山形県農業共済組合連合会 加藤敏英
加藤先生は昭和33年山形で生まれ、昭和56年に酪農学園大学を卒業。同年4月からNOSAI山形に就職。平成9年に博士号獲得。ワクチン、飼養管理について力を入れている。
近年の家畜感染症を取り巻く環境について。農場の大規模化、群飼育化が進み、牛のストレスが増大している。また家畜移動の広域化が進むことで病原体の拡散が起こっている。たとえば山形には鹿児島や沖縄からも多くの牛を導入しているため、今まで山形で起こっていなかった病気が発生するようになった。このような原因により感染症は多様化し、耐性菌が増加し、各種の感染症が難治化している。
群飼育にはメリットもあるがデメリットの方がどうしても目につきやすく、個体の観察が難しい。社会的ストレスの増大。栄養管理が難しく栄養バランスにばらつきが出やすい。常時接触可能。飼槽、水槽の共有により病原体の受け渡しが容易。そして免疫機能が低下する。その結果、感染症が多発しやすくなっている。
臨床獣医療の現場では、抗菌剤治療の考え方は、科学的根拠に基づいた治療よりも経験的・推測的な治療を重視している。経験豊富な獣医師は経験に頼りがちで、若い獣医師が誤った知識の影響を受けてしまう可能性もある。臨床現場ではいちいち検査をしないことが多いため、抗菌剤の選択、投与量、投与期間を誤ったり、不必要な投与が重なると、いずれ治療効果は低下し、耐性菌が増加してしまう。
現場でどのくらいの耐性菌がはびこっているかを牛呼吸器病について検査データ、臨床結果から算出した。検査方法は、30cmの滅菌綿棒を用いて、鼻汁ぬぐい液を採取した。綿球が0.5cmであれば7カ月齢まで使用可で、嚥下反射をするところまで突っ込めばいいので誰でも採材することができる。一般細菌であるPasteurella、Mannheimiaと、Mycoplasma、Ureaplasmaの混合感染は2003年では39.4%になっており、現在山形では感染の50%近くが混合感染であると思われる。従って、細胞壁があるものとないものの両方をターゲットにする抗菌剤である必要がある。それぞれを標的にした抗菌剤併用の効果を確認すると、Katoh Tらの報告によると以下のことが言われている。Vitroの試験では、P.multocida,M.haemolytica,M.bovisに対してチアンフェニコール(以下TP)とタイロシン(以下TS)の併用、またはTPとリンコマイシン(以下LCM)の併用で相乗効果または相加効果が確認された。Vivoの試験では、TPとTSの最小投与基準量の併用が牛呼吸器症候群に有効で、アンピシリン(以下ABPC)やカナマイシン(以下KM)に比べて治癒率が有意に高いことが確認された。従ってTPとTSに高い効果が期待されたが、臨床現場では、続けて使用するに伴って、薬剤耐性が生まれてしまった。たとえば、ある農場の哺乳・育成牛では、1994~5年のP.multocidaのTP感受性(MIC??;μg/ml)とM.bovisのTS感受性は共に0.78μg/mlであったのに対し、2001~2年ではそれぞれ50μg/ml、25μg/mlに上昇しており、臨床現場で効果が期待できない値となっていた。実際に呼吸器病の治癒率を比べると、1994~5年では85%以上であったのに対し、2001~2年では50%近くまで低下していた。2001~2年のフロルフェニコール(FF)感受性について調べてみると、P.multocidaは0.39μg/ml、M.bovisは6.25μg/mlと効果の望める結果となっていた。
別の農場でP.multocidaのABPC感受性を調べたところ、MICは0.25μg/mlと64μg/mlにピークを持つ2峰性の分布を示した。その後3年間ペニシリン系薬剤の使用を休止したところ、MICが低い値を示す株だけになった。一方でMICが低い菌株しか存在しなかった別の農場ではペシリン系薬剤を継続使用したところ、3年後には高MICを示す菌株が現れ、耐性菌が発現したことが分かった。呼吸器病に対するアンピシリンの治癒率を調べてみると、前者の農場では3年間使用を休止していた結果治癒率は上昇し、後者の農場では3年間使用を継続した結果減少した。従って、薬剤感受性試験の成績は臨床結果と概ね一致し、臨床効果が低下した薬剤の一定期間の使用禁止は、病原菌の薬剤感受性を回復させ、臨床効果を上げる可能性が高いことが確認された。
しかし、全ての獣医療機関で検査機器がそろっているわけではなく、現場で全ての症例が検査できるわけでもない。そのため、臨床家は臨床所見を最重要視するべきである。
薬剤変更の考え方は獣医師によって多少異なるが、翌日症状が悪化した場合、あるいは2日間投与しても症状がほとんど変わらない場合に変更するべきである。症状が変わらない場合、抗生剤が病原体をターゲットにしていないか、標的にした病原体の薬剤感受性が低い、あるいは混合感染を想定していないことが原因としてあげられる。原因病原体をターゲットにしていない場合は、たとえば、β-ラクタム系は一般細菌には有効だがマイコプラズマには無効なので、ターゲットをマイコプラズマに変更するならマクロライド系やフェニコール系に代えてみるとよい。
標的にした病原体の薬剤感受性が低い場合、たとえばパスツレラやマンヘミアなどグラム陰性菌に対する抗菌力は合成ペニシリンよりもセフェム系の方が強いため、薬剤使用歴を確認して、低感受性化あるいは耐性化が進んだ可能性が推測されたら、変更するとよい。抗菌剤の特性を確認し、それぞれの特性を生かす投与方法を選択するべきである。たとえば、β−ラクタム系は抗菌活性が時間依存性なので分割投与が有効で、フルオロキノロン系やアミノグリコシド系は濃度依存性なので1日の投与量が有効で基準に幅があれば高い方を一度に投与するべきである。また、フルオロキノロン系抗菌剤の使用の際は、MIC以上であってもMPC(細菌の突然変異を阻止する濃度)以下で投与すると、耐性菌が発生してしまうので、MPC以上の濃度で投与することが鉄則である。
混合感染を想定していない場合は、第一選択薬剤の選択ミスをしている可能性があり、一般細菌とマイコプラズマの混合感染ならば、双方に有効な抗菌剤に変更する必要がある。
