【NOSAIそおにおける診断・治療・農家指導】 NOSAIそお 岡本光司
<子牛の下痢症>
・現場で行える簡易検査i-STAT:子牛下痢症、尿石症用カートリッジを使用している。
新鮮血、もしくはヘパリン血を使用する(夏冬に弱い)。ただし、ヘパリン血は保存の影響が大きい。(新鮮血を100とするとpH、pCO2は新鮮血でないと意味がない。赤血球が消費するため、GLUは室温でさがっていく。pHは時間がたつと上昇する。4℃である程度安定する。)
i-statで使用するデータはpH、BUN、Hct、Na、K、Clで判断する。
(pH:重曹、レバチオニンの使用するかどうか判断するためにみる。)
・輸液:等張糖加リンゲル+生食を基準とする。
pH<7.3で重曹500mlを追加。
元気がない場合は25%ブドウ糖を追加。
乳酸アシドーシスではレバチオニンを追加(VB群)。
酢酸リンゲルはあまり使用しない。
・症例1 下痢の子牛
○脱水:計算上では30リットルほど補液が必要であったが実際はそうではない。
○I-STAT: BUN↑、pH↓、hco3↓
○診断:下痢によるアシドーシス、高アンモニア血症。
○治療:重曹500ml、生食1l、ソルアセト2l〜3.5l輸液
○予後:同日夕方には元気回復。計算した量ほど補液をする必要はない。
・高アンモニア血症について:
BUN上昇の原因は脱水のみでなく高アンモニウム血症(アシドーシスを併発)も含まれる。
BUNが上昇した場合は脱水とアシドーシスを改善すればよい=循環血液量を増やせば尿中より排泄されるため、抗アンモニウム剤は不要と考える。
Q アンモニアの測定は?
A.牛舎はアンモニアが高いので血中アンモニア濃度を測定できない。アンモニアがない環境で採血・測定しなければならない。
Q 採血して別の場所で測定することは?
A.採血後、アンモニアは値が安定しないので難しい。
・変形赤血球増加症による難治性下痢症
○症状:出生直後より活力がなく、呼吸促拍、可視粘膜蒼白。
○血液検査:塗抹にて変形RBCが多数みられる。
赤血球数、Hct、ヘモグロビン量の減少。
○治療方法:輸血のみ(2日後には、ほぼ正常になる)。
・注意が必要な場合:母乳が少なく下痢した場合
○症状:元気がなく哺乳しない。しかし、呼吸様式は正常。
○血液検査:塗抹上に変形赤血球が出現している。
○治療方法:輸血200~300ml
※母乳が十分でているかどうか確認することが重要である。
(子牛が頻回哺乳していないか、頭で母牛をつついて催促をしていないか。)
母乳が十分でなく、栄養不良である場合は、変形赤血球が出現し、下痢となる。
つまり、下痢=脱水というわけではない。
・子牛の腸炎の治療(白痢でない場合)
血液混入のある場合:注射薬(サルファ剤、抗生剤、イベルメクチン、止血剤)
経口薬(サルファ剤、抗生剤、ベルべリン、生菌剤)
血液混入のない場合:注射薬(サルファ剤、抗生剤、イベルメクチン、ベルベリン)
経口薬(サルファ剤、抗生剤、ベルべリン、生菌剤)
ただし下痢がなかなか止まらない場合は、飼料添加用CTCを加えるとよい。肥育前期の出血性腸炎にも有効である。
Q 投与量は?
A.1頭10g(4〜5カ月齢で3g)で、農家の人は一握りを添加している。
・怒責、偽膜を伴う場合:
0.1〜0.2%アクリノール液(300〜500mlをシース管で注腸)や、流動パラフィン(200ml〜1000mlをカテーテルで経口投与もしくはホースで100〜200ml注腸)が有効である。
また、イソジンを使用する先生もいらっしゃるが、炎症を起こしている腸に刺激を与えるのが良いとは言い切れない。
使用する道具は洗っても流動パラフィンが落ちないため、専用のものを決めた方がよい。
Q エクテシンの注腸15〜20ccのほうがアクリよりもよさそう?
A.イソジンでは刺激が強すぎるかもしれない。
Q 犬猫に使用するダイメトンを使用すると偽膜とれる→流パラなどに混ぜるとよいかも。蒸留水を浣腸するだけでも偽膜がとれることがある。
<子牛の呼吸器病・治療と予防>
・体温中心の診療をする獣医師が多いが、聴診が最も重要である。
肺、心臓に関しては聴診ができないと治療が遅れてしまう。
治療の転機を体温ではなく音で考えない先生が多い。
肺音、胸部聴診音の左右差、気管音、心音、胸部音などを聴診する。
音は擬音で表現する。
・気管支炎、気管炎、鼻炎の場合
治療に選択する薬剤
○抗菌剤:一次選択…PC+KM
二次選択…OBFXもしくはFFC
○解熱剤:ネオアスP
座薬のボルタレンサポ50mgもあるが、最近は使用していない。
解熱剤はあまり使わず、熱が下がらないという症状をみるのも大事。
○その他:3日間解熱しない、眼球陥没、眼光が鈍い、食欲がないなど
→補液(発熱がなくても用いる)
発咳→イソパールP
被毛削剛、削痩→デュファフラルマルチ
重度鼻汁→抗ヒスタミン(エクツェマリン)
・肺炎の場合
治療の遅れが重篤化をまねくため、初診時の聴診が重要である。
重度気管支炎、あるいは肺に異常音があれば肺炎の治療を行う。
眼球陥没、眼の活力、結膜チアノーゼに注意する。肺膿瘍になる可能性があり、また再発する可能性があるため、ステロイドは使用しないこと。
◆肺炎の一次治療
○基本治療:FFC、フォーベット、ネオアスPの併用
○オプション:聴診、呼吸の速さによってはイソパールPの経口投与
輸液:酢酸リンゲル1L(呼吸が早いとき)、ディマゾン(筋肉内注射もしく
は皮下注)併用あり
※ディマゾンは静脈内投与は良くない(肺水腫や呼吸促拍に効果がみられないため)
Q 補液中によだれがでるものは、量・スピードの問題?
