NOSAI宮城 河野允彦
平成23年3月11日、マグニチュード9.0、最大震度7の地震が200秒以上続いた。震源域は岩手から茨城までと広範囲におよび、震度4以上の余震は10月6日までで209回起きている。その後、大津波の発生。津波の高さは8から9m、仙台空港近辺でも9mに上った。またリアス式海岸である三陸海岸では10-15mまで浸水したと言われる。浸水面積は鹿児島市の広さに到達し、うち宮城はその半分以上の地域をしめる。北上川水域では海岸線より12km内陸まで浸水した。
三陸は津波に対して知識があり、石巻、仙台ではあまり被害が出なかった。津波は流れるように追いかけてきて10-15分で車が浮いてしまうほどだった。19時頃から水が引き始めた。
南三陸で被害が多く、防災センターも沈んでしまった。地震で1m地盤が沈下した上に、1週間くらいは水がひかなかった。
石巻での被害が多かった。宮城における全壊家屋のほとんどが津波によるものだった。ただ、阪神淡路大震災における死亡者の9割が圧死だったのに対し、一番被害が大きかった栗原市では圧死は0人であった。
震災直後には、情報収集手段は少なく、ライフラインが寸断されてしまった。3月ということもあり、寒さで死亡してしまう場合もあった。ヘリコプターやパトカー、救急車の音が夜まで鳴り響いていた。宮城県内の停電の復旧は2-3日でできると思っていたが、広範囲の被災ということで業者が入れなかったため、3月の後半になってやっと復旧するようになった。また、停電による信号機の停止がみられ交通渋滞が起こった。規則正しく走行する車が多かったため、大きな事故などは起こっていないようだった。一般道が通行止めになり、県内だけで8時間以上走ることもあった。JR全線も不通となり、空港も全便欠航となったため、旅行者も移動手段がなくなった。
道路では、亀裂が走り、陥没しているところもみられ、夜の走行には注意しないといけなかった。また橋桁と地盤との段差が50cm-1mほど起こり通行止めになっているところもあった。国道はしっかり作られているため、このようなことはあまりみられなかった。
震災後、ガソリン供給が不足した。停電で供給できなくなったガソリンスタンドもあり、4-5時間並んで10Lしか入れてもらえなかったなどということもあった。冬だったので車の中で凍死してしまった人もいた。コンビニエンスストアでは食料の供給不足がみられ、夜間は休むところもあった。4/5にはガソリンスタンドの稼働率は79%まであがった。
震災直後の畜産農家の被害
地震直後の倒壊により、牛舎の下敷きになった肥育牛がおり、圧死してしまったケースがあった。処理をする車もガソリンがなくて来ることができなかったようだ。畜主さんが自分で作った畜舎では倒壊したところが多かった。また、牛舎が屋根まで冠水して流されたものや、1週間そのままだったため、溺死してしまったケースもあった。家族や家は無事だったのだが、また牛飼いを始めたいのに浸水地域のため始めることができない農家や牛も人も流されてしまった農家もあった。死んだ牛は各所からへい獣処理場に集められ、消石灰をかけ、埋葬していた。牛が流れ着いた場所は畜主さんが全て消毒していった。津波のとき、牛はルーメンがあるため一時は浮いてられるが、しばらくすると力尽きて死んでしまう。豚での被害の多くは圧死と凍死だ。水死と圧死・凍死の割合は乳牛で171頭、16頭、肉用牛で446頭、12頭、豚で2537頭、356頭であった。
津波被災地域の現状、不安材料としては、被災地では7ヶ月経った現在も大潮で水没しており、数年間は作付けも難しいだろう。沿岸部では稲藁の確保が困難となっており、小さな農家では牛飼いを断念しないといけないかもしれない。
家畜診療センターの対応