抗菌剤の効果を最大限に引き出すためには、チームで円滑に治療するためにも、その農場での過去の発症と治療記録をとり、農場に合ったプログラムをたてることが大事である。
牛呼吸器症候群の治療において、問題となっているのが、マイコプラズマ感染対策とマンヘミア6型の薬剤耐性化である。
マイコプラズマの厄介な特徴として近年注目されているのが、宿主の免疫機構の回避能力がある点である。抗原性を変化させる特徴があるのでなかなかワクチンが開発されない。マイコプラズマ対策の抗菌剤として注目されている新しい抗菌剤は、ツラスロマイシンとガミスロマイシンである。
Mannheimia haemolyticaはロイコトキシンを産生し、ひどい病巣を作る細菌で、近年は6型が急増している。6型の問題点は、多剤耐性の特徴を持つことである。4剤以上の耐性が4割を占めている報告がなされており、今後も継続的な監視が必要である。
近年は群飼育が多いため、感染症に対して予防の重要性が増している。山形県のある地区では肥育牛導入後にBRSV生ワクチンを追加接種したところ、病傷件数が減少し、抗体価2以下の個体が減少した。特に大農場、群飼育の農場ではバクテリアワクチンも有効と思われる。ワクチンを打ったことで損害額が減少し、ワクチン接種にかけた費用を差し引いても農場により差はあるものの、充分な額が残るという報告がある。
ワクチンは、事故率が高い農場や外部導入牛が多い農場、大規模な農場で必要性が高く、栄養管理や飼養環境を改善することで有効性を高められる。
また、病気にならない子牛にするためにできることは、ワクチンだけではなく、他にも子牛や母牛に対してできることがある。問題となるのは母牛の栄養状態が悪いこと、子牛の群飼育によるストレスなどが挙げられる。母牛の栄養を改善したことで生まれた子牛の消化器病や呼吸器病が減少し、30kgをきる低体重児がいなくなったという報告があった。妊娠末期の増飼は胎児への十分な栄養供給、難産防止、良質初乳を出すことに貢献する。授乳期の増飼は良質な常乳、早期発情回帰、受胎に貢献する。
子牛の群構成を変更し、1群あたりの頭数を減らし、日齢のばらつきを減らし、1頭当たりの資料摂取量を増加させた結果、ワクチンの効果を高めた。これらの対策の結果、離乳時までの死亡率は大幅に減少した。すなわち、子牛の疾病を減らすためには母牛を含めた栄養・環境改善、ワクチン接種が対策のポイントとなる。
哺乳量、哺乳方法、居住空間も子牛の疾病予防で重要である。哺乳量を増やした農場で下痢が少なく、7〜14日齢に哺乳方法を哺乳ビンからバケツ哺乳へ変更する農場で多かった。また下痢発症後の断乳を廃止し、哺乳量を増給したことで、栄養状態が改善されたことが確認された。子牛に必要な居住空間を充分に確保することで死亡率が減った報告もある。
ただし、飼養管理、予防を改善しても呼吸器病は完全に撲滅することは非常に難しいので、臨床現場から得られる情報を牛呼吸器病に関する様々な要因ととらえ、治療や対策を客観的・臨床的に評価することが重要である。
BAYER
フルオロキノロン系薬剤は濃度依存型の抗菌薬なので、MIC値が小さく、AUCとCmax値が高いほうが効果は高い。濃度依存型の特徴を生かすためには、1回で大量に投与したいが、組織のダメージが問題となる。そこで、素材にアルギニンを加えてダメージを軽減し、大量投与を可能にしたものがバイトリルワンショットである。
バイトリルは食細胞(マクロファージや好中球)や分泌物(鼻汁、乳汁)にも薬剤が高濃度に分布するので、高濃度のエンロフロキサシンが病巣に集まることでその部位が局所的に高濃度になり、また、高濃度のエンロフロキサシンを含んだ分泌液が粘膜表面に存在する細菌やマイコプラズマを攻撃する。
エンロフロキサシンは主に胆汁から排泄され、その一部は再度腸管から吸収され各組織に移行する特徴がある。
肺炎罹患牛に対し、バイトリルワンショットを治療初日に1回投与した区域とバイトリル5%注を3日間投与した区域で比較したところ、両区とも迅速かつ著名な臨床症状の改善が認められた。薬剤のコストで比較すると、薬価がワンショット、5%それぞれ102、48円/ml、体重100kgあたり薬剤投与量がそれぞれ7.5、10ml、投与回数がそれぞれ1、3回なので、結果的に体重100kg当たりの薬剤コストはバイトリルワンショットが765円、バイトリル5%注が1440円であった。
薬剤耐性菌の発生を阻止するために大事なのが、MPC(突然変異株増殖阻止濃度)である。バイトリルは用補用量の投与量でMPC以上の濃度に達することが確認されている。
馬の腺疫 馬の接触性皮膚炎 馬の前肢近位種子骨粉砕骨折 顔面変形症 子牛のケトーシス疑い 脱毛症 開業 蔵前
馬の腺疫
●患畜の背景
・福島にて震災を経験し、原発の近くで保護される
・6歳 ♀
・震災後ホーストラストで余生を送る
・3月19日に胸垂部の腫れに気付き翌日初診
T38.1 胸垂部の腫脹、下顎の腫脹、疼痛あり、元気・食欲不振、膿性鼻汁、
呼吸やや速迫
・3月22日 膿様鼻汁、頸部の腫れ
・点滴打った後昏睡状態
●治療経過
・3月20日より加療 強肝剤 ニューキノロン バナミンなど
・3月21日 血液検査 Ht38.1、RBC896、WBC7500、TP6.2、Alb2.8、GOT216、GGT25、Tbil5.4、UN12、Tho91、CK198
・3月22日症状変化なし 治療中に転倒し昏睡状態に陥る、点滴終わると突然起き上がり意識回復
・3月23日まで変化なし
・24日死亡し家保に搬入解剖、胸垂部に血液が固まっている状態、皮と筋肉のところが腐っているような状態
本来は死に至るような疾病ではないが、今回の症例では症状が激しかった。幸い牧場内で流行ることはなかった。
馬の接触性皮膚炎
腹部に痂皮あり。カビっぽいような皮膚炎。少し?痒感を示す。病変は腹部全体に広がった。
●治療
・パコマで消毒、これで十分治る
・オロナイン軟膏100gにコアキシン(セファロチンナトリウム)2gを混ぜて塗布するときれいに治った
質疑応答
Q 注射は何かしたか?