A.よだれが出る場合は通常量の半分に、速度は落とす。
泡を吹きそうな場合はディマゾンで予防する。
○飼養管理:冬場は寒いので保温、お湯をあげるよう畜主に伝える。また、患畜を隔離し、細かいノコクズを除去するよう伝える。
細かいノコクズは微生物繁殖、鼻粘膜に付着する。荒いノコクズのほうがよい。
・イソパールP:人間用の塩酸イソプロテレノール、気管支拡張薬。肺炎や咳の止まらない患畜に使用する。
・降圧利尿剤フロセミド(ディマゾン):乳房浮腫にも用いる。腹水、気管虚脱にも。
呼吸が早い場合はi.m.がよい。
◆肺炎のその他の治療
・2次抗菌剤:メイビックス、セファゾリン(慢性のものに効果がある)。
・3次抗菌剤:OTC、バイトリル(バイトリルは最後の最後に使用すること)。
・ネブライザー療法:アレベール、メプチン、生食、抗菌剤(ゲンタマイシン、ホスホマイシン)
ただし抗菌剤は気化するときに無効になるものが多いため、注意すること。
イソパールPを早めに使用する、もしくはエリスロマイシン酸を長期投与するほうがネブライザーより楽でよい。
発育・免疫力向上に、リジン(Amino Shure)やアルギニン(アルファット)が効果がある。
・症例2 :生後2か月より2年間肺炎の治療をした慢性肺炎
○治療:肺炎治療(FFC、解熱剤など効果のあるもの)
症状がおさまれば一度投薬を休薬し、発咳のみとめられるときはイソパールP
を使用する。
また、発育をよくするため漢方やアルファットを用いる。
・輸液について
・下痢病:等張糖加リンゲル、等張重曹、25%ブドウ糖、レバチオニン
・呼吸器病:酢酸リンゲル
肺の悪いものにブドウ糖は用いないほうがよい。
・熱射病:最近は乳酸よりも酢酸リンゲルを用いる。
<四位一体の疾病予防>
多頭飼育が進んだ今、疾病予防が重要である。
1)母牛、子牛の飼養管理
2)ワクチン接種
3)畜舎の環境
4)畜舎消毒
1)母牛・子牛の栄養管理
…分娩前後の増し飼いと、生後3日目より新鮮なお湯、スターター自由摂取させることが重要。
2)ワクチン接種
…分娩前母牛にワクチン接種することがほとんどで、初乳を介して子牛に免疫を付与する。母牛の栄養管理が重要。
…子牛に接種する際は時期が重要で、時期を間違うと発熱が頻発する。
呼吸器病の発症日齢が弱齢化(1カ月齢以内に発症することが多い)しているため母牛に接種するほうがより良い。
・マンヘーミアとPasteurella Multocida、マイコプラズマをPCRで検査し、マンヘーミアが検出されればディスポバルを子牛に接種する。
検出されなければ母牛にワクチン接種でよい。
・母牛の接種時期:分娩前摂取がよい。年1回接種でよいワクチンもある
親牛の栄養が十分でないと、子牛での効果が期待できない。
ワクチン接種前に畜主の理解が必要。(とくにワクチン接種から効果がでるまで2週間かかること、ワクチン接種後にショック症状がみられる場合があること。)
Q マンヘミアがでる農場ではいつ発症するか
A. 1か月が普通だが、早期に肺炎がみられる農家では2週齢くらいでみられることもある。しかし経験はない。マンヘミアは消毒である程度防ぐことができる。
3)畜舎の環境
・のこくずからクレブシエラが検出されることが多い。クレブシエラは薬剤耐性が多い。
マイコプラズマは2週齢の鼻腔スワブより検出される。マイコプラズマ単独では悪さはしないため、マイコプラズマと複合感染するものを防ぐことが重要。
消石灰をのこくずに散布するとよい。
・ある農家で風邪が冬に蔓延したため、シラスを厚み10cmほど敷いて、その上にノコクズを敷くと風邪がでなくなった。
牛舎の室温、コンクリート、シラスの温度変化を調べたところ、シラスを敷いた場合は2〜3℃高くなる。湿度は高いほうが病気がでにくく、シラスを散布した場合は湿度も高く、一定であった。またシラスには浄化作用がある。
Q シラスを敷いた場合の掃除は?
シラスが硬いため、通常通りの掃除で大丈夫である。
4)畜舎消毒
=煙霧消毒による下痢症と肺炎の予防
利点:天候に左右されない。また使用量が少なく、牛体への直接噴霧が可能で、簡単。
欠点:風がふくと飛ぶ、音が大きい。
冬場実施した結果効果がみられたため、週に一度散布することになった。
Q 空気を消毒するのか?気管か?
A.吸っているので気管にも入る。畜舎の消毒でもある。
Q .消毒薬は
A.グルタクリン。温度が高温なので高温で効果の低下するものでなければ大丈夫。
ハエを殺す薬での使用も可能。
昨年よりRSウイルスが流行したため、煙霧消毒したところ1週間で終息した。
肥育前期でも使うことができ、呼吸器病がほとんどでなくなった。
<耳道炎>
鼓膜突刺術
猫の尿カテーテルを使用していたが、今ではシース管や気管チューブなど様々なものを使用しているが、猫の尿カテーテルが一番使いやすい。
洗浄液にはアクリノール液(組織の熱をとる作用もある)や犬用ウェルメイト(0.5cc)を使用。
肥育牛の耳道炎には、PC+KM+メタカム(フォーベットはよくない)や、乳房炎軟こうニューサルマイを使用する。
鼓膜がやぶれたかどうかは、鼻から排液がでるかどうかで確認する。
<眼の病気>
・結膜炎
乳房炎軟こうは使わない。結膜炎が悪化し、角膜炎になることもある。
点眼薬は防腐剤の入ってないものを選択すること。
中等度〜重度であれば2%ホウ酸薬で洗浄後、点眼(タリビットやゲンタマイシンの点眼薬)。
・角膜炎
犬猫用のパピテインやタリビットを用いることが多い。
・症例3 外傷性角膜炎を呈したホルスタイン種の症例
パピテイン、タリビットを20日間投与したところ、回復。
<皮膚病>
・デルマトフィルス症
治癒するのに時間がかかるとされているが、ペニシリン、乳房炎軟こうを処置し、1週間で回復。
・乳頭の皮膚炎
リンデロン軟こう(ステロイド+ゲンタマイシン)を処置し、1週間で治癒。
<坐骨腸骨窩膀胱瘻設置術による去勢牛尿石症の治療>
・去勢牛の尿石症に対する外科的処置
・長い套管針を用い、坐骨腸骨窩より骨盤腔を経て膀胱穿刺を行い、留置カテーテル(経口、経鼻胃チューブ)を装着し膀胱瘻を形成し人工排尿をさせる。
・術後、塞栓した尿道内の尿石は自然に排除され、自然排尿するようになる。
・子牛や育成牛には350mm、肥育牛には515mmの套管針を用いる。留置カテーテルは、ヒト用の経口・経鼻胃チューブのマーゲンゾンデSを用いる。
・術式:
1. 枠場に立位保定
2. 2%キシロカインにて尾椎硬膜外麻酔を施す。
3. 坐骨腸骨窩を剃毛消毒し、穿入部位を切皮する。
4. 套管針を挿入し、直腸より触診しながら膀胱頚部背側に穿刺する。
5. 内針を抜き排尿
6. 留置カテーテルを装着する。
7. 外套を引き抜く
・カテーテルの先は膀胱よりも低い位置にする。
