運天 朝哉 
3)子牛の膀胱破裂                伊佐共済  渕上 新蔵 
4)三症例の報告                 薩摩共済  米重 隆一 
5)姶良地区農業共済組合における受精卵移植事業の取り組み 姶良共済 橋口 稔
6)剖検にて肝腫瘍と思われた子牛の下痢症      川薩共済 岩下 光隆 
7)血清鉄、血清マグネシウムおよび妊娠期間の調査   開 業  岩付 忠和 
鹿児島県内における先天異常牛     浜名 克己 先生
伊佐地区より搬入された食道梗塞の症例−−−−−上村 俊一 先生
超音波画像診断装置を用いた馬(ポニー)の妊娠診断
消化管免疫機構と機能からみた和牛子牛下痢−−−−−−−−−−−河西 了吾 先生

牛の性周期におけるホルモン動態−−−−−−−−−−−−−−−−渡辺 有 先生
牛の妊娠、分娩時のホルモン動態




1)心に残る帝王切開二例              日置共済  安村 悦朗 先生
 一産どり肥育と著しい貧血(腹腔内出血)を伴う牛の帝王切開についての報告。

 産道よりの娩出が不可能と考えられた一産どり肥育牛の帝王切開が、順調に終了した
 と思っていたら、既に直腸断裂をおこしていた症例についての報告。
 しょう膜面が残っていれば(完全断裂でなければ)特に、治療は行わなくても予後が良好
 であるなどの意見がでた。尚、直腸断裂をおこした牛が、1週間生存しうるかとの質問
 があったが、再度カルテを検討してみたところ抗生物質の出荷制限期間が過ぎると直ち
 に廃用したとのことだあった。
著しい貧血を伴う牛の帝王切開についての報告。
子牛だけでも取り、母牛は翌日生存していたら廃用しようと考えていたものの、翌日母牛の経
 過が改善されていたため、抗生物質、止血剤にて治療を施したところ、第3病日に死亡
 した。病理解剖により子宮縫合部のい開、腹膜炎および腹腔内出血はおさまっていたこ
 となどより、手術前の予後判定術時の抗生物質の使用の有無、子宮の1重レンベルト縫
 合、途中からの方針変更など反省点があげられた。

2)黒毛和種子牛における胆汁性肝硬変の一症例    姶良共済  運天 朝哉 先生
 臍帯炎および白痢にて治療をおこなっていた子牛が、第26病日目に死亡し、病性鑑
 定の結果、先天性肝硬変であった症例の報告。
 胆管の十二指腸開口部がなく、肝硬変が著明で、組織所見では肝臓でグリソン鞘や
 小葉への線維の増生、固有構造の不明瞭化、胆汁栓と胆汁円柱などが認められた。
 反省点としては、普通の白痢などにも思わぬ落とし穴があり得るという慣れからくる
 診断ミスに気を付けようとのことであった。

3)子牛の膀胱破裂                伊佐共済  渕上 新蔵 先生
 近年、セリ市前の子牛に尿石症が多発しているとのことで、今回、閉塞による膀胱破
 裂と突発的事故による膀胱および尿管破裂を発症した症例の報告。
 膀胱破裂に対し、人工尿道を作成し、膀胱内にカテーテルを3〜7日間留置、また下
 腹部にカテーテルを2〜3日間留置し、けん部からの点滴により腹腔内の洗浄を行う
 手法などが発表された。
 膀胱内圧を上げなければ無理に膀胱縫合などを行わずとも、予後は良好とのことであ
 った。また、腹水は煮沸によって凝固するが尿は凝固しないことを用いた、尿と腹水
 の区別法も挙げられた。
 また、第四胃拡張症を疑った子牛が、開腹してみると膀胱および左尿腎が破裂しており
 水腎症を防ぐ目的で左腎臓を摘出し、左けん部からのアプローチにより左腎臓の摘出
 が以外に簡単であったことなどがあげられた。
 子牛の商品価値をあげるために3方活栓を用いた人工尿道による術痕の隠減法なども
 討議されたが、なかなか困難との見方が多いようであった。

