牛ウイルス性下痢粘膜病(BVD-MD)  病態発現とコントロール             酪農学園大学  田島誉士

牛ウイルス性下痢粘膜病(BVD-MD)は、フラビウイルス科ぺスチウイルス属の牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovi ne viral diarrhea virus : BVDV)≪RNAウイルス≫によって起こる病気で、届出伝染病に指定。

感染は、胸腺細胞、リンパ球、単球、顆粒球、NK細胞、血小板、内皮細胞、上皮細胞、繊維芽細胞に発現するCD46レセプターを介して成立する。

病原性は、下痢粘膜病(BVD-MD)の病原因子で他のウイルス、細菌、真菌、寄生虫などの二次感染、日和見感染、免疫抑制を誘発します。

ウイルスの種類は、遺伝子型によってBVDV1(Type1)とBVDV2(Type2)、抗原型も多数存在、細胞生物型によって細胞病原性(CP)と非細胞病原性(NCPnonCP)に分類されます。

BVD-MDでは、持続感染牛(PI)が出現します。

PIは、妊娠牛にNCP-BVDVの感染が起こり、胎齢1~5カ月でウイルスを自身と認識することで免疫寛容が起こり、持続感染が成立します。

また、NCPに持続感染したPI牛の体内で遺伝子変異が起こり、CPNCPの両方が体内存在することで粘膜病(MD)が発生します。

MDは、発生は散発的ではあるが致死率は100%で、粘膜の糜爛、潰瘍がみられ、病変は口から食道・肛門までのすべての粘膜にでき、特に舌には必ずといってよい程病変があります。下痢については、ほとんど特徴はありません。

PI牛に認められた症状の発現率を2000年までと2001年以降で比較したところ、主な症状としては下痢、粘膜病、肺炎、発育不良がみられ、2000年までと比べて下痢(86%26%)、粘膜病(66%13%)は減ってきています。2001年以降では無症状(37%)が大きな割合をしめていました。

PI牛は、不受胎、流産などを起こしますが、普通に妊娠して、子供を出産します。出産した場合、生まれてきた仔は必ずPI牛となってしまいます。

感染したBVDVに対して、感染時期によって細胞性免疫が働いた場合、流産がおこり、液性免疫が働いた場合、PI牛が産生されます。

感染したウイルスによって、二次感染が容易となる機序は、ウイルスが細胞内でIRF-3IRF-7のリン酸化を阻止することで、インターフェロンの産生を妨げ、結果として他のウイルスの感染も容易にしてしまいます。

無症状のPI牛で、不受胎、流産を繰り返す牛は淘汰されてしまい、感染の事実が究明されないままになってしまう場合も多いです。また、PI牛は、くしゃみ、咳、涙、尿、糞などに多くのウイルスを排出するため、牛群間で急性感染が拡大します。

PI牛による急性感染の影響は、まず無症状のまま牛群間に感染を拡大させること。感染した牛では、受胎率の低下、流産、奇形、胎児への感染。感染した胎児は、次なるPI牛となってしまう。また、呼吸器・消化器症状を示します。

どのようにして、PI牛を摘発していくかについては、まず、PI牛は多量のウイルスを排泄し、血液、尿、糞、乳汁、唾液などが検査材料として使用可能です。

乳牛の場合、バルク乳検査が有効です。バルクから採取した乳汁を遠心した後、体細胞を取り出し、RNAを抽出し、PCRによって遺伝子検出を行います。

バルク乳が利用できない仔牛、育成牛、肥育牛、肉用牛などでは、口腔および鼻腔スワブや血清での遺伝子検出が有効です。口腔・鼻腔スワブは採材が容易で、動物に与える苦痛も少ないです。

BVDV対策の基本は摘発・淘汰で定期的な検査と正確な知識で、感染牛を牛群から排除し、牛群の清浄化、病気に強い牛群を構築し、生産性の向上と畜産物ブランドの維持を行います。