・早いものは術後2日で陰茎から排尿するようになる。排尿しないものは、酢をカテーテルから入れて洗浄すると排尿することがある。再発もあり得るので、肥育牛はすぐに出荷することが望ましい。育成期の子牛にはウロストンなどにより再発防止する必要がある。
・入れる長さは、40から50cm内部に留置(膀胱内でループするくらい)。
<難治性関節炎の診断と治療>
症例:12ヶ月齢、雌
○症状:8か月前からの爬行、右側足根関節が2倍程度腫脹。
血統がよく畜主があきらめきれないとのことでそお共済に入院。
○レントゲン所見:関節周囲の腫脹と骨吸収像。
○関節切開術術式:
キシラジン鎮静下で塩酸プロカインにて局所麻酔、術野を剃毛・消毒後、関節腔を切開し、異常組織を除去。鋭匙とメスで貯留液・異常組織を除去後、生理食塩水で加圧洗浄。ドレーンを設置し、紙おむつで覆って保護した。
○術後3日間、毎日抗生剤の全身投与とドレーンからの洗浄を行ったところ、術後翌日から負重して歩行が可能になり、食欲も回復した。2週間後に抜糸し、軽度腫脹、湾曲が残るが正常歩行になった。術後良好に経過、1か月で受胎し、繁殖牛として供用されている。
・運動器病の診断といえば以前はレントゲンのみであったが、現在はレントゲンとエコーで診断している。
<ぬかるみ療法>
特に、せり市前の原因不明の懸跛行に有効である。田んぼ状態のぬかるみの中に牛を入れておくと、3〜7日で跛行が治癒する。昼間ぬかるみに入れておくだけでも効果がある。ただし、ハリ治療をした症例では、ぬかるみ療法をしても効果が見られなかった。
・症例1:黒毛和種肥育 11か月 雌
○症状:左側前肢球節腫脹、熱感、疼痛、跛行を呈す。
当初ステロイドを投与したが効果はみられず、関節周囲腫脹した。
○レントゲン所見:骨には異常なし、関節周囲の腫脹
○エコー所見:厚い組織が確認された。
2012/12/14ギブス装着後7日目、球節に腫脹は残るが、症状の軽減、食欲増加が見られたのでギブスを外した。しかし1/8に再び跛行、食欲・活力減退が見られるようになったので、1/17からぬかるみ療法を開始したところ、食欲・活力増加、腫脹・跛行の軽減が見られた。
1/29に患部の内側部が突出したが2/1に自壊・排膿し、跛行が消失した。患部にアクリノールを塗布したところ自然治癒した。このような懸跛行のみでなく、骨が原因でない関節の腫れにぬかるみ療法は有効であると考えられる。
<股関節脱臼>
・股関節脱臼とみられる症例は、レントゲン検査をすると大腿骨頭の骨折であることがほとんどである。
・この症例では、レントゲン検査により股関節脱臼であることがわかり、整復を試みたが失敗した。股関節脱臼は、罹患後24時間以内でなければ外科的な治療は難しい。(大腿骨頭靭帯が切れてないか、など様々な要因がある。)
レントゲンによる正確な診断が重要である。
<ダンボールギブス>
・対象:生後2ヶ月以内の子牛
・適応:先天的に四肢の湾曲等の形態異常があるが、介助により正常な状態に整復可能な牛や、球節で負重する牛
・症例:生後より左前肢が湾曲、右前肢も軽度の湾曲。
・生後3週間より起立するようになるが、左前肢にダンボールギブスを適用したところ、1週間後に治癒。
・右側も 2,3日でダンボールギブスが外れたが、自然治癒した。
Q 濡らしては使わない?
A.濡らしてからドライヤーで乾かしたら固くなるのでは?
<牛の起立不能>
・牛の起立不能といえば低カルシウム血症が多いが、牛の起立不能には、低カルシウム、低リン、低マグネシウム、脱臼、骨折、難産による骨盤周囲の骨格筋損傷、脂肪肝、関節炎、ケトーシス、妊娠中毒、骨格筋損傷など様々な原因がある。間違えた治療により時間を無駄にすると、時間の経過とともにダウナーとなり、廃用となってしまう。したがって、初診時に血液検査を行い適格な処置を行うことが重要である。
<アミノ酸輸液>
・低タンパク血症とは、著しく血中タンパク(特にアルブミン)が低下した状態のことである。
・典型的な症状としては浮腫(顎下、下腹部、首、腸管)がある。症状は食欲不振 が多い。
・症例1:TP 2.4g/dl、Alb 1.06g/dl
・低タンパク血症による食欲不振や浮腫の治療には、ヒト用のアミゼットBを用いていた。投与量は200ml〜600mlで、リンゲル、糖類との併用がよい。
・哺乳畜ではショックが起こることがあるので、生後5ヶ月以上の牛にしか使わない。
・ヒトでも、小児に対する安全性は確認されていない。
・この治療はあくまで対症療法である。
・200ml 330円で農家負担である。
・アミノ酸加総合電解質液であるアミカリックは、幼弱子牛にも投与可であり、現在はこれを使用している。投与量は同じく200〜600mlで、リンゲル、糖類との併用がよい。
・アミノ酸製剤は腎機能障害があっても使用してよい。
・肥育でよくある腸管浮腫では、副腎皮質ホルモンやディマゾンを使用しないと下痢が治まらないように、低タンパク血症による下痢の牛もアミノ酸輸液をしないと治らない。腸管浮腫は直腸検査により診断する。
<発育遅延子牛に対する処置>
・下痢症、呼吸器病、原因不明の発育不良子牛の処置は、佐藤獣医師の砂糖が有名である。
・講演者が以前から行っていた処置は次の通りである。食欲の状態を確認、血液検査をし、必要であれば治療を行い食欲・活力を回復させたのち、酵母、亜鉛が主成分の飼料添加剤であるイーサック200Pを2か月間投与する。この飼料添加剤はルーメン内の微生物数増加や微生物の活力を上げ、腹囲を大きくする働きがある。その後、7〜8か月からセリ市までクローサルXを50g/day給与し。体高を大きくする。
・通常7〜8か月の牛の体高の伸びは一月におよそ3cmであるが、クローサルXを100g/day給与した場合は一月におよそ6cm伸びる。イーサック200Pは6000円/10s、クローサルXは1万2000円/10sである。
・クローサルXはサルトーゼとトルラミン酵母を混ぜたものである。
・クローサルXのみを投与した場合、体高だけが伸び貧弱な牛になってしまうので、イーサック200Pを投与して腹囲を大きくしてからクローサルXを投与する。
・肥育導入後、試験としてイーサックZとボバクチンを毎日投与すると、非常に食い込みがよかった。宮崎では使用しているが、使用できるのは出荷の6か月前までである。
・講演者は昨年よりアミノ酸飼料添加剤Amino Shuer-Lを使用している。低タンパク血症を呈した慢性腸炎の牛に2か月間給与したところ、慢性腸炎は治癒し、体重も増加した。Amino Shuer-Lを好まない牛もいるので、その場合は別の方法を考えなければならない。
<肝炎の治療>
・肝炎は必ず血液検査で確認する。GOT高値(100以上)の場合、肝細胞障害が疑われる。γ-GTP高値(50以上)の場合、胆管障害、慢性間質性障害が疑われる。慢性間質性肝炎は、育成期頃まで発育した心奇形の牛で見られ、突然の食欲低下や頸静脈怒張が起こる。この場合、γ-GTPのみが高値を示す。遊離脂肪酸が1000μEq/l以上となった場合、上記の酵素系に異常がなくても、肝障害があるものと判断する。