4)三症例の報告                 薩摩共済  米重 隆一 先生
 創傷性疾患や腹膜炎を疑った妊娠四ヶ月強の発熱および食欲不振を伴った症例。
 内科的治療に反応しなかったため試験切開してみると、下腹部の1/3を占め子宮と
 癒着した袋状のものがあり、穿刺してみると、腹水臭を伴う黄褐色しょう液状の液が
 30Lほど採取された。予後不良と判定し該牛を廃用し、屠場にて解剖してみると、
 消化管や子宮には異常なく、袋状のものは厚さ2―4cmあり子宮壁の肥厚した感じ
 のものであった。
 尿石症についての報告。肥育牛の場合には、積極的に人工尿道口を作成し、良好な成
 績を挙げている。一方、生産子牛の場合出荷時に術痕を残さないなどの条件が価格に
 左右されるため、なかなか難しく成績の方も芳しくないとのことであった。また、後
 丹田、白会、気門によるお灸で間もなく排尿を認めたものの、一ヶ月後、再び発症し
 、死亡した症例もあった。
 尿石をおこさないうような飼育管理指導が重要であろうとの意見がでた。
 心嚢炎手術を行った5症例についての報告。
 反芻動物の場合、平圧下でも開胸手術が可能ということで手術を施した症例。
 1例は胸腔穿刺ごすくに死亡、2例は開胸後すぐに死亡、あとの2例は術後、3日目
 までと3週間程生存した症例であった。生存した牛は、術後頸静脈の怒脹や食欲の開
 腹をみたものの、ドレインのめづまり等で死亡したとのことであった。

5)姶良地区農業共済組合における受精卵移植事業の取り組み 姶良共済 橋口 稔先生
 採卵成績は良好であるものの、受胎成績が思うように上がらないため、移植関係者と
 検討した結果、ドナーの厳選、組合借り上げ採卵の確保、移植技術の向上、レシピエ
 ントの選択、卵処理衛生の向上、受精卵管理保存の徹底および農家指導の徹底などが
 挙げられた。
 供卵牛の系統についての質問があったが、資料を持参していないため、第2回臨研に
 て回答するとのことであった。
 また、前回の採卵成績が良好であった牛は2回目も良好である傾向にあるとのことで
 あった。

6)剖検にて肝腫瘍と思われた子牛の下痢症      川薩共済 岩下 光隆 先生
 下痢が慢性化し偽膜形成および強怒責をおこし死亡した子牛を解剖した結果、肝臓お
 よび肝門リンパの腫大が認められ、肝腫瘍であったのではないかとのことであった。
 死因が特定できなかったため、第四胃内の3x2x2cm大の毛球が悪影響をおよぼしたの
 ではないかと討議された。
 家畜保健所からの正式な結果報告待ちとのことであった。

7)血清鉄、血清マグネシウムおよび妊娠期間の調査   開 業  岩付 忠和 先生
 牛の血清鉄と血清マグネシウム値を調査し、血清鉄は100〜200mg/dl、血清マグネシウ
 ム値は1.5〜2mg/dlであった。 マグネシウムは購入飼料の多い多頭農家に低い傾向
 があり、各農家のマグネシウムレベルにあわせて飼料添加剤を給与するよう指導して
 いるとのことであった。
 また、最近牛の妊娠期間が延びてきているとのことで調査した結果、牛が繋留されて
 いる農家は、妊娠期間が延びるもの、短いものそれぞれであったが、放牧している農
 家は、ほとんどが妊娠期間の延長(平均7.5日)しており、全体の平均でも288日と
 、3〜4日持ち越す傾向にあるということであった。

先生方講義
鹿児島大学農学部家畜臨床繁殖学教授      浜名 克己 先生
 鹿児島県内における先天異常牛
  解剖しても特に異常を認めない発育遅延、虚弱の牛が大半を占め、以前のようなア
  カバネやチュウザンといった爆発的な流行はないものの、著しい発育遅延を呈した
  牛を解剖してみると側脳室拡張や水無脳症、アーノルドキャリ奇形を伴った脊髄二
  分症といった中枢神経異常や、著しい関節障害をもった子牛などスライドにて各先
  天異常の紹介があった。

