牛の呼吸器感染症?特に組織障害とその回復を考慮したコントロール

(岩隈 昭裕)

1.肺の組織

 牛の呼吸器においては「気管の気管支」が存在することで、一説には感染症からの防御のために右肺前葉を犠牲にしていると言われるほど、この部位は侵されやすい構造になっている。ガス交換の中心であるT型肺胞上皮細胞は障害されやすく再生能に欠ける。界面活性物質を産生するU型肺胞上皮細胞は、T型肺胞上皮細胞が障害を受けた場合、T型に分化するが、それには時間がかかる。そのため病原体を駆逐したあとも呼吸器障害が持続する期間があり、その期間の管理が重要である。

2.主な呼吸器感染症(BRDC)について

 BRDCはストレスにより容易にウイルスに感染するようになり、さらに常在的するマンヘミア・ヘモリチカが加わる、という複合病の形態を示す。また、マイコプラズマ・ボビスはBRDCの起因菌の1つとして重要な役割を果たしている。マイコプラズマ・ボビス感染により、他の病原菌の肺組織への侵入が容易になる。肺組織でのマイコプラズマ・ボビス検出率と呼吸器病罹患率・斃死率には相関があり、呼吸器病を悪化させることが示唆されている。

3.抗菌剤の科学的な適性使用

 抗菌剤治療により呼吸器症状が改善しても、肺組織はすぐにはダメージから回復しない。この肺組織修復に要する期間は生体防御機構が不十分であり、二次的な感染リスクが高まる。この時期を十分にカバーする抗菌剤の持続的投与が必要である。

<質疑応答>

Q:病変部から菌が排除されてから、さらに2週間くらい抗菌剤を投与する必要があるとのことだが、特に高価な抗菌剤を使用しているケースでは長期間の投与に抵抗があるが・・・

A:菌が二次的に感染しやすい時期をカバーするために抗菌剤の投与が必要。しかし、耐性菌の発生に要する期間も薬剤によって異なるため、同じ種類の薬剤を使用し続けるかどうかはケースバイケースである。

Q:仔牛導入時に全頭に抗菌剤を投与すべきかどうか?

A:原因菌によってどこまで感染が拡大するかは異なる。これもケースバイケースの対応をしていく必要がある。

Q:仔牛のワクチンは早期に投与すべきかどうか

A:ゴールをどこに設定するか、による。現在の投薬プログラムで問題がなければそれを継続採用してよいだろう。

牛の呼吸器感染症?予防戦略の科学的根拠?

(石川 真悟)

 牛の呼吸器感染症のコントロールの難しさは、主に複合感染が原因であることと、マイコプラズマに対するワクチンがないことに由来する。そこで呼吸器感染症の制御には、複合感染する前、すなわち免疫力が低下している段階での制圧が有効と考えられる。そこで、呼吸器の免疫機能を考慮した対策について検討した。

 牛呼吸器病(BRDC)は牛の死因の5割を占める。呼吸器粘膜での免疫を付与するのは、全身性免疫の注射型ワクチンでは難しい。粘膜ワクチンであるTSV-2は牛伝染性鼻気管炎(IBR)と牛パラインフルエンザ(PI3)を抗原としているが、現場ではその他の疾病予防にも有効であるようだ。TSV-2が効果を示す理由としては、牛の肺胞領域は自然免疫中心であり、自然免疫細胞はそれぞれの病原体に特異的な分子である病原体関連分子パターン(PAMPs)を認識することにより活性化される。TSV-2の構成成分はPAMPsとして機能し、自然免疫細胞を活性化することで、感染防御機能を向上させていることが考えられる。

 そこでTSV-2を投与した牛の気管支肺胞洗浄液(BALF)の成分を解析することにより、TSV-2が牛の粘膜免疫に与える影響を調査した。マクロファージの機能を観察した結果、貪食能は元から高かったため顕著な変化を示さなかったが、消化能の指標であるiNOSの発現が増加し、抗原提示能を持つMHCU発現細胞の増加、リンパ球・IFN-γの増加が認められた。しかし、サイトカインの産生能は上昇しなかった。以上の結果から、TSV-2がケモカイン産生を促進し、リンパ球を肺に遊走させ、リンパ球が産生するIFN-γによってマクロファージの活性化が起こると考えられる。