A なにもしていない。
馬の前肢近位種子骨粉砕骨折
ギブスで治るのではないかと考えた。ギブス巻きなおし、良好であろうと思っていたが、ギブスを巻いた部位(左前肢)から膿が出てくる。2、3日治療はした。レントゲンみると強い炎症像が出ている。種子骨が横になっている。飛節骨が亜脱臼の状態になっていた。
翌日安楽殺。ラボナール(チオペンタールナトリウム)2g投与し倒馬、その後レラキシン(スキサメトニウム)2g投与。ラボナール2gとレラキシン2g混ぜて投与する方法もあり。
脱毛症
顔面に毛がわずかにしか生えていない。後肢も禿げている。ビタミン剤とかくらいしかできなかった。
もしこういう症例で治療法があれば教えて欲しい。
顔面変形症
17歳牛。顔面が腫脹しており、膿汁が出ている。廃用を勧めるも農家さんはいまだに飼っている。病巣部を何箇所か刺して漿液を排出させると、ゼリー状漿液が出てくる。触ると骨が解けたような感じのものに触れる。
質疑応答
Q 蓄膿症ではないか?副鼻腔蓄膿症の場合、シリンジの先が入るくらいの穴を2つネジクギで開けて、そこから洗浄・消毒・抗生物質投与する。3日くらい継続すれば治癒する。蓄膿はまれに肥育牛でも発生する。
A 鹿児島ではほとんど経験がなかった。ありがとうございます。
子牛のケトーシス疑い
・H26年1月29日生まれ 雄
・2月13日初診 T39.1℃、元気・哺乳・摂食なし(前日まで元気はあったが弱い)、やや呻吟あり、寝ていることが多い、やや瞳孔反射・眼瞼反射が弱い?
・点滴をしようと頸部を圧迫すると嫌がり興奮状態となる。点滴、抗生物質、強肝剤、副腎皮質ホルモン、フルスルチアミンなど反応が認められない
・経口補液剤は飲ませることができた。
・ほとんど朝夕往診
・2月19日まで加療するも変化なし。頸部を触っただけでも嫌がるようになり、じっとせず、点滴途中で飛び上がったりする。
・5月20日以降の治療:朝に50%ブドウ糖20ml、アニビタン10ml、ホスミシン0.5g、レバチオニン20mlを静脈注射。同日夕方には正常になった。この治療を2日間朝夕2回継続したところどんどん治っていき、牛はおとなしくなり、哺乳するようになり元気になった。
・ブドウ糖が効いたのか分からないが、子牛が異常に興奮しているときはケトーシスを疑う?
質疑応答
Q 血液検査、尿検査は行ったのか?