地震直後は通信・情報は遮断されてしまった。外部情報はラジオのみであるが、次の日の朝、新聞が届いた。3月11日、津波被害地域をかかえる県北では二人の獣医師の安否が不明であった。中央センターではガソリンが不足、研修所では実習生3人がいた。実習生は無事に避難することができた。県南センターは獣医職員が津波被災したが、周辺の農家への被災は比較的少ない。また停電によりセキュリティーは機能しなくなっていた。3月14日、各センターは所長の指揮の下対応した。通常の往診はガソリンの不足により困難になり、緊急対応パンフレットを配布および玄関に貼り出した。携帯メールにより緊急飼料給与対応指導を行なった。
緊急対応パンフレットの内容は、
≪乳用牛について≫
・配合飼料は少なくとも通常の3分の1程度、粗飼料もできるだけ十分与える。
・妊娠牛は早めに乾乳、体力の温存につとめる。
・水はできるだけ制限せずに与える。
≪肉用牛について≫
・粗飼料の確保につとめる。
・普段以上に病気の予防につとめる。
・水はできるだけ制限せずに与える。
≪子牛について≫
・生まれたばかりの子牛が弱いときは、体を良く拭いて古着を着せるなど、保温をする。
人が体調を崩しては何にもなりません。人も牛も体調管理と体力の温存をお願いします。
3月14日に千葉県で鳥インフルエンザが発生したが、全県下での状況把握はできなかった。伝染病の発生がないことを祈るばかりだった。
高速の通行も緊急車両手続きをし、可能となった。診療業務も再開できた。震災後の診療体制の課題は、ガソリンの不足、電話の不通、薬品の供給停止、停電、断水などである。被災地には1台の往診車に2人便乗し、ガソリンの節約、大量診療に対応し、明るいうちに終了するように配慮した。依頼なしでも出向き、巡回した(中規模以上農家)。
震災後の畜産農家被害
・停電
搾乳システムの停止、畜舎への給水ポンプの停止などは酪農家の仕事に大きく影響をする。
停電時の搾乳は発電機を使ったり、バキュームを使ったり、手搾りなどで行なった。搾乳を3-4日やらなかったところもあった。
・断水
約60%の酪農家で牛舎の断水が起きた。井戸水、地下水の利用、貯水池などからの運搬、山水・沢水の利用が行われた。
・飼料充足
在庫量によって充足感に差は見られたが、給与制限にて対応した。酪農組合、飼料会社などが東北地方への優先的配布を行い、その効果が認められた。2-3週間程度で給与量は確保された。粗飼料は自給飼料の増加で対応し、完全に枯渇することはなかった。購入TMR農家の中には分離給与へ変換せざるをえない時期もあった。2-3週間程度で給与量は確保された。
集乳開始時期に影響した状況
牛乳工場の復旧(3週間)、集乳車のガソリン確保、停電復旧による洗浄および冷却、牛への浄水の給与。
酪農家の今後の問題
老廃牛の出荷制限による経営の圧迫、F1子牛並びにホルスタイン雄子牛の価格低迷、震災時にコンディションを落とした牛群の繁殖成績の回復
繁殖和牛農家の今後の問題
子牛価格はセシウム関連の検査体制が強化されてきてはいるものの、消費者の特定地域に対する不安は払拭されておらず、枝肉価格が低迷を続けていることから、東北・関東地区においては引き続き厳しい状況が予想される。
原子力発電所事故を踏まえた粗飼料などの取り扱い
県内全域で利用可;牧草→発酵粗飼料用イネ(イネWCS)、飼料用とうもろこし、今年産稲わら(※地域により牧草利用が可能となった解除日が異なるため、保管してある牧草については注意)
倒伏した稲などの土壌付着粗飼料は給与しないようにする。
希望の牛たち
宮城農業高校では津波被害で助かった14頭の牛を移転し、授業が再開された。また、津波被害で助かった未経産牛がリザーブグランドチャンピオンに入賞するなど少しずつではあるが復興への道を歩み出している。
質問
Q畜産物はどうするのか?(放射性物質などの問題)
A原乳は自己所有地に散布するなどして廃棄した。馬は馬追い用としてなら大丈夫。豚は食用にしないものは大丈夫。
Q保障問題について。鹿児島の獣医師にも何か出来ることはないか?