 次にTSV-2投与によるケモカインの産生およびIFN-γを介した肺胞マクロファージの活性化を確認するため、in vitroで肺胞マクロファージにIFN-γを投与したところ、抗原提示能、消化能、サイトカイン産生能の上昇が確認された。TSV-2投与によるこうした自然免疫の活性化は投与後7?14日後に起こることがわかった。

 また、輸送熱に対するTSV-2の予防効果について調べるため、長期輸送前の黒毛和種子牛にTSV-2を投与しIFN-γ濃度を測定した。IFN-γ濃度は未処置群では末梢血中で低下し(生体防御機能低下)、鼻腔スワブでは増加したが、TSV-2投与群では、末梢血中IFN-γが維持され、鼻腔スワブ中では未処置群より増加した。よってTSV-2の投与により、生体防御機能の維持と鼻腔内免疫機能の増強が起こり、BRDCの予防効果が期待できることが示唆された。

 しかし、個体の栄養状態やストレスの程度によってはPAMPsに反応できないケースも想定される。ドラクシン投与による予防効果を検証したところ、肺胞におけるリンパ球割合の増加と鼻腔内スワブによる検出病原体の減少が確認された。

 以上よりTSV-2とドラクシンの投与がBRDCの予防効果を示すことが示唆された。

<質疑応答>

Q:TSV-2は生後すぐ投与が効果的であるという話があったが、、、

A:今回の実験では、規定通り生後1ヶ月で投与した。今後生後すぐの投与でも試す予定である。(岩隈先生補足:すでに海外では生後すぐの投与が承認されており、国内においても生後すぐの投与で効果が確認されている)

Q:肺胞内IgAは上昇しないのか?

A:IgAも上昇するが、メインは肺胞マクロファージの活性化である。

Q:投与量を減らしても良いか?

A:ある程度なら減らしても効果はあるが、どの程度まで減らせるかは分からない。サイトカインが関与しているため免疫増強による効果が見込まれる。

Q:免疫を活性化すると、エネルギーがそちらに取られて発育に支障は出ないのか?

A:分からない。

Q:投与して効果がある期間はどのくらいか?

A:自然免疫の免疫記憶で能力が維持されている可能性もある。しかし、ストレスがかかる1週間前くらいに投与するのがベストである。

Q:下痢対策として生後2、3日で投与しているが、その後も投与して良いか?

A:2回目投与の2週間目でもまだ免疫増強効果が確認されている。

Q:なぜ下痢に効くのか

A:明確には分からないが、呼吸器病を抑えることで全身の免疫が向上しているのではないか。局所の免疫を刺激すると他所の免疫も向上することもある。ただし鼻腔と消化器の免疫に強い相関は認められていない。

Q:自然免疫にブースター効果はあるか?

A:ヒトではあることが証明されているため牛でもあるのではないかと推定されるが、今回の実験ではまだ確認には至っていない。自然免疫の場合は抗体量で免疫力を測定しているわけではないので、何を持って自然免疫のブースター効果があると言えるのか検討する必要がある。

3.  鼓室の切開・第4胃アニメーション・3枚ドレイプ・尿膜管遺残による膀胱破裂

(山本 浩通)

(1)鼓室の切開

 「家畜診療」で紹介されていたる鼓室胞切開手術を実施したので報告する。外耳孔と外眼角を結ぶ直線と角から下ろした垂線との交点から腹側方向に約 7cm皮膚切開後、この切開部の中心から尾側方向に T字になるように約 7cm皮膚を切開し、電動ドリルにて鼓室胞を切開し、チューブを用いて数回洗浄を行う。斜頸とふらつきを示し、中耳洗浄で効果が見られなかった黒毛和種牛に処置を行ったところ、症状は多少改善したが、増体不良により転売された。次に、神経症状の見られる中耳炎の黒毛和種牛に同様の処置を行ったところ、完治は認められなかったが、神経症状は消失し、状態が改善した。

(2)第4胃変位アニメーション(モントリオール大学HPより)

 第4胃変位の病態と治療を開設するアニメーション動画が公開されているので紹介する。1手法30秒程度の動画で大変わかりやすく、おすすめである。左変位の牛を仰臥位にすることで第4胃を正中に移動させ、穿刺によりガス抜きをする手法、第1胃を下方から持ち上げながら第4胃を整復する手法(大柄な牛や、重度のガス貯留のある牛では難しい)、第一胃後方からアプローチする方法、捻転の整復過程などがCGで解説されている。

