農場実習

臨研1日目の土曜日は、霧島市の窪田農場において、繁殖障害や去勢の実習を行った。

繁殖障害牛を4頭 準備してもらい、それぞれの卵巣、子宮、膣所見を記録し、その後、宮大の大澤先生がエコーにより卵巣所見を確認した。
ほかに、長期不受胎牛の子宮洗浄を山本先生、蔵田先生が行い、その手技についてディスカッションを行う。


去勢実習は、村山家畜医院の中西先生が座滅去勢法をシェパードの池田先生がヘンダーソン去勢法(ねじり去勢法)を披露して、その手技についてディスカッションを行う。


臨研として久しぶりの農場実習であったが、各自細かい手技で微妙な違いがあり、実際に目にしてディスカッションすることは有意義であった。


・乳房炎の細菌培養  山本

・乳房炎の菌培養器はホームセンターに売っているものが十分利用できる

・検出菌の割合:無し20%、環境性ブドウ球菌21%、黄色ブドウ球菌12%、大腸菌9%、連鎖球菌34%、その他4%

・抗生剤の感受性%:ナフシリン53%、セファゾリン81%、セフロキシム70%、カナマイシン92%、ペニシリン33%、ストマイ79%、エリスロ50%

・乳房炎スコアによる治療:スコア12→培養し、原因菌が分かるまで抗生物質の治療はしない。スコア3→抗炎症薬、経口、高張輸液にて治療、モニターを継続、原因菌判明後に抗生物質治療

・乳房炎原因菌:環境性ブドウ球菌→抗生物質2~3日。黄色ブドウ球菌→新規感染は抗生物質7日間、慢性は幹乳期治療まで搾乳廃棄、盲乳、乾乳、淘汰。環境性連鎖球菌→抗生物質7日間。伝染性連鎖球菌→抗生物質1~2日間。大腸菌→抗生物質+消炎処置+補液を1日。クレブシエラ→抗生物質+消炎処置+補液を3~5日。緑膿菌/真菌/藻→抗生物質は効果ない。

・乳房炎スコア1、2の場合は基本的に治療しない

・クラブシエラは要治療

Q:検査は乳房炎になった分房だけしているのですか?

A:そうではありません、バルク検査もしている。機械の洗浄、薬の濃度も、薬の濃度が足りてないこともある。バルク乳検査は、非常に有効であるとおもう

Q:カビ乳房炎についてはナイスタチンを入れて治るのですか?

A:治る例もある。かびとか酵母とか原因が色々あって何とも言えない

・診療と採卵 是松

高原の協議会採卵

診療区域:えびのから都城(高原中心)

対象:家族経営の大きめの農家が多い、酪農と繁殖和牛が半々

採卵

・診療を済ませてから10~11時スタートで15~16時終了

・現場で採卵

・助手は農家の人

・検卵、凍結は持ち帰ってからする

診療所で検卵、フリーザーで凍結

卵は全部オーナーに返す、管理はしなくて良いが、成績が分からない

採卵成績の提示

良かったこと

・採卵を通して診療依頼があることも

・繁殖障害:7日齢の受精卵を意識する、子宮環境を意識する

・結果がはっきり出る

・農家も獣医も勉強になる

状況の場合分け

1,緊急で重要、2,緊急ではないが重要、3,緊急だけど重要ではない、4,緊急でも重要でもない

臨床獣医としては

・卵回収は難しくない

・検卵や卵の取り扱い、凍結等は練習必要

・洗い物、滅菌、卵証明の作成、台帳検査の準備等は苦手かも

・緊張感、プレッシャーのある仕事

Q:移植器は何を使っていますか?

A:1号か4号、4号が特に良い

繁殖成績は、移植を他人がやると話づてにしか聞けない。

いいと思った卵はすべて受胎することがある。

受精師より獣医師の方が、受胎率が低いことがある。受精師の方が移植の経験が多くなってるのでそこの差ではないのか?卵子そのものの質だけでは分からない。

・牛のマムシ咬傷、他 赤星

○牛のマムシ咬傷

マムシの咬傷では、犬は傷跡がすごく残るが牛ではあまりわからない。

治療はデキサメサゾンを打てばなおる。

会場のみなさんでマムシの咬傷の症例に遭遇した方はいますか?

