エンドトキシンと牛の病態
                                  新井 鐘蔵     動物衛生検査所 病態研究領域

○エンドトキシン(LPS)とは

エンドトキシン(内毒素)とはグラム陰性菌の外膜構成成分。化学的にはリポ多糖体なのでLipopolysaccharideを略してLPSとも言う。LPSはリピドA(脂質)、コア糖鎖、O多糖の3成分からなり、リピドAの部分が細胞外膜にめり込んでおり、糖鎖の部分が外に出ている。糖鎖の根本の部分は陰性に荷電している。何らかの原因でグラム陰性菌が死滅してしまうと、菌自体が持っているタンパク分解酵素により菌体が崩壊してしまい、LPSが外に出てしまう。LPSはいろいろな生物活性を示すことが知られているが、主に活性を示しているのはリピドAの部分であると言われている。LPSの作用には直接的な作用と間接的な作用がある。直接的には、マクロファージやリンパ球のような細胞の膜の表面に作用し、IL−1やTNFのようなサイトカインを放出させ、全身に炎症作用をもたらす。また血液凝固系の反応も促進し、全身に小さな血栓ができ、臓器に詰まって臓器不全をおこしたりする。血圧の低下や白血球の減少、発熱、下痢なども引き起こす。このように、いろいろな系でいろいろな作用が同時に起きるので、LPSが一度入ると一個一個の系を止めていってもなかなか病態が改善しにくい。

○ルーメンアシドーシスと各種疾病の病態生理

<牛のLPS血症と臨床症状>

LPSは動物の種類によって反応が違うことが報告されている。牛ではグラム陰性菌感染症やショックのモデルとして、様々な投与試験が行われてきており、多くの報告がある。一般的に、牛では、LPSの投与量が多いほど症状の発現が速く、一般的には投与大きいほど発現が早く、病態が顕著。牛で見られる症状としては、元気消失、食欲低下、流涎、下痢、呼吸や脈拍の増加、発熱や低体温症、ルーメン運動の抑制、白血球減少とそれに続く白血球増多症、低鉄血症、低カルシウム血症、低亜鉛血症、血中のサイトカイン活性の上昇などが観察される。

<発熱>

LPSは発熱の起因物質ということで、実験動物の投与試験などで有名であり、実験動物や人では静脈内投与をうけると通常、体温の上昇が認められる。発熱の第1ピークは投与から約1時間後に起こるが、これはLPSが直接大脳の視床下部にある体温中枢に作用する。第2のピークは約4時間後に起こり、白血球由来のIL‐1が体温中枢に作用してPGF?の合成を促進にて発熱を起こす。ところが、牛では必ずしも直腸温の上昇が認められるわけではない。これに関しては様々な報告がある。たとえば、仔牛に高濃度あるいは低濃度のLPSを投与すると発熱反応は起きず、2μg/kg投与すると低体温とショックを起こし、0.25μg/kg投与すると明瞭な発熱反応が観察されないという報告がある。一方、成牛にLPSを10,100,1000ng/kg静脈内投与すると、それぞれ明瞭な発熱を引き起こすという報告もある。結局、LPS血漿で必ず発熱が引き起こされるわけではないので、牛では、LPS血漿の指標として発熱を使用することは難しいと考えられる。私が試験をしたものとして、ホルスタイン種牛へのLPS投与(静脈内投与)後の直腸温の変動例がある。これは、第1胃静脈にLPSを20μg/kg投与した例で、3時間目くらいで発熱がみられ、翌日再び発熱が見られるという発熱の仕方をしている。また、育成に投与した試験では、低濃度(1μg/kg)または高濃度(10μg/kg)を頸静脈投与した。低濃度投与した牛では、6時間目くらいに40℃くらいまで上昇し、高濃度投与した牛では、急速に低体温が起き、3〜6時間目にはショック症状を示し、血圧が、平均動脈血圧で100mHgくらいから、70mHgくらいまで低下した。翌々日くらいに発熱を起こし、あとは回復した。よって、LPSの投与量によって、発熱を起こしたり、低体温を起こしたりするということがわかる。経時的には、成牛の方が比較的っちゃんと発熱を起こすが、仔牛や育成ではショックをおこすこともよくみられ、発熱を起こさずに低体温になるということが実験的にわかった。

<呼吸と循環動態>

一般的には、LPS症状の初期には、心拍出量の増加、全身の末梢血管抵抗の減少、血圧低下などの高心拍出状態を呈して、頻脈、過呼吸を示す。これが持続すると、静脈潅流の減少による心拍出量の低下、皮膚温度低下、チアノーゼ、乏尿を示す。報告としては、牛にLPSを投与すると、心拍数は2倍、呼吸数は3〜4倍程度に増加するというものがある。現在の私どもの試験でも、心拍数が50〜70くらいのものが150くらいまで上昇した。これは、1回投与で、発熱もすぐにおさまったので、心拍数もすぐにおさまるかと思いきや、5日,6日くらいまで心拍数が高いままで、呼吸数も高かった。牛の肺はLPSの標的臓器と考えられており、LPSの刺激により肺細動脈の収縮をおこすトロンボキサン(TX)により呼吸負荷が生じ、肺循環を生じる。呼吸負荷が続き肺血管透過性も亢進すると、肺水腫の形成につながる。また、新生仔牛にLPSを1μg/kg静脈内投与すると、心拍出量と左心室圧の駆出率の減少、大腿および腸間膜動脈の血流量減少、腎糸球体濾過率と尿量の減少、低酸素血症が認められるという報告がある。実際、LPSを投与すると、動脈血中の酸素分圧や二酸化炭素分圧が下がってきて、アルカローシスがみられる。結局、牛のLPSショックの循環管理として、血圧と心拍出量の維持が重要であろうと考えられる。

<酸塩基平衡>

一般論として、牛では、LPSの急性反応として、呼吸器系の血管収縮が呼吸性アシドーシスを誘起するとともに、血中乳酸濃度が上昇して代謝性アシドーシスを生じる。一方で、代謝性アルカローシスの発現も報告されている。実際に、LPSを投与した牛で血中の乳酸濃度を測ってみると、5mg/dlが35mg/dlや45mg/dlまでかなり上昇し、ショック症状も一か月〜翌月まで続いた。こういった状況になるので、LPSショック時には酸塩基平衡の補正も重要となってくる。

<胃運動抑制>

LPSを投与すると食欲低下を示すとともにルーメン運動が抑制され(収縮頻度の減少)、第四胃の流動性の低下が報告されており、LPSと食滞、鼓脹症、第四胃変位の発症との関連が指摘されている。実際に牛にLPSを投与すると第一胃および第四胃の収縮頻度・収縮力の減少が顕著にみられ、ルーメンアトニーや第四胃アトニーが起きる。ルーメンアトニーが起きると、すぐ鼓脹症になる。LPSが牛の胃運動を抑制する仕組みについては不明な点が多いが、LPSが誘導するサイトカインやPGなどのメディエーターの関与が指摘されている。牛での実験ではないが、羊やマウス、ラットでは報告がある。例えば、胃運動や胃液分泌を制御する副交感神経節前ニューロンを含む、マウスの延髄の迷走神経背側複合核のニューロンに直接TNF‐αを投与すると、容量依存的に胃運動が抑制されることが報告されている。また、山羊にPGF?を投与すると、ルーメン収縮運動が抑制される報告もあるので、PG類が消化管の運動や緊張に影響することが指摘されている。

<白血球および血小板減少症>

エンドトキシンショックで顕著にみられるのはこの白血球、血小板減少症。牛にLPSを投与すると、血中の白血球数が急速に減少し、1〜2日後には増多症を示す。私どもの実験では、1時間くらいで6000から2000くらいまで下がり、3時間目くらいになると、1000や500くらいまで下がり、翌日くらいから増加し始め、2日目までどんどん増加し、7日目にはだいたいもとも値にもどるという推移を示した。LPSは血中の顆粒球や単球などの粘着性を高め、血管内皮に凝集するため血中における白血球減少症が発現すると考えられる。続いて、骨髄からの白血球の放出増加により、白血球数の増加がみられる。血小板に関しても同じような減少がみとめられており、これも、血小板の血管内皮への辺縁付着や凝集の結果と考えられている。

<播種性血管内凝固症候群(DIC)>

実験動物ではLPSを投与するとみられる症状。ラット、ウサギ、犬などの動物にLPSを投与すると、複数臓器の血管内に播種性の血栓形成が認められ、DICが発現する。一方、牛では、実験的にLPSを投与して凝固系因子を測定しても、DICは観察されないとの報告もあり、牛についてはDICとの関連は未だ不明な点が多い。エンドトキシンは大きく、内因性の凝固系の発現を促進させる。もう一つは、外因性の凝固系を通じて凝固系を活動させるということが言われている。内因系ではエンドトキシンが血管内皮を障害し、これにより、次々といろいろな因子を誘引する。最後にフィブリノーゲンがフィブリンになり、結果的にこのフィブリンが各血管内や各実質臓器に詰まっていく。また、外因系として、エンドトキシンは単球やマクロファージなどの免疫細胞を活性化し、組織因子(TF)が出てくる。これが第Z因子を活性化して、同じように血液凝固を引き起こす。これが急速に全身の血管内で起きると、一時的に血液凝固因子が枯渇し、出血傾向が強くなる。なので、凝固系が非常に進んでいるときは止血ができなくなり、なかなか血が止まらなくなる。実際に牛の血漿中フィブリノーゲン濃度を測ってみると、LPS投与後には3分の1くらいにまで下がる。