・このような肝障害が見られた場合、リンゲル液2000〜3000ml、25%ブドウ糖1000ml、チオラ100ml(GOT高値のとき)、アンピシリンナトリウム3〜6g、ウルソ10%10mlを投与する。チオラは連合会では1日50mlしか認められていないが、50mlでは効果が弱いので100ml使用する。
・骨格筋の障害の場合にも、GOTとビリルビンが高くなる。その場合には肝障害なのか、骨格筋の損傷なのかを判断するために、CPKを計測する。CPKが高かった場合には筋肉、特に臀部の腫れなどがないかもう一度診察する必要がある。
・注射の治療は4日間で終了し、パンカル、ウルソを飼料に混ぜて給与する。ただし、パンカルは肥育牛に長期間用いるとサシがなくなるので注意する。
・胆管炎では、肝蛭がいることがほとんどである。もし肝蛭がいなかった場合に、ウルソと肝臓から排出される抗生物質を投与する。
・肥育の肝炎にはエンドトキシンによるものが多いので、副腎皮質ホルモンを投与する。
・肝炎の場合、上記の治療開始3日目までに便の状態が改善され、4日目までに食欲が回復する。5日目からはウルソ、パンカルの給与に切り替える。もし治療開始5日目までに症状が改善されなかった場合には、他の疾患を疑い、全身状態によっては廃用を考える。
<アニロケーターによる創傷性疾患の診断>
・アニロケーターとは金属異物探知機のことであり、以前は第二胃内にある金属異物を探知するのに使用されていた。講演者はこれを逆手にとって、第二胃と横隔膜の癒着の有無を知るために使用している。検査数日前にパーネットを投与し、第二胃のある場所にアニロケーターを当てると、正常ならば一定時間経過するとアニロケーターの音はしばらく停止し、また一定時間鳴る。これは第二胃が上下運動をしているためである。しかし横隔膜との癒着があると第二胃は上下運動をすることができないので、アニロケーターの音は鳴ったままである。
<繁殖障害の治療>
・個体の代謝プロファイルテストによりエネルギー、タンパク、ミネラル、ビタミン分析を行う。
・タンパクが不足であることがわかった場合、大豆粕600g/dayを給与する。
・エネルギー不足であった場合、マグコンゾール(ケトーシスの際飲ませるMgとグリコール)、カーフエイドネオ(グリセリンの飼料添加剤)を投与する。カーフエイドネオは、胚移植のドナーに給与すると回収できる胚の数が増加し、質も上がるという報告がある。
・ミネラル、ビタミン不足であった場合、DCガード、ダイナミックターボ、にがり等を与える。DCガード、ダイナミックターボはペレットである。粉末ではなくペレットの方がビタミンの劣化を防ぐことができ、吸収がよい。マグネシウムが不足している繁殖牛ににがりは有効である。
・にがりは苦味が強いので、水で薄めたにがりを飼料にかけるとよい。
・代謝プロファイルテストで異常がみられなかった場合、バリアスタ10、マグコンゾールを給与する。
・バリアスタ10の主成分はリジン、メチオニン、アスタキサンチンである。この他にもアミノ酸が添加されているが、いずれもバイパスタンパク質である。1日に50g飼料添加する。まだ試験途中であるが、黄体形成がよくなるといわれている。
・マグコンゾールは、プロピレングリコールとマグネシウムが主成分である。プロピレングリコールのみの薬剤でもよいが、あえてこれを使用するのは低マグネシウムを呈した繁殖牛が多いからである。また、マグネシウムには補酵素的な働きもある。鈍性発情牛、または発情するが受胎しない牛に適用する。つまり定期的に発情する牛にしか使わない。発情予定7日前より1日1本(250ml)を6日間投与する。数日前から投与してもよいこともある。
<代謝プロファイルテスト>
NOSAIそおでは独自の方法で乳牛、肥育牛、繁殖牛を対象に代謝プロファイルテストを行っている。
<乳牛の代謝プロファイルテスト>
・乳牛の代謝プロファイルテストは、周産期の代謝器病の予防、乾乳期に潜在疾患を処置し、健康な状態で分娩を迎えることを目的としている。飼養牛全頭分娩予定14〜30日に採血し、血液検査を実施する。検査結果データは北海道NOSAIのソフトで処理する。異常が認められた牛にはフジックス50g/dayを5日間投与する。
<肥育牛の代謝プロファイルテスト>
・ビタミンAのコントロールと産肉性の向上を目的とする。導入7日後、4、8、12、16か月後の牛を、それぞれ3〜5頭ずつ採血する。検査項目はビタミンA、ビタミンE、グルコース、BUN、遊離脂肪酸、Ca、iP、Mgである。グルコースとBUNは体作りの状態にあるのか、脂肪蓄積の時期にあるのかの判断に用いる。
・遊離脂肪酸は肥育後期におけるサシ抜けがないかどうかの指標である。
・リンはサシの素になるリン脂質の状態を見るほか、低カルシウム血症の判断に用いる。血中カルシウムが正常範囲内であっても高リン酸血症の場合、低カルシウムであると判断する。このような牛は足の湾曲などがないかを見る。
・マグネシウムは濃厚飼料を食べているかを確認できる。
・これらの項目は、肥育月齢ごとにNOSAIそお独自の基準値を定めている。脂肪蓄積の時期にはインスリンが分泌され血糖値は低くなる。体作りの時期にはインスリンの分泌が少ないので、血糖値は高値になる。若いころに脂肪蓄積がおこると筋間に脂肪蓄積が起こったりロース芯が小さくなったりすることがある。
・肥育前期〜中期の体づくりの時期には、およそ血糖値は80mg/dl、脂肪蓄積の時期である肥育後期には50〜60mg/dlである。肥育前期で血糖値が低いときには、栄養の不足か飼料の与え過ぎである。
<繁殖牛の代謝プロファイルテスト>
・NOSAIそおではべぶドックと呼んでいる。主に繁殖障害が多いときに使用するが、その他にも子牛の下痢が多いとき、哺乳期の子牛の発育が悪いとき、繁殖成績も子牛の発育もよい時の牛の状態を記録したいときに使用する。
・べぶドックの流れ:分娩予定の1か月前、分娩1か月後に採血する。飼養頭数が20頭以下の場合は全頭採血する。またその時に母牛の体型・体格、子牛の発育の調査と、繁殖状況、飼養形態、給与試料、問題点の聞き取り調査を行う。給与試料の聞き取りについては、給与している飼料の種類と量、添加物、飼料畑の苦土石灰散布状況等について聞き取りをする。その後血液検査と粗飼料・土壌分析を行い、粗飼料の分析結果は飼葉桶というソフトで飼料計算を行う。粗飼料分析は鹿児島県畜産試験場に、飼料畑の土壌分析は鹿児島県畑かんセンターに依頼している。飼料計算結果から、改善案の提示を行う。
<共済太郎様の実例>
血液検査の結果、ビタミンは良好であったが、BUNが全頭明らかに低いことから、明らかなタンパク不足であることがわかった。粗飼料分析結果によってもタンパク不足であることが分かった。指導を受け改善した結果、分娩から受胎までの平均日数が111日から48日に短縮された。