傷口がはっきりしていたのは1例だけありました。

徳之島ではハブの咬傷が年間1頭ぐらい発生しています。

マムシ咬傷の症例紹介

・隣の牛と胸垂の垂れ方が違う

・胸垂膨張

・咬口

○子牛の突然死が多発

ある農場では4頭、突然死があり、他の農場でも治療せずに突然死が相次いでいた。結局、半年で36頭中16頭が突然死であった。75日に1頭、76日にも1頭また、1日で急死した。

治療してなく、前日まで元気であった牛の突然死の原因は何であろうか。家畜保健所で2頭剖検してもらった時は、すべて正常であった。死亡は心臓が止まるか、息が出来なくなって窒息死するか、脳を打ち抜かれたりして、機能停止するか3つと思料される。今回の解剖所見ではすべてが正常であったので、心不全であろうか。

Q:子牛の突然死の原因が分からないので、みなさんどう思われますか?

A:

ボツリヌスではないですか?→家保の検査では何も言われなかった。

寄生虫は検査したのですか?→検査していませんが、過半数の農家ではアイボメックしている。

家保が出した原因は何だったのですか?→原因全然わからないとのことでした。

心臓の所見はどうでしたか?肥大型心筋症や不整脈はありませんでしたか?→不整脈がありました。不整脈だったら除脈、頻脈どちらでも亡くなる可能性がある。

キョウチクトウ、かびの可能性は?→生産母牛はどうもないので可能性は低いと思われます。

・発情発見システム牛歩 コムテック笹栗

乗駕検知器、歩数計両方つけて検査

LHサージと歩数が関連している

適期受精を可能とする発情グラフ、牛歩によって適期受精が可能

牛歩によって疾病などの早期発見も可能(卵胞嚢腫、第四胃変位など)

夜の発情は見逃しやすいので、牛歩が有効

ある農場で牛歩を基本に受精し受胎率が上がった

放牧、つなぎでも利用できる

Q:価格面はどうなのか?

A: 135千円、3分の1は補助が出る

Q:牛歩の取り替えはどうやっているのか?

A:大きい農場では、コムテックが取り替えしている

Q:故障はどの程度の頻度で起こるのか?

A:ほとんどが洗浄時のさびが原因で、ケースの取り替えが必要

・潜在性子宮内膜炎の診断   宮大 大澤

乳牛の繁殖障害では卵巣静止、黄体遺残が多い。

潜在性子宮内膜炎は診断されてないのでは?

見逃されてる潜在性の子宮内膜炎が農家の損害の増大につながっているのでは?

低受胎牛および不受胎牛について行った子宮内膜バイオプシー検査成績によると、それらの70~77%が子宮内膜炎に罹患していた。

臨床症状がみられたものは子宮内膜炎牛の28%であった。

臨床現場において実用可能な診断方法がない。

腟鏡を用いた検査

・利点:子宮外口の状態と排泄物が確認できる。腟粘膜の状態を確認できる。

・欠点:消毒が面倒、かさばる。

分娩後日数がたっているとほとんど菌は出ない

メトリチェックによる腟粘液の評価

スコア0:透明な粘液

スコア1:膿断片を含んだ透明な粘液

スコア2:膿の割合が50%未満

スコア3:膿の割合が50%以上

スコア4:スコア4の外観かつ悪臭を伴う

サイトブラシによる検査

子宮内膜スメアを採取し、サンプル中の多形核白血球(PMN)の割合を測定する。

サイトブラシによる細胞診

利点:子宮内膜へのダメージがない、潜在性子宮内膜炎の診断に有効である。

欠点:牛用の器具が市販されていない。

乳牛の子宮内膜炎診断基準

分娩後5週において、PMN6%以上、分娩後8週において、PMN4%以上と報告あり。

牛潜在性子宮内膜炎の迅速診断法の開発

白血球エステラーゼとその検出

牛潜在性子宮内膜炎の迅速診断法としての白血球エステラーゼ試験紙の有用性を評価

白血球エステラーゼとPMN%との相関(R=0.6473)

白血球エステラーゼテスト試験紙は細胞診による子宮内膜炎と関連あり

課題として好中球数とエステラーゼ活性との関係を明らかにする必要あり

尿検査用試験紙の白血球エステラーゼ比色検査が牛潜在性子宮内膜炎の即時診断に応用できる可能性がある。

ポピドンヨード液を希釈すると、水溶液中の遊離ヨウ素濃度はむしろ上昇する

希釈ポピドンヨード液は、出血のない皮膚に対しては殺菌能力はより強く、皮膚障害性は弱いと思われる。

現時点では、希釈ポピドンヨード液は市販されていないので自己責任の下に希釈ポピドンヨード液を作成しなければならない。


子宮内膜炎

Q:イソジン100倍希釈の効果はどうなのか?

A:熊本で0.1%の濃度のものが殺菌力が強いという報告あり、NOSAI千葉では0.5%のものを使用し試験が行われた。現在は、治療前後のPMN、菌分離をやっている。

Q:なぜ0.1%濃度のイソジンを使わないのか?