<低亜鉛血症、低カルシウム血症>

LPS血症では、亜鉛やカルシウムなどの無機物の減少があるという報告もある。牛にLPSを投与すると、用量依存的に血中の亜鉛やカルシウム濃度の低下が認められる。亜鉛は、必須微量元素として免疫や細胞機能調節に関与している。低亜鉛血症は、LPS血症や炎症時に血漿から肝臓への亜鉛の再分配の結果として生じるが、これにはメタロチオネイン(MT)生成が関与している。また、成牛、仔牛に共通して、LPSを投与すると血中カルシウム濃度が低下し、血中LPS濃度が下がってくると、カルシウム濃度も回復してくる。

<サイトカイン>

牛にLPSを投与すると、血中TNFやIL‐1活性が高まり、次いでIL‐6活性が高まる。バクテリアが崩壊してLPSが血中に放出されると、LPSとLBPが結合し、これがマクロファージの表面にあるCD14にくっつき、この情報が核内に伝わって、サイトカインの産生を促進し、血中にどんどんでてくる。LPSが直接くっついてもサイトカイン産生のシグナルがおくられる。炎症性サイトカインとLPSの病態はよく似ているといわれており、牛にTNF‐αを投与すると、元気消失や食欲低下、血中の白血球数減少、亜鉛濃度の低下、下痢などが観察され、肝炎、間質性腎炎、膵臓の巣状壊死などの病変がみられる。また、IL‐βを頻回投与すると、発熱、振戦、食欲不振、呼吸および脈拍数の増加、利尿などが起こることが報告されている。

<LPSが生体に及ぼす主な作用のまとめ>

細胞レベルでは、LPSはマクロファージなどの免疫細胞を活性化して、サイトカインの放出を促し、炎症性反応を引き起こす。また、血症板の凝集をすすめて、DICを引き起こしたり、顆粒球機能の変化や、アラキドン酸代謝の活性化を引き起こす。生体レベルでは、ショックや発熱、副腎皮質ホルモンの放出などを引き起こす。つまり、LPSはいろいろな系を同時にうごかして、様々な生体反応を引き起こすというのが大きな特徴である。

○エンドトキシンの測定法

<エンドトキシンの検出の原理>

リムルステストという方法でLPS濃度の測定を行う。エンドトキシンは、カブトガニ血球中抽出液(Limulus Amebocyte Lysate, LAL)中の酵素を活性化し、この酵素の働きにより、LAL中の凝固性蛋白質が分解されてゲル化する。リムルステストは、このゲル形成の有無でエンドトキシンを検出する方法。カブトガニの血球細胞は感染菌に触れると、90秒以内に脱顆粒を起こし、ゲルを形成しつつ、感染菌を捕捉し、顆粒に含まれる殺菌物質で処理をするという免疫機能を持っている。このゲル化のスピードや程度はLPSの濃度が高ければ強くなるため、これを利用して、LPS濃度を調べる。方法としては3つある。一つは、ゲル化法という方法で、これは試験管内でLALと検定を混ぜ、37℃1時間反応させ、試験管を転倒し、ゲル形成の有無を肉眼的に観察し判断する。内容物が凝固して変化しない場合を陽性、それ以外を陰性と判断する。これは量的な計量ができない。計量方法としては、比濁時間分析法と比色法とがある。比濁時間分析法はLALと検体を混合し、ゲル化にともなって生じる濁度変化を光学分析装置で透過光量比としてとらえ測定する方法。専用の測定器が必要。比色法は発色合成基質を用いて吸光度を測定する。プレートリーダーがあれば測定できる。試薬の種類にもいろいろあり、エンドトキシンにのみ反応するものもあれば、真菌のβ‐グルカンに反応するものもあるので、確認が必要。

<リムルス反応に対する影響因子(阻害または促進物質)>

リムルス反応に対しては、ゲル化を促進したり、阻害したりする物質がたくさんある(強アルカリや蛋白分解酵素など)。そのため、エンドトキシンを測定する際は、これらの影響因子を高濃度に含む検体あるいはそれ自身を検体とする場合は、あらかじめ除去ないし失活させる前処理が必要である。例えば、血液ではリムルテストの阻害因子(α2プラスミンインヒビター、アンチトロンビンV、α1アンチトリプシン)や亢進因子(]a、トロンビン、トリプシンン)があり、これらをあらかじめ除去する必要がある。

<比濁時間分析法によるエンドトキシンの測定>

使用する器具類は、ガラス製品であれば250℃以上で2時間以上の乾熱滅菌したものを用いる。その他については、エンドトキシンフリーの物を用いること。サンプルの前処理で、血清は、注射用蒸留水で10倍希釈して、100℃10分の加熱処理、ルーメン液は、10,000倍希釈、100℃10分の加熱処理をする(希釈加熱法)。このような処理をした検体100μlに試薬100μlをいれ、血液の場合は120分、ルーメン液の場合は90分測定して濃度計算をする。ある濁度に達する時間を測定し、その速度とスタンダードとの比較によって濃度を測定する。濃度が高いほど速い。LPS陰性の場合は、ゲル化しないため、濁度は変化しない。

<エンドトキシンの不活化・除去について>

熱に強いのでオートクレーブでは失活せず、250℃2時間以上の乾熱滅菌をかけないと失活しない。他には、NaOHにつけたり、ポリミキシンBに吸着させる方法がある。エチレンオキサイドガス滅菌やγ滅菌は不活化・除去効果が一定でない。エンドトキシンフリーかどうかはメーカーさんに問い合わせるのが一番。エンドトキシン測定、検体採取における注意点としては、250℃2時間の乾熱滅菌を行った器具を使用し、プラスチック製品を用いる場合は、エンドトキシンの汚染がないこと、及び測定に対する干渉がないことが確認されたものを使用することが重要。

○LPS血症と牛の病気

グラム陰性菌がないとLPS血症にはならない。大きな原因としてはグラム陰性菌感染症で、仔牛の大腸菌やサルモネラ感染症、下痢、肺炎、大腸菌性乳房炎などがある。牛の場合は感染症がなくても、ルーメンアシドーシスに伴ってLPS血症をおこすというのが大きな問題。これは牛がルーメンをもった反芻動物であることに起因している。ルーメンの中にはグラム陰性菌や陽性菌が多く存在し、租線維の分解をし、VFAを産生して、これを牛がエネルギーとして利用している。このグラム陰性菌がなんらかの原因で死滅し、LPSが血中に取り込まれるようなことがあれば、LPS血症を引き起こす。穀物多給により、ルーメンアシドーシスがおこり、ルーメン液および血清中のLPS濃度は増加するという報告もある。今これらが、牛にとって大きな問題となっている。

<牛におけるLPS血症発現と病態変化>

LPS血症は大きく、感染症によるものと、代謝障害によるものとがある。代謝障害では、ルーメンアシドーシスなどのなんらかの原因によりルーメン粘膜バリアを超えてLPSが血中に入っていく。通常、少ない量であれば、肝臓のクッパー細胞で解毒されるため、血中には出てこない。解毒できる量を超えると、末梢血中にLPSがもれている状態となり、LPS血症になる。LPSが入ると非常にすみやかな時間で、ショックや代謝亢進、胃運動の減衰・停止、低Ca血症、循環障害、急性期の炎症性反応が起こる。病態としては、急死、生産性低下、下痢、蹄葉炎などいろいろな病態が起こる。

<ルーメンアシドーシス>

教科書的には、炭水化物の多給は、ルーメン内に乳酸を大量に産生し、急性の消化器障害を主としたルーメンアシドーシスを引き起こす、となっている。また、濃厚飼料の多給により引き起こされる他の消化器病の基本的な疾病になるので注意を要する、となっている。実際は乳酸がルーメン液に大量にでなくても亜急性のルーメンアシドーシスが起こっており、問題となっている。

<ルーメンアシドーシスから生じる各種疾病の病態生理の推定>

高炭水化物の多給をすると、胃液のpHが下がる。乳酸が増加し、急激に下がると、急性ルーメンアシドーシスとなるが、pHがそこまで下がらず、低下した状態が長く続く(ルーメンpH5.6以下が3時間以上)と、亜急性ルーメンアシドーシスとなる。pHが7から下がってくるとグラム陰性菌が優位に死滅し、ルーメン中の遊離エンドトキシンが増加する。これがなんらかの原因でエンドトキシン血症という状態になると、胃運動の減衰や停止、循環障害を起こす。胃運動が止まると、鼓脹症や第4胃変位につながる。また、LPS血症になると、血圧が低下し循環血液量が下がるので、ショックや急死、肝機能障害、を起こす。末梢の循環障害やVFA組成の変化、ヒスタミンの増加により、蹄葉炎を引き起こすこともある。

<肥育牛、肥育素牛における血清LPS検出率の違い>

肝臓廃棄の多い農場の肥育素牛58頭、肥育牛56頭を検査。肥育素牛に関しては、2頭からLPSが検出されたが、これらは感染症をおこしていた。他の健康な牛ではLPSは検出されなかった。肥育牛に関しては、月例に関係なく、半分くらいの牛でLPSが検出された。見た目では異常が見られないが、血中でLPSが検出されるのは異常な状態である。