A 血液はほとんど正常、尿はわからない。
興奮していたから低血糖だったというのもあるかもしれない。自分としては一番ブドウ糖が効いたのではないかと思う。
去勢の際の毛焼き 尿道カテーテル農家が作った便利な点滴 目隠し治療 脱水がなくて元気のない子牛の診断 アンモニア血症治療 開業 山本
去勢の際の毛焼き
ねじり去勢をする前にチャッカマンで毛を焼く。乳牛の乳房炎の管理の際に行われる毛焼きが使えると思ってやってみた。そうすると、つるつるになって毛の巻き込みがなくなる。
尿道カテーテル
シース管に注射器つけて採尿。だいたい1,2秒で取れる。
農家が作った便利な点滴
棒の先を曲げて針金つけて点滴をこれにぶら下げる。
目隠し治療
目隠しをして治療すると、かなり牛がおとなしくなる。ウシは目が見えないと状況判断できなくなる。目が見えると痛いことをされると思って暴れてしまうので、見えないようにする。『らくらく頭巾』という商品あり。虫取り網に網の部分に布が付いているバージョン。5,6ヶ月の牛がひとつの牛房に2,3頭入っているときでも、重めの毛布をかぶせるとじっとする。軽い布だと首を振って落とされてしまう。そのまま注射もできる。
注射の際は、注射器にエクステンションチューブをつけ、その先に針をつけている。予防注射の場合は針だけかえる。牛を捕まえずに出来るので、牛にとってもストレス少ない。
脱水がなくて元気のない子牛の診断
@消化不良による腹痛、Aアンモニア血症、B白筋症のいずれかを疑う。
・CPK、GOT、アンモニアが正常の場合、@消化不良による腹痛
・CPK、GOTの上昇がみられる場合、B白筋症を疑う。白筋症でもBUNが100以上だと死亡率が上がる。破壊された筋肉が糸球体に詰まって腎臓が働かない。
・アンモニアが400μg/dl以上の場合アンモニア血症を疑う。
過去アンモニアを子牛で調べた際に100〜300μg/dlが普通だが、400〜900μg/dlの牛もいて、そういうのはアンモニア血症の治療をした。アンモニアはすぐに検査しにくい。網アンモニアの検査はやっていないという先生もいる。アンモニアは保管状況でどう変わるのかを調べてみた。一番いいのは遠心分離して冷やすことらしいが、実際はなかなかできない。午前中に採血して4,5時間、30度ほどの場所に置いていても、遠心分離して冷やした検体とそう大差ない。100μg/dlが200μg/dlになったくらい。置きっぱなしにしても400μg/dlや800μg/dlに上がっている検体はアンモニア血症かなとみて治療する。
●アンモニア血症治療
・断乳
・ラクツロースシロップ 30ml/2回/日 経口投与
・アルギメート 250ml
・補液
質疑応答
Q ワクチンを打つときにエクステンションチューブに残る薬液はどうするのか?
A あらかじめ多めに吸っておいて、ちょっとずつ入れていく。針だけ代える。
hCG負荷試験を行いました 子牛の毛球症 簡易式ヘンダーソン去勢法 開業 佐藤
hCG負荷試験を行いました
H25.12.25 褐毛和腫(若干小柄) 6ヶ月にて観血去勢を実施。陰嚢内に右精巣なく、同日中に傍正中切開にて腹腔内(右腎後部)を探るも睾丸見つからず。
H26.3.28 hCG負荷試験開始(Day0:採血後、hCG3000IUを筋注)
H26.4.2 Day5:採血
H26.4.4 Day7:採血
H26.4.25 南阿蘇家畜市場に上場(10ヶ月齢:市場判断により診断書付き雄子牛として上場)
市場平均 褐毛子牛 去勢(284日):519,879円
症例(327日):477,360円
・負荷試験をしたところ、テストステロン濃度は去勢牛とほぼ変わらない値を示した、雄子牛として診断書をつけた。
・普通の雄子牛よりは安かったが、農家さんも値段には満足してくださった。
・腹腔内を探しても睾丸が見つからない場合は、hCG試験をやってみるべき。技術料込みでも6000〜7000円ほど。
子牛の毛球症
黒毛和種 H26.1.22生まれ 雌
H26.3.23 激しい腹痛を主訴に求診
PM 5:38 上診 横臥したまま前肢で胸を、後肢で腹部を蹴る。
押さえつけて聴診。
腹部グル音激しいがping音なし
第1胃運動なし
胸部に著変なし
外貌
眼球 著しく陥没
皮膚 脱水顕著
体温38.9℃ 心拍数:56 呼吸数:48
肛門を刺激し、便性状を確認
直腸内の糞便は水分量少なく硬い。しばらくマッサージするも、排泄せず。
処置
パドリン注 10ml 静注
等張リンゲル糖 2L
レバギニン 25ml 静注
オリーブ油・25%ブドウ糖混合液を直腸内に50ml注入(浣腸)
翌朝3.24(競市開催日)死亡確認、午後より腹腔内剖検。
疑っていた腸捻転、腸重積などを示すうっ血部や潰瘍はみられなかった。前日からミルクは飲んでいないのに、第4胃内にカードが多量に見られた。
第一胃内に、非常に多量の毛が固まっていた。
微量元素が足りていなくて親の毛でも食べたのか?ちょうど毛の生え変わる時期というのも関与していたか?これと言った腸病変はなかった。
質疑応答
Q 下痢はなかったのか?
A これまでも下痢はなかった。発育が良い牛だった。
簡易式ヘンダーソン去勢法をやってみました
簡易式・・・ドリルヘッドを、伏見先生の過去例から自作。単に直径5mmのアルミ棒を曲げただけ。アルミ棒はすべるので、刻みをつけてすべりを防いでいる。ドリルのトルク制限がかかるとだめなので、無制限に力のかかるものがいい。ゆっくり回してねじりができてから回転数を上げるので、絹糸で結紮の方が早い。
感想
・スピードだけなら絹糸で結紮の方が早い
・立位の場合、子牛が寝やすい
・立位の場合、子牛が跳ね上がりねじり方が不完全なまま千切れ、出血した
・自作のヘッドのためか、精巣近辺で捻れることがたまにあった
質疑応答
Q(佐藤先生) この毛球症の症例(2ヶ月齢)の場合、第一胃内の内容は胃洗浄、立位右腱部切開、仰臥位傍正中切開、他どのように取り出すのがよいでしょうか?
