二度発生した尿道破裂                        赤星 隆雄

生後約6ヶ月の♂子牛で、食欲低下と腹部の張りという主訴で診察(2007/2/1)。

腹部の張りの切開を行うと、尿が出てくることから、尿道破裂と診断。しかし、外尿道口からの排尿は正常に見られる。

フィステルをつくり排膿するも、2ヶ月経っても化膿が止まらない。

そこで、フィステル部に輸液管を留置し、排液と抗生剤の注入を繰り返すと、患部は良好に治癒した(2/12)

しかし、その2日後に再発してしまったため、会陰部に尿道造瘻術を行う(6/18)

現在(2/15)は、経過良好で、よく採食し、他の牛と遜色がない。

質問:

・尿道破裂の際に、患部の皮膚がごっそり脱落してしまった。もうだめだと考え、廃用にしてしまったが、治療法はあったのか?→抗生剤塗布で処置をしたら、2ヶ月程で治癒した経験がある。

深趾屈腱切断後の回復

2007/9/5初診

主訴:タイヤショベルで動かない牛を後ろから押していたところ、その牛が後肢でショベルを蹴り、その足がバケットの爪に食い込んで、深趾屈腱を切断してしまった。

経過:すぐに包帯にて処置を行う。

   6日後(9/11)、不整肉芽が盛り上がってきてしまい、疼痛による食欲低下も見られたため、ギブス固定に変更する。

   その後は、球節沈下が見られたものの、経過は良好。今では徐々に球節も上がってきて、飛び跳ねもし、採食も良好。

意見:

・   腱の縫合はしなかったのか?腱の縫合とギブス固定を行えば、2week程でまっすぐつくようになる。

・   肉芽が盛り上がってきたのは、おそらくギブス固定がなく、患部の可動性が高かったからだろう。

自動車で500mひきずられた傷の治癒経過

2007/9/12初診

主訴:畜主が気づかずに、自動車でヤギを引きずってしまったため、右側の皮膚がけずれ、肩甲骨がむき出しになってしまう。

経過:患部へはマイシリンを塗布し、包帯にて保護を行う。全身的処置は、OTCの経口投与を行う。

定期的な巻き直しと傷の処置により、傷は日に日に良くなり、2008/1/8には、ほとんど傷跡が残らないほどにまで回復した。事故当時に見られた跛行もほとんど見られない。

質問:

・キトサン塗布はしなかったのか?−はい。

大根による食道切開手術

食道に物がつまっており、触診では位置の特定ができない。食道推送器にて押してみるも、詰まりは解消しなかったため、食道切開術を行う(食道の走行に沿って切開し、縫合はレンベルトの二重縫合にて行う)。

食道内に詰まっていたものは、大根の切れ端であった。

意見:

・   胸腔入り口におけるつまりが最も多く、梗塞物が胸腔内に入っているのか、いないのかがその後の処置の決め手となるため、重要である。

・   切開法は、食道の走行に沿うのか、走行に垂直にするのか、どちらがいいのか?−食道は走行に平行に裂けやすく、それはすなわち塞がりやすい方向であるともいえるだろう。

・   食道は伸びやすいため、縫合の際には密に縫った方がよいが、なるべくならば切開は避けたい。外から力を加えて、潰す方法もある。−今回は硬く、潰れなかった。

・   オペ後の管理はどのようにしていたか?―3日間、水のみの投与を行った。

標準帝王切開の検討

1人でする帝王切開〜2007/3/20の症例〜>

お産が始まるも、頚管があまり開いていなかったため、帝王切開術を行う。

手術開始時間2:10

切皮後2:17

胎児摘出2:38

子宮の縫合(二重縫合)2:52

腹膜、筋肉を縫合3:11

皮膚をマットレス縫合  手術終了 3:59

母牛、子牛共に元気で、母牛はお産6時間後に反芻を行う。

2日後の術面も良好。

ということで、お産に費やした時間は以下の通り。難産介助に30分、準備に30分、手術に1時間20分、後始末に1時間。計3時間20分。

皆さんは、どのような方法で帝王切開を行っていますか?