○濃厚飼料の多給に伴うLPSの体内動態と牛の消化器障害の発現

<濃厚飼料多給によるルーメンアシドーシス実験モデル牛の作製>

実際にルーメンアシドーシスをおこさせて、血中やルーメン中のLPS濃度や、胃運動、肝臓の組織などを調べた。供試動物として、ホルスタインの種雌牛を用いた。ルーメン液をとるために、ルーメンフィステルを装着し、第一胃と第四胃の漿膜面に胃運動を調査するための電極を縫い付け、第一胃静脈にはカテーテルを設置して、24時間、連日的にルーメン運動や第四胃運動などを描出できるシステムを作った。対象牛(3頭)にはTDN106%の飼料を給餌し、濃厚飼料多給群(5頭)には大麦を主体とし、TDN156%の飼料を給餌に切り替えて、1か月ほど飼育し、継時的にサンプリングを実施した。

<牛への濃厚飼料多給後の第一胃pHと胃液色調の推移>

大麦を主体とした飼料に切り替えた牛では、ルーメン液が茶色から黄色っぽいものに変化した。乾燥を主体とした対照群の第一胃pHの値は、餌を食べた後、6.3くらいまで下がるが、翌日には7まで戻っており、毎日これを繰り返している。濃厚飼料多給群では、摂食後に、5.5くらいまで下がり、翌日は7まで戻りきらない。翌日から翌々日くらいに鼓脹症になった。ルーメンフィステルを装着しているため、死ぬことは無いが、餌を食べなくなる。食べなくなるのでpHが戻ってくる。pHが回復してくると、また摂食するようになり、pHが下がる。これを繰り返しながら1か月くらいすると、7まで回復する。この時のルーメンフロアをみてみると、実験開始時はRuminococcus albus といった細菌がほとんどだが、濃厚飼料を多給すると、Lactobacillus(乳酸酸性菌)や乳酸受容菌のMegasphaeraとPrevotella が2日目から7日目くらいまで優勢で、この時に牛は鼓脹症になっていた。1月後にはSelenomonasやClostridiumが優勢となった。このように1か月くらいで、菌叢が大きく三回変化し、安定する。

<牛への濃厚飼料多給後の第一胃液内VFAの推移>

VFAは健康な牛の場合、80〜100mmol/Lくらいで、餌を食べると増えてくる。濃厚飼料多給群では餌を残したりしていたせいか、VFAの上昇は見られなかった。VFAは酢酸やプロピオン酸、酪酸が主体であり、その比率をみてみると、対照群では、酢酸が70%くらいを占めており、プロピオン酸が13%くらい、酪酸が8%くらいである。この比率はVFAの量が変化しても変わらない。濃厚飼料に切り替えると、酢酸の比率が下がってきて、プロピオン酸、酪酸が上がってくる。今回の実験では、ルーメンの乳酸濃度はほとんど増加していない。乳酸発酵はされていないが、VFAの比率は変化してくる。

<濃厚飼料多給後の牛の血液中・胃液中LPS濃度の変化並びに肝臓組織の形態的変化>

ルーメン液の場合、粗飼料だけだと、LPS濃度は500ng/ml以下を推移するが、濃厚飼料を与えると、翌日くらいから増え始め、6倍くらいになる。さらにどんどん増え、2週間目には30倍くらいになり、1月後でも10倍近くある。末梢血液中のLPS濃度は、粗飼料多給では検出されないが、濃厚飼料を与え始めると、2日目くらいから検出され始める。LPSはルーメンから一胃静脈に入り、肝臓へと運ばれ解毒されるが、そこでオーバーフローしたものが末梢血液中に出てくると思われる。そこで、一胃静脈でもLPSを測定したところ、健康な牛でもちょこちょこ入ってきている。濃厚飼料多給の牛ではその濃度は高く、濃度の変化も激しい。つまり、ルーメン液中のLPSが増えると、一胃静脈に出てくる量も増え、それが肝臓に運ばれ、オーバーフローしたものが末梢血液中に出てくると考えられる。それぞれの群で、2週間後に肝臓をバイオプシーしてHE染色したものを見てみると、濃厚飼料多給の群では、脂肪がたまりながら、主に混濁腫脹が見られる。これが1月くらいたつと、巣状壊死が見られるようになる。それがさらに強くなってくると、出血が見られるようになる。LPSの量によって病態が現れる時間は異なるが、血中にLPSが検出されている限り、肝臓の病態の悪化は必ずこの様に進み、改善が見られたことは無い。餌を切り替えて、血中のLPSがなくなると、肝臓はもとに戻ってくる。

<濃厚飼料多給後の牛の第一胃運動、第四胃運動の変化>

ルーメン運動は通常、一分間に二回の収縮。四胃は、あまり報告がないが、調べてみると、一分間に五回くらいの収縮が見られる。餌を切り替えた当日はよく食べるため四胃運動も活発。2日後(LPSが血中に出てくるころ)には餌食いが止まってしまい、ルーメンの収縮の頻度が少なくなり、収縮力も低下する。四胃の方もほとんど止まってしまい、いわゆる四胃アトニーという状態が見られる。その後(2週間後)は四胃の方は結構動きだすが、ルーメンの方は、頻度は戻るが、収縮力が非常に弱いままである。

<濃厚飼料多給後のLPSの動態と牛の病態>

粗飼料多給群では第一胃内LPS濃度は500mg/ml以下、第一胃静脈中には少し出ているが、肝臓で解毒されるため、末梢血液中では検出限界以下である。しかし、濃厚飼料多給群のように、pHが5.5くらいのルーメンアシドーシスになってしまうと、第一胃内では3000〜13000mg/ml、第一胃静脈内では40〜250mg/ml、末梢血液中では4〜20pg/mlLPSが検出される。また、酢酸の減少やプロピオン酸の増加、ルーメン運動の抑制や第一胃鼓脹症、四胃運動の抑制、血液中でのTNF-αやIL-6の検出、肝細胞の障害、食欲抑制、下痢が見られる。

<今の試験を参考にすると…>

濃厚飼料多給や飼料の急変があると、第一胃内の発酵異常が起こり、グラム陰性菌が死滅する。この状況になると、ルーメン内の遊離LPS濃度が増加し、結果として第一胃静脈内へのLPS吸収が増加して、末梢血液中に出てくる。本来ならば、粘膜があるため、第一胃静脈内への吸収は抑えられるはずであるが、粘膜に何らかの損傷があれば、LPS濃度が増加する。また、LPSは肝臓で解毒されるため、末梢血中には出てこないが、肝臓の解毒能力を超えてしまうと、LPS血症が起こる。肝臓自体をみると肝障害が起こるので、長く続くと、LPSの解毒能力が低下し、LPS血症が助長される。このようにLPSが血中に検出されるときに、ルーメンや第四胃運動の減衰や停止が生理的に起きていると考えられる。問題は、これが、血中にLPSが出てきたことによるのか、ルーメン内のLPSが増加したことによるのかが分からないことである。これを調べるための実験を行った。

<軽度なルーメンアシドーシス牛による試験>

粗飼料主体で飼育している牛3頭の第一胃内に、水2Lで溶かした大腸菌由来のLPS2000mg/head直接投与し、同じような試験を行った。もう一つは、第一胃静脈内に水10mlで溶かしたLPS20μg/kgを投与し、試験を行った。結論として、ルーメン内に入れた場合は何も起きず、健康なままであった。結局、ルーメン粘膜がしっかりており、吸収されなければ何も起きない。一方、第一胃静脈内に投与した場合では、肝臓での解毒がオーバーフローして末梢血液中に見られるようになる。これは2日目くらいに消失する。ルーメンでは特に大きな変化は見られない。またLPSを第一胃静脈内に投与すると、発熱や白血球数の上昇、脱水が見られる。また、血糖値をみると、一時間後には急激な上昇がみられ、3時間後に急激に減少する。ちょうどこの時、牛は苦しそうで、血圧も低下しており、ショックを起こしていた。ASTや乳酸も非常に上がっていた。胃運動をみると、投与前では一分間に、ルーメンが2回、第四胃が4,5回動いていたが、一時間後には全くきれいに止まってしまった。牛をみると、胃の運動が止まると、速やかにガスがたまり、鼓脹症になっていた。LPSが血中にある間、ルーメン運動はもとに戻らないが、四胃は9時間程するともとに戻った。

<第一胃静脈内LPS投与後のLPS動態と第一胃内環境・消化器機能・臨床症状の変化>

末梢血液中のLPS濃度は濃厚飼料多給のときと同じような濃度となる。ルーメン環境は変化していないが、第一胃運動や第四胃運動の抑制が起き、肝機能障害や採食の抑制、下痢が起こる。つまり、血中にLPSを投与すると、濃厚飼料多給の後にみられる病態と同じような病態が起こるということがわかった。こういったことから、ルーメンアシドーシスが起こり、第一胃静脈への吸収が増加することで、LPS血症の病態が起こるので、第一胃から第一胃静脈内へのLPSの移行が大きな要因であると考えられる。