<べぶドックにより判明した問題>
・苦土石灰散布
・べぶドックにより、飼料畑に苦土石灰を散布していない農家が多くいるということがわかった。苦土石灰を散布していないと土壌が酸性に傾くので、施肥しても窒素分が吸収されず、粗飼料のタンパク含量が低下してしまう。その結果母牛のタンパク摂取不足により、子牛の生時体重の低下、子牛の発育不良、子牛の病気の増加、母牛の発情回帰の遅延・不受胎などが起こる。
<水分含量の少ない粗飼料>
・ロールラップサイレージは水分含量50〜60%が理想である。このようなサイレージは発酵した独特の香りがあり、牛の嗜好性も良く、重く、重ねると変形する。
・最近では、1ロールにたくさんの粗飼料をロールするために、水分含量が20%以下のロールラップサイレージが見られる。このようなサイレージは軽いために運搬・給仕が容易であるが、発酵が起こらないために独特の香りが無く、牛の嗜好性も悪い。軽いために重ねても変形しない。
・天気のいい日は半日乾燥させてしまうと長すぎるくらいで、水分含量20%以下となり、発酵しておらず、サイレージではなく乾草の状態である。近年はこっちが多いように見受けられる。
・ホールクロップサイレージ(飼料イネのサイレージ)は刈り取る時期によって栄養価が異なり、吸収率が異なるため、少しでも刈り取りが遅れると実が硬く吸収されず、胃床にたまり反芻されにくい。
・近年でている焼酎カスは、あまり吸収されないのではないか。栄養不良になった子牛の下痢をもたらしたり、繁殖障害をもたらしている可能性もあるのではないか。
<牛づくりは土づくりから>
鹿児島は火山地帯であり、土壌中のMgが少ないので、特に飼料畑には苦土石灰を散布してから施肥をするように指導している。
【質疑応答】
Q 脱臼した子牛をみつけた場合は??
A.整復法を試してみてください。1例であったが大転子からピンを挿入し、改善したものもいる。
Q 尿石の手術で、ほとんどS字状のところを切開し、ホースで洗浄しているが、それ以外の部位の結石が除去できない。酢を流す効果はあるのか?
A.腹膜炎の恐れがある。また結石が溶ける前に周囲組織が壊死するのではないか。
Q 分娩後の新生児救急は
A.人工呼吸器や、さかさまにぶら下げて肢を開閉させる、冷水をかける、など。
Q 尿石の患畜で、ディマゾンの使用は??
A.ディマゾンで尿量を増やし、ウロストンで石を小さくして排尿させる。ただし尿閉塞の場合は膀胱破裂をおこす可能性もある。
Q 鈍性発情について。最近CIDRであまり効果がみられない。血液検査を行うと、βカロチンが低い。補充した治験は行ったか?
A.βカロチンが高価だったためやめた。プロピレングリコールはTCAサイクルを間接的に回すが、グリセリン(ブドウ糖)は直接的に回すため、グリセリンが発情をよくするのではないか。
Q 去勢はどのような方法で行っているか
A.ほとんどセラクタールで横臥位にし、観血的に行っている。町によってはバルザックを好むところもある。
Q ノコクズに消石灰をまぜるところについて。酪農家で生石灰を撒くところがあるが、違いは?
A.殺菌作用は同じであるが、生石灰は熱をもち、また堆肥にならない。
Q 消石灰をまぜるのではなく、撒くのはどうか?
A.短期的に効果はみられるが、長期的には効果はみられないと思う。とくにクレブシエラは一度入ると長期滞在してしまうため、大変である。
SRSは湿ると効果のある消石灰で、1年間は効果があるとされている。
Q 消石灰をまぜると、コクシジウムのオーシストの活力が低下するときいたが?
A.石灰の効果は永久ではなく、母牛から感染するものがほとんど。ノコクズは下が腐っていることが多いので、下で繁殖しているのではないか。
<膣内留置型P4製剤による子宮内膜上皮成長因子(EGF)濃度の回復および不受胎牛治療効果> 関
・AI前にP4感作し、AI後の子宮内環境を整えることが目標。
・EGF:子宮内膜上皮成長因子
発情周期3日目と、12〜14日目にピークを迎える(周期的にピークがある)。
黄体側、非黄体側で有意差はない。
・正常にEGFの周期性変動がみとめられる牛とそうでない牛では、リピートブリーダーは後者が多い(70%)。EGFが高くならない牛のEGF周期性を改善することで受胎率が向上するのではないか。
・P4、E2を増加させるとEGFが増加し、逆にP4、E2が少ないとEGFの増加も芳しくない。(EGF>5ng/gまで上昇するものを正常としている。)
・発情後3日目のEGF濃度ピークがあるものとないものでは、胚のサイズが異なる。EGF濃度が高くないと胚の発育が不十分であることが示唆される。
・EGF濃度を高くするには性ホルモン製剤投与が効果がみられる。E2のみではなくP4徐放剤も併用するとEGFピークが高く、かつ長くなる。
・EGF濃度が低かった牛(泌乳牛)を用いたところ、P4、E2(5mg)、PGを用いてリピートブリーダーの受胎促進がみられた。E2投与量は5mgが一番効果がみられた。ホルモン剤を処置することでEGF濃度が正常化したものが多く、次の発情に合わせてAIを行ったところ受胎成績も向上していた。
・オバプロンVを用いた試験
○供試牛:リピートブリーダー乳牛160頭
発情3日目のピークが低いもの
○披験薬:P4徐放剤、E2、PG
○実験区:P41.0g群(E2+P41.0g+PG→AI)
P41.9g群(E2+P41.9g+PG→AI)
対照群(投薬なし→AI)
○評価項目:受胎率、左右子宮内膜P4およびEGF濃度
○試験デザイン:発情周期3日目のEGF濃度を測定し、7日目〜14日目までP4徐放剤を挿入、挿入時にE2投与し、抜去半日前にPGを投与。発情時にAIを1~2回。1~2回AI後、30~35日および60~75日に妊娠診断。
○結果:
・ホルモン剤無処置のものよりも処置群のほうが受胎率が向上し、EGF濃度も増加した。P4含量による有意差はみられなかった。
・黄体側、非黄体側の子宮角P4における左右差は、P4剤挿入前は黄体側が高く、挿入後は左右差がなくなる(対照区とは有意差あり)。AI時は対照区と有意差はみられなかった。
・P4添加によるEGF上昇効果は、P4剤挿入群でAI後3日目にEGF濃度が上昇した(P4とEGF濃度に正の相関がみられた)。
○考察・まとめ:P4徐放剤は子宮内膜のP4濃度を高め、子宮内膜EGF周期の回復を促し、その後1〜2回のAIによる受胎性向上効果があることが示唆された。
同効果について、徐放剤のP4含量の違いは明確には認められなかった。
発情7日目に徐放剤を挿入したが、黄体期の異なる日(黄体前~後期)から同処置を開始した場合の有効性については、今後の検討課題。
Q EGF濃度が2峯性の山がある意味??