鹿児島大学家畜臨床繁殖学教室助教授      上村 俊一 先生
 伊佐地区より搬入された食道梗塞の症例について
  切り干し大根により食道梗塞をおこした牛を、畜主が無理に推送したため食欲不振
  や頸部の腫脹をきし、食道破裂をおこしたのではと診断し、内視鏡検査、治療を依
  頼された牛の症例報告。
  2週間以上食べてない割には削痩はなくまた飲水欲はあるものの飲めない状態であ
  ったため胃カテーテルにて補給(不完全食道梗塞)した。搬入翌日にカテーテルに
  て挿入を試みるものの、食道胸部より先へは挿入できず、カテーテルに血餅や肉芽
  組織が付着していたが、それから3日後試みた時には、スムーズにより深く挿入で
  きたが食欲の開腹がなかったため試験的開腹を行った。
  第1胃からカテーテルを挿入してみると簡単に通過したので閉腹し、胃汁移植や内
  科的治療を行った。その後、やや食欲の開腹がみられたため内視鏡にて食道を観察
  してみると60〜70cmのところに炎症痕、咽喉頭部の腫脹が認められた。その後の
  経過も非常によく退院した。
  第一胃から挿入したから予後が良好であったのかとの質問があったが、よくわから
  ないとのことであった。また、今後食道梗塞に遭遇した場合、第一胃からのアプロ
  ーチはいかがなものかとの質問もあったが、手指の挿入等深くできないため、困難
  であろうとのことであった。

  超音波画像診断装置を用いた馬(ポニー)の妊娠診断
  3頭の馬を用いて直腸検査、膣検査を行ったあとエコーによる妊娠診断を行った。
  はるかぜ号(7才)、未経産(交配後32日)
   直腸検査、膣検査にて妊娠+の馬をエコーにて心拍等の確認ができ、順調な発育を
   呈していた。
  ドリーム号(7才)、2産(交配後42日)
   22日目で行うも、妊娠鑑定できず確認の意味で42日目で実施。はるかぜ号と
   同様。明らかな胎嚢、胎児を確認した。
  はるみ号(8才)、3産(交配後37日目)
   直腸検査、地区検査にて妊娠マイナス。エコーでも胎嚢確認できず。卵巣所見は
   黄体はなく、直径17、18mmの卵胞を確認。その後1週間程で発情して授精でき
   たとのことであった。
 参考として、胎嚢の直径=22x(排卵後日数-18)mmで表現でき、胎嚢は1日に2mm
 ずつ成長し、また、馬の卵胞は直径30mm程度で排卵するとのことであった。
 妊娠20日でのプロジェステロン値測定も有効であるとのことだった。

河西 了吾 先生
 消化管免疫機構と機能からみた和牛子牛下痢
  既知の免疫学や消化生理などでは説明のつかない下痢症が存在しているため、消化
  管を中心とした粘膜免疫についての講義。
  Tcellすべて胸腺由来と考えられてきたが、ヌードマウスにもTcellの存在が明ら
  かとなり、Tcellは胸腺以外でもTcellの分化が行われ、その場所として消化管が
  注目されている。
  消化管免疫装置(GALT)が粘膜免疫の中枢機関としてはたらいている。
1) Tcellの分化
2) 分泌型免疫系
3) インターロイキン等の内部環境の存在
4) 消化管上皮には消化管上皮リンパ球(ilEL)が存在しこれがTcellレセプター(TCR)を有している。
5) 粘膜免疫系の得意な調節機能
 a)経口的摂取抗原に対し、強い免疫反応が起こらないのはTcell依存性の反応
   や抑制であるらしい。
 b)消化管上皮内にM細胞が存在し、抗原に対し、絶えず反応している。
 c)経口免疫寛容現象が働いている。

 消化管免疫系について
  消化管粘膜には生体防御機構が存在しており、生体に対し好ましくない抗原は積極
  的かつ選択的に排除している。
  粘膜での生体防御システム
1) 非特異的な粘液や酵素などの活性物質の存在
2) 炎症反応による防御反応
3) 異物に対する特異的反応(免疫反応)
4) 粘膜表面では有害物質の侵入を拒み、組織内では侵入抗原の排除と過剰な生体反応の制御、組織の修復に当たるという2重構造を形成している。また、粘膜上皮細胞自体も積極的な免疫機能を有している。