妊娠牛によるBVDVウイルスの農場間伝播の実態については、導入牛によるものが多く、着地検査で異常がなくても、胎児が感染してPI牛となっており、出生後牛群にウイルスを拡散させることもあります。したがって、着地検査後も定期的な検査の実施が必要です。

もう一つ注意しなければならないのは、生ワクチンによって胎児への感染が起こることです。BVDVは生殖器を好み、ヘルペスウイルスのように潜伏してしまうことがあります。生ワクチンで接種したウイルスが生殖器に残っていた場合、胎児に感染し、PI牛を産生してしまいます。したがって、性成熟に達した成牛への生ワクチン接種は控えるべきです。

次のことを心掛けましょう

・性成熟に達した成牛への生ワクチン接種は控える

・ワクチン接種を過信しない

・生産地では、責任をもって感染対策を行う

ワクチンの効果について

遺伝子型1型のワクチンが2型に対して中和抗体を産生する場合もあります。

胎児感染予防効果については不明

効くこともあれば効かないこともあります。

絶対的な予防効果が期待されるものではない。

感染時の症状を軽減させるのに有効である。

ワクチン接種を過信してもいけないし、軽視してもいけない。

質疑応答

QPI牛がウイルスを排出し、不妊、受胎率の低下を起こす原因。

A、不明。

ウイルスが生殖器を好み、ヘルペスウイルスのように潜伏しているのではないか。

雄では、精液中にも含まれます。

ウイルスは、消毒液に弱い。

QPI牛の発生する他の疾患は?

A、小型ピロプラズマ     赤血球内に潜在する

  ヘルペス         神経内

ピロプラズマ、ヘルペスもBDVの特徴の免疫寛容は示さないため、少し意味合いは違う

QBVDの広がり、和牛ではどうか?

A、広がっている印象はない。飼育規模が拡大している、獣医の意識も高くなっている。

感染数が増えているが、検査数も増えているため一概には言えない。

国などによる支援なし。BLVのようにBVDも全国的に広がっている。

Q、ウイルス1型、2型によって対応をどうするか?

A、臨床的には関係ない。BVD2のほうが生殖器感染を起こしやすい報告有り。

繁殖障害は2型が多いかも。流産も2型が多い。

臨床症状でBVDだと見分けることが難しい。

見つかったら全頭検査、その後生まれてきた胎児も検査。

Q6ヶ月のせり前に生ワクチンを打っても大丈夫か?

A3週後には生ワクの抗原がいない。打ったワクチンが卵胞などにどれくらい残っているか不明。卵胞液をとって調べることも可能かも。

QBVDVの感染力?糞、尿とかにどれくらい残っているのか?

ARNAウイルスなので、他のウイルスと同じ。乾燥すればウイルスそのものは力なくなる。

Q、北海道の市場での消毒?

A、あまり積極的にしていない

Q、抗原が違ったらワクチン打っていても感染するか?

A、感染はすると思うが、抗体をもっているので症状は軽くなる

Q10日目くらいでワクチンを打つのはどうか?

A、初乳免疫が残っている状態で生ワクチンを打っても効果はあまりないと考えられる。

40日齢以降だと効果があるかもしれない。

QBVDのワクチン打っても変化ない。抗体価が上がってないやつは免疫寛容?

A、ワクチン後に抗体が下がったのは事前に感染していた可能性あり。あがって下がったやつはわからない。

Q、入牧前の1ヶ月前にワクチン。理由は? ワクチン接種間隔?