<ルーメン内に増加したLPSが血中に移行する条件>

粗飼料を多給している牛のルーメン内にLPSを投与してもLPS血症は起こらない。これと、濃厚飼料多給との違いはアシドーシスであり、アシドーシスになると粘膜に異常が生じて血中に移行していることが考えられる。LPSがどこから吸収されるかというのはまだよくわかっていない。ルーメン粘膜からの吸収という考え方と、下位消化管(小腸)からの吸収という考え方がある。ビトロの試験では小腸粘膜がLPSを吸収しやすいという報告があるが、ビボではそのような試験は行われていない。今回は、ルーメンからではないかと考え、優しいルーメンアシドーシスになるように飼料を調整(DN120%くらい)し、粘膜障害が起こるか起こらないかくらいの状態をつくり、血液・ルーメン液の検査や病理組織検査を行った。結論から言うと、5頭の牛で試験を行ったが、5頭とも何の臨床所見を示さず、餌も非常によく食べていた。解剖後の病理組織検査では、5頭中、2頭は何も異常はみられなかったが、3頭においてルーメンパラケラトーシスと肝臓の軽度な巣状壊死が見られた。これを、無症状群とパラケラ群にわけて比較した。ルーメン液pHの変化では、餌の切り替え後に若干の低下がみられたが、両群に違いは見られなかった。ルーメン液中のLPS濃度は、餌を切り替えた翌日くらいから上昇し始め、1週間〜2週間で約5倍になり、戻っていく。これは両群で同じような濃度であった。違いがあったのが、血清中のLPS濃度の変化で、無症状群では濃厚飼料に切り替えても、血清中にLPSは検出されなかったが、パラケラ群では検出された。週に一回の肝臓バイオプシーの結果では、2週間目でパラケラ群において脂肪変性がみられ、一か月後の解剖時では、巣状壊死がみられた。つまり、肝臓病変の進行が3頭ともでみられたということがわかる。血液検査では両群ともに大きな変化は見られなかった。

<まとめ>

濃厚飼料の多給に伴いルーメン内で増加したLPSが血中に移行する条件として、ルーメン粘膜の不全角化(パラケラトーシス)の有無が大きく関与していると考えられるため、ルーメンアシドーシスによるLPS血症を予防するには育成期に粘膜をしっかり作ることが大切であり、粘膜を保護する方法の開発が必要であると思われる。

また、ルーメンアシドーシスが経度で、臨床症状や肝機能検査等の血液生化学検査値に大きな変化がなくとも、血中にLPSが検出されている牛では、ルーメン粘膜上皮や肝臓に障害が発現し始めていることから、経過観察に留意が必要と思われる。

○肝機能障害の有無がエンドトキシンの動態と牛の病態に及ぼす影響について

<肝障害牛に対するLPS投与試験>

LPS血症を引き起こさないために必要こととして、解毒がしっかりできるかということも重要であると考えられる。そこで、肝膿瘍の牛にLPSを投与(頸静脈内投与)し、病態の推移について観察した。肝膿瘍は血液検査などではあまり発見できないが、この牛はエコーで見てみると、肝臓に大きな腫瘤が見られ、内視鏡によって肝膿瘍が発見された。LPS投与前でもLPSは5pg/ml検出されており、肝機能が低下していることが推察された。この牛に非常に微量のLPSを投与したところ、翌日に死亡した。体温は、発熱が起きることなく、36度くらいまで低下していった。ASTや血統値は少し上昇して死亡した。白血球数は減少し、脱水がみられた。乳酸は増加し、フィブリノーゲンは減少がみられた。よって、肝機能障害を呈している牛では、ほんの少量のLPSでも解毒できずに死亡してしまう。例えば現場で、血液検査ではひっかかってこないが、肝機能障害をもつ牛がいれば、肺炎などのほんのちょっとした一押しで死亡してしまう可能性がある。肝機能障害の有無は、先ほどの粘膜保護と含めて、LPS血症を予防するうえで大事なファクターだと考えられる。

○牛への各粗飼料給与に伴う、ルーメン液中のLPS濃度の動態について

<ウシへの各種粗飼料給与試験>

ルーメンにフィステルを装着した健康な牛4頭を用いて、@イタリアンライグラスホールクロップ(IRG)サイレージ主体の飼料(IRG10kg、配合飼料2kg/日)Aコーン(C)サイレージ主体の飼料(Cサイレージ10kg、配合飼料2kg/日)BTMR(粗飼料割合40%、14kg/日)に切り替えて4週間の制限給餌を実施し、それぞれに違いがでるかを調べた。ルーメン中のpHは切り替えると、若干の低下が見られるが、LPS濃度は特にどの群も増えているということは無い。血液中にもLPSが検出された例はなかった。肝臓バイオプシーをした所見や、血液生化学の結果でも異常は見られなかった。

<まとめ>

乾草給与から各サイレージ等に給与飼料を変換してもルーメン液LPS濃度に変化は見られず、血中にLPSは検出されず、今回測定した血液生化学性状や肝臓組織に大きな変化は認められない。また、IRGとTMRは一過性のルーメン液pH低下が生じるが、ルーメン液LPS濃度の上昇は認められない。

○牛のLPS血症の軽減(治療)

今回お見せするのは、DSファーマさんと共同研究しているものの予備試験。ウルソデオキシコール酸(UDCA)は利胆作用、肝血流量増加作用、脂肪吸収調節作用、胆石溶解作用をもち、劇症肝炎や、完全胆道閉鎖には使用禁忌の胆道疾患治療薬。牛・犬用の注射薬(ウルソH注射薬:DSファーマアニマルヘルス(株))は胆汁酸製剤としてケトーシスや肝機能減退症の治療に広く用いられている。この胆汁酸製剤は乳房炎などのグラム陰性菌感染症の牛に投与すると効果があるという報告がいくつかある。これが、別の治療をしていてたまたまなのかは分からないが、肝臓の機能を上げることでLPSの解毒能力も上がるのではないかと考えられる。胆汁酸製剤自体がLPSを不活化するという報告も試験管内の試験ではある。しかし、胆汁酸製剤にもたくさん種類があり、途中で色々な抱合をうけて変化しており、どの胆汁酸がどう効いているのかは分からないため、生体でも効果があるのかは分からない。実際にウルソを生体に投与してLPS血症に効果があるかという報告はあまりないが、ラットでの試験はある。その報告ではLPS血症のラットにウルソを投与すると、急激にLPS濃度が低下し、その速さはクッパー細胞の食作用によるものとは考えにくいので、何か別の要因で血中のLPSが下がっていると考えられる。牛での実験を今回行った。

<ウルソデオキシコール酸(UDCA)投与試験>

粗飼料主体の牛2頭の第一胃静脈内にLPS(E.Coli O111:B4)20μg/kgを一回投与した後、1頭にはUDCAを頸静脈内投与(1000mg/head/day:3日間連続投与)、もう1頭には経口投与(100g/head/day:7日間連続投与)を行い、7日間定期的に採材を行い、UCDAの非投与群(LPS投与のみ:5頭)と比較検討した。

LPSを投与した直後はどの群でも末梢血液中にLPSが検出されるが、UDCA頸静脈投与群では3時間目以降で末梢血液中にLPSが検出されなくなった。一方、ウルソは経口投与しても速やかに腸管に吸収されるが、経口投与した牛ではLPSは末梢血液中に残っており、特に改善は見られなかった。また、LPSを投与した牛では、症状の改善がみられた。血液検査では改善された項目とされなかった項目とがあった。頸静脈投与群では血糖値の低下がなく、低血糖性ショックが見られなかったが、経口投与した群では特に改善はみられなかった。頸静脈投与群では乳酸濃度も改善されており、LPS投与後の上昇がみられなかった。経口投与のほうでは非投与群と同じように上昇がみられた。あと、血中Ca濃度も改善されていた。一週間後に病理解剖の結果では、静脈内投与群では、LPS投与で特徴的に認められる、脾臓・リンパ節・リンパ小節におけるリンパ濾胞の壊死がほとんど認もめられず、その他の病変(肝細胞の巣状壊死、大小腸の粘膜下織の水腫、内臓諸臓器の小血管の変性等)も劇的に軽減された。一方で、白血球数や、フィブリノーゲン、AST、Znの推移では改善が認められなかった。LPSが入って、代謝がおこり始めてから症状がでるものに関しては改善が認められるが、一度反応が始まるとどんどん進行してしまうような系は改善されないという印象をもった。

LPS血症を呈した牛に対してUDCAを静脈内投与すると、血中LPSの劇的な除去効果が認められ、さらに、臨床症状や代謝の一部(血糖、血中乳酸、血中Ca等)が著しく改善し、諸臓器の特徴病変も著しく軽減された。一方で、LPS血症に伴う病態が改善されない反応系(血中白血球数、血清AST、フィブリノーゲン、Zn等)も認められた。今後、試験例数を増やしてUDCAの投与による血中LPSの低減機序の解明や、生体における反応系の差違の機序を明らかにすることで、治療に必要な情報を集める取組が必要である。

<<質疑応答>>

Q:濃厚飼料の給与により、ルーメン液pHが低下したときに重曹をあたえてpH7に近づけるとエンドトキシンは出にくいのか?

トラムリンやビオスリー、アースジェネターを与えたらエンドトキシンが出にくいのか?