 Mucosal barrier(粘膜関門)の生体防御機能
1) 粘膜表面は粘液層に覆われ、病原微生物や毒素、食物由来の抗原の侵入を特異的、非特異的に阻止している。
2) 粘膜層には細菌の鉄代謝を阻害するラクトフェリン、細菌膜を融解するリゾチーム、界面活性のある胆汁等の非特異的抗菌左様活性物質、過酸化水素代謝に関するベルオキシダーゼや各種消化酵素、分泌型Ig-A、リンパ球、マクロファージなどが含まれ、積極的な生体防御機能を営む。
3) 消化管内容物は絶えず流れ微生物定着阻止、有害物質の排除を行う
4) 腸内細菌叢(ビフィズス菌、大腸菌、プロビオン酸菌など)の定着に粘液に含まれる糖鎖特異性の報告がある。
5) 台帳粘液層に細菌接着分子として関与する物質も存在する。

 新生児のMucosal barrier
1) Mucosal barrierは成熟個体のものと新生児のものとでは組成が異なっている。
2) 新生児は全糖質量が少ない。(フコース;Vibrio choierae、アセチルガラクトサミン;Clostridium毒素の受容体)
3) 新生児は、母乳のS-Ig-Aが腸管粘膜の粘液とともに被覆し、受動免疫の形でMucosal barrierを形成して抗原の吸収を制御し、ラクトフェリンとともに協力な抗菌作用を発揮している。
4) 空腸上皮薇被毛の基底不管腔側細胞にあるIg-G受容体を介し、母乳中のIg-Gが消化されるこたなく血中に輸送される。
受動免疫は突然終止符が打たれる。(母乳中の上皮成長因子やステロイド糖が関与)
    消化管にはGALT(Gut Associated Lymphoid Tissue)がくまなく存在しており
    消化管からの侵襲に対し特異的に反応するIg-Aを産生するBリンパ球と抗原
    に特異的に反応するTリンパ球の分化と増殖がおこなわれる。
 GALTはMALT(粘膜関連リンパ組織)ともよばれる。
 粘膜免疫系は前進免疫系とは独立した免疫系である。
 粘膜免疫のホメオステイシスがくずれた時に下痢になり、凍結乾燥初乳や冷凍初乳に
 よる治療や予防は重要であり、またビタミンA欠乏によりムチンの減少がおこり、消
 化管粘膜の粘膜層が破綻するなどして下痢を発症する。
 免疫賦活剤としてレバミゾール投与も意義がある。2週間後に結果。