Aまだ、自分たちも考えられていない。福島から保障は始まるが、畜産まで保障は行き渡っていないのが現状。
Q農家さんたちの軋轢はどうなのか。分断管理されるのではなく、みんなで頑張れないのか
A肥育の値段も上がってきているが、風評被害がひどい。放射線がどういう危険性を持っているかきちんと知ることが大事。
Q循環型農業が危うい。6月に支援が払われたが、減額などはなかったか?
A減額などはなく、ちゃんと払われた。
Q不衛生な状況の中で出てきた問題は?
A感染症はなかった。流れ着いた牛を他の農家さんが飼ってくれていたりした。四変の牛も出なかった。
Q出荷が遅れていると聞いたが、どの程度?そのとき病気は?
A肺炎、代謝病はないが、廃用にしたくてもできない。36-38ヶ月まで伸びている。実験している牛で増体がみられない。
Q非常事態の時に、個人開業さんとの連携は?
A沿岸部で津波被害の地域の人を助けたかったが、連絡できず、行くことができなかった。そのような形がとれればよかった。臨床研究会で連絡網を作ればいいかもしれない。
准教授 日高勇一
【活動内容】
診療が基本であり、犬猫、ウシの外科疾患全般を診ている。統計的にネコと牛が同数くらいの診療回数。画像診断や対癌新規治療法開発、再生獣医療
【手術内容】
腫瘍、脊椎疾患IVDD30件/年、整形、循環器(犬、猫、牛)心奇形が得意
循環器疾患の外科的治療:小動物の人工心肺装置、犬糸状虫症(フレキシブルアリゲーター鉗子による吊出し)
ウシの運動器疾患の外科治療:中手骨、中足骨(キャスト)脛骨骨折(人用のプレートダブルプレートでも曲げてしまうので10万円で枠を作り繁殖に飼養される症例も)大腿骨遠位骨折(3本ピン)
尿膜肝膿瘍:10件〜/年
再生獣医療:腎不全、フィラリア症(肺高血圧症)による側副循環血流回復の改善
悪性腫瘍に対する新規治療法の開発導入:外科療法、放射線療法、化学療法、免疫療法
QOLに基づいたその場でできる治療を…
活性化自己リンパ球療法:犬から末梢リンパ球分離→抗CD3抗体でコーティングしたフラスコで培養+サイトカイン(IL-2)→増殖→体内へ変換
症例1:皮膚リンパ管肉腫の肺転移
ドキソルビシンと免疫療法で改善されたが、抗がん剤が効きすぎて出血→死亡
症例2:副鼻腔未分化癌
動注化学療法(顔面なので有効濃度に達しない→頚静脈から顔に向かって
パクリタキセル/シスプラチンを投与)→眼球と口腔の変位が改善された
→しかし全身転移により死亡
症例3:舌癌
超選択的動注化学療法(タキサン/白金製剤投与)→腫瘍崩壊症候群
→1週間後に腎不全→死亡
【ウシの外科】
獣医療だけでなく畜産にも貢献したい
ウシの成長を早期かつ客観的に推定する方法:
骨折治療を行う際、固定方法の目安はないか
超音波型骨密度測定器(ウマ用・ポータブル)で骨密度を測定
6ヶ月未満の子牛の四肢、骨の相対値
40~50頭の骨密度:3ヶ月齢以降に左前肢の密度↑(ルーメンと関係があるのか)
負重に差があるのか、成長の目安・固定方法の目安にならないか
【鶏の外科】
鳥インフルエンザによる大量処分、流通不足→採卵鶏の雄は去勢して再利用できないか
鶏の去勢:鹿児島の農場主がしていた、比内地鶏も(卵肉兼用なので)
鶏の去勢:無沈痛は×→実験動物委員会で通らない→気管挿管の麻酔下で行った→
1/8頭が成功した(鶏冠立たなくなる)
【豚の外科】
市内の養豚場で研修中
豚の鼡径ヘルニア:整復術、ヘルニア嚢に含まれるor含まれない、体位など
開業 池亀