A1 小さい牛は正中切開、異物が入っている場合は4胃からチェックして、硬いものがあれば切って出す。普通は4胃につまっていることが多い。
A2 正中切開。グル音が激しい時点で腸捻転は除外する。ピン音が取れなくてこれだけ痛がっているのは非常に難しい症例。
患畜:H22年6月26日生まれ、H24年12月10日分娩、長期不受胎
初診:H25年9月3日午前10時、稟告:立ったり寝たりお腹を蹴る
・T38.0 P96 疝痛症状、立ったり座ったり、胃運動弱、腸運動弱、直腸検査により膨満するループ状の腸を触診、宿糞なし。
・パドリン10ml筋注する
・初診同日午後4時
・T38.2 P100 疝痛、寝込む、食欲廃絶、そのまま食肉は希望されず。
・右腱部切開、空腸後半で膨満(うっ血部)と閉塞(貧血部)する部位、腸一部切開し内容排除、重積部の緊張緩和後整復し閉腹する。手術約2時間。
・1ヶ所しか切ってないが、切り口は3ヵ所あった。これは重積部の腸が三層になっていたため、1ヶ所切った際に三ヶ所切れたのだと思われる。
●整復手術
・メンバー:術者、助手(飼い主)
・保定:立位、首を右に曲げて固定
・腰椎硬膜外(リドカイン5ml)、局所浸潤(塩プロ25ml)
1.右腱部切開
2.生食1L+ラセナゾリン2gを腹腔内に
3.空腸をバケツに出す
4.閉塞部位の確認、閉塞部位を創外に出す
5.膨満部を切開
6.重積部位を出す
7.切開した部分の縫合
8.腸を腹腔内に戻す
9.閉腹
10.術後疝痛なくなり翌日から排便あり
・重積部位は空腸の後半で盲腸に近い所
・膨満部分を切開:三枚の腸壁を切開した
・腹腔内線虫
●良かった点
・早々に手術したこと
・立位:腸を出し入れするのと閉腹はしやすかった
●反省点
・座るのではないかとやや焦る
・切開した腸壁の縫合はレンベルトだけ
・どうやって手術シーンの写真を撮ればよいのだろうか?
質疑応答
Q いつもと腸の折れ方というか、めりこみ方が違ったと思うが、触診でその違いは分かったか?
A 感じなかった。閉塞しているのはわかった。
Q オーバーラップした距離は何cmくらいだったのか?
A 意外に長かった。なかなか重積の手術は上手くいかないが今回は早かったからよかった。
Q 血便は感じなかったのか?
A 腸がループ状に膨満しているのは感じた。
Q 黒っぽいのは出たか?私は黒っぽいのが出たら腸重積だから開ける。両方切ってくっつける。予後も良い。
A 出なかった。早かったから、黒色便が出るまでにも至らなかったのではないかと思う。
Q 重積で腸を切っても上手くいかないのですが。
A 麻酔下で全部開けて、腸を縫合したあとは何回も生食で洗う。そうしないと癒着して失敗したことが結構ある。生食10Lくらいで洗う。
AHCミックス投与試験 出生直後の子牛の腸捻転 直腸脱出を伴った症例 母牛の産道破裂と直腸破裂 開業 君付
AHCミックス投与試験
肺炎に抗生物質だけ使っても、群全体ではなかなか良くならない。
AHCミックスとは、納豆菌のエキスなどを混ぜたもの。抗生物質にプラスして使うと治りがよくなる。
肺雑音がすぐ下がる、呼吸速迫も2,3日で治まってくる。また、食欲がすぐ伸びて回復する。
H農場の群に投与。どの牛も抗生物質と一緒に使うと3日くらいで症状が改善する。群全体で治るのに1ヶ月くらいかかる群でも、10日くらいで治った。
抗生物質プラスアルファがすごく大事だと感じた。
治療プラス免疫を上げていくことを今やっている。
出生直後の子牛の腸捻転
症例1 K農場
つぎこの子 H26.3.7生まれ 雄
3.8 稟告:母乳を飲まなくてぐったりしている。
処置:経鼻 母乳500ml
3.9 観察:ミルクを口で飲まない。起立不能。眼が窪んでいる。
処置:経鼻 ミルク700ml、酢酸リンゲル500ml
検査:血液検査
3.10 死亡(生後3日)、剖検
・血液検査の結果(WBC12,500、RBC1,107万、HT51.7、K9.3)、腸捻転疑う。
・剖検⇒第一胃が大きい。腸捻転部位発見。腸にフィブリンが付着。
症例2 M農場
ゆりえの子 H26.3.19生まれ 雌
3.20 稟告:排便しない。哺乳瓶に口をつけない。お腹を押されると声を出す(痛がる)。
検査:X-RAY、血液検査
処置:腸捻転整復手術(出生後約20時間)
3.21 観察:術後2〜3時間で母乳を飲みだした。
3.23 観察:元気回復確認
・血検で特におかしいところない。
・レントゲンで捻転部位発見
質疑応答
Q 分娩後母牛が子牛を踏むことで、子牛が腸捻転起こすこともあるけど?
A しかし合点がいかない。
腸間膜血管側を残した状態でV字に切って縫合すると予後が良い。斜面同士を縫合するので、縫合部面積が広くなることで腸管を縫合した際に生じる通過障害を改善できる。
Q 子牛の切開したあとにミルクはいつ飲ませたらいい?
A 次の日くらいで大丈夫。量は少なくする。
Q 捻転で色が変わっている部分について。捻りを直して入れ込むだけなのか、それとも切ってしまうのか。また、色がどす黒いのは切るのか、ちょっと紫になっていても切るのか。
A 紫になっていたら切る。炎症が起こっている程度なら切らなくても大丈夫。点滴は生食がいい。リンゲルはカリウムが入っているからだめ。中には高カリウム血症の牛もいるから。
直腸脱出を伴った症例
●稟告
・夕方からお産らしく尾を持ち上げていた(太っていない普通の牛)
・0時までは破水もなかった、2時に来てみると母牛がひっくり返り、腸が肛門から飛び出し、切れていた。農家さんにより、腸が出てきている肛門にフタがされていた。
・同居牛が妊娠牛の腹を踏んだのかもしれないとのこと。
・右側に胎児は触れた。胎児は生きているような感じがした。切って出してみることになった。
●麻酔
・立ちはしないが、まだ蹴る元気、頭部を持ち上げる元気があった。しかし、出血は多い。
・牛の沈静化と力みの防止、後肢を動かさないようにするための麻酔
・セラクタール 1ml筋注
・2%キシロカイン5ml尾椎注射
・切開部位にキシロカイン分注 100ml
右側横臥にしても胎児は触れる。胎児はスムーズに娩出できたが、すでに死亡していた。
母牛の直腸の腹側に20cmほどの裂傷があった。母牛も数時間後に死亡。
●仮説
胎児が何らかの理由で分娩直前腸捻転を起こし、脚蹴りをして。子宮道、産道、直腸を突き破ったのでは?