ウルソを選択した理由は?

A:重曹についてはよくわからない。これはルーメンフローラの問題で、飼料を切り替えると、ちょっとしたアシドーシスでもグラム陰性菌死滅して、陽性菌が増える。結局、たくさん陰性菌が死滅すると、ルーメン中にLPSがたくさん出る。重曹で補正してあげてルーメンフローラがどう変化するかというところになるが、pHを補正するだけで、フローラがもとに戻るかというと、そこは難しいと思われる。示した結果で、pHは最終的(約1か月後)にもとに戻るが、LPSは血中にみられるので、pHが7になっても粘膜の状態が悪いとそこからLPSが入ってしまうため、pHよりも粘膜状態のほうが重要。

整菌剤について。一度、濃厚飼料を与えてアシドーシスが起こってしまうと、後から菌を入れてもあまり効果はない印象があるが、粘膜面を保護するという意味では重要だと思う。ただ、どういった薬が効果が強いのかというのは、これからいろいろ調べてみる必要がある。

ウルソを選択した理由。食細胞の機能をあげすぎると逆に周辺の肝細胞に障害が起こってしまうのでよくない。ラットの試験で、ウルソを投与すると、肝血流量が上がり、胆汁生成量が増える。そこにLPSを投与すると、胆汁中LPS濃度が非常に増えるという報告がある。結局、血中のLPSが肝臓からどんどん胆汁中に排泄されることで血中から減っていくのではないかということを考え、今回ウルソを選択した。

Q:肥育牛や乳牛でエンドトキシンの疑いで、頸静脈血をとって血液検査する場合に、疑わしい基準はどれくらいにすればいいのか?

 甚急性の乳房炎の場合にウルソの効果は期待できるのか?使うとしたら、一日一回なのか、二回、三回使う方がいいのか?

A:LPSが末梢血液中に検出されないというのが健康である基準。血中にLPSが検出されるということは、グラム陰性菌の感染があるか、ルーメンアシドーシスが起きてトランスロケーションが起きているか、肝疾患や腸炎が起きているかの4つしかない。いずれにしても持続すればショックが起きると考えられる。

 乳房炎の場合は乳房内の局所でエンドトキセミアが起きている。もしこれが全身に波及している場合は、この全身性の症状を軽減するという意味でウルソは効果があるかもしれないが、具体的な量はわからない。局所の乳房炎に効果があるのかは疑問がある。

Q:乳牛のクレブシェラの乳房炎で、エンドトキシンの症状が出たときに治療を始めても廃用になってしまうケースが多い。農家の人に聞くと、半日前から、弱い乳房炎の症状が始まっていたが、弱かったため、治療をしなかった。この弱い乳房炎のときにエンドトキセミアを発見する方法はないか?

A:乳房炎については全身に出てこないことがあるというのを聞いているので、乳汁中のLPSを測ることが重要かと思われる。乳汁中のLPSも同様の方法で測定することができる。

Q:ポータブルのLPS測定器はフィールドで使えるものなのか?コストは?

 血中にLPSが出ていて、下痢なども起こってない場合、ルーメンのパラケラが起きていると考えてよいのか?

A:ポータブルの機械も検査室に置くような機械と同程度に測定できる。カセットにサンプルをいれることで測定ができるようになっている。このカセット一つは500円や1000円とかではなく、そんなに安くはない印象がある。サンプルは、希釈や加熱などの前処理が必要であるため、現段階でのフィールドでの使用はまだ難しい。

Q:亜急性のマイルドなルーメンアシドーシスの試験系について。肝臓が悪いとLPSに弱いということが分かったのだが、マイルドなルーメンアシドーシスになるように給餌して、なぜ肝臓が障害を受けたのか?

 なぜ肝臓に障害があったのに、ASTなどの上昇がみられなかったのか?

A:血中にLPSが少しでも入っている状態が長く続くと、軽い肝臓の巣状壊死がでてくる。血清中にLPSが出てくるというのは、肝臓の処理能力を超えているということ。また、LPS自体に肝細胞の障害性があるのではないかと考えている。

 ASTについては程度の問題。ASTもγGTPも肝障害が進めば出てくるが、今回見られたのは散発している程度で、非常に軽度であったためでてこなかった。

Q:9時間後の胃液がすごく黄色くなっている写真があったが、あれはその後どうなるのか?

A:餌は大麦がほとんどだったのだが、それを給餌している間は黄色いままだった。臭いは、切り替えてすぐ(1週間くらい)は酸性のすっぱい臭いがしていたが、1か月ほどするとおさまった。

Q:4週間もしたら、濃厚飼料多給群でもわりとpHなどは正常な状態になっていたが、食欲減退などは続いているのか?

A:食べる量はだいぶ回復している。それは、濃厚飼料多給に合ったフローラになったからだと考えられる。ただ、VFAの組成をみると、酪酸の割合は増えたままであり、ルーメン液や血中のLPS濃度も高いままであった。

Q:パラケラがあるから血中LPSが上がるのか、それともLPSが上がるからパラケラになるのか?

A:パラケラトーシスが無ければ、血中にLPSは出てこない。パラケラトーシスができていると血中にLPSがでている。これをみると、パラケラトーシスができることで分子量の大きなLPSが血中に出ていると考えられる。

Q:細菌由来LPSに対してステロイドの単投与と追注を含めたドース依存性の複数回投与とどっちがよいのか?単投与では数日後にぶり返す個体がいるので。

A:ステロイドとの関係はまだ何とも言えない。ヒトでは腸炎由来の肝炎の報告はあるが・・・。LPSが出血を起こすよりは、出血性腸炎によりLPSが体内に入りやすくなると考えてもらった方が正しいと思う。

Q:LPSショックを起こした時、ステロイドは単投与がよいのか複数回投与がよいのか?

A:LPSショックの際は、血圧の低下や脱水も見られるため免疫系より循環器系に注目すべき。なので、治療もだが補液の選択を。

Q:ルーメンアシドーシスで、盗食による例がある。胃切開で内容物を取り出す選択があるが、ヤシがら活性炭でLPSを吸着させる戦略はありか?エンドトキシンが体内に吸収されるまでの時間の目安があれば教えて貰いたい。

A:LPSを含む内容物を対処する理屈からは、胃切開も活性炭吸着もあり。急性アシドーシスは、乳酸値の急上昇が問題。LPSは数日で循環器系に移行する。

逆子(尾位)難産介助の際胎子の肋骨骨折を防ぐ方法(提案)

                                          池亀獣医科病院 池亀 康雄 

40年前の酪農家の手引き書より、「逆子はひっかかるところがなく安産であり、へその緒が切れたら仔牛は呼吸を始めるので、尾付がでたら、万障差繰って引く」とある。今は枝重視で大型の種が好まれる傾向にある。以前より、特に初産牛の場合、重い難産が増えている。逆子の場合は腰が出ればおおかた、強引に引き出せるので、肋骨骨折に陥りやすいと考えている。

逆子の場合、胎子の生死は肛門に指を挿入することで確認できる。産道通過するか否かの見極めが重要で、経膣介助するか、帝王切開するか、悩むところである。

経膣介助を選択した場合、プラニパート10mlを静注で前処理し、ブロサポを塗布・注入(プラスチック製灯油ポンプ使用)する。危ないと思ったら(新生仔牛呼吸障害を想定)、ドプラム2ml+50%ブドウ糖18mlを吸入した注射器、7%重曹注(50cc)、蘇生術の備えをしていく。介助法は、胎子の腰が骨盤通過する際、片肢を前後にずらして牽引し、腰をかわすと同時に、次に胎子の胸(肋骨)が骨盤(親の恥骨の突起)に引っ掛かることを想定し、胎子に回転を加えながら、乳房に向かい牽引する(捻りながら下に引き出すという一連の動作)。頭位難産でも肩の通過困難に応用。立位では牽引したままで、助手が産科ベルトに体重を掛け垂直下方に押す(ねじるため産科チェーンは指を怪我する危険あり、そのため布製ベルトを推奨、演者は車のシートベルトを再利用している)。

人の方では、肛門を切って出す方法があるが、それを牛で実施したところ、子宮頸管まで破れてしまい、縫うのが大変だった。この時、意外と恥骨の突起があることに気づき、この方法に行き着いた。これで、完全に肋骨骨折が防げるかはわからないが、試してみてほしい。


心筋に9cmも針金が穿通していた外傷性心膜炎の一症例報告

<飼養状況>

児湯郡川南町にて、繁殖牛10頭、子牛6頭を飼養。他、ハウス野菜栽培の兼業農家。

<当該牛>

H22年1月生まれ、H22年12月導入。問題なのは、Aコープの口蹄疫復興支援として抽選により贈呈されたプレミアム牛(繁殖用黒毛和種♀)であること(なにかとニュースに取り上げられている)。県下5頭入ったうちの1頭。

<病歴>

H23年10月、約8ヶ月令の双子を早死産。「その時、10日間位、高熱が続いた(他獣医師診察)。また、父牛が忠富士で本牛は気ぜわしく、ずっと食が細く、太らない体質と思っていた。」との稟告があった。