8割の農家が早期再開を希望
現在では6割が再開、川南は51%、家畜頭数は4割
再開したが気力を失っている農家も多い
農家の高齢化、枝肉の下落、飼料高騰…
防疫の畜産農家は孤立してきている
草の根活動で国の隠蔽体質を改善したい
開業 松本 大策
臨床獣医療の延長
1万頭の母集団のビタミンA検査は無理→外貌検査の必要性
小麦:ルーメンの発酵速度速い
放牧したウシはビタミンE/A足りない:黄体乗らない
胎膜水腫:子牛小さい、お腹がペッたんこ
持続挙尾:尿膜管遺残?排膿した→輸液→下から排尿(雌だけど…)→OPE→完治→いい仕上がりに
「福桜」:VFAの吸収↓→ルーメンアシドーシスになりやすい
骨軟骨症:努責が強い、粘膜がやられている
亜鉛と銅のバランス、ビタミンD3の300〜500万単位、エクセネル1g
繁殖成績:飼養管理のコンサルト、補助的にビタミン剤、強肝剤(パントテン酸Ca)
ホルモン剤はあまり使用しない
削痩:ビタミン剤、成長ホルモン(デカンサンアンドロロン)の安全域を見ながら投与
前膝の進捗不全(ナックリング): 屈腱のリリースが無理だったため産後廃用に
⇒コンサルタントは改善できることからしていこう
セカンドオピニオンとしての獣医師、地元の獣医師には気を使って…
牛肉の消費、出荷価格が落ちている、アメリカからの輸入自由化、マーケティング
Q:農家さんの要求が何か?
診療では報告書かないが、重要ですか?農家さんは理解していますか?
A:要求をこちら側で作る。視野が狭いと目的方法論を誤る。一番の要求は利益↑
報告書は農家さんのモチベーョンを上げる。
自分の記憶の定着、数回しか農家に行かないので報告書をみながら継続的な指導を
する、地元獣医師に指導を仰ぐ。
Q:農家さんのモチベーションが下がってきているので報告書はよい
A:お客さん向けの雑誌に投稿して知名度を上げる、情報を発信していこう
コンサルタントは自分から売り込んだら必ず失敗するから知名度上げていこう
開業 宮田
【症例】
黒毛和種・去勢雄・7カ月齢
3/10:頚部・甲状腺の位置に拳大腫瘤を両側に認められた、流涙・鼻汁
3/25まで抗生剤・ビタミンAを投与するが腫瘤に著変なし、BLV(−)
4/1:甲状腺腫と診断し、ヨードCaを投与
4/6:腫脹がやや減少しヨードCaを隔日で投与→腫脹↑
その後ヨードグリセリンに変えて内服を継続するが症状悪化
5/19:宮大がヨード過剰と診断し、ヨード剤投与を中止→5/20よりT4製剤を投与
6/5:腫脹やや縮小→6/16には4割程度に縮小→6/17にセリへ出場
【考察】
今回の甲状腺腫はヨードの過剰摂取が原因であった
開業 赤星 隆雄
症状;熱発、下痢
陰嚢の下が炎症しており、鼓脹、肺炎がみられた。
粘膜、結膜紅潮、耳炎紅潮していた。
鼓脹と思い、油を飲ませるように指示、油を飲ませた直後死亡。
剖検してみると、第4胃に紅潮はあるが潰瘍はなく、胸膜が癒着、肺炎が顕著だった。また、心臓、脾臓は正常。肝臓はやや腫れていた。
病気だということで診療しておらず、スクリーニングをかけたら、血液の値がすごく悪かったことで気づいた。
10ヶ月でも鼓脹が止まらず、油を飲ませたら死ぬ様なことがあるのか?
→気管に入ってしまった可能性がある。
Q粗飼料の中に整菌剤は?
A納豆菌などは飲ませていた。
Q離乳のストレスもあるのでは?
A人工哺乳で一般的な内容だった
Q独房で飼ったりはしなかったのか?
A病気という意識がなかったため、しなかった
Q餌を変えたりはしなかったのか?