意見:

・   上述に加え、以下のことを必ず行っている。−牛に目隠しをする。 オペ部の毛剃りをもっと広範囲に行う(衛生的なことを考えて、最低A3の紙がまるまるはまるくらいは充分に剃る)。 難産介助は30分も頑張らない。せめて15分くらい。

・   子宮を出せないことが多く、縫いにくいのは、どうしたらいいのか?−プラニパートを打つと良い。

帝王切開後の腹膜炎

2007/11/13に帝王切開を行うも、11/20に下腹部が膨満し、発熱を呈した。アンピシリンを投与すると、創部周囲の皮膚は凹凸状になりはしたが、順調に回復した。

皆さんは、帝王切開後に、どのような処置をなさっていますか?

意見:

・   カナマイとペニシリンを投与する。

・   術部に、タオルを縫いつけ、外部からの菌の侵入を防いでいる。

・   高張食塩水2Lに、アンピシリン、バソラミンを加え、点滴する。バソラミンを用いるのは、筋肉を縦に切開するような手術法では、漿液が沢山出るからである。

・   今回の症例は、本当に腹膜炎なのか?腹膜炎はこんなに簡単には治らない。今回は、術後、大量に漿液が出てきただけではないのか?

過大胎児の帝王切開


推定体重70kg  メス牛を帝王切開にて取り出す。娩出時に胎子はすでに死んでいた。

立位にて左けん部を切開する方法だが、子宮が奥にありすぎて縫合しづらい。

何か良い方法は無いだろうか?

また、二日後に母牛に眼球陥没が見られた。

意見:

・プラニパートを使うと良い(子宮が出てくる)。

・みなさんどういう切開方法をとっていますか?−水平面に直角に切開し、左側からアプローチを行うのが基本だが、右に胎子がいる場合には、右側からアプローチを行う。

・   直検により、胎子を後ろから押してもらうと良い        

・   母牛に眼球陥没がみられたのは?→胎水が多かったのではないか?(子供を見る限り)

・子宮の縫合方法は?−レンベルトの二重縫合、ユトレヒト縫合

鼻切れ

鼻環がはずれ、鼻が切れてしまった症例。一度縫うもくっつかず

針金で縫ったが、あまりうまくくっつかなかった。

皆さんはどのように治療しているのだろうか?

意見:

・ボタンを使う

・アルミを使う

・鼻は縫い縮んでしまう。 大きめに縫う。

・補ていはどうやっているか?―セラクタールを使っている。

小型ピロプラズマ感染症 

患畜は2005/8/12生まれ(2)のホルスタインで、07/6/25初診にて、外陰部の黄疸と強い心拍、努責あり。血液塗抹にてTheileria sergentiを観察したため、パマキンとガナゼック、各種輸液にて治療を行う。経過は良好で、治療7日目には塗抹上でTheileria sergentiはほとんど見られなくなった。

質問・意見:

・放牧はしていたか?−屋内放牧だった。

・二頭連続で発生しているなら、全頭検査してみてもいいかも!!

Ht,TPはどうだったか?→Ht9.7↓というのもいる。  ビリルビン高い。

「突球子牛に対する改良スプリントの適用」       鹿児島大学 学生 志賀

内容

前肢の重度突球を呈した子牛に対して,牛自身の体重を利用して球節の伸展を図るスプリントで2週間治療した.その後さらに1週間,人の手による伸展と歩行運動で球節の伸展が行われた.初診時に球節は約90度屈曲していたが,上記治療によってほぼまっすぐになり蹄底を接地して歩行できるようになった.本スプリントは治療の手間を省きながら効果的に突球を治療できると思われる.

質疑応答

Q1. スプリントを装着した後どうすればよいか?

A1. スプリントに体重がかかるように,牛を立たせてそのまま保つ.

Q2. どれくらいの時間装着すればよいか?

A2. 本症例では1日に1〜8時間(平均して2時間程度)装着した.牛が立っていることを確認できるならば長く装着することも出来るが,座るときに邪魔になるので常時装着することは出来ない.