<経過概要>

初診H24年9月13日

食欲なし、発熱、心音聴取困難、呼吸速迫、腹痛を訴える。排糞量少ないが正常便。重度の貧血、削痩、歩行が遅く、歩様不安定。膣粘膜帯は黄色で、胸垂にやや浮腫がみられ、皮温不正、静脈拍±であった。一番おかしいと思ったのは、呼気に強いアセトン臭があったこと(尿中アセトン体±)。今まで、和牛でアセトン臭があったのは、この牛が初めて。

9月17日 朝 出産(♀)

その後も、食欲不振、貧血続き、体温は40℃前後の稽留熱で、長時間起立を嫌い、症状に好転みられず。

9月30日 当該牛は心不全にて死亡。

<主な治療内容>

補液+ウルソ+抗生剤等(静脈投与)を使用したが感受性なし。ガナゼック(筋肉投与)、輸血200mlも行ったが、効果がなかった。ただ、メデランチル(10ml、静脈投与3回)を投与したときは、そのたびに一時的に食欲が出現した。メデランチルは空腹中枢に作用して、食欲を促す。

10月1日に宮崎家保にて剖検。胸部(心嚢膜と胸膜)に癒着が見られ、褐色胸水(悪臭あり)が貯留していた。心房の筋肉に刺さった状態で針金が発見された(伸ばすと約12cm)。畜主に持って行ったところ、この針金に見覚えがあり、背負い草刈り機の掃除用に自分が加工したもので、1年半くらいに前になくしたものであった。

<臨床所見>慢性症状にため創傷性心膜炎の特徴としての、下痢、顕著な胸水浮腫、頸静脈拍動が診られなかった。診られたのは、極度の貧血と呼気のアセトン臭であった。

<剖検所見>針金による外傷性心外膜炎を確認。心筋に深く穿通したと考察。本牛は導入後、磁石投与したとのことだったが、剖検時、磁石を発見できなかった。

<発症防止対策>

磁石が投与直後の反芻で出た、あるいは糞と一緒に出てしまったと考えられるため、投与後に前胃内を方向磁石で確認し、年一回の全頭磁石確認の必要がある。最近はステンレス製のものが増えており、ステンレス製の釘、針金等は磁石に吸着しないので注意が必要である。

 

『第三胃食滞』、『育成牛の第四胃食滞』、『イバラギ様疾患』

                                          開業  山本浩通

○『第三胃食滞』

 和牛、生後4ヶ月齢。生後3ヶ月までは発育良好であったが、その後慢性のガス性の腹部膨満を呈し発育も停滞気味になったとのことで診察。初診時は第一胃内の異物を疑い、傍正中切開術を施術。開腹すると内容物のほとんど入っていない第四胃を発見したため、第四胃まで食物が通過していないと判断。当初疑った第一胃・二胃を探索するも主だった異物は見付からなかった。触診でやや第三胃内容が硬かったため、第一胃の切開部より補液用カテーテルを挿入し第二胃を経由して第三胃へアプローチを行い、リンゲル液を注入して内容物を軟らかくしてみることに。ある程度軟らかくなったことを確認して閉腹した。(第二胃経由の第三胃アプローチに毎回苦戦する記憶がある。実際は第四胃経由の方が楽である)

 術後経過として1週間が経つが、ガスによる膨満も見られず順調である。過去にも2例ほど第三胃食滞の症例と遭遇しているが、いずれも第一胃を疑うも異物は見付けられず、第三胃をほぐすことで再発もなく予後も良好であった。一般に第一胃内のビニール・ロープなどの異物が慢性ガスの主要因であるが、第三胃の食滞もあるのだということを改めて考えさせられた症例であった。

○『育成牛の第四胃食滞』

 平成23年8月生まれの育成の♀。発育はしているものの、増体量が伸びず食欲もあまりない。この症例牛も腹部にガス性膨満が見られたため、『第三胃食滞』の症例の時と同様、異物を疑い、傍正中切開にて開腹。第一胃だけでなく、第二胃・三胃・四胃も調べたところ、第四胃が風船の様にガスで膨れており、第四胃特有の粘稠性の内容物は全く見られなかった。外側からの触診で幽門部周辺に硬いものを触知したため、第四胃の幽門部を切開したところ、中から握りこぶし程のシラスを固めたような異物が摘出された。大きさとしては、幽門を通過出来そうにも思えるが実際はこれにより第四胃幽門で閉塞、波及して第一胃のガスの充満に至ったと考えられる。第四胃の異物除去後、前回の経験から第三胃もほぐしておいた方がよいだろうと、第四胃経由で第三胃にアプローチしてほぐした。予後として、現在までガスによる膨満再発はなく、食欲も回復傾向とのこと。

○『イバラギ様疾患』

 約10歳齢、♀、分娩予定日40日前。正常体温で吐出を呈したため、診察。初診時、歩様にふらつきが見られたため、50%ブドウ糖補液に加えCa・Mgの補給を行った。血液検査の結果では、GOTがやや高めではあるが顕著な結果は得られなかった。26〜27年前に鹿児島県でイバラギ病が発生した時も、嚥下困難の病畜が目立った。鹿児島県での発生の3ヶ月前に徳之島に居た時、2症例に遭遇。1頭は競り前の子牛。もう1頭はうまく対処出来ずに死なせてしまった。助かった1頭は経口補液を行うことで予後良好であったことから、本症例も嚥下障害を呈するイバラギ病を疑い、現在検査機関に検査を依頼中。

 牛舎内は、ウォーターカップ周辺に吐き戻したものが散乱しており、牛床に餌が落ちている。牛自体は食欲を示し咀嚼するものの嚥下に至らず、ウォーターカップ周辺や寝床で吐き戻してしまっている状態。血液検査では特筆すべき結果は得られなかったが、食べていない現状からNa、Cl、Kの不足を考え水に塩、塩化カリウムを溶かし、更にトルビン酸、ドン八ヶ岳、フスマを加えたものを塩ビパイプで開口させ、経口補液(合計30リットル程)。50%ブドウ糖を連日1週間、塩などの補給を連日1週間以上行ったところ、処置後10日目くらいから少しずつ摂食を開始し、2週目には摂食能も回復、濃厚飼料も4kgほど食べる様になった。やや削痩しているが外見上は問題なく回復に向かっていたが予定日より20日早く陣痛が来て双子を娩出するも2頭とも死亡(1頭目は翌日、2頭目は3日後)した。剖検すると踏まれた跡のような出血創が見られ、腹水も貯留していた。分娩時は介助の下娩出され、親からも離されたため踏まれる機会は無かった筈だが、現実その様な出血創が見られる。これがイバラギ病と関係するものかは不明だが、親牛同様に血液を検査に出しているところ。農場内での伝搬は今のところ確認されていない。

【質疑応答】

Q:吐き出しを主徴とする症例の経験、自分にもある。吐き出し・噛み出しをする症例ではもちろん食滞を疑うが、他に双口吸虫感染の疑いもある。

第三胃食滞疑いの牛で開腹手術を行ったが、第三胃が腫瘍の様な硬さで、諦めて閉腹。その後死亡した。同一の農場で再び噛み出しの牛が発生。ケトーシス対策の治療をメインに行ったが、回復せず廃用に。剖検すると、同様に第三胃が腫瘍の様に硬くなっていた。現在BLV感染を疑っている最中。

 噛み出しを始めた時の治療アプローチを教えて欲しい。

A:オーナーへは「歯か胃が悪い牛」と説明することが多い。自分は胃が悪いと判断したら早めに開腹する方針をとっている。左側?部からでは第三胃へのアプローチが難しいため、傍正中切開を推奨する。

Q:子牛の場合は?

A:補液での様子見などはせずに初診から1週間以内に切開し、第一胃・第四胃の異物除去を速やかに行う。個人的には2週間以内には切開・異物除去に踏み切る方がよいと思う。実際、異物による子牛の食滞は多い。第四胃潰瘍の症例は予後が悪かった。

Q:第三胃・第四胃食滞で、排便不全などは起きなかったのか?

A:量こそすくないが正常便を排便していた。

Q:吐き出しをする牛に対する、農家でも出来る対処として一日コップ半分くらいのお酢を水で倍くらいに希釈して飲ませる方法がお奨め。これで回復するケースも多い。これに反応しなかった場合、双口吸虫の線も考えた方が良い。参考まで。

『農場とどう付き合うか』

                         DSファーマ・アニマルヘルス   的野

今回の発表『農場とどう付き合うか』というテーマの経緯は、開業獣医師との対話で「開業医は休みをほとんど取れない」と聞いた。一方、K県のG先生は「3週間ほどの休みを取ることもある」と言う。開業医でも、十分な休暇の捻出が可能であることを紹介したかった。

○S&T戦略(Segmentation & Targeting戦略)について

 顧客を、自分の基準で分類すること。例えば、ABC分析で、往診農家に対してA:(金額・カルテ数などで)上位の80%、B:15%、C:5%と分類し、各々への対応をA⇒毎日訪問する、B⇒基本電話伺いで用があれば訪問する、C⇒農家からの電話待ち、とすることで効率よく運営が出来る。

○K県G先生との特設Q&A

Q:先に出た3週間の休暇をどのように取ったのか?