A農家さんに言って餌を変えたばかりだった。
「繋に釘が刺さり1回のみ治療した場合」
10日前より針金が刺さり、1回だけ膿を出した場合、形がおかしくなってしまった。また逆側の脚がかばうことによって蹄が落ちてしまった。
治るまで治療すると、診療オーバーしてしまう。少ない診察でも治るというような症例を知りたい。
「臍帯炎を気にしなかった結果」
臍が出っ張っているが、ヘルニアか膿瘍かわからなかった。15cmくらいあり、腹壁までは手が届かない。血便で診察したが、穿刺したら漿液、膿が出てくる。
手術をすると、尿膜管膿瘍などではなかった。皮が厚く、膿を出すときに何箇所か空けないといけない状況だった。
縫合のとき、皮膚が全く寄らなかった。大きかった場合、メッシュをいれたほうがよかったのだろうが、持っていなかった。また、縫合方法はマットレスしかできない状況だった。
腹壁フレグモーネのときはどうするのか?
自己融解は7日ほど後から現れ出す。どのように処置をすればよいのか?→タオルなどで覆う
自己融解は汚染によるもの?フレグモーネから?
ヘルニアと化膿の場合、マイシリンを1週間農家さんに打ってもらって手術をするといいのでは?
手術の時は、膿だけでなく、袋ごと取り除き、しっかり洗うと良い。
絶食をしっかりさせて、吊り下げで手術、閉腹の時には後ろ足をクロスさせると良いのでは?
Q術後何日目まで抗生物質を打ったらよいか?→ずっと
術前の絶食、術後の食事制限が大事
Q膿はそのままにしてよかったのか?
A出しただけでも良くなるものはいるし、悪くなるものはいる。取り除いても同様のことが言える。
「黒毛和種子牛・育成牛における尿膜管遺残症と膿瘍形成がみられた4例」
鹿児島大学 大里
【はじめに】
尿膜管遺残:胎生期に臍や膀胱と連絡する尿膜管が退化不全により出生後も開通して
いる状態
【症例】
症例1:雌・10ヵ月齢、尿膜管(内部に膿貯留)を摘出した→抗生剤および利尿により排尿障害は改善された
症例2:雌・3カ月齢、2カ月齢時に臍帯炎で臍帯を切除後も排尿障害が見られ、膀胱炎を疑ったが、尿膜管が遺残しており切除→排尿障害は改善された
症例3:雄・12日齢、臍帯炎を疑ったが尿膜管拡張と膿瘍を形成し、腸間膜と腸管の癒着もみられ、剥離し尿膜管を摘出→術後腸重積により死亡
症例4:去勢雄・9カ月齢、尿膜管摘出と膀胱内の膿の除去・洗浄→抗生剤・利尿による排膿は止まらず予後不良→剖検により右腎の拡大・膿の大量貯留を確認
【考察】
遺残した尿膜管の摘出、術後の抗生剤投与・利尿で排尿障害は改善された
症例3・4では術後管理および他組織への炎症の波及状況を見極める必要がある
近年増加傾向にあり、予防・早期発見の重要性
Q:気高系が多いのは?
A:母集団として多い、尿膜管も太いのでは
Q:予防は臍帯血の搾り出し?臍クリップ?ディッピング?
A:現場で臨機応変に選択する、早期の摘発が重要
Q:臍クリップで悪化しない?
A:血液貯留によるものだと考えられる
臍を開いて抗生物質を入れることも、乳房炎軟膏も効果あり
Q:マイシリンが効果ある?
A:初発であればマイシリンでよい、牛の状態を診て決定
Q:臍帯炎からマイコプラズマは出る?関節炎を併発していることがある?