A.まだ不明です。
黄体退行などと関連があるかもしれない。
Q 胚のサイズはどのように測定したか?
A.エロンゲーションは2週間経ってから。
Q EGFが高いから胚が大きくなるのか、胚が大きいのでEGFが多くなるのか??
A.EGFが高いから大きくなる。成長因子なので子宮乳などの影響もあるのではないか。
Q オバプロンを使用する必要があるか。E2とPGの1Shotのみではどうか。
A.後者でも可能性はあるが、どの程度効果はあるか不明。E21ShotだけでもEGFは増加し、EGF周期性はみられるので効果のある可能性はある。
Q子宮内膜炎とEGFの関係は
A.子宮内膜炎のものではEGFピークは消失している。
Q 黒毛でEGFピークが消失しているものは??
A.その可能性はあるが不明。
Q 投与量は黒毛では乳牛の半分量でも十分か??
A.可能性はある。
Q 鈍性発情で使用してもよいか
A.鈍性発情について許可をとっていないので使用書には書いていない。実際に使用するのに問題はない。
Q オバプロン抜去はPGをうつ半日後がよいのか
A.PGによる内因性P4の低下と、オバプロン抜去による外因性P4低下をそろえたかったため。
Q その場合、半日後に畜主に抜いてくれるよう指導するべきか
A.現場では半日ずらす必要はないのではないか
Q 2日後にGnRHを使わず、自然発情がそれだけみられたのか?
AIを、発情時ではなく日数で指導するのはどうか
A.抜去2日後にGnRHを接種したほうが確実ではあるが、今回は100%発情がみられたためその必要はなかった。リピートブリーダーがここまで成績がでたのは、これから受胎率はよりあがる可能性が示唆される。
Q EGFは分娩後どのあたりからできるのか
A.子宮が回復していない時期でのEGFはまだ調査していない。
・BVD2型の抗体価がワクチン接種2か月たってから4倍以上に増加し、その上昇が弱く、軽度反復感染がおこっているのではないか(1農場)。他2農場では5種ワクチンを接種していなかったが同じ状態がみられた。
・IBRは7〜12月は新規発生はみられず。
・BVD1型は流行がないようであった。ワクチン接種後も抗体価が上昇せず。
・RSウイルスは抗体価の上昇がみられ、野外感染を疑う。抗体価の動きがあまりみられず、軽度感染で発症レベルではないことを示唆される。暴露ウイルス量が少なかったと考えられる。全体的にはコントロールされている。
・P13Vについては流行がみられず。
・アデノウイルスは抗体価が上昇したものがあり、野外感染を示唆。
以上より鹿児島ではアデノウイルスとBVD2型が流行しているのではないか。
どこまで感染すれば発症するのか。
ワクチン接種していないもので12月に下痢・風邪の症状が相次いでいた…アデノウイルスではないか。
Q 使用しているワクチンは?
A.キャトルウィン6種。5種+ヘモ接種でショックを起こしたものがいた。
6種単体接種でショックが起きた例はまだない。ショックの原因はヘモではないか。
Q 岡本先生の話にもあったが親牛に接種して子牛に移行する母牛接種と、生後すぐに子牛に接種する子牛接種、どちらがよいか?
A.子牛に接種したほうが効果があったように思える。
・スタンディングはみられるものとみられないものがおり、かつ夜だと気付きにくい。発情時は歩数が増加するため、牛の万歩計をテストしてきた。発情周期などの異常に気付くことで、繁殖障害などの病気の発見にも役立つのではないか。
・肢は装着が大変だが、首は動いてしまうため、結局は肢のほうが発情時に増加するのがわかりやすい。
・パソコンを使用するタイプのものは富士通と提携してWEBで出先でもデータが見られる。
・歩数とLHサージとは正の相関があり、簡易的な発情発見に便利である。購入されたが肢につけるのが大変およびパソコンの使用が大変…といった理由で使用されないケースがある(中規模のところが多い)。
・そこで小規模農家で使用が簡単になるよう、牛歩ライトを開発。オーストラリアやヨーロッパなど海外への流通予定である。
・万歩計からの電波は80m先までとぶ。
・使用方法はパンフレットに記載してある通り。点滅している個体は発情がきたことを示す。前3日分のデータしか残らない。
・ホルスタインは7割、黒毛は9割は受胎した。
・値段:牛歩ライトは万歩計5個で36万円、一般の牛歩は55万円+35700円×個数
Q 100頭規模の農場だと何個くらい必要か
A.3割ほどあればよい。全頭装着している農場もある。中の電池はリチウムであるため5〜6年もつ。また繋ぎの農場の場合は前肢に装着するとよい。
Q 壊れるケースは
A.コンクリートにぶつけて壊れたことがある。1年以内であれば取り替える。またぬかるんでいる牧場でも使用に問題はない。お湯につけると故障の原因となる。
< 乳牛のKlebsiella pneumoniaeによる甚急性乳房炎に対する治療方法の検討> 的野
・この治療方法は保険適応外であるため、自由診療で検討してもらいたい。いずれは保険適応になることを希望している。
・乳房炎が重篤になると水溶性乳汁をだし、廃用となる。OBFX(ビクタス、メイビックス)を搾乳牛に筋肉内注射したところ、血中ピークから4〜6時間おくれで乳汁中に排出されることが確認され、効果が期待される。
・また、ウルソは抗エンドトキシン作用がみられ、大腸菌が原因の乳房炎には効果が期待される。