質疑応答
Q 何産目の牛?
A 二産はしていると思う。難産も今までない。
Q 今までに直腸に裂傷があれば、そこが瘢痕化して、次の怒せきで破けたということも考えられるのでは?
A 裂傷だとしても、できてから1年は経っていることになるから修復されて破けないのではないか。
Q 母体内にいる時は、母体から栄養をもらっているから痛がるのか?
A 外から触診したら肢を引いたり出したりした。痛がるとしたらこういうことが起こるのかなと考えている。
Q 子宮は破れていたか?
A 破れていた。
母牛の産道破裂と直腸破裂
U農場 母牛、頚管拡張不全による難産
母牛:ゆりひめ H26.3.21生
3.21 2:00 破水があり足が出ているとの往診依頼、頚管の開きが十分でないため牽引せず、拡張剤で処置する
16:00 頚管開かず帝王切開にて摘出、子牛良好
18:00 母牛起立せず、後肢を痛がる。子牛まだ哺乳しない。保温指示。
3.22 7:00 子牛:元気なし。起立不能。体温低下(T37.3)。心音弱。口を開けない。
メーメー鳴く。痛がる様子?
経鼻 ミルク500ml、点滴(5%ブドウ糖)
母牛:起立せず前肢で這い回る。直検により頚管部の腫脹・疼痛強、鎮痛剤、抗生剤処置
検査:子牛血液検査(白血球測定できなかった、RBC788万、CPK>2000、ラクテート※9.4)
11:45 子牛急死(処理業者が早く、剖検できず)
3.23〜26 母牛起立不能(鎮痛、抗生剤処置)、排便なく排尿のみ、不食、体温は平温、臀部腫脹し疼痛あり。腐敗臭が次第にしだす。
3.27 6:00 母牛死亡(血便)外陰部腐敗臭顕著
※ラクテートは馬で腸捻転の際に上昇するということで計測した。馬では腸捻転で5、6まで上昇する。牛でラクテート11の症例でも助かったので牛では馬より高いのかもしれない。
●症状の流れ
・母牛の頚管が開かない・・・拡張不全(麻痺)、裂傷
・子牛はぐったりとして起立しない・・・腸捻転の子に共通
・子牛が口を開けない・・・腸捻転の子に共通
・子牛が腹部を痛がる、声を出す・・・腸捻転の子に共通
・ミルクを無理に飲ますと死亡した・・・腸捻転の子に共通
・帝王切開後も母牛は起立しない・・・子宮・産道破裂?
・牽引しないのに産道の破裂を認めた?・・・子牛が突き破った。子宮内で胎児の腸が捻転?
・帝王切開後も起立せず術部と違う後躯に激痛があった。
・直腸検査で少量の宿便、頚管部の激痛、腫脹を認めた
・産前の母牛は食欲、排便良好だったが5日間の治療中に排尿は認め、排便を認めなかった。
発生シナリオ
胎児が腸捻転を発症し痛がり、蹴り始める
↓
母牛の子宮、頚管、産道(直腸)を突き破る
↓
反動でお産が始まるが、傷ついた頚管は開ききらなかった
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母牛は術前には起立していたが痛みに敏感で麻酔をしても蹴って起立位の手術が困難となり横臥位にて手術した
↓
子牛良好に見えるが翌日も乳を飲まない。口を開けない。
↓
声を発し奇形のようにも見えるし、痛がるようにもみえる。
↓
ミルク500ml経鼻投与
↓
子牛死亡
母牛、頚管部の疼痛、腫脹、起立不能、腐敗臭、後産の排出少々
↓
母牛死亡
●今回の症例で学んだ早期発見法
・一見、正常に見える子牛である
・生まれてすぐにぐったりしている
・翌日も口を開けない、飲まない
・起立しない
・お腹を押すと声を出す(うめく)
・痛がる・・・はっきりと解らないことがある
・便が出ない
・このような場合の帝王切開は胎児を取り出した後、頚管部も触れる位置を切開することが大事だと分かった。
●腸捻転が疑える子牛への処置
・お腹を揺さぶる
・お腹を抱くように上げたりおろしたりする
・獣医師に連絡する・・・レントゲン、エコー、血液検査、CT、MRI→開腹手術(正中切開)
質疑応答
Q ラクテートの正常値は?
A 0に近い。1以下。
Q CPKもあがる?
A 腸だから上がる牛もいる。なんで上がるのかは分からない。中には腸捻転を起こしているのにCPK上がらないものもいる。
Q この母牛の産歴で、異常な子牛を生んだ経歴はあるのか?
A ない。
Q 胎便が出なかったということで、私の経験上アトレジアの可能性が高いのではないかと思います。アトレジアとは、肛門があるが直腸がつながっていないことです。表面からは分からないが解剖してみると直腸がつながっていない例があったので、そのあたりを確認すれば精査できるのではないか。今後アトレジアの確認をするのはどうですか?