「黒毛和種牛へのホルモン処置(発情同期化と分娩誘起)」  鹿児島大学家畜繁殖学教室  窪田

内容

(1)子宮の回復状況(回復日数)

自然哺乳群における子宮の回復は分娩後24日程度,超早期離乳群においては分娩後2730日程度である.

内視鏡で子宮内壁を観察したところ,分娩後3日では小丘が残っており粘液が溜まっている.分娩後21日経っても小丘はまだ少し残っている.分娩後30日になると小丘は消えてつるっとした表面になっている.

後産停滞時の子宮内壁の様子は分娩後37日のものに似ており,かつ粘液に濁ったものが混じる.

2)卵巣動態

自然哺乳群では大卵胞・発情の出現は分娩後2か月(初回排卵56.5日)で,卵胞は分娩後1週から動く.

超早期離乳群においても卵胞は分娩後1週から動く.分娩後1週で排卵し,10日でPGが下がる(そのため卵胞が不安定となる).またこの時点ではまだ子宮の回復が完了していない.分娩後3週で2回目の発情が来るので,そこでAIする.

3)繁殖性の回帰

超早期離乳群の発情回帰は自然哺乳群より早い.一方,子宮の回復は自然哺乳群のほうが早い.人為的に発情回帰させる場合,自然哺乳牛では分娩後10日,超早期離乳牛では20日後からGnRHを処置できる.

4GnRH

超早期離乳群に分娩後10日でGnRHを処置すると初回排卵が起こり,分娩後2425日で2回目の排卵が起こる.同じ群にGnRHを処置しない場合,初回排卵は分娩後22日に起こる.またGnRHを処置した場合,子宮の回復に要する平均日数は22.8日である.

自然哺乳群に分娩後10日でGnRHを処置しても排卵は起こらない.分娩後20日で処置すると排卵および発情が起こる.GnRH処置した場合の子宮回復日数は24日である.

自然哺乳群,超早期離乳群とも分娩後20日にはGnRHによる卵巣賦活化が可能である.この場合,発情発現率はCIDRを処置した自然哺乳群で高くなる.しかし自然哺乳群のAI実施率および受胎率は低い.超早期離乳群における受胎率は,PG処置群で40%,CIDR処置群で50%である.さらに,発情同期化後の排卵率は超早期離乳群では100%なのに対し,自然哺乳群ではこれより低い.空胎期間についてはすべての群で100日以内である.早期の卵巣賦活化によって空胎期間が短縮される.

5)発情同期化後の副黄体形成

発情同期化後に副黄体(通常の黄体と同程度の直径を持つが,退行がより早い黄体)を作成したところ,血中プロジェステロン値が2倍程度まで大きくなった.

受胎率についてはOvsynch群で80%,Ovsynch+GnRH群で85%,CIDR-Ovsynch+GnRH群で60%であった.このことから副黄体を作ることで黄体機能の補完が出来るのではないかと考える.

6AIのタイミング

発情同期化処理後や繁殖障害加療後の卵胞の状態,発情微弱などの理由でAIできないことが往々にしてある.

CIDR+Ovsynch群の歩数はピークに至るまでの時間が短い.またCIDR+Ovsynch群とOvsynch群の歩数は早く減少する.さらにこれらの群の発情持続時間は短いが,ピークまでの時間は早い(CIDR群で最も短く,早い).すなわち自然哺乳群に比べて発情が弱くなる.

AIによる受胎率を比較すると,自然哺乳群の41.2%に対し,Ovsynch群で60.0%,CIDR+Ovsynch群で50.0%である.

7)分娩誘起

デキサ+PGを処置すると,24時間後(30時間以内)に娩出される.黄体機能が下落し始めているときに処置するとすぐに産まれる可能性がある.デキサ単剤を処置した場合,黄体レベルが下落して産道が開くので分娩誘起が可能である.

質疑応答

Q1.黄体レベルと乳質の関連はあるか?

A1.黒毛和種ではないのではないか.

Q2.後産停滞の理由は?

A2.種雄牛に特有の原因による.オキシトシン処置で解消できると思われるが,大型の種では誘起が強力なので注意が必要である.