A:マイコプラズマが流行しているのであるのでは
「 黒毛和種育成雌牛における唾液腺排出障害が推測された一例」
鹿児島大学 鹿海
【症例】
雌・11カ月齢、2011年3月から下顎と胸垂の浮腫がみられた
来院時所見:右側下顎と胸垂の浮腫、頭部と臀部の鱗屑、血液検査異常なし
→抗アレルギー薬の投与とアンドレス塗布、皮膚には抗真菌剤と外部
寄生虫駆虫薬を塗布→効果なし
病理組織検査:唾液腺の周囲組織の石灰沈着と肉芽腫性脂肪織炎と診断
唾液腺摘出:右側耳下腺と下顎腺・導管を摘出→下顎腫脹部は退縮
【考察】
下顎と胸垂の腫脹は右側唾液腺導管の口腔内排出障害により漏出した唾液による慢性炎症だと推測された。片側の唾液分泌のみで反芻や第一胃の恒常性の維持が示唆された。
Q:同時期に同一の症例に出会ったことがあるが、回復し、セリに出場できた
「黒毛和種子牛の中耳炎診断におけるレントゲン、X-ray computed tomography(CT)、内視鏡の有効性」
鹿児島大学 小山
【はじめに】
中耳炎:哺育・育成期や輸送後に発生し、熱発・耳介下垂・斜頚がみられ、抗生剤投与や耳内洗浄、鼓膜切開が行われる
【症例】
症例1:雌・4ヵ月齢、中耳炎と診断され抗生剤全身投与で改善されなかった
→斜頚・左耳介下垂、血液検査異常なし、X線検査で未確認、CT検査で鼓室胞の腫脹と胞内の充満性CT値上昇、周囲の石灰化がみられ、内視鏡で鼓膜の変性と混濁がみられた
→内視鏡下で鼓膜穿通、耳道内洗浄、抗生剤全身投与
→外科的鼓室胞内組織の除去、カテーテル設置による鼓室胞洗浄の継続
→症状は改善した
症例2:去勢雄・6ヵ月齢、斜頚
→神経生理学的検査で前庭系異常・左耳難聴、CT検査で左鼓室胞内の器質化
→過去の中耳炎による斜頚の後遺か
【考察】
中耳炎重篤例・慢性例では通常の治療による症状改善の可能性は低い。神経生理学的機能検査および画像検査は治療方針や予後判定のために有効である。
Q:耳道に入る内視鏡の大きさは?
A:5mm
Q:抗生剤は?
A:小動物用のビクタスやミトコナゾール
汚れた外耳に入れても効果がないので、洗浄してから抗生剤を入れる
留置針の長いもので耳道内に入れる
鼻から排膿すれば治りやすい
鹿児島大学 窪田
【はじめに】
子牛の気管狭窄:先天性(遺伝的要因)または後天性(物理的な圧迫)
後天的要因:不適切な介助分娩による肋骨骨折→気管が扁平化し、気管内腔が狭小
→激しい喘鳴、呼吸困難、努力性の呼吸などの症状
【症例】
症例1:黒毛和種・雄 1ヶ月齢・体重42kg、逆子で介助分娩、生後10日齢より喘鳴が始まり以後継続。抗生物質、ステロイドの投与する→改善無し
骨折部位の不正癒合部の切除と外ステント設置を処置
呼吸様式は改善されたが予後不良により剖検
異物反応による結合織増生がみられた→後日のステント抜去が必要
症例2:黒毛和種・雄 1ヶ月齢・体重60kg、逆子で介助分娩、生後14日齢より喘鳴が始まり以後継続。抗生物質、ステロイドの投与する→改善無し
骨折部位の不正癒合部の最小限の切除のみを処置
不正癒合による物理的狭窄の解除のみで呼吸様式は改善した
【考察】
分娩(介助)時の肋骨骨折とその不正癒合による胸腔入口部の圧迫による気管狭窄の可能性が示唆。分娩時の肋骨骨折に起因する気管狭窄は、より早期に狭窄させている障害を取り除くことが大切。
Q:手術で開いて骨折していることは多い?
A:肋骨骨折していたような牛は多い
Q:肋骨骨折は触診でわかる?
A:症例2はわかった
Q:症例1の術後に後肢が曲がっているのは?
A:2週間腹式呼吸であると背線が曲がり、体型が崩れる
Q:2週間とは徐々に?
A:気管の周囲に結合組織がまいており、徐々にこれが気管を押して扁平化する
Q:出産時に新生子が仮死状態で吊り上げるとかえって悪くなることは?
A:何もないときは吊り上げるが、状態悪いときは挿管して気道を確保する
Q:超音波検査で骨折や狭窄はわかる?
A:肋間が狭いのでエコーより触診のほうが骨折がわかる
Q:出生直後に手術すると助からないが、何日目くらいなら助かるのか?