・乳牛におけるKlebsiella pneumoniaによる乳房炎は重篤な症状を示す。第2病日までに症状改善のみとめられない症例に対し、CEZ加輸液(6〜8mg/kg/day)を1時間輸液したものと、OBFX(4.5〜6.0mg/kg/day)の筋肉内投与に変更したものを比較したところ、治癒率に違いがみられた(CEZ:54%、OBFX:85.7%)。また初診時に細菌数の少ないもの(105CFU/ml未満)ではCEZによる継続治療も有効であった。大腸菌が原因のものではCEZで治療を継続した場合も効果を示し、治癒率は93.8%であった。また、オキシトシンで乳汁中に菌が排出されるため、牛の状態改善にはよいことが示唆される。
・OBFXの乳汁中の残留時間は96時間であり、これを念頭において使用を検討していただきたい。
・実践に即した獣医学士の輩出…参加型臨床実習(ポリクリ)の開始
ニーズはあるが現在の大学教育では欠如している。
獣医学教育の国際化を図る(国際認証をとる)ことが目標。
現在、日本の獣医師ライセンスが海外で通用しないのは、
日本の獣医学教育のレベルが欧米においついていないため。
・診療研数、症例数の増が必須
・勘ではなく、データに基づく診断技術教育(Ex P3a施設の設置)
・診療車に血液検査やエコー、DR(X線)、内視鏡を積み込み常備・往診し、診断依頼翌日までに確定診断を行うことが目標。症例数の確保をし、1次診療に即したデータに基づく診断を行えるようにしたい。
Ex.大腿骨骨頭骨折(DRによる診断)
Ex.飛節関節炎(DR)
Ex.尿膜管遺残(DR):どこまで残っているのかわかる。
Ex.消化管造影(DR):吐き戻し。
4胃内に内容物がたまっているのが確認できる。
Ex.化学腫れ(DR):浮腫、Edema;下顎、耳下腺ダクトの破裂による腫れ。
Ex.中耳炎(内視鏡):鼓膜を穿刺すると膿、フィブリンなどが見える。
硬性鏡、内視鏡による確定診断が可能(5mmがよい)。
Q 鼓膜はどのようにして破るか
A.硬性鏡で破ることもあるが、内視鏡にガイドワイヤーをいれて鼓膜を破ることもある。
大事なのは鼓室胞にたまっている場合は念入りに洗浄しないと厳しい。
レントゲンや内視鏡では鼓室胞は見えず、CTでしかみえない。
Ex.心臓(Echo):左右3~4肋間やや下部にあてる。
VSDはBモードによる欠損部確認、欠損部間隔測定が可能。
8mm欠損部があるとノイズが聴診可能。
単心室なども早期確定診断が重要。
Ex.化膿性肺炎と気管支の泡沫貯留(Echo)
:肋間よりあてると、高エコー原性のアブセスがみえる。
胸膜肺炎などで癒着がはげしいと、後方にシャドーをひき、貯留した液
(低エコー原性)がみられる。
Ex.異常妊娠(echo)
胎児の性別判定(echo)
リアルタイムでより詳細な、Adultへの診断が可能になる。
・大動物用CTを導入予定。(<450kg)
・腹腔内Mass(ex.脂肪壊死症のサイズなど)
・子牛の肋骨骨折(骨折部位の確定)、それによる無気肺の確認など
・気管狭窄部位の確定など
○症例:内視鏡適応例
・JB ♀ 252kg 10カ月齢
・出生直後より喘鳴、鼻翼呼吸。抗生剤を投与。
・1か月後より呼吸促拍、腱部ガス貯留により鼓張。
・その3か月後より呼吸促拍、発咳、気管支・肺音粗。KM、フォーベットを使用。
・その5ヵ月後より肺音粗励、ラッセル音聴取、経静脈拍動。AMP、ネオアスを投与。
・直後に来院。
・来院時:T39.6 P 66 R 42
・血液検査、動脈血液ガス分析を実施
→PO2、PCO2を視ると心疾患は疑われない
(PO2とPCO2が40~50くらいで同じような値を示す場合、中隔欠損が疑われる)
・症状:間欠的発咳、肺音・気管支音粗励、頚静脈怒張
前葉のみラッセル音、後葉は正常。
・ECHO所見:前葉に高エコー原性、無気肺(肺の反対側がみられる)。
心臓に異常はない。
・気管支鏡所見:気管内に液貯留。気管の気管支とは別に、背側に陥没を確認。
気管支の炎症はあまり重度ではない。(排膿などはみられず)
鼻咽頭部などに腫脹、気管支に開口様陥没、気管支炎を確認。
気管支鏡を使用するとCTを撮らなくても狭窄部位がわかる。
・治療:ネブライザーによる治療を1週間。
・転帰:症状の改善がみられず廃用、剖検。
・解剖所見:右前葉に化膿巣(無気肺のようになっていた)。
気管背側に裂間があり、食道へとつながる直径5mmのダクトを形成。
=食道気管瘻
診断:食道気管瘻V型
牛では1974年に報告あるのみ。
おそらく診断がついていなかった。
・生前からか生後からかは不明である。
経過が長く、農家への負担があるため早期診断の重要性を確認。
<鹿児島大動物フォーラム(仮称)の開催検討の依頼>
年に1度、鹿児島県大動物部会の会員が一同に集まる集会@鹿児島大学。
Q フォーラムは鹿児島にこだわるのか、南九州なのか
A.県内県外問わず
Q 無気肺の症例の聴診は
A.心音がかぶるため聴診では判断は難しい。
Q EGFを測定するのに着目した経緯は
A.産婦人科領域から。サイトカインなどに着目したのち、EGF濃度がP4変動に伴って変動するという点から。
Q 鈍性発情が現場で多くみられるがE2をCIDR挿入時につかったほうが卵胞発育がよい。E2を投与することでEGFが増加し、子宮状態がよくなり、卵胞発育促進に寄与しているのか?P4のみだと卵胞があまりできていないことが多いようだが。
A.EGFが関与している可能性が高い。
E2・P4併用は卵胞ウェーブを調整し、8日目にPGを投与することで受胎率が高くなる。ECGが増加することで大型黄体細胞にも寄与しており、有効であると考えられる。
Q 子宮内を正常にすることが重要?
A.子宮状態が悪いと黄体期が延長し、卵胞の状態も悪くなるので、子宮内の状態は非常に重要。
Qイソジンをいれ、子宮を回復させながら10日待つのは有効?
A.有効。
Q .イソジンはEGF生成に影響しないか?