A、市役所、農協の都合。一斉に行える。RSBHVP13で効果有りなので問題ないかも。

BVDELISAキットは外国産なので、キットの問題かもしれない。

牛レプトスピラワクチン(スパイロバック)             ZOETIS

牛のレプトスピラ症は、海外では重要視、日本では新しい。

スピロヘータ目のグラム陰性菌で、ほとんどの動物に感染。

ヒトにも感染するズーンーシス

病原性血清型が250種以上存在し、届出伝染病には、7種指定。

熱、酸、乾燥に弱い。淡水、湿った土壌では数ヶ月生存

消毒剤、抗生物質に感受性示す。

主な感染は、尿→土壌汚染や経皮感染、経粘膜感染。

血流によって腎臓へ、腎臓、生殖器で定着、増殖

血清型によって症状が違う(維持宿主か偶発宿主)

血清型ハージョ(維持宿主)

無症状、不妊、流産、死産などの症状。腎臓に長期滞在する。

それ以外の血清型(偶発宿主)

発熱、溶血製貧血、血色尿、流産(妊娠後期)

腎臓には、一過的に感染。

血清型ハージョについて

生殖器(膣、子宮など)で持続感染し、空体日数が伸びる、授精回数が増えるなどの早期受胎率への影響。

国内の浸潤率

バルク乳の陽性率全国で30%(86277農場)、中部地区では8割

フリーストール、搾乳頭数が多い、野生動物よりも牛‐牛間で感染

繁殖傾向が悪いところは陽性率が高い

受胎率が悪い牛、外部からの導入、水に触れやすい環境

遺伝子型ハージョボビスが国内で多い

ヒトでは、急性熱性疾患。経皮・経粘膜感染。

河川でのレクレーション、都市部ではねずみの尿を介した感染。

国内では家畜が原因となった人の報告無し。海外では人の職業病

ワクチンについて

国内初の不活化ワクチンで、感染予防によって、受胎率の向上、従事者への安全に貢献

グローバルスタンダードとして、米英で広く認知、多くの農場で使用

質疑応答

Q、鹿児島での感染率は?

A、搾乳牛での陽性あり。検査はバルク乳、血清で可能

Q、金額は?

A、日本では未承認で、1ドーズ1000円弱。

Q発見したとき治療の成績

A、抗生物質の通常量ではしづらい。急性期では有効

Q、感染した場合のワクチン

A、四週目以降、抗体率の低下は見込める。完全には下がらないので、感染前の使用が望ましい

重症の下顎肉芽と直腸検査中の直腸断裂        開業 赤星

直腸検査中の直腸断裂

和牛、♀、鹿児島市供胚牛預託牛、未経産

主訴・稟告:人工授精の途中に牛が暴れて、直腸が変で、人工授精を中断した

総合診断:左直腸壁が肛門より30cm地点から裂けている。その終わりは直腸検査しても不明

2〜3日餌は食べた、マイシリンを直腸へ

熱発がみられるが、直腸壁の温度が高く、体温は平常と思われる。

治療方針はどうしたらよいか?

他の先生からの参考意見

お腹から切開して確認してみては?

20日たっても、まだ腹膜炎などになっておらず、便も出ているので、もう少し様子を見てみるのは?

縫合してみる

重症の下顎肉芽

和牛、♀、繁殖

主訴・稟告:半年前より直るのではと思っていたが、だんだんと腫れてきた。人工授精をしている。

当初予想病名・総合診断:アクチノ、悪質な放線菌症ではないか

治療方針:1ヵ月半以上かけて徐々に縮小してきている。現在マイシリン、バイトリルで治療をしているが、このまま続けるのが良いか、外科的切除が良いか。

外科的切除の場合、皮膚の縫合の方法、出血の止血方法

他の先生からの参考意見

内服でヨウ化カリウム(試薬)を飲ませてみるのはどうか。

70gを一升瓶1.8Lに溶かして一週間かけて飲ませるとよい。治るものと治らないものがあった。

他にヨウ化カルシウムも

カナマイシン250ccを局注

外科的切除は難しく、根治しづらいと思われる。

液体窒素をあててみるか、焼いて見るのはどうか。

養豚経営者、場長、従業員を対象にした勉強会          開業  山本

テーマ:

当たり前を当たり前にするには。
仕事の質と精度を上げるためには。
段取りをよくするために必要なこと。
楽しい農場にするために必要なこと。
いい人生を送るために必要なこと。