(3)3枚ドレープ

 複数の胃切開では、胃内容物によりドレープが汚れがちである。ドレープを三枚重ねて、術野の窓を囲むように接着剤で固定し、ひとつの切開を終えるたびドレープをはがすことで、常に術野周囲を清潔な状態に保つことができる。

(4)尿膜管遺残による膀胱破裂

 尿石症によると思われる尿道バイパス形成術が施された子牛が、その後、重度の腹部膨満を呈したため開腹した。腹腔には尿と思われる液体が大量に貯留していたが、膀胱の裂け目は不明であった。遺残していた尿膜管を切除した。結石の存在を想定し、膀胱の中を洗浄した。その後排尿は正常であり、術後の経過は良好である。

※ライングループのお誘い

乳牛、黒毛和種それぞれの若手農家を対象にライングループを作り、情報共有を行っている。会員の顧客にぜひ参加を促してほしい。

4.  乳頭腫の外科的除去

(田崎 拓昭)

 乳頭腫の外科的除去について、術式と病変部の変化を画像で紹介する。術前に、パピノンを飼料に添加している。麻酔を使用すると出血が多くなる傾向があるため、無麻酔で処置している。乳頭腫は鋭匙あるいは鉗子で除去する。切除した乳頭腫の写真が示すように、病変部は内部にも食い込むように存在しているため、結紮を施す際は取り残しに注意する必要があると思われる。除去直後の出血はほとんどない。競り30日前までに処置すれば、競り時には傷跡は消失する。

<質疑応答>

Q:鋭匙の使用方法は?

A:足や背中など、皮膚の硬い箇所の乳頭腫を除去する際に用いる。埋まっているところまで鋭匙の先でくり抜く。

Q:切除後の処置は?

A:基本的には無処置。ヨード剤を噴霧する場合もある。

5.  頂まで登った職人臨床獣医師 蔵田先生の物語?自己がしたいことをしたら社会貢献になった豊饒な人生?

(赤星 隆雄)

11年もの間、鹿児島県家畜臨床研究会会長を勤め上げた蔵田先生の個人史を紹介する。

20歳:曽於共済に組合事務員として就職

21歳:農家より名評判がたち、個人で診療に赴く

22歳:共済組合退職。日本大学に半年の勉強で合格。

25歳:冷凍庫のアルバイトで冷凍病になり、学科試験で字が書けず留年。

26歳:外科をはじめとする専門科目は得意であった。

30歳:比良先生(現獣医師会副会長)、赤田先生が蔵田先生のもとで修業開始。

35歳:獣医師として就職してから7年目に独立。

to be continued…

6.  牛のコクシジウム症の病態とその治療

(桐野有美)

黒瀬らにより報告されているように、従来の治療法にデキサメサゾンを併用することで、コクシジウムによる出血性腸炎の治療期間が短縮することが知られている。これを踏まえ、コクシジウム症の動態と治療方法について検討する。

 腸管のホメオスタシスは粘膜免疫応答、筋層神経系、腸内細菌叢の3機能のバランスで成り立っている。腸管のホメオスタシスをつかさどる要素は互いに依存しているため、1つが破綻すると相互連鎖的に他の要素も乱れていく悪循環に陥るが、コクシジウム症の病態がまさにそれであると考えられる。

コクシジウム感染モデル(マウス)において、腸管の粘液を分泌する杯細胞の減少および腸管輸送速度の遅延が認められた。すなわち、コクシジウムが関与する出血性腸炎の病態には、病原微生物の増殖に加えて、杯細胞の減少および消化管運動障害も関与していると考えられる。牛の出血性腸炎自然発症例において、コクシジウムのオーシストを大量に排出している発症牛でのみクロストリジウムが検出され、さらに対照群に比べて大腸菌群数が有意に高かった。ただし、出血性腸炎を呈しながらもクロストリジウムが検出されない牛も見られた。現在、さまざまな腸管病原性細菌およびウイルスをターゲットにした遺伝子検査で、この病態に関与する病原体を調べているところである。

病原性細菌の毒素は筋層部マクロファージを活性化し、炎症反応としてIL-βやTNFα、iNOSの産生により消化管平滑筋の運動が抑制されるとされている。蠕動運動が抑制され、腸内容物が長期間停滞すると、悪玉菌の定着・増殖が促進される。デキサメサゾンはこうした現象を抑えることで症状の重篤化を防ぐ効果があると考えられるが、免疫抑制を考慮して慎重に使用すべきである。馬で承認されているモサプリドは、消化管運動抑制を回避することが期待され、現在牛での承認に向けて試験が行われているとのことである。

 抗コクシジウム剤によるコクシジウム自体へのアプローチだけでは悪循環を止めることができないことが想定される。抗菌剤やステロイドなどを併用することにより、病態への多面的アプローチをしていく必要がある。

<質疑応答>

Q:クロストリジウムの治療の際の抗生物質の感受性はどうか?