Q3.黄体レベルと粘液の関連は?

A3.粘液を除去すると分娩が誘起される.分娩を誘起するために中子宮動脈を圧迫するなどの方法もあると聞く.ただしお産の経過が早いと後産停滞が起こりやすい.

Q4.分娩誘起すると難産や後産停滞が起こりやすい.自然分娩を待つべきか?

A4.さまざまな選択肢がある.使用する薬剤の選択肢としてPG,オキシトシン,エストリオールなどがある.後産停滞に対しては,PG3日間使うと取れるのではないか.

「卵胞嚢腫牛へのCIDRとPGによる処置」    開業 田崎

内容

卵胞嚢腫と診断した牛に対してCIDRを1週間処置した後,PGを処置した.その後発情を示したものにはAIを行った.

9〜11月の間に46頭の卵胞嚢腫牛に対して処置を実施した.その結果24頭が受精した(9月2頭,10月18頭,11月4頭).11頭がAIしたにも関わらず受精しなかった.8頭は発情が発見できなかったためAIしなかった.その他の理由で3頭でAIが実施できなかった.

質疑応答

Q1. CIDR抜去の際に直検はするか?

A1. しない.発情発見後には直検を行い確認する.

Q2. CIDR挿入時に他の薬剤を処置したり,遺残卵胞を潰したりはしないのか?

A2. しない.

失敗学 〜私の失敗〜               都城開業  山本 浩通

失敗は必ずするものであり、失敗を活かすことが大事である。

失敗はその責任を求めるのではなく、原因を求めて、防止に努め、改善していくことが肝要である。

私の失敗@

新生子牛の低体温症への処置において、今回、温水(42〜43度)につけて、補液

(ハルゼン1?・ブドウ糖1?・7%重曹250ml、50%ブドウ糖50ml)をしたが30分ほどで死亡した。

自分なりの死亡の原因としては血圧の低下・急激な体温上昇によるDICがあると考えている。

この失敗への改善のために対策として、昇圧剤の投与・酸素吸入・ヘパリン(DIC予防)の投与・体温の急激な上昇を避けて1時間に1度上げるようにするなどを考えている。

私の失敗A

呼吸停止状態の新生子牛に対しての処置として気管チューブの挿管を行っているがうまく気管に入らず、救急措置が遅れることがある。

質疑応答

. 低体温症のときの適切な処置はどんなものがあるか?

.

・湯たんぽ、セラミックヒーターなどを利用して加温し、四肢の先から心臓に血流をもどすようにしながらマッサージをする。

・ストマックチューブでお湯(電解質補液)の給与はよくない。

・毛布をかけてその中にドライヤーや布団乾燥機などの機器を使って温風を送る。

・輸液は体温の上昇が見られてからのほうが良いのではないか。

. 気管の挿管の方法について

.

・首を伸展させて舌を引き伸ばして挿管すると行いやすい。

・気管チューブを使用するときは中芯を用意するとより挿管がしやすくなる。

・新生子仮死の際の気道確保のためにこれからは産業動物獣医師でも気管チューブを持つことが望ましい。また呼吸停止には呼吸賦活薬の投与も効果的である。

繊維球(ネピアグラス)により機械的イレウスを発症した黒毛和種生産牛の一例

(有)シェパード中央家畜診療所  蓮沼 浩

「前日の夕方からエサを食べない」という主訴より治療を開始した黒毛和種雌(妊娠+)において、第一胃食滞、胃第四食滞、腫瘍・異物による腸閉塞を疑ってこれらに対する治療の処置を行ったが改善が見られず第四病日に予後不良として鑑定殺処分とした。鑑定の結果、腸管・第四胃から玉子大ほどの繊維球が認められ、これによって機械的な腸閉塞をおこしていたことが分かった。

今回の症例により、@早急な診断(血液検査など)の必要性A手術による外科的治療の可能性B予防法の確立の必要性という課題が出てきた。

質疑応答

.外科的に取り除くにはどうすることが良いか?

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・仰臥位で正中から切開してアプローチするのがよいのではないか。

・立位の?部切開でのアプローチは無理と思われる。