A アトレジアの手術したことある。盲結腸部分からひも状になっていて、それを直腸につなげたら1ヶ月生きていた。
Q 生後20時間以内で切ったことがある。生まれてすぐペンに入って親との接触がないのに、6,7時間後に激しい腹痛を示した。腸捻転のような症状。何をしても治まらないので開けてみたら、腸全体が赤く充血していて収縮していた。これは腸捻転の前段階で、この段階で注射したら戻っていくのではないかと思っている。母牛と接触のない状態でもそういうことが起こっている。人間でも産道感染はある。最後の症例は特に分娩前後の感染など、急性炎症反応が起こるようなことがあったのではないか。生まれた直後に母牛からの圧迫があって炎症性反応、腸の収縮があって捻れるのではないか。デキサなんかを多少多めに打てばいいのではないか?
A 確かにそれは思った。痛みを止めるのを最初にすべきではないか。それをして便が出るかどうか、口を開くかどうかがすごく大事なのではないかと思った。
Q 分娩介助のときに子宮や直腸がどうやって破けるのか?
A 太っている牛の場合には、分娩前に宿糞をとってからでないと直腸が破けた経験あり。
Q 肢が引っかかってとかですか?
A そうじゃないですかね。頭とか。だから太っている場合は直腸から糞を出します。お産前に糞便が軟らかくなるのはそういうことが関係しているのかもしれないね。
Q お産が大して重くもないし時間もかかっていないのに肢をパタパタさせて、すぐに死ぬことがあり、そういう時は何の原因か分からない。
A 開けてみないと分からない。最近は胎児も大きくなったから骨折している場合がある。泡を吹き出す。
Q 腸捻転や骨折ですぐ死ぬことはないと思うが?
A 確かにそうです。腸捻転でも1日や2日は生きている。
H25.1.17生まれ
稟告:発情徴候があるも、子宮を触診できず。外貌異常なし。
H26年2月に初診、腟鏡を十分に挿入できず、腟長10cm (14cmの基準より有意に短い)
経直腸超音波検査で精巣様構造物を描出。精巣実質、蔓状静脈叢らしきものあり。
染色体検査の結果、カウントした20個すべてXY型だったので、XY、XX型が混在するフリーマーチンではないことが分かった。すなわち、仮性半陰陽の可能性が高いのではないか。ほか、遺伝子検査など。
hCG負荷試験では、テストステロンの動きは、はっきりとした山型を示さなかった。テストステロン濃度は低くはないけど高くもないへんな動き方。こういったはっきりしない症例もある。
セルトリ細胞で産生される抗ミューラー管ホルモン(AMH)値を調べた。本症例では12.0ng/mlだった。正常な発情周期を営む雌牛のAMHは0.05〜0.21ng/mlで、去勢牛では検出されない。この症例では明らかにセルトリ細胞からAMHが産生されているのが分かる。AMHを計るのには非常にお金がかかるので簡単には測定に出せない。人間の男児でも潜在精巣や無精巣があり、その場合まずAMHを計測する。安定しない場合があるのでhCG負荷試験はその次に行われる。牛においても最初にAMHを計る方がベストだが、コストパフォーマンスが悪い。AMHは発情周期の影響も受けないので、マーカーとして非常に優れている。
・後日、左腱部より開腹し、両側の精巣様構造物を摘出した。テストステロン分泌能ははっきりしない。組織学的にも精細管が確認できる。腹腔内にあるので精子形成は一切見られない。
質疑応答
Q 発情様のものがみられていたというのはどういうところから?
A 乗駕していたということだと思う。乗駕は雄でも雌でもする。雄だと竿を出すが、陰茎はないので竿は出なかった。
Q もし睾丸が下部腹腔内なら触診しにくい?
A はい。半陰陽は卵巣と同じ場所にあるから分かりやすい。
Q hCG負荷試験である程度睾丸が大きくなることはないのか?大きくなった方が下降してきて発見しやすいのでは?
A あまりそういうので発見しやすくなることはない。hCGを打っても精巣下降時期は終わっているのできれいに伸びてくるのは難しい。
牛の子宮蓄膿症に対する治療アプローチの検討−子宮内膿様貯留物vsイソジン− 宮崎大学 三堂
乳牛では、分娩後1週間以内ではほとんどの牛が何らかの細菌を持っている。2週目以降は自分で排泄し、30日ごろには約50%の個体が細菌感染から回復する。40,50日ではほとんどの牛が回復する。しかし、子宮内膜炎が回復しない場合、そこから子宮蓄膿症になるのが問題。
Q(三堂) 先生方、年間どれくらいの子宮蓄膿症をみますか?