A:βラクタム系の抗菌剤で十分効果があると思われる。

Q:血便が治らない時はずっと止血剤の投与を続けるのか?

A:血便に対する治療は、抗コクシジウム剤、抗菌剤、抗炎症剤の全身投与が基本となると考えられるが、長引く症例では他の投与ルートや補助的な治療法など検討すべきであると考える。

Q:コクシジウムの治療で下剤はどうか?

A:下剤による効果に関する報告は見たことがないが、プリンペランによる消化管運動促進で一定の重症化予防効果が期待できるとの説がある。

Q:モサプリドは一般発売されているか?

A:馬用で大日本住友製薬にて発売されている。牛への承認に向けて動いていると聞いている。

Q:モサプリドの投与量は?

A:牛での投与量についてはまだ検討中であると思われる。

Q:モサプリドは腸管の平滑筋に特異的か?

A:メカニズムや受容体の分布を考えると胃の蠕動運動にも効果がある可能性がある。馬で疝痛などに有効であるが、牛では不明である。

Q:デキサメサゾンの新生仔での投与方法は?

A:目的にもよるが、0.02ml/kg程度で重症化の防止効果があると考えている。

Q:慢性下痢でのサルファ剤の効果はどうか?

A:糞便検査などで効果を確認しながら薬剤を選択し、連続投与による腎毒性にも注意すべきであると考える。

Q:プレドニゾロンとデキサメサゾンはどちらが良いか?

A:ヒトではデキサメサゾンの作用時間の方が長いとの報告あり。

Q:500kgの牛にデキサメサゾン1〜2ml程度で効果はあるのか?また投与量決定の理由は?

A:経験的に、なるべく少ない量で効果を得られる投与量を模索した結果であるが、病態のステージなど考慮して検討すべきだと思われる。

Q:セリ前の下痢への対処法は?

A:病態がどの程度まで進んでいるかによって薬剤を選択すべき。炎症の悪循環があるようであればステロイドも検討してよいのでは。

7.  TSV2と特殊な飼料添加剤による予防管理

?臨床現場での投与試験(栄養管理としての使用例)?

(五位塚勝利)

1.

 農家での家畜管理指導は獣医師による衛生管理、飼料関係営業員による栄養管理、JA技術員や先輩農家からの助言による飼養管理の3要素で成り立っている。今後は衛生管理に重点をおいた基礎診療に加え、高度診療(栄養管理、MPT、超音波診療、予防業務診療)を行っていく必要がある。これは、農家のニーズの変化に応えると同時に、近年の成績優秀な獣医学生に、大動物の臨床現場においても科学的根拠に基づいた高度な技術の提供が可能であることをアピールすることにつながる。しかしながら、こうした高度技術サービスの提供を一人の開業獣医師が一手に引き受けるのは困難である。そこで、当研究会のようなグループで技術をもちより、ニーズに応じてチーム獣医療を展開することが望ましいのではないかと考える。

現在、発表者が得意とする栄養管理のよる疾病予防に関し、飼料添加物や、ルーメン内フローラや腸内フローラを改善する混合飼料の効果を評価中である。詳細な臨床データについては次回以降に提示予定である。

2.

 牛に対して、TSV-2とドラクシンによる呼吸器症状の予防管理を検討した。一番ストレスを感じる離乳時(生後一か月)にTSV-2とドラクシンを併用投与したところ、投与後2週間の呼吸器症状発生率が大幅に減少した。費用対効果の面からもこれらの併用は有効である。

<質疑応答>

Q:指導料はどのように決定していくべきか?

A:基本診療にコンサルタント料金をプラスして請求する。分野ごとに専門家を紹介し、チーム獣医療として連携をとっていくのが望ましいと考える。

Q:TSV2とドラクシン投与のタイミングは?