A.影響は不明だが組織由来PGF2α生成を促進することで正常なサイクルがまわるのではないか。
Q CIDRは外国ではE2を埋没させたものもあるときいたが
A.ついているものもあり、E2とP4併用の効果があるかもしれないが、E2は注射のほうが効果があるように思う。E2は一過性の投与のほうが、膣壁を介した吸収よりもよい。
QE2は5mgであるが、E2濃度が高まるほど卵胞発育がおくれるのでは?
A.指摘通りではある。E2が多すぎると残留してしまい、卵胞ウェーブが遅れる。ので、CIDRを9~10日にしたほうがよいかもしれない。
Q .5mg(1cc)以上接種すると黒毛では嚢腫になったり排卵遅延を発症するようだが
A.その時は0.5ccでよいのでは。匙加減が必要。
Q CIDR留置期間は??
A.E2、P4から始める同期化処置では7日がよい(OVSYNX)
E2処置のないものでは、2日おくれるため9日がよい(8日でもよいのではという外国の報告もある)。
Q 2週間はどうか
A.留置日数が長いと内因性の黄体はなくなるので、抜くといっせいにP4が下がる。
Q P4単独ではどうか
A.難しい。GnRHやPGを併用したほうがよい。
OVSYNX法にP4を併用するのがよい。
2週間挿入していると卵胞が老化するので受胎率は低くなるのではないか。
主席卵胞が長期間のこるのはよくない。7~10日で考えるのがよい。
Q CIDR除去したときに卵巣に何もなく、反応がない場合はどうするか
A.E2かGnRHを接種し、もう一度いれなおす。
CIDRぬいた時AIするのか、次のドミナントでAIするのか、考える。
1週間で反応しないものはさらに長く処置し、次の発情をねらう。
Q 共進会に発情がこないようにするために、CIDRを挿入するが、妊娠している個体にいれ、除去すると流産する可能性はあるか
A.流産の例はある。ET移植後CIDR挿入し、CIDR除去すると流れたことも。
Q 流産予防でいれることは?
A.理屈では可能だが有効であるデータは不明。
オバプロンであれば可能性はあるが、P4では不明。しかし、膣炎などリスクを起こす可能性もあるため、推奨しない。
Q 受精後4〜5日目にCIDR挿入し、受胎率があがる可能性は
A.早い段階であれば可能性はある。黄体形成遅延で流産する可能性が低くなるという文献もある。
Q それとEGFの関連は
A.EGFはAI前に上昇させ、その後のAIで成績をあげるものなので別。
Q 大動物フォーラムについて鹿児島、宮崎で切磋琢磨、交流しながら発展することを希望
Q リピートブリーダーや、病畜は減ってきているのでは
A.リピートブリーダーとは、臨床的には正常だが不受胎の牛。診断により例数は変わるのではないか。乳牛だと初回受精受胎率<30%
3歳までいかず廃用することもあるので、リピートブリーダーの発生率は不明。
Q 最低5,6産はしないと経営的には難なのではないか
多産のものが多いところでは経営がうまくいっているように思う。畜産家の経営を助ける獣医学の発展を希望している。
Q 肺炎で口から泡がでてくるものの治療はどうしているか
A.補液が原因のものでは浮腫がおこってしまっている。あとはストレスなど様々な可能性がある。補液のスピード、いれるものを検討する必要がある。
Q 先日、難産で過大子をけん引した。
1頭は気管内に泡沫。チューブで吸い、助かったがもう1頭は助からなかった。
泡沫ができる原因は?
A.出血がある場合は肺の損傷の可能性。分娩時に飲み込んだものが気管にはいった可能性もある。呼吸ができても、肺胞内サーファクタントがおこっているかどうか(肺が成熟し、空気の交換が行えてるか)が重要。人工呼吸、ドプラムなどを投与する。
Q その症例ではボスミンを投薬した。
A.接種するところがなければ気管内にボスミン投与も効果がある。
Q チューブで泡をすいだし救助できたが…
A.そこまでしなければおそらく死んでいた。
もう一頭はガス交換能がなかった可能性もある。
ドプラム(中枢性)かテラプチク(末梢性)がよい。ただしドプラムは10分ほどしか効かないので、呼吸が自力でできないものは厳しい。
Q 泡の説明は
A.難産のときの圧迫で、肺胞がやぶれているのでは。
牛から抽出したサーファクタントは人に使用されている。
ドプラムもテラプチクも10分ほどしか効かない。
最初は1ml投与がよい。
Q 50プロ(50%ブドウ糖20〜50cc)の効果は。
A.浸透圧か、高血糖刺激か。
生後は呼吸性アシドーシスだが正常分娩すれば30分で治る。重曹は効果があるかもしれない。急激にいれるとショックを起こす可能性もある。
Q ドプラム投与量は。
A.最初は1ml。皮下で3ml投与する人もいる。
Q 肋骨骨折の可能性があるものはねじりながらけん引すると防げる可能性があるのでは
A.逆子(L7あたり)のみではなく正常(L1〜2あたり)でも骨折する可能性はある。
そのような意識をもち介助することは必要。
Q 牛歩について。獣医師の人で使われている人は
A.酪農学園大学で使用している。不受胎治療の一環というのは聞いたことがない。発情時間は、安定した環境であれば個体ごとに決まった時間帯にくる。牛歩をつけていても、データをみておらず発情見逃しが多い。ホルモン剤を投与した群では歩数があがらない。
薬では卵巣状態は正常であるが、発情行動はあまりみられないため、牛歩での検出は難しいのでは。
末吉の農場ではオブシンクと、CIDR+オブシンクで牛歩を装着したところ70~80%歩数があがった。
Q 分娩後初回発情はどれくらいでくるのか、またそれが受胎、分娩した場合の初回発情は同じくらいにくるのか。
A.後者は不明だが、早期離乳(4日〜1週間で離乳)だと1週間〜10日で1回目の排卵、ただし発情なし、かつ子宮の回復ができていない、生理的空胎期間となる。その次の排卵は3〜4週間目で、この時は発情兆候がみられる。自然哺乳させているとサックリングで発情がおくれてしまう。早期離乳しているものでは3週間前後で受精できる。
あまり早く受胎させると、3,4産目で受胎しにくくなるとよく言われるが、データはまだない。中にはそのような牛がいても不思議ではない。
牛歩つけっぱなしの牛でも分娩後8日目と、3~4週間目に歩数が増加する。この時、少し発情行動がみられる。ただし初回排卵では黄体が長くもたず、子宮状態もよくない。
Q 管理をしっかりしていれば、無処置でも40日くらいで受胎させると次の分娩の40日前後で発情がくることが多い。微弱発情でも見逃さないよう畜主に注意を促す。毎年同じ日数で発情がくるものが多い。最初の記録をとっていれば次の発情でつかえるのではないか。
まだそういったところのデータが足りないので、薬以前の段階で農家に指導することが必要ではないか。
A.昼間は発情はあまりないのではないか。