A:もちろん状態が落ち着いてからがよいが、そのときによるのでは
ヘルニアも早期がよいが、癒着が考えられる
早期のケアを(輸液や保温など)、術後管理が必要
Q:手術に耐えられるのは2週間以降?
A:骨折のような早期にしなければならない手術もある
骨折を放置すると開放になってしまうので、末端であればキャストを
宮崎大学 桐野有美
青年海外協力隊は2年間日本から派遣。2008年、獣医師を希望する国は8カ国
ルワンダに決定。合格職種は獣医・衛生
ルワンダ共和国はベルギーの植民地、公用語が現在は英語。英語の語学訓練を受けて望んだ。
千の丘の国ルワンダは平野が全くなく、家が陸の上にあり、谷には放牧遅滞。丘の上のほうは金持ちが住む。足元のおしゃれを気にする人種。
1994年フツ族によるツチ族の大量虐殺Genocide。9割以上がキリスト教(ほぼカトリック)。あとはイスラム経。フツ族とツチ族は同じ公用語であるが、ルワンダをコントロールしようとしたベルギーがツチ族による支配をさせた。ツチ族は牧畜民族、フツ族は農耕民族。
マウンテンゴリラがルワンダの観光資源。入山料は外国人$500、ルワンダ人は¥800くらい。アメリカのNGOと協力して保護。一日の入山人数は45人と制限されている。
人口は約1000万人であり、うち9割が農民で、輸出9割が農産物(紅茶とコーヒー)で形成されている。
牛はルワンダ人にとって特別な存在、ステータス。昔のルワンダ王国の生業は牧畜。ウシを介して結ばれる主従関係、信頼関係。ルワンダでウシを贈るということは非常に重要な意味を持つ(結婚の際に両家の関係、功績の評価、感謝、貧民を助けるため)
ウシとその生産物に対する敬意。機会搾乳は入っておらず、全て手絞り。品種はアンコーレ牛。牛乳を大切にし、バターやヨーグルトに加工している。生乳の下降は女子の仕事。瓢箪に発酵乳を入れて攪拌しバターにしている。酪農製品を愛する人種である。
ポールカルメ大統領が「one cow one family」政策、AIが普及してきており、(未経産妊娠牛)配布された牛の初産牛の子牛は近所の貧民に贈与される。しかし、牛の扱いになれていない人々もいるのでヤギを(ベルギーの政策で)贈与されることもある。
繁殖技術の向上で赴いたが、AIにおいてはホルスタインから採精し、在来種母牛に受精する。遺伝改良率を上げてホルスタインによる生産を上げている。人口が増加しているのでミルクの需要も上昇している。海外援助を受けていたが、現在の政策では自国での牛の配布(rich→poor)を推進している。
ET技術の開発も行っている。凍結受精卵の輸入、凍結器の輸入。種雄牛と外来種ドナーにAIした受精卵を在来種にET。種雄牛の確保や、在来種の改良。アフリカに連れてくること(輸送ストレス)で疾病に罹りやすいので。
現地獣医師はシースカバーを見るのが初めて。器具の取り扱いやと体での練習、さらにETのデモンストレーションを行った。
獣医師は投薬の指示のみであり、農家さんが指示された薬を谷に買いに言って自己流で投薬する。
妊娠鑑定の講習。スリッピング:直検手袋を2重にしてやってみると…わかった!てときが光る瞬間である。
農業高校の畜産科を出て準獣医師、講習に出ると人工授精師になれる。フィールドに出ない獣医師は6年間の大学を出たエリート中のエリート。
講習活動:繁殖検診、分娩(乾期に集中)、ダニ媒介性疾患(ピロ、アナプラズマ)で往診にも。
現場で働く準獣医師、人工授精風景、耳翼皮下留置型のプロジェステロン製剤は国が無料で配布。
ダニ媒介性疾患、ベクター対策(殺ダニ剤散布)が主流
内部寄生虫駆除、ワクチンネーションも普及
価値観の崩壊と再構築。
Q:カルチャーショックはなかった?
A:帰国ショックが大きかった。世界が違いすぎてルワンダが夢のようだった。