A 10〜20頭くらい。
臨床徴候示さずに無発情のまま空胎期間が長くて、直腸検査をしてみたら蓄膿症であったということがある。治療アプローチは先生によって様々で、いろいろな治療法に対して賛否両論がある。その中で、イソジンを用いる治療法に焦点をあててみた。
ポピドンヨード液(PVP-I)の殺菌力は遊離ヨウ素濃度が高いほど強く、遊離ヨウ素濃度が最大になる0.1%付近が最も殺菌力が強いという実験結果がある(in vitro)。国内で普及している子宮注入用のPVP-Iは2%。PVP-Iは休薬期間を要さないため産業動物に最適かもしれない。長期不受胎牛に対する0.5%PVP-Iの子宮内投与は有効であったという報告もあれば、2.0〜3.3%PVP-Iの子宮内投与による子宮内膜への細胞障害で受胎率が低下するという報告もあり、賛否両論である。そこで、今回の試みでは、子宮内膜細胞診と一般細菌検査を併用して子宮蓄膿症罹患牛への適切なPVP-I濃度と用量を模索してみることにした。子宮内膜細胞診では、炎症の指標として多形核好中球(PMN)を用いた。
●材料と方法
・試験地:宮崎県内の1農場
・供試動物:経直腸超音波画像診断により子宮蓄膿症と診断されたホルスタイン種経産牛18頭(3.7±1.7歳、平均±SD)⇒2.0%PVP-Iで治療する2.0%群(9頭)に分け、PMN%と細菌分離率から治療後の経過を評価
・子宮蓄膿症だと診断され、黄体があった場合PGF2αを筋注して膿様貯留物の除去。黄体がない場合は生食で子宮洗浄することで膿様貯留物の除去。これらが治療の1週間前の段階。1週間後に黄体退行して、排膿が完了したのを確認した後、2.0%か0.5%のPVP-Iを50ml投与。どちらを投与するかはコイントスでランダムに。その後1週目、2週目の経過を見ていく。
●結果
・投与後2週間では2.0%濃度の方がPMNが低かった。
・同じくらいの細菌分離率から始まったが、2週間後には2.0%濃度の方が分離率が低かった。
●まとめと考察
牛の子宮蓄膿症の治療として用いた今回のプロトコールでは、子宮内膜における細菌感染性の炎症に関して、0.5%群と比較して2.0%群の方が治療としてより効果的であるという結果になった。これは、子宮腔内に残存していた有機物(膿汁など)によって活性が下がった結果、2.0%PVPの方が最終的な遊離ヨウ素濃度が高かったためと思われる。
・生体内で有効な濃度となるような投与時の濃度調整が必要
・他の濃度(0.1%や1.0%)の検証もしていきたい
・子宮蓄膿症罹患牛の実際の組織に対するPVP-Iの組織侵襲性についての考察も必要か?
質疑応答
Q(三堂) 本発表の治療アプローチについてご意見をお願いいたします。また、本日参加されている先生方で子宮蓄膿症の治療に対する治療法をお持ちの先生がいらっしゃいましたら、是非その方法や予後の評価についてお教え下さい
A1 子宮洗浄の時にバルーンカテーテルで洗浄する。けど、これをやると固形物で詰まってしまう。
A2 まずPGを打って、収縮して排膿が済んだらそこで子宮洗浄。大体の牛で受胎率は良くなった。蓄膿ではなく内膜炎のときは子宮洗浄を試験的にして子宮の収縮を確認。収縮がある場合はその牛は大丈夫。子宮平滑筋が無事かどうかが一番大事。
Q その排膿のときにイソジンや抗生物質を使う?
A 生食だけ。抗生物質を最後に注入するだけで普通は治る。それでも治らないなら粘液症。
Q 子宮は塩より砂糖の方が相性が良い気がする。等量のブドウ液注入はどうか?子宮脱や直著脱の時は砂糖を塗る。
A 菌がいるときに栄養源をぶち込むことになる。それなら生食の方がマシ。
Q この農場ではそのあとの繁殖成績については追いかけるのか?
A はい、集大成でみせるつもり。
Q PGは、ジノプロストの方がクロプロステノールより収縮性を促すのにはいいっていうけどどうなんですか?
A 今回クロプロはやってない。効果の比較は今後も検討します。
Q 薬はどの段階で効くのか?黄体期に効くのか発情期に効くのか。発情期でははっきりと内膜が見える。黄体期では薄い。発情期がいいのか?
A1 黄体期になると免疫が下がって、卵胞期には上がる。生理周期によって免疫のウェーブがある。卵胞期に治療すれば治療効果が高いかもしれない。
A2 ほとんど発情期にやっている。血管層も厚いので薬も浸透しやすいのではないか。免疫力を高める、炎症を抑えるという方法がいいのかなと思った。橋本先生がフルニキシンと抗生物質を洗浄した後に入れると治りがいいとおっしゃった。同時に炎症を抑えるもっと治りがいいのかもしれない。
A3 卵胞期には発情粘液が出てくるから薬が希釈されて失活したり、効果が薄くなることがある。また、外子宮口が開いているため薬が出てしまう。薬が中に留まる黄体期に治療して、その後発情が来て排膿できたらちょうどいい。
Q フルニキシンどれくらい入れるのか?
A フォーベットで一頭5cc。500cc生食と混フォーベットと抗生物質混ぜて子宮に入れる。抗生物質は注入用アンピシリン。
Q(三堂) 直腸検査した時点で出てくる膿の色で予後が分かるか?
A 臭いがするやつはあまり良くない。いずれにしても排膿して、子宮の収縮力が正常に戻ったらどういう状態であろうと治療に見込みがある。発情期の方が治療しやすいけど、発情期だと収縮力があるので出てしまう。基本的には黄体期にやる方が効果がある。発情期は洗浄液が内部に貯留しないのでだめ。貯留して、マッサージしてやる方がいいのではと思っている。
Q 筋層に膿が溜まっている。こういう時はどういう治療をすればいいのか?
A マッサージしながら洗えばある程度取れると思う。今まで不受胎牛の子宮内膜炎とかのやつで、洗浄してだめだという例はほとんどない。
Q 生食を使って洗浄する方はどのくらいいますか?
きみ:AP水を使っている。中性。
A 4指分くらいの蓄膿は真水で洗う。真水に若干のポピドンヨードを入れたものを4L、30℃くらいに温めたものを使用。
Q 子宮から菌を取って、感受性試験するとマイシリンは効くのか?
A 感受性試験していない。検査すべきだと思う。