A:前々から準備はしていた。代診してくれる獣医師がいないので、不在中はNOSAI獣医師にピンチヒッターを依頼した。長期の休暇をとったが、得意先の農家がNOSAIや他の開業のところに行ってしまうことはなかった。NOSAIの診療範囲と自分の得意先がかぶっていないので問題ない。シェアは下がるものの、特段問題に感じたことはない。契約する農家が多いことは必ずしも経営がいいこととは繋がらない。代診獣医師をスタッフとして入れる選択肢も勿論あると思う。

Q:今までに何度もこうした長期休暇を?

A:数回だけ。重要なのは休暇の日数や回数ではなく、農家が十分に理解してくれたか。

Q:急患の対応を農家に説明するときは、どのようにしていた?

A:NOSAIの先生を呼ぶことを奨め、「自分は検査入院で長期不在」と説明。

Q:指宿先生は如何ですか?

A:時々はあるが、3日以上の休暇は久しい。それでも出張が多いと農家から文句を言われることもある。

話をもどして。業務の時間軸にABC分析を導入する方法もある。A⇒毎日業務、B⇒毎週業務、C⇒毎月業務と。しかし現状としてA〜Cが混同していないか?という疑問がある。結論として、自分のメインとする業務(繁殖、コンサルタントなど)を理解し、農家・業務内容への時間・労働の割り振りをうまく行うことが重要。休暇を取っても大きな痛手にならないには、『自分のメインの業務・技術を必要とする農家へのケアをしっかりすること』、『競り市場の予定を把握しておくこと』、『競合先を熟知しておくこと』などを抑えておく。特に競合先との連携が取れていると、不在時の代診も頼みやすい。(後藤先生曰く、「共済職員との交友関係があるかが大きい」。)

総評コメント:出張などでの長期不在が多くても、農家との間に十分な理解があれば別段の問題はない。

カシューナッツ殻油を主成分とするルミナップPの紹介。

                                       共立製薬株式会社 中原

 ルーメンアッププロジェクトの一環で、ルーメン内のメタン発生を抑える作用をカシューナッツ殻油が有することがわかり、研究が進んできた。(2008年の三学会でも発表)。

アルカルド類が主体として作用し、黄色ブドウ球菌や虫歯菌の増殖抑制をする。人工ルーメン内での実験では、メタンを産生するG(+)のStreptcoccus bovis をカシューナッツ殻油の成分が界面活性作用による細胞損傷で攻撃し、結果としてメタンの産生が抑えられる結果となった。また、G(-)であるプロピオン酸産生菌が有意に増殖し、泡沫化した胃液の泡を消す作用も認められたことからもルーメンアシドーシスの是正や、誇張症の改善にも効果がある。

 ルミナップPの使用例をケトーシスの例を対象に紹介。ルーメンアシドーシスやケトーシスのリスクが高い分娩後2週は管理に注意が必要で、分娩前からのケアが重要である。分娩後に食い止まりを起こした牛に対してルミナップPを投与すると翌日より乳汁中ケトン体量が減少したことから、肝臓でのケトン体代謝が亢進したことは証明されたが、まだコストパフォーマンスがよくないため、スポット投与を提案するのが現状。クロースアップ期の乳量も、投与群は非投与群に比べ平均日乳量が1.5kg高く、周産期疾病の発生率が30%低い結果となった。フレッシュ期のカシューナッツ殻油ペレットを給仕することで繁殖成績の向上がすることが示唆された。

 給与量の提案として、乾乳後期〜フレッシュ期は、周産期疾患のケアに努め、50〜100gを給与。泌乳期には50g給与を推奨する。また肉牛では、導入直後の食い止まり時・飼料切り替え時に50gを給与。子牛にはスターター期に30g、育成期に50gの給与を提案。

診察した症例の紹介。

                               鹿児島動物病院  赤星

○『ワクチン接種しても1か月後に抗体が上がらなかった症例』

ボツリヌス菌が流行した牧場でキャトルウィン6を使用。母牛からの移行抗体の成績はよいが、IBR・BVDの抗体価も高く市場に出た際に感染してきたものと思われる。ワクチン接種後、抗体は十分に上がらないものの下痢や風邪で診察することはなかった。新生子牛0日齢にワクチンを接種することで対象病原の抗体は上がらなくても下痢などの疾患の予防に使えるのではないかと考えている。

【コメント】理由は分からないが、自分も抗体価は低いのに病気にならない子牛を見たことがある。マイシリン5〜10mlとプレドニゾロンを経直腸投与すると予後が良い。

○『子牛の胃破裂』

 元気消失、腹部膨満を呈した子牛。開腹時に大網が突出。腹腔に癒着が見られた。胃破裂と診断したが、子牛はその後死亡。なぜ胃破裂が起きたのか未だによく解らない。

【コメント】成牛に踏まれて起きることがある。牛はフィブリンの析出が早いため、しばらく持ちこたえたりする。

○『スタンチョンに挟まった症例』

 スタンチョンを切断・解体することで挟まった未経産牛を救出。畜主より妊娠している可能性を告げられたため初日はデキサメサゾンなどの使用はせず、経過を見守るも予後不良で廃用に。

○『発情時におけるホルモンの測定』

 繁殖に供されている牛60頭より採材し、無発情、発情微弱、発情中、発情終了の4ステージに分類し、コルチゾール、プロジェステロン(P?)、エストロジェン(E?)を測定。コルチゾールはストレス環境下で上昇。発情中のサンプルが1.1μg/dlと唯一高値(他のステージの2倍)を示したことから、発情はストレスに近い状態と思われる。CIDR挿入後に発情を伴うコルチゾールの上昇傾向を示した。嚢腫と診断された牛にCIDRを挿入し、強肝剤のハーブ製剤を投与。ホルモン濃度は、教科書的なコルチゾールの上昇とP?の減少、E?の増加を示したが明瞭な発情兆候は見られず、AIは出来なかった。後日発情出血を確認したため、発情微弱であったと思われる。

 発情微弱牛にCIDRを挿入、エイトロジェン製剤(3r)を投与し7日後に抜去したが発情は微弱なままであった。

【コメント】定時AIのプロトコールをとったのであれば、発情兆候の云々ではなくAIするまで採材・測定を完遂するべきだと思う。

 発情微弱の母牛はコンディションに問題があることが多い。特に黒毛和牛はホルスタインの様な飼養プログラムが確立していないので、獣医師がコンサルトしてあげないといけない。

 黒毛和牛はホルスタインに比べて甲状腺の機能が低いらしく、PGF?αが効きにくい。

E?は何とも言えないが、P?濃度の測定は黄体機能の有無を見る有効なツールだと思う。コルチゾールと発情兆候の関係性を報告した論文もある。嚢腫の分類や状態を把握するツールとして展望があると言われている。

顆粒膜細胞腫の症例

                                                                          宮崎大学 北原

顆粒膜細胞腫の症例に関する研究の紹介。顆粒膜細胞腫の診断として、病理学的診断が必要なのが現状であるが病理診断のための採材は非常に困難である。本発表は、人医領域で癌の発見・診断に用いられるバイオマーカーの様に、あるホルモンを指標に出来ないかを検討したもの。

 現在、顆粒膜細胞腫の診断として臨床的検査による診断、超音波画像診断装置による診断、血液中のバイオマーカーの測定などが挙げられる。人医領域では、エストラジオールやインヒビン、抗ミューラー管ホルモン(AMH) の上昇が、馬ではテストステロン、インヒビン、AMHが顆粒膜細胞腫の症例で上昇することが知られているが、確定診断には病理診断が必要である。その上で、病理診断の前になんとか診断が出来ないか模索したことが背景にある。今回の発表で、汎用性と精度の更なる検討をした。

 産業動物は、診察の段階でも発情周期を有しているため発情周期に影響されないバイオマーカーを測定する必要がある。しかし、市販されている測定キットの多くはヒト用のものであるため、牛のインヒビンやAMHを正確に測れるか疑問が残る。そこで、牛のホルモンを測定が正確に行えるかを本試験の前に精査した。結果、プロジェステロンなどが発情周期内で山形の変動を呈するのに対しAMHは発情周期に左右されず、一定した値で推移することから有効なバイオマーカーとなりうることが分かった。

 顆粒膜細胞腫の牛のサンプルが7検体得られたため、健康牛との比較を試みた。腫大が進んだ症例では、超音波装置の超音波が届かないほど腹腔深部に下降してしまっており、超音波画像診断も困難であった。エストロジェン・インヒビンなどの測定も有効とされているが、牛の場合ではAMHほどの特異性は見られなかった。

 摘出した顆粒膜細胞の容積と血中AMH濃度に正の相関がありそうだが、まだ症例数が少ないため、断言には至っていない。今後も先生方にご協力を頂いて、研究を進めていきたい。過去の症例で、顆粒膜細胞腫の卵巣を摘出すれば正常な発情が回帰したものもあるので、早めの診断と摘出が望ましい。

【質疑応答】

Q:治療法がないのか?

A:人医領域では抗癌剤のようなものがあるのかも知れないが、牛は産業動物であるのであったとしても使用が難しい。

Q:大きさは?

A:大きいものではs単位。小さいものでは教科書で書かれている10p程度のもの。

Q:卵巣嚢腫の治療で卵胞液を吸い出したりするが、その中に顆粒膜細胞腫がある可能性は?