A:新生子を集団に導入する2、3日前がよいと考えられる

8.  採卵及び人工授精の新しいアプローチ

(綿屋 健太)

 

人の医療において、卵子の凍結保存技術が利用されているが、家畜生産における生殖工学を用いた胚生産技術は畜産物の付加価値をあげていく上で必要不可欠である。

 体内受精においては、過剰排卵措置を施した牛に人工授精を行い、胚回収・移植を行う。体外受精では、生体内から卵子を回収する生体内卵子吸引(OPU)を行い、卵子を体外成熟させ、体外受精・培養を行った後に移植を行う。

 体内受精のメリットとして、器具が安価であること、凍結以外の設備投資が不要であること、技術が広く普及していること、比較的受胎率が高いことが挙げられる。一方デメリットは、過剰排卵処置における卵巣反応性に個体差があること、繰り返し実施には2ヶ月の間隔を置く必要があること、妊娠中や卵管疾患のある個体には適用できないことなどである。

 体外受精のメリットとして、妊娠中の採卵も可能であること、短い間隔で繰り返し採卵が可能なこと、体内受精による採卵より生涯胚生産数が多いこと、卵管疾患や排卵生涯の個体にも適用可能であることが挙げられる。デメリットは、受胎率が体内受精にくらべると低いこと、初期投資がかかること、技術の普及が不十分であることである。

6か月間の胚生産効率を比較すると、体外受精の方が圧倒的に高い。

 OPUは、非侵襲的な卵子回収法として広く使用されている。経腟用プローブの先端から伸びる採卵針を卵胞に穿刺し卵子を吸引する。吸引した液中の卵の検索→成熟培養→体外受精→体外発生培養→凍結→移植といった流れで行う。吸引してすぐに新しい卵胞ウェーブが立ち上がるので、3〜4日間隔で実施することができる。体内受精による胚回収を適用できないリピートブリーダーにも適用可能であった。このようなOPU?IVFによる体外受精卵の作製は既存の体内受精卵採取の代替手段ではなく、排卵障害や卵管疾患、卵巣の反応性が低い個体に使用するものである。

 現時点では、高価な機材、体外受精設備の必要性、高度な技術、受胎率など様々な問題点があるが、周知をはかり技術を広めることでこれらは克服できるであろう。また、採卵は獣医師、体外受精は専門機関に委託といった役割分担も可能であるため、今後家畜における繁殖技術のひとつとして広めていきたい。

<質疑応答>

Q:培養を委託した場合の費用は?

A:鹿児島大学では6万円程度。しかし、一度で多数の卵を採取できるため卵子1個あたりの値段は従来の1/10程度である。また、体内受精では1頭のドナーに1本の精液ストローを使用するが、体外受精では1本のストローを数回に分けて使用できるため、精液の有効活用が可能である。

Q:機材の値段は?

A:培養器200万、採卵器30万、凍結器(一般的な体内受精と同じもの)80万程度である

Q:過大子の対策を教えてほしい

A:胚の活性を落とさないために成長因子やプロジェステロンを添加することが過大子のリスクを高めると言われているが、これらを添加せずに実施するのは不可能である。現時点では、レシピエントとして体格の良い牛を選んだり、早めに生ませたりするなどの一時的な対応策しかない。体外受精産子の管理についてもまだまだ検討が必要である。

9.  札幌の酪農家へ農場の問題点についてのアンケートを行った結果と考察

(山本 浩通)

 事前アンケートの結果、農場の問題点として挙げられたのは、「農家のメンバーの連携が取れていない」、「ミーティングを時々しかしない」、「ミーティングの効果が感じられない」、「従業員の技術レベルが上がらない」、「農場の成績が安定しない」などであった。これらの結果から、コミュニケーションやミーティングの問題が、農場でのトラブル要因として大きなウェイトを占めていることが分かる。技術などについてはセミナーや技術情報誌で情報収集しているようであるが、知っていてもうまくいかないのは、農場内のコミュニケーションやミーティング不足、個人の意欲、人間関係の問題があるからであろう。仕事の質と精度を上げ、積極的にコミュニケーションをとり、当たり前のことを当たり前にやっていくことが大切である。

<質疑応答>

Q:従業員のプライドにより対立することが多い。また個人の体力差などにより作業に個人差が生まれてしまう。これらの対策はどうすれば良いか?

A:それぞれの意見をぶつかり合わせ、段取りを考える場が必要であるため、こまめにミーティングを行う。現場にGMを置き指揮をとってもらうのも良いだろう。

Q:ミーティングの時間など基準はあるか?