A:子宮内の粘液の量も考慮し、少し高めの濃度のものを用いている。

消毒薬やイソジンは使用する面をきれいにしないとキチンした効果が出ないと思う、消毒薬は、菌も殺すが、細胞に対しても毒性あるので低濃度もので菌だけに効くかどうかを確かめるため細胞の侵襲具合を見ないといけないと思います。

Q:サイトブラシは落ちないのか?

A:岩手で脱落1例あり、その例では黄体があったのでPGを投与し膣に出てきた。何もしなくて出てくる可能性もある。

   

・創傷性心膜炎・尿膜管膿瘍    宮大 萩尾

タイプ別

・磁石にくっついた金物が穿孔

・拍水温が聞こえるタイプなど

無菌性の心膜炎(心膜液貯留)の例

心嚢水6L貯留、無エコー下において一番大きい套管針を使い廃液(右側の腋窩からアプローチ)

疣贅性心膜炎の例

右心系ばかりでなく左心系もある、心雑音あり(右心系の雑音が多い)、大動脈弁、僧帽弁の疣贅、左心系の疣贅性心内膜炎の例では僧帽弁が腱索断裂

Q:創傷性心膜炎の手術では、なぜ右アプローチで行うのか?

A:経験上距離があって安全だから。超音波でどこが安全圏か確かめてから行う、心臓は元々真ん中にある、心尖が左に振っているだけです。

Q:洗浄は行わないのか?

A:洗浄も行います。

Q:チューブは、いつまで留置するんですか?

A:液が出てこなくなれば抜去します

Q:胸腔穿刺によって胸腔内の陰圧が解除されないのか?

A:心臓が大きくなって胸膜と癒着しているので大丈夫。

Q:創傷性心膜炎は再発しないのですか?

A:再発もある。術後心膜液抜くと熱が下がる理由が分からない。

尿膜管断裂(破裂)の発症メカニズム

・子牛の成長に伴い尿膜管は発育しない→尿膜管は引っ張られ壁が薄くなりテンションも増大→弱い部分が断裂

・尿膜管は膀胱より低位にあるため、尿は膀胱より貯留しやすい→発育に伴う尿量増加で尿膜管には尿の貯留が増し拡張するが、限界があり断裂

症例

黒毛和種、87日齢、雄、体重102kg

6日前から腸炎の加療(3日間)2日前の朝から突然起立不能、輸液中に包皮の著しい腫大に気付く、排尿なく、臍部から尿が淋滴。

出生後、臍部の異常なし、尿膜管開存を疑い紹介

起立不能、呼吸荒く呻吟、脱水著明

典型例は、臍部から排尿、尿膜管膿瘍から破裂に至るケースも多い

上記の症例は牛が踏んだ可能性が高い、膀胱破裂以外にも尿膜管破裂も疑ってほしい

臍帯炎の難治性のものは、尿膜管膿瘍の可能性が高い。

尿膜管膿瘍は必ず尻尾を上げている。

現場では見逃されている潜在性尿膜管膿瘍の牛が多数存在するはず。


超音波診断装置

Q:手のひらサイズのエコーは実用的か?

A:超音波の何が重要なのかはその機種がどの程度使えるかを見極めるのが重要でテストしてみないと分からない。機種によっては分かりづらいものもある。

A:高価な機種はやはり高性能、周波数を変えられるものは応用範囲が広い。

・潜在精巣 宮大 北原

腹腔鏡を用いた潜在精巣摘出

手術前にCT画像による潜在精巣の位置特定を行う。

hCG負荷試験によるテストステロンの血中動態

潜在精巣牛でもhCG負荷試験で典型的に反応しない場合もある

hCG負荷試験とAMH濃度の併用が良いがコスト面での問題がある

Q:潜在性の精巣かせずに手術した場合、もともと精巣が無いものはあるのか?

A:なかなか見つからないものもあるが、全くないものは考え難く、萎縮したものがあるのではないか。萎縮し機能的でない精巣の場合、どこかに存在していても、肉質や行動に異常は出ないのではないかと考えられる。

・卵巣のある位置に精巣がある例は意外と多いので疑わなければならない

・小指の爪ぐらいの精巣のことが2回くらいあった。

・探しても無かったがその後牛の顔が雄顔になった例もあるので腎臓、生殖器付近も探さなければならない

・検索には絶食することが基本

Q:潜在精巣で直腸検査では触知不能だが、エコーで診断できた例はあるのですか?

A:エコーで見える範囲なら確認できたことはある。

・ホルモンで反応すればあると思うが、反応しないからといって無いわけではない

・血統も関係ある。

・潜在精巣検索で下降経路を追っていくなら、体勢は立位がいい。

・めん羊では子宮洗浄管にエコーのプローブを付けて妊娠鑑定を行うので潜在精巣の検索に応用できそう。