A:処置により発情回帰すれば、普通の卵巣嚢腫と考えてよいと思う。顆粒膜細胞腫は摘出しないと治らない。

Q:小さい顆粒膜細胞腫のエコー像はどのような感じか?

A:1症例を継続的に診察した記録が無いので断言は出来ないがエコー像はまちまちでこれだと言い切れない。典型的な蜂の巣構造が見られないものもある。

Q:顆粒膜細胞腫、最近はあまり見なくなった気がするが何か原因があるのか?

A:詳細は分からない。

Q:粘液症も見ない気がする。

A:そう思います。環境(環境ホルモン)による影響という意見も一理あると思うが、詳しい機序はこれから解明されることを期待する。

Q:粘液症の牛でも何かしらの治療などで繁殖に供せる様になるか?

A:難しいと思う。第一選択は淘汰かと。

牛のコクシジウム症による出血性腸炎の病態解析

                                       宮崎大学   桐野

牛のコクシジウム症による出血性腸炎の病態解析について発表。コクシジウム症で特に子牛の下痢症が有名で、重症化すると偽膜性腸炎を呈する。国内では13種類が報告されているが、主に病原となるのはEimeria bovisやE. zuerniiの二つ。一般に、アイメリアが子牛に出血性下痢を起こすと言われるがトリトラズリル製剤の導入により過去の疾病と称されたりもするが、実際は根強く蔓延しており未だ農家への経済的ダメージの要因である。一部の臨床獣医師・研究者の間で、出血性下痢はコクシジウム単体で引き起こされるものではないのでは?という声も上がっている。

宮崎大学の寄生虫病学研究室ではコクシジウムと細菌の混合感染による出血性腸炎のメカニズムについて研究している。当研究室のマウスモデルを用いた実験で、コクシジウムに感染したマウスの腸管では粘液産生細胞の杯細胞が有意に減少し、腸管の蠕動運動が阻害されることが分かった。この状態になると、本来はマウスの腸管に定着することが出来ない志賀毒素産生大腸菌(STEC)が定着出来る様になることから、コクシジウム感染により粘液が減少し、蠕動運動が阻害された腸管に病原性大腸菌が定着することで出血性下痢が重症化するのでは、という仮説を立てた。鶏を用いた研究では、コクシジウムが感染することで腸管の免疫機構が変わり、壊死性腸炎の原因菌であるClostridium perfringensが増殖することが報告されている。コクシジウム感染をコントロールすることで、腸管での病原性細菌のコントロールが出来る可能性がある。これを鑑み、牛の出血性下痢症について基礎的な情報収集を行った。

協力農家から送られてきたサンプルは、黒毛和牛の肥育でほとんどを占めていた。健康な肥育牛の糞便サンプルを対照群とし発症群を比較したところ、OPGが有意に高かった。優勢種としてはE. zuerniiが84%を占めOPGと臨床症状にも正の相関が見られた。同時に行った細菌検査では、大腸菌群数:5.6×10?cfu/g (動衛研の定める基準では1.0×10?cfu/g以上で大腸菌症)で、Clostridium perfringensも70.6%と高い割合を示した。アイメリアの増加とC. pの増加にも正の相関があり、ほとんどのC. pがα毒素産生株であった。

牛の出血性腸炎において、E. zuerniiが主たる病原体で、他の病原細菌と複合感染し競合する形で本症を引き起こしている可能性がある。今後も更に実験を続け、より詳しく病態解析をいきたい。

【質疑応答】

Q:治療の際のサルファ剤の効果は?

A:サルファ剤もトルトラズリルも投与後数日の内に劇的にOPGは減少する。治療後に再感染抵抗性を獲得する個体がいることから腸管内に駆虫薬から逃げ延びたアイメリアガ存在し、それが抗原となり免疫賦活化作用を呈しているのでは、という仮説もある。

Q:鶏ではワクチンがあるので、牛でも検討してほしい。治療にはワクチンと抗生物質の併用をしてみてはどうか?

A:確かに、あるとこの上無いがコクシジウムのワクチンは継代を繰り返して弱毒株を作り出すため、多数の無菌牛を用意することが不可能な状況から現実的ではない。ターゲットを吟味して抗生物質を使用するのは効果的だと思う。研究を進めて、提案していきたい。

総合討論

Q:肥育の出血性下痢の治療で休薬などがあるが、投与方法などについて。

A:サルファ剤。肥育後期ではエクテシンを投与。C. pを考え休薬期間が短いものを選択。効果が弱い場合にニューキノロン系に転向。デキサメサゾン投与は、「悪化しそうな場合」に初手で使うのは効果的と思われる。サルファ剤は3〜4日間、抗生物質は3日間で効果が見られなければ切り替える。ステロイドは基本的には単投与に留める。他には薬用活性炭や生菌製剤など。

Q:コクシジウム感染で腸管の運動が阻害されるのなら、腸を動かす薬を使うのはどうか?

A:初診時にプリンぺランを投与すると経過がよいという報告もあるので、マウスモデルで研究してみたい。

Q:形成された偽膜を体外に出す意味でも、プリンぺランの投与は有効だと思う。

A:腸管を閉塞・狭窄させている原因となるだけでなく、蠕動運動の微弱化は細菌増殖の温床でもあるので出来るだけ速やかに体外へ出す考えは正しい。

Q:デキサメサゾンなどがNOSAIなどでは使用量に縛りがあるため、効果的と思う治療も出来ない場合がある。

A:混注でうまくやる。

Q:食滞の牛にカシューナッツのタブレットタイプを与えて予後が悪くなった個体がいた。刺激性があるのか?

A:ウルシ科の植物なので、刺激性がある可能性はある。悪化する前に、初期〜中期症状のコンディションの立て直しとして使うことを奨める。末期での効果は何とも言えない。

Q:細菌由来LPSに対してステロイドの単投与と追注を含めたドース依存性の複数回投与とどっちがよいのか?単投与では数日後にぶり返す個体がいるので。

A:ステロイドとの関係はまだ何とも言えない。ヒトでは腸炎由来の肝炎の報告はあるが・・・。LPSが出血を起こすよりは、出血性腸炎によりLPSが体内に入りやすくなると考えてもらった方が正しいと思う。

Q:LPSショックを起こした時、ステロイドは単投与がよいのか複数回投与がよいのか?

A:LPSショックの際は、血圧の低下や脱水も見られるため免疫系より循環器系に注目すべき。なので、治療もだが補液の選択を。

Q:ルーメンアシドーシスで、盗食による例がある。胃切開で内容物を取り出す選択があるが、ヤシがら活性炭でLPSを吸着させる戦略はありか?エンドトキシンが体内に吸収されるまでの時間の目安があれば教えて貰いたい。

A:LPSを含む内容物を対処する理屈からは、胃切開も活性炭吸着もあり。急性アシドーシスは、乳酸値の急上昇が問題。LPSは数日で循環器系に移行する。

Q:盗食して後日気が付いた個体で、胃切開をしなかったら予後がずいぶん悪かったが、畜主への胃切開の説明が意外と面倒。

A:出来ることなら、初動で切るべき。後手になってからでは効果は期待出来ない。

Q:育成牛で種の付きが悪い。一方で高齢の経産牛は付きがいい。無いか理由が?

A:未経産で、片側の卵巣でばかり排卵する牛は成績がよくない。連続して片方になる場合は1周期スキップして種をつける様にしている。

A:自分にはそうした知見は無いが最近は右卵巣の排卵に偏っているらしいが、昔ほど獣医師がAIをしなくなったため、卵巣の動態を正確に追えていない現状もあると思う。

Q:片側のみで排卵する個体の治療法は無いのか?

A:今は結論は出せない。

A:卵管閉塞で片側しか機能していない場合もある。未経産はこうした症例に注意が必要。

A:そうした症例は剖検に立ち会い、詳細を見てみたい。

Q:卵管閉塞の検査法は無いのか?

A:CO?ガスをカテーテルに入れ、ガス圧の減少を見る卵管疎通試験や、でんぷん液を用いるものもある。

A:胚移植も一手だと思う。

Q:問題となっている未経産牛の発情は本当に正常なのか?安福久の系統が種の付きが悪い牛が多い気がする。

A:安福久での長期在胎は有名。発情回帰も遅い。

A:総じて近交が続いている昨今、遺伝的問題は無視出来ない。近交係数のチェックをまめにする必要があるのかも知れない。

A:安福久自体突然変異のきらいがあり、奇形率が高い系統。

Q:新生子にワクチンを打つ話で、ファイザーの方から生後3日でリスポバルを打つと成績がよいと聴いたが、この時期にワクチンを打つことは免疫学的意義としてならどのワクチンを使ってもよいのではないか?また、鉄剤投与の有効性は?

A:BVDは胎生後期なら病原体と認識出来るので免疫賦活化は可能だと考えられる。

A:鉄は生後2週まで下がり続け1か月後までに回復するため。

A:豚ではインターフェロンによる防御を考えて通常80・120日齢で打つ豚のオーエスキーワクチンを発症中でも使用する方法も推奨されている。

Q:エンドトキシンショックについて。アイメリア症でのプリンぺランは大丈夫なのか?

A:腸管運動の維持が大切。蠕動運動の強化で粘膜面を保護する意義があるのなら賛成。

Q:プリンペランに限らず、なんでもよいのでは?