渡辺 有 先生
牛の性周期におけるホルモン動態
1) オキシトシン
黄体形成とともに上昇(15〜70pg/ml)、子宮内膜からのPGF2α生産を促進、黄体退行とともに減少、性周期にともなって変化。オキシトシンは黄体由来。
2) PGF2α
性周期の最終日まで基礎レベルは低値を示すが、発情前3〜4日から持続の短い間けつ的パルス(20〜30ng/ml)が出現、黄体が退行を始める。
3) プロゲステロン
排卵後3〜4日から上昇、11〜16日の5〜7ng/mlに達し、発情1〜4日に急激に下降、黄体は退行する。黄体は大小2種の細胞から構成され、小型細胞は黄体形成ホルモンに感作されるまでプロゲステロン産生能力は低いが、黄体形成ホルモン感作によりプロゲステロンを分泌する。
大型細胞は黄体形成ホルモンの有無にかかわらず、大量のプロゲステロンを分泌するが、PGF2αのレセプターを有し、PGF2αが作用するとプロゲステロン産生は急減する。大型細胞は黄体末期に増加し、小型細胞との比率が変化する。
PGF2αは大型細胞に作用し、大型細胞に作用し、黄体形成ホルモンのアデニールシクラーゼ激減を抑制する。
4) Gn-RH
抹消血中濃度の変化の測定結果は、血中濃度が低いことと血中の半減期が短いため、一致していない。
発情期に下垂体のGn-RHに対する感受性が高くなるが、エストラジオールとプロゲステロンの比率を変えても感受性は変化し、プロゲステロンは抑制的に、エストロジェンは促進的に働く。
Gn-RHは律動的に放出され、細胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンのパルスはこれに同調している。
Gn-RHに対する黄体形成ホルモンパルスの反応は、Gn-RHが域値を越えない場合反応しないが、卵胞刺激ホルモンは黄体形成ホルモンほど反応を欠くことはない。
黄体形成ホルモン分泌はエストラジオールによる抑制を受け易く、プロゲステロンが加わると増強される。
Gn-RHを一定濃度で連続投与しても、下垂体の脱感作のため黄体形成ホルモンの連続的な分泌は生じない。
パルス状に投与して初めて連続的な分泌が起こり、投与を中止すると直ちに黄体形成ホルモンの放出は止まる。
5) PSH
黄体形成ホルモンサージと同調する発情時の明瞭なピーク(90〜350ng/ml)が認められる。発情発現後、5.3時間で現れ、サージの持続は約9時間、サージから排卵まで約26時間と報告されている。
排卵サージの約24時間後に第2の小さなピークが、黄体形成ホルモンピーク後20時間現れる。
黄体期に20〜120ng/mlと比較的高いレベルを示すが、卵胞期に入ると徐々に減少する。プロゲステロンのパルスとほとんど同調し、両者間に密接な関連がある。
卵胞刺激ホルモンは牛の黄体からのプロゲステロン分泌を促進し、黄体中に卵胞刺激ホルモンレセプターの存在も確認されている。(プロゲステロン分泌刺激作用)
6)B-17β(エストラジオール-17β)
  エストロジェンにはエストロン、エストラジオール、エストリオールが存在する。
  卵胞から分泌される代表的なものはエストラジオール-17βである。
  エストラジオール黄体期の消長は卵胞の発育に伴って変化し個体差が大きい。
  排卵の1〜2日に鋭いピークを形成し、ポジティブフィードバックによって、下垂
  体の黄体形成ホルモン放出を促す。
  ピーク時の血中濃度は7.4〜22pg/mlに達し、その後急激な低下を示し数時間後に
  50%以下に下がり、排卵時は低値を示す。
エストロジェンの律動的パルスと黄体形成ホルモンのパルスの間には密接な関係がある。
7) LH
牛の性周期の黄体期には低い値(0.8〜4ng/ml)で経過し、排卵前黄体形成ホルモンサージのために急激に上昇し(8〜100ng/ml)、鋭いピークを形成、その後、また低値で経過する。
黄体形成ホルモンサージの残後の比較で、下垂体のかの黄体形成ホルモン量の約34%が減少する。
黄体形成ホルモンサージの発現は発情開始後約5時間で、サージの持続時間は約9時間、サージから排卵まで約26時間である。
黄体の急激な退行開始後、48〜60時間のプロゲステロンの下降に伴って黄体形成ホルモン濃度は徐々に上昇し、約48時間で約5倍に達する。
この48時間にB2-βも増加し約5倍に達するが、エストラジオールのピークは黄体形成ホルモンサージの引き金となる。
8)インヒビン
  牛では細胞中の顆粒膜細胞から分泌され、下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンを
  特異的に抑制すると考えられている。
  性周期では発情日数前より徐々に上昇し、卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモ
  ンサージ時に1回目のピークをつくり、黄体形成ホルモンサージ後の排卵誘起でイ
  ンヒビンは一過的に減少し、黄体形成ホルモンピーク20時間後、卵胞刺激ホルモ
  ンの第2のピーク後、黄体形成ホルモンピーク44時間に最高値を示す。
  さらに、黄体初期に波状のインヒビン分泌が有り徐々に減少する。