方法:参加型の勉強会

月に2回。合計10回。

マッピング(紙に書き込み)、グループでディッカッションなどを行う

目標設定と実行:メーリングリストでの宣言を行い、実行する。
実行可能な簡単な目標で(簡単な目標も達成できなければ、農場の大きな問題は解決できない)。

二週間隔で結果報告を行う。

以上のような枠組みを作っている。

原田式目標達成方法

自分が決めた簡単なことをやる それができなければ組織の中で難しい問題を解決できるわけがない

人間のレベルが上がらない限り仕事のレベルは上がらない

携帯型超音波診断装置による子牛の胸腹部診断の実用性の検討           鹿児島大学  安藤

繁殖疾患・検診などに使われる超音波診断装置は、臨床検査で体表からの臓器の検査、仔牛の臍帯、運動器に使用できる。

胸・腹部検査での適用例

心臓検査:心室中隔欠損(携帯型でもギリギリみれる)

肺 正常では層状に見える

肝 肝膿瘍

腎臓 水腎症

腸 実際あまり適用しない、腸重積など

臍 臍静脈炎

ホルスタインの仔牛12頭を使って、ノートパソコン型と携帯型の比較を行いました。

・  心臓

携帯型 深さが足りない、横幅狭いため全部写せない

・  

携帯型でも良く見える

・  肝臓

  よく見える

・  右腎臓

全部写すことが可能

・腸

4胃の動きも見ることが可能

臍帯もOK

携帯型は、胸腹部検査に有効であるが、検査深度の不足により観察位置を変える必要あり

今後の課題としては診断精度の評価、成牛における検査の有効性評価を行う。

質疑応答

Q、腸捻転の診断に使えるか?

A、有効、空気がたまってしまうと見えなくなる。異常かどうかはわかるが、病変部を見つけるのは難しくなる

Q、尿石の診断は?

A、みえたり、見えなかったり

大きいものは写るが小さいものは難しい。肥厚した壁との見分けが難しい。尿道への尿のたまり具合で場所を予測することはできる

Q子宮内膜炎の診断について、また、抗菌剤の適用の有効性

A、白くみえたら細菌感染のリスクは高いが確定はできない

炎症のなごりが残っているだけかもしれない

抗生剤の適用は、子宮内への注入は膿があって膜を被った場合、あまり有用でない。全身性での投与は、肺炎など(粘膜として)と同じ要領で有効かもしれない

Q、生菌剤も有効?腸内環境のように子宮内環境もよくなるのか?

A、わかりません。子宮も腸管と同じ粘膜なので、免疫細胞の反応としては効果がある可能性はある

質疑応答・意見交換

Q 、10歳以上の人工授精で、前30日以内で全頭イソジンまたはマイシリン筋注を予防的にしたほうが良いのか。

A、イソジンで炎症が悪化する可能性 感染しやすくなる

生理的な期間に全頭に抗生剤使うことは推奨できない

なるべく抗生剤は使わないようになってきている

Q、老齢牛に子宮内膜炎が多いか

A何産もすると子宮にダメージがたまるし着床しにくくなる。子宮内膜炎といいきれないかもことも。

Q、子宮の洗浄について

A子宮の自浄作用のためにPGが良いと思う

その後に洗浄とか薬注をする

毎回受胎率が低いものには適用してもいいかも

イソジンは刺激あるので、注入アンピをいれてきれいにして授精

菌を出すことが重要

薬注しても、中に膿があれば効きにくい

Q尿膣の影響は

A、尿膣は受精回数が増加する。細菌が増えやすい環境になっている

 受精のときに子宮内に持っていく可能性ある

 洗浄してからの授精や器具にカバーをつける。

Q、フレッシュチェックの時期

A、1〜2カ月の間、自然哺乳・人口哺乳で異なる。

毎回受胎率が低いものには適用してもいいかも

イソジンは刺激あるので、注入アンピをいれてきれいにして授精

Q、ヤギ起立不能

A、銅欠乏が多いかもしれない。硫酸銅の経口投与や、飼料改善を行うことで効果があるかもしれない。