「カルシウム促進物質 カゼインホスホペプチド(CPP)について」

                      新潟大学名誉教授 楠原 征治先生

生体に必要なミネラルは20種類ほどあるが、糖、脂肪、蛋白と異なり、生体では生産されず、殆どが食物によって吸収される。ミネラルの多くは欠乏する心配はないが、カルシウムと鉄は腸管での吸収率が低く不足しがちである。

食物に含まれるCaは胃から分泌される酸によってイオン化し、腸粘膜の細胞を受動的、能動的に通過し吸収される。吸収には十二指腸から空腸上部での能動輸送と空腸下部と回腸での受動輸送がある。能動輸送にはCa結合蛋白(カルビンディン)と代謝エネルギー(ATP)、活性型ビタミンDが必要である。

小腸下部ではpH7-8とやや高くCaPが結合して不要化しやすい傾向にある。CPPCaPの結合を阻害しCaの不溶化を妨げることでCaの受動輸送による吸収を可能にする。CPPはプロテアーゼで分解されず、保存、過熱に対しても安定である。

CPPの有効性を検討するため、ラットを用いてCa出納試験をおこなった結果、CPP0.2(CPP/Ca(w/w ) )以上投与した区では無投与区と比較してCaの尿中、糞中への排泄が有意に減少し、小腸内容物の可溶性Ca含量は有意に高かった。また、大腿骨長、重量、Ca含量も無投与区と比較して高い傾向がみられた。次に、大腿骨へのCaの取り込みを調査するため、CPP45Caを経口投与して投与後12時間後の大腿骨の放射活性を測定した。45Caの大腿骨への取り込みはCPPを投与した場合が無投与の場合と比較して有意に高かった。また、CPP45Caを経口投与して2時間後、12時間後の大腿骨の放射活性をオートラジオグラフィーを用いて測定した結果、投与2時間後から放射活性がみられ、投与12時間後では明確な放射活性が認められた。以上のことより、CPPCaの吸収を促進すること、吸収されたCaはすばやく骨へと移行することがわかった。

近年の畜産界では生産性向上のため家畜が急激な成長をする傾向にある。急激な成長をまかなう栄養分は補給されているが、ミネラル、特にCaは利用率が低く、増体に骨の発育が追随せず、脚弱、奇形などが発生することがある。

豚では妊娠母豚にCPPを投与することで乳汁中のFe,Ca,Mg,IPや蛋白が有意に増加し、産子の骨中Ca含量、P含量も有意に上昇し、体重、骨密度も無投与の場合と比較して増加する傾向がみられた。また、CPPを投与すると、母豚の糞中IgAが増加することがわかっており、腸管内の疾病防御に有効な可能性が示された。

乳用牛ではCPP投与により血中Ca値が上昇し、乳汁中Ca含量が増加するほか起立困難の症状を改善させる可能性が示唆された。

肉用牛においては骨の成長に関する情報が少ないのが現状だが、より効率的な発育が求められており、CPPがこれに寄与する可能性が考えられ、今後研究していく必要性がある。

 鶏においては、ブロイラーの骨格形成異常や脚弱の防止、採卵鶏の産卵率向上や卵殻質改善にCPPが貢献すると考えられる。

以上のようにCPPCa吸収促進作用を持ち、その機能により畜産分野で広く利用されており、今後さらにその幅を広げることが期待される。

「子宮内膜炎の早期発見用器具 Metricheck

宮崎大学 家畜臨床繁殖学教授 上村俊一先生

子宮内膜炎は繁殖成績低下の要因のひとつになっている。子宮内膜炎の早期発見は繁殖成績向上のために重要である。子宮内膜炎発見のためにintervet(ニュージーランド)より新製品MetricheckTMが発売されたので紹介する。

 MetricheckTM50cmの金属棒の先端に直径4cmのカップ状のゴム帽がついており、腟内から挿入してカップの先端を外子宮口に押し付けて用いる。粘液や汚物が貯留している場合にはカップ内やゴム帽先端部に付着するため子宮内膜炎の診断が可能である。

 S.McDougall(Association between endometritis diagnosis using a novel intravaginal device and reproductive performance in dairy cattle; Animal Reproduction Science 99 2007 9-23)らは,MetricheckTMと腟鏡で子宮内膜炎の診断スコアを比較した結果、MetricheckTMでは診断スコアが低い場合にも検出可能で感度が高いと報告している。しかし、腟炎との鑑別が困難で、特異性は腟鏡と比較してやや劣る可能性がある。

 また、分娩後隔週にMetricheckTMを用いて子宮内膜炎と診断した牛は高い割合で無発情であり、子宮内膜炎診断におけるMetricheckTMの有効性が示された。

「より適切なボディコンディション管理を目指して」

鹿児島大学 獣医繁殖学教授 小島敏之先生

畜産現場では、UV法等によるBCS(ボディコンディションスコア)による栄養度判定が汎用されているが、客観性に問題があることが指摘されている。事実、評価者によって、同一個体の評価で±0.25の誤差が出ることがある。しかし、給与した餌の飼料成分必ずしもリアルタイムに把握されている訳ではないので、牛の栄養度判定としてBCSが最も簡易でコストがかからない方法であることに間違いはない。

この問題を解決する方法のひとつとして、より客観的に再現性が高い方法でボディコンディションを測定する機器等を開発することが考えられる。ただ、そのためには、しっかりとした基礎データ(体水分量の測定など)を蓄積する必要があり、道のりはまだまだ遠い感があるが、農家において正しいボディコンディション把握による適切な栄養管理を可能ならしめるために研究を続けていきたい。