牛の妊娠、分娩時のホルモン動態
1) EPF(Bary Pregnancy Facter)
妊娠動物の初期血中にEPFが出現するが、妊娠維持に関する役割は未だ不明。
2) トロンボプラスチン
 妊娠14〜15日にヒツジ胚盤胞に存在し、黄体の退行を阻止することからPGF2αの産
 生又は作用の発現を阻止するものと考えられている。
3) プロゲステロン
 プロゲストロンは妊娠維持に最も重要な役割を持つ。
 プロゲストロンは黄体形成ホルモンの宝珠鬱を抑制し、妊娠中の排卵を阻止し、子宮
 内膜の着床準備および子宮筋の収縮を抑制する。
 牛で妊娠10〜18日のプロゲステロン値は5〜9ng/mlを示し、不受胎のもの(4〜5ng/ml
 )より存怠に高い。
 妊娠18日の胚のホモジネートが黄体細胞からプロゲストロン産生を増大することが
 知られているが、PGI2(Prostacyclin)1mgを牛の黄体に直接ちゅうしゃすると、その
 後14時間にわたって血中プロゲステロン濃度が上昇したとの報告があり、PGI2が黄
 体機能促進に働くことが明らかになった。
 また、PGE2はPGF2αの黄体退行作用を阻止する。
 妊娠後も子宮内膜からのPGF2α産生は非妊娠期と変わらないが、PGE2を産生(子宮
 内膜または胚?)し、PGF2αの黄体退行作用に拮抗するとの考えもある。
 妊娠後半60日にプロゲステロン濃度は徐々に低下し、分娩前1〜2日に急激に増加す
 るPGF2αによってプロゲステロンは急激に減少し、子宮収縮の抑制は解除される。
4) ACTHおよびコルチゾール
胎児のACTH濃度が急上昇うぃ、これによってコルチゾールが急増する。コルチゾー
 ルは胎盤の酵素系を刺激し、エストラジオールの子宮内膜からの解離を促進させる。
 (ヒツジはプロゲステロン→エストラジオールの機構がある。)
5) エストロジェン
 母体の血中プロゲステロンが低下しはじめるとエストロジェン濃度が増加し、エスト
 ラジオールに感作された子宮からのプロスタグランジンの合成が促進される。エスト
 ロジェンは分娩1〜4日前にピークを形成する。(500〜600pg/ml)
 また、エストラジオールは子宮のオキシトシンおよびPGF2αに対する感受性を高める。
 エストリオールは子宮頸管を軟化拡張する。
6) PG、オキシトシン、プロラクチン
 エストラジオールの管作により子宮内膜のプロスタグランジンの合成が増大し、子宮
 角先端部より頸管へ向かう短いパルスの収縮を開始、胎児を頸管方向へ移動させ始め
 るとともに、プロスタグランジンはエストリオールと共調的に子宮頸管融開に作用する。
 オキシトシンは子宮壁に対する胎児の機械的刺激により下垂対後葉から分泌が促進され
 、子宮平滑筋を大きく長いパルスで収縮反応をおこされ胎児を娩出させる。
 PGF2αは分娩の24〜48時間前に濃度が求償症するが、分娩前日にはプロラクチンも
 急上昇し、プロラクチンは分娩後3〜5日および18日前後にサージが認められている。

 胎児(羊水)のコルチゾールは非常に高いレベルにあるが、これは胎児の副腎から分
 泌されたものか、あるいは胎児のACYHが母牛の副腎を刺激してコルチゾールを分泌
 させているのかとの問いに、胎児のACTHが非常にハイレベルであって、これが母体
 の血中に入り、母体のコルチゾールを分泌させているのではないかと思われるとのこ
 とであった。
 分娩誘起の質問に対し、分娩は先ず、コルチゾールが上昇し子宮内膜からエストラジ
 オールを解離させる。ことエストラジオールに感作されないとプロスタグランジンや
 オキシトシンに対する子宮平滑筋の収縮もおこらない。よって、分娩誘起にPGを使
 うとPGの血中濃度は高くなるものの、エストロジェンに感作されていないため、子
 宮平滑筋の収縮が十分おこらず、胎盤停滞になるケースが多い。よって分娩誘起には
 エストロジェンとPGの併用が望ましいとのことであった。
 
 卵巣嚢腫に対するPGの卵巣注射は、排卵がしてから黄体化するのかとの質問があり
 、これは排卵せずに黄体化(5日)し、これはPGに対して反応するので嚢腫の治療
 は短縮できる(次の発情時に再び嚢腫になる可能性も)。妊娠鑑定のミスで、PGを注
 射してから流産防止は可能か、との問いに外因性のPGに対しては非常に困難であろ
 うとのことであった。
 PGF2αは黄体退行作用なのに卵巣注射ではなぜ黄体化するのかとの問いにおそらく
 2mgという大量のPGF2αを卵胞内にいれると、卵胞内ではPGE2が増加もしくはPGF2α
 からPGE2への変換が行われているのだろうとのことであった。
 PGF2αは肺循環で破壊されるとの定説であったが、破壊されるのはPGEのほうで、PGF
 2αは静注も可能とのことであった。
 エストラジオール1.5mgとPGF2α15mgの併用により、黄体の存在する鈍性発情の明瞭
 な発情の発現と高い受胎率が得られたとのことであった。
 授精卵移植の際、子宮頸管を弛緩拡張させるためズファジランの投与が良好な成績を
 おさめているとのことであった。
 排卵誘発としてのGn-RHの使用は、200μgではLHをほとんど放出させるため、分割も
 しくは100μg以下くらいの使用が良好とのことであった。