A:ない。時間より質、短くても全員が発言できる雰囲気作りが必要である。

10.  飼養頭数とと殺頭数の相関性

(赤星 隆雄)

 農家の数は減少し、各農家の規模は50年間で平均20倍になった。母牛の飼養頭数は増えているのにと殺頭数が増えていないのは、子牛生産の失敗が増えているのか、あるいは口蹄疫や放射線汚染の影響であるのか考えたい。

 昭和53年からと殺頭数は減少の一途をたどっている。肥育農場の大型化は成功したが、2011年以降の繁殖農場の大型化の成績は芳しくない。今は家族経営が中心であるが、近未来は大型生産が成功するであろう。その時は、フランチャイズ方式または半直営方式がうまくいくのではないだろうか。

<質疑応答>

Q:赤星先生の自社のプランは

A:フランチャイズ方式もしくは半直営方式。セブンイレブンなどを参考にしていきたい。

総合討論】

Q:血便の治療に関して、水性と懸濁性のデキサメサゾンの使い分けは?

A:懸濁は筋注、水性は静注と投与方法の差なので効果は変わらない。本来は静注の方が早く濃度が上がり、抜けるのも早いが、休薬期間の設定は同じであり、意識する必要性は低い。しかし、水性の方が使用量は少なくて済む。

Q:デキサメサゾンは血便治療の第一選択薬か?

A:第一選択薬ではない。原因と病態のステージを考慮して使用すべきであると考える。

(フロアからコメント)デキサメサゾンとマイシリンを混合して用いるが、デキサメサゾンが凝固してしまう時がある。

(フロアからコメント)初診時ではなく、2?3日後にデキサメサゾンを使用する時の方が治りが早い感覚があるとの意見も。

Q:血便治療にバソラミンは使えるのか?

A:(フロアからコメント)バソラミンは抗炎症作用を期待して使用する。

Q:デキサメサゾンの免疫抑制作用はどの程度か?

A:小動物での副腎皮質ホルモンでは、抗炎症作用を期待するとき、免疫抑制作用を期待するときで投与量を変える。免疫抑制作用に関する投与量はその個体の免疫状態にも左右される。

Q:ステロイドに対する臓器ごとの反応性の違いはあるか?(腸炎ではステロイド肯定派が多いが、、、)

A:ステロイドによる免疫抑制はサイトカインの産生阻止による機序があるため、サイトカインがその疾患あるいは病態ステージにおいてプラスに働くのかマイナスに働くのかにより判断する必要がある。肺炎の場合は、サイトカインが作用し菌を排除しなければならないので、免疫抑制はしない方が良いと思われる。

Q:低用量の使用であれば免疫抑制を気にする必要はないか?

A:免疫に関しては個体差があるため、特に呼吸器系に関しては常に副作用を気にし、慎重に使用すべき。

Q:肺炎治療にデキサメサゾンが有効な感覚があるが

A:発熱自体はサイトカインによるものなので、免疫抑制剤投与で熱は下がるが、原因菌の排除には至っていないので、完治しているとは考えにくい。また、原因菌や原因ウイルスが何なのかによって効果はぜんぜん違う。例えば、サーズでは過剰なサイトカイン産生(サイトカインストーム)により呼吸困難を呈し死亡するので、デキサメサゾンが有効であると思われる。

Q:TCV2のRSウイルスに対する効果はどうか?

A:自然免疫増強という面では有効である可能性もある。

Q:RSウイルスに関して、RSの生ワクチンを流行前に鼻腔に入れていたと聞いたことがあるが、経験はあるか?

A:なし。

Q:診療所で薬剤のアナフィラキシーショックが起き、牛が死亡する事故があった。会員の診療所では緊急時の薬剤の準備はできているか?

A:新生仔牛の蘇生にも用いるため常備しており、オキシテトラサイクリンによるショック時に使用し有効であった。

(フロアからコメント)集団予防注射をする時に、エピネフリンをあらかじめ注射器に吸って携帯する先生もいる。

Q:仮性陣痛にはどのように対応すべきか

A:インフォームドコンセントは緊急時であっても怠ってはならない。スムーズに対応するためにも普段からコミュニケーションをとっておく必要がある。

(フロアからコメント)セラクタールが効くというのを聞いたことがある。

(フロアからコメント)大量のお湯を入れたら経管が